《この記事は約 12 分で読めます(1分で600字計算)》
2024年12月8日~14日は「日経電子版が有料会員100万人突破」「ジブリ激怒のイラスト切り抜き販売は著作権侵害ではない」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
公共図書館の運営基準を見直しへ…学校図書館との連携強化へ、地域の書店と共存〈読売新聞(2024年12月10日)〉
本件、文部科学省から「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」のお知らせが出ていました。初回は12月17日で、リアル傍聴はありませんが、ウェブ会議の様子はYouTubeで配信されるそうです。申し込んでおきました(本稿執筆時点ではすでに受付終了)。
発言:書店保護へ 再販制度検証、急務=菊池壮一・活字文化研究所事務局長〈毎日新聞(2024年12月12日)〉
うーん、ちょっとこれは。有料部分で「電子書籍も再販指定にすべき」論が展開されているんですが、残念ながらどう考えても無理があります。独占禁止法では「メーカーが小売店に対し定価拘束してはならない」が原則。その例外が著作物再販対象商品なんですが、それは「メーカーが小売店に対し定価拘束してもいい」制度であって、「メーカーが小売店に対し定価拘束しなければならない」制度ではありません。つまり、出版社の意志で再販は外せちゃいます。契約上「定価」と書いてなければ再販対象にならないはず。
そして「電子書籍の値崩れ状態は目を覆う状況だ」とありますが、少なくとも講談社、小学館、集英社、白泉社、光文社、文芸春秋、スクウェア・エニックス、岩波書店の8社はAmazonとエージェンシーモデルで契約しています(Kindle版の商品詳細ページで「販売:集英社」などと表記されている)。往々にして「すべてAmazonが値引き販売している」と勘違いされがちですが、この8社の場合、自ら望んで安売りしています(逆に、Amazonが販売価格を決めるホールセールモデルの場合は「販売:Amazon Services International LLC」になっている)。
だから、もし仮に公正取引委員会が翻意して「今後は電子書籍も著作物再販対象商品に加えます」としても、メーカー(この場合出版社)側が定価販売を望まない可能性が高いでしょう。だって、セールしたほうが売れるし、それで儲かっているわけですから。
新聞社の名誉毀損記事、配信先のヤフーニュースには「責任なし」 最高裁が山本裕典さんの上告退ける〈弁護士ドットコム(2024年12月13日)〉
プロバイダ責任制限法があるから、プラットフォーム側としてはノーチェックで自動掲載したほうがむしろ責任を問われずに済んでしまうのですよね……最高裁の判例になってしまいました。ただ、今年法改正して法律名も「情報流通プラットフォーム対処法」に変わりますので、今後については多少変わってくるはず。はずですよね?
社会
AI時代の記者・編集者に何ができる? 人間との分岐点は「質」と「信頼」〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2024年12月11日)〉
タイトルから判断するに、私の2024年予想「エディターシップのニーズがさらに高まる」に近いことが書いてあるのかな? と興味津々だったのですが、途中で「続きは11月29日発売の月刊『宣伝会議』1月号で読むことができます」に。電子版は月額1100円で、紙の雑誌1冊1500円より安いしいいかと思い、まんまと購読してしまいました。肝心の内容は……正直、有料会員限定部分のほうが既知のことが多く、平和博氏独自の見解が述べられているわけでもなく、ちょっとトホホな感じでした。記事バラ売りで100円だったらまあいいかと思えるレベルなんですけど、定期購読しか選択肢がないとちょっと厳しいなあ。
【12月12日は漢字の日】ルビ財団、ウェブサイトに自動でふりがなをふる「ルビフルボタン(無償)」を正式リリース〈一般財団法人ルビ財団のプレスリリース(2024年12月12日)〉
ルビフルボタン、以前試しにいちどHON.jp News Blogに入れてみたことがあったんですが、若干バグがあった(管理画面側のプレビューがおかしくなるという現象)ため外してそのままになっています。もう直ったのかな? そういえば「この方法で回避できるかも」という連絡もいただいてました。もうちょっと手が空いたらまた試してみたいと思うのですが。
スタジオジブリ激怒「看過できない」 イラストの切り抜き販売は「著作権侵害」なのか?〈弁護士ドットコム(2024年12月14日)〉
初報を見たとき、一度販売された物理メディアは譲渡権が消尽しますから「これは著作権侵害にはならないよね?」と思い、解説記事が出るのを待っていました。おっしゃるとおり、本から切り抜いただけで複製していないなら、少なくとも著作権侵害ではないはず。著作権法以外に抵触している可能があるとしたら、不正競争防止法とか? 切り抜きだと告知していなかったら景表法違反? もし出品者が古物商の許可をとってなかったら、まあ間違いなく営利目的でしょうから古物営業法違反には問えそう。
経済
【重要なお知らせ】R18対象作品および一部の作品に対する決済方法の変更について〈電子書籍ストア – BOOK☆WALKER(2024年12月6日)〉
だいたい毎日使っているはずなのに、告知が出ていることに気づくのがちょっと遅れました。というか、私自身がR18作品を買わないので、11月15日以降使えなくなっていることに気づきませんでした。しかし、とうとうBOOK☆WALKERにまでクレカ表現規制ですか。
「オトナの女性向け」作品のクレジットカード決済を終了 アニメイトのボイスドラマ配信サイト〈ITmedia NEWS(2024年12月10日)〉
こちらは声の表現に対するクレカ規制。加盟店規約で取扱禁止商品が「公序良俗に反するもの」みたいなざっくりした定義になっていると、わりと安易に対象範囲を広げてしまえそうです。
日経電子版、有料会員100万人超 法人・教育に広がる〈日本経済新聞(2024年12月10日)〉
ついに大台突破! おめでとうございます。法人契約が入るようになると底堅いですね。大手企業ほどコンプライアンス違反には目を光らせる必要があるので、人数分ライセンスを用意するなどの動きが必要になってきます。確か秀丸エディタが、そういう理由でけっこう法人契約を獲得しているという話を目にした記憶があります(探したけど掘り出せない)。
KADOKAWA、電子漫画ピッコマと提携 独自作品を配信〈日本経済新聞(2024年12月11日)〉
KADOKAWAをソニーが買収するかもみたいな話が出ているこのタイミングで、この業務提携は非常に興味深い。実際に買収が成ったら、どうするんだろう? なお、大量保有報告書によれば、KADOKAWAの現・筆頭株主はKakao Investment CO., LTD.(Kakao Corp.の子会社で投資・M&A事業が担当)です。
【3周年】theLetterがサービスリニューアル!プロ向けに特化し、招待制へ移行予定〈theLetter公式ニュースレター(2024年12月12日)〉
プロ向けに特化ですか。それは「執筆のプロだけ」という意味ではなく、「各領域のプロ」つまり専門家という意味のようです。「招待制へ移行」というのも、面白い方向転換。誰でも書ける場ではなく、あえて間口を狭くするスタンスなのですね。
「出版物販売額の実態 2024」「書店経営指標 2024年版」発行のご案内|ニュースリリース〈日本出版販売株式会社(2024年12月13日)〉
おお、今年は出ないのかもと思ってました。さっそく注文。ただ、金曜日の遅い時間だったので、届くのは恐らく週明けでしょう。電子版はメールで届くんですが、手動対応なんですよね。2016年からずっと電子版を買ってますけど、当時からずっとそのまま。システム改修する気はないようです。
【コンマケの誤解】長文、専門用語、画像の多用…それって本当に正解ですか?〈MarkeZine(2024年12月13日)〉
専門用語の濫用は避けましょうなど、本文はすごーく良いこと書いてるのに、タイトルの「コンマケ」で台無しになっている気がします。初めて目にしましたよ「コンマケ」って。コンテンツ・マーケティングの略ですって。こんな略し方したら伝わらないでしょ。
技術
「Xのアルゴリズム」は数日であなたの政治的意見を変えられる――米スタンフォード大が1000人以上で検証:Innovative Tech〈ITmedia NEWS(2024年12月9日)〉
まあ、そりゃ影響がないはずはない(二重否定)。というか、ジャック・ドーシー氏のころからすでに、リベラル寄りに偏向していた感はありますよね。アルゴリズムに限らず、ハフポストなど一部メディアだけ優遇されていた話などもありますし。かたやFacebookは、10年も前にユーザーを使った大規模情動感染の実験をやっていますし。
AIモデルに「不要な知識」を忘れさせる新技術。より効率的なAIが作れるかも〈PC Watch(2024年12月10日)〉
おおっと? これまでは「AIに一度学習させたことを、忘れさせることは無理」と言われてきたので、前提がいろいろ変わりそうです。つまり、勝手に学習されたくなかった人が権利を主張し、削除させるような動きが活発になるかもしれません。
ただし技術的には可能になったとしても、日本の場合は著作権法第30条の4があるので、非享受利用は権利制限されています。つまり、法的に削除命令を出させるには、権利者の利益を不当に害していると裁判所に認めさせる必要があります。ハードルが高い。
ブルースカイで「なりすまし」相次ぐ、ユーザー急増で対策後手〈MIT Tech Review(2024年12月12日)〉
これはちょっと心配ですね……なりすましからの仮想通貨詐欺というパターンのようです。自分のドメインを持っていて長期活動している人は、カスタムドメインを設定しておいたほうがよいでしょう。ちなみに私の個人アカウントは https://bsky.app/profile/wildhawkfield.com で、HON.jp News Blogは https://bsky.app/profile/hon.jp です。どちらもちゃんとカスタムドメイン設定済み。
お知らせ
HON.jp News Casting
年内最後のイベントは、毎年恒例の出版ニュース振り返りです。今年は「北米エンタメニュースまとめ」のlibroさんを加え、6人で語り合います。前半はどなたでも無料でご覧いただけます。もっと深く突っ込んだ話が聞きたい(したい)場合は、後半まで参加できる有料チケットをお求めください。
新刊について
新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』12月1日より各ネット書店にて販売中です!
「NovelJam 2024」について
11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。
HON.jp「Readers」について
HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。
日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。
雑記
不特定多数を招くイベントではないのであまり広く告知はしていなかったのですが、いまこれを書いている直前まで「NovelJam 2024」の贈賞式を開催していました。リアルとオンラインのハイブリッド配信。慣れてきましたが、それでも毎回反省点が残ります。ノウハウは溜まってきたので、次こそは完璧にしたい。(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。