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2020年11月1日~7日は「集英社、新卒採用ページでも『鬼滅の刃』フィーバー」「ラノベ市場、この10年の読者層変遷」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
国内
大日印がVR図書館を提供へ、書籍との新しい出会いの場に〈ニュースイッチ by 日刊工業新聞社(2020年11月1日)〉
第22回図書館総合展_ONLINEの、大日本印刷というか図書館流通センターのブース。ブラウザで閲覧できる「仮想空間図書館(β版)」が特設ページとして公開されています(↓)。現実空間を模した3D表示で、資料室、ギャラリー、イベントスペースなどを巡り、本を閲覧したり、イベント視聴したりできます。
将来的には、アバターによる他の来館者などとの交流も、という構想のようです。ただ、現時点でもうちのPC+4Kディスプレイのフル表示だとちょっと重すぎて、エントランスから移動するだけで数分要するような状態に。ウィンドウを小さくしたらそこそこスムーズに動くようになったので、ちょっと3D表示の解像度が高すぎるのかも?
うる星やつら」漫画家・高橋留美子さんに紫綬褒章 「しみじみと喜び」〈毎日新聞(2020年11月2日)〉
おめでとうございます。私は『らんま1/2』がるーみっくわーるどの原点でした。ちょうど連載を開始したころから読み始めたような記憶があります。TSFは、いまでは一つのジャンルとして確立した感がありますが、1980年代しかも少年誌で連載という、いま思うとすごいことをやってらっしゃったんだな、と。
honto、LINE上で電子書籍を購入・閲覧可能に アカウントの登録不要〈ITmedia NEWS(2020年11月2日)〉
ちょっと驚いたニュース。LINEの立場からすると「LINEマンガ」と競合するはずなのですが、問題ないのでしょうか? LINE認証でhontoへの会員登録は不要、決済はLINE Pay、閲覧はブラウザビューアと、電子書籍をあまり利用していないユーザーや若い世代が気軽に触れられる環境を提供する、というのがポイントになっています。
当初から「独立した別サービス」という建付けだった「honto for ニンテンドー3DS」や「honto pocket」とは異なり、現時点では既存のhontoアカウントと連携していませんが、今後の取り組み予定となっています。ちょっと安心。
飛躍間近の「聴く読書」、コロナ禍は追い風?向かい風?|〈ニュースイッチ by 日刊工業新聞社(2020年11月2日)〉
連載「音の時代がやってくる」の番外編という位置づけで、オトバンクが出版社42社と展開している「オーディオブックフェスティバル2020」について久保田社長にインタビューしています。コロナ禍を受け、オーディオブックにも多少の追い風は吹いているけど、まだ劇的に伸びたとまでは言えない状況のようです。
ピクシブなど2社、マンガ動画チャンネル「コミティブ」開設〈WorkMaster(2020年11月2日)〉★
マガジンの公式YouTubeがリニューアル、連載作品を動画で楽しめる「#漫画動画」始動〈マイナビニュース(2020年11月3日)〉
ほぼ同時に別方面から「マンガ動画」の動き。前者は、pixivに投稿された非商業オリジナル作品をスカウトし、音声や声優によるセリフまで加えたマンガ動画作品になっています。すごいんですけど、そこまでコストをかけてどうやってマネタイズするんだろう? という疑問が先に立ってしまいました。
後者は、講談社公式で『進撃の巨人』などのマンガ動画を連載配信。少し前に、YouTubeに違法な動画マンガがたくさんアップロードされ、削除申請が追いつかないほど大変な状態になっているという話がありました。絵本の読み聞かせもそうですが、海賊版が跋扈するのはニーズがある証拠でもあるので「公式でやるべきだ」と思っていました。そういう動きがとうとう出版社本丸まで波及し始めた感があります。
マンガ動画といえば、2013年に電通が「MANGAPOLO」というYouTubeチャンネルを始めています(↓開始当時の記事)。『ドラゴンボール』全巻など、出版社公認の正式コンテンツを映像で配信する先駆的な試みとして注目していました。
実際に公開されているマンガ動画はかなりの本数に及ぶのですが、再生数を見るとだいたい3桁~4桁で、一番多いものでも10万回には届いていません。いまはもう閲覧できない『ドラゴンボール』も、あまり再生数は伸びていなかった記憶があります。なにがダメだったのか、この「失敗」からは学ぶべきことが多いでしょう。MANGAPOLOの投稿動画一覧はこちら(↓)。
ラノベ市場、この10年で読者層はどう変わった? 「大人が楽しめる」作品への変遷をたどる〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2020年11月4日)〉★
飯田一史氏による、2010年以降のライトノベル市場分析。従来の文庫書きおろしライトノベルが10代読者向けの「狭義のラノベ」だったのに対し、ウェブ小説を四六判やB6判のソフトカバー単行本で出版するライト文芸を「広義のラノベ」の一種と位置づけ。現在の主流である後者の中心読者層は30代~40代なので、幅広い世代から支持される「成熟市場」になったのだ、という論旨です。一時期、文庫のラノベ市場だけを見て「ラノベの衰退」云々という言説が蔓延ったことがあるので、そういう意味では良いカウンターだと思います。
ただ、少し気になったのは「ラノベはコミックと違って電子書籍市場が紙と同じくらいあるわけではなく」という記述。出版科学研究所によると、2019年の文字モノ電子書籍市場は349億円ですが、このうちラノベはどれくらいか? という数字は出ていないはずなのですよね。実際のところ、どれくらいなんだろう? 個人的には、文字モノの半分がラノベでも驚かない。ちなみに紙の文庫ラノベ市場は143億円、ライト文芸は不明です。
マザーズ上場企業、「漫画ネタバレ」サイトを2億超で買収 投資家驚き、リアルワールドの狙いは?〈J-CASTニュース(2020年11月4日)〉
いわゆる「ネタバレ」記事を多数配信しているサイト。確認してみましたが、連載最新話はこんなストーリーでしたという文章での概要に加え、三行くらいの感想と、当該作品の正規サイトへのアフィリエイトリンクがベタベタ、という構成。発売前の作品画像をまるごと無断転載して逮捕されたような事例とは明らかに異なりますが、文章とはいえ、ここまで書いちゃっていいのかな?(あ、だから「ネタバレ」なのか)という感じではあります。「漫画村の代わりに」というのを強調しており、違法サイトを検索上位から蹴散らす効果はあるのかも。
集英社、新卒採用ページでも『鬼滅の刃』フィーバー健在 担当編集者が「吾峠先生は群を抜いてネームを描くのが早かった」などと語る〈キャリコネニュース(2020年11月4日)〉★
集英社が2022年度の新卒採用ページで、『鬼滅の刃』歴代担当編集者の対談を公開(↓)。内容的にも非常に面白く、バズっていました。初代担当の大西恒平氏は、いま週刊少年ジャンプ編集長なのですね。『銀魂』や『ONE PIECE』も担当していたとか。すげぇ。
ウィズコロナの可処分時間消費 動画、音声、コミックが存在感〈日本経済新聞(2020年11月4日)〉
可処分時間の奪い合いが、いまどういう状況になっているかを分析した、フラー「App Ape Lab」編集長・日影耕造氏による論考。コミック系は、コロナ禍前後の平均アプリ利用時間の推移グラフを見る限り、大幅な伸びというわけではなく、動画系に比べたら微増程度のようです。ちょっと不思議な感じもしますが、時間ではなく、利用者の「数」が伸びているのでしょうか?
電子図書館(電子貸出サービス)実施図書館(2020年10月01日)公表の件〈電子出版制作・流通協議会(2020年11月5日)〉
7月1日時点と比べ、14自治体14館増えています。これまでの遅々とした伸びに比べたら「急増」と言っていい状況ですが、まだ少ない。まだまだ少ない。もっと伸びろ!
5ちゃんねるの姉妹サイト「PINKちゃんねる」で「半角文字列板」などが突然閉鎖に リーチサイト規制の影響か〈ねとらぼ(2020年11月5日)〉
半角文字列はURLのこと。つまり、画像のURL情報を投稿する掲示板です。リーチサイトを規制する改正著作権法が10月1日に施行されたことなどが閉鎖理由とのこと。侵害コンテンツへ「殊更に誘導」する目的で利用されていたでしょうし、hを抜いてttpから記述しても一部を記号に置き換えてもダメと明示されてましたからね。法改正が早速効果を発揮した事例の一つとなりました。
「性的消費」で炎上相次ぐ Twitter担当者はなぜ常識と“乖離”する?〈AdverTimes(2020年11月6日)〉
タイツメーカーのアツギやリカちゃん人形のタカラトミーの公式Twitter炎上事件について、危機管理広報に詳しいアクセスイースト代表の山口明雄氏による解説。アカウントの人気が高まるほど「井の中の蛙」になってしまい、世間の常識と乖離するケースも増えてくるとのこと。客観視できなくなっちゃうんでしょうね。予防策は、どういう案件が炎上しているのか、定期的に事例をチェックしようというもの。世間の常識も変わりますから、まあ、それしかないかなという感じ。
第68回日本図書館情報学会研究大会の発表論文集がオンラインで公開される〈カレントアウェアネス・ポータル(2020年11月6日)〉
発表論文集の目次に目を通したら、「電子書籍の価格と需要の関係に関する国際比較」という面白そうな研究が。日本とアメリカでは、Kindle本の価格変動に対し、紙書籍需要の変動は極めて小さく「電子書籍は紙書籍の需要量に影響を与えない独立財の関係にあると言える」という結果が出ています。興味深い。
図書館の本、スマホで閲覧可能に 文化庁が法改正検討〈朝日新聞デジタル(2020年11月6日)〉
図書館の本、データ送信 「民業圧迫だ」出版社は反発:朝日新聞デジタル〈(2020年11月6日)〉
本稿の配信日である11月9日に、第5回の図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチームが開催されるタイミングで、この記事。内容的にも、これまでの他紙の報道と比べ、とくに新情報はないようです。さすがに「スマホで閲覧可能に」はミスリードが過ぎると思うのですが。
反響を見ていても、複写サービス(30条1項1号)の話と、入手困難資料の図書館向け送信(31条3項)の話がごっちゃになってる、あるいは、どちらかだけだと思っている人も多そうな様子。学校図書館を含めるかどうかの議論はさらに次の回となるようですが、その前に解説記事を書いておこうと思います。
蔦屋書店「内装の意匠」登録第1号 改正された意匠法は何がどこまで保護される?〈弁護士ドットコムニュース(2020年11月7日)〉
改正意匠法で、店舗の内装デザインも登録可能となり、蔦屋書店が第1号になったというプレスリリースがありました。それをTwitterへ流したところ、イラストに描いてはいけないのか? といった反響が散見されました。これ、解説記事があったほうがいいなあ、でもウチで書くのはちょっと難しいなあ、と思い、弁護士ドットコムの中の人に「書いて!」とお願いしてみたら、ほんとに書いてくれたという。ありがたや、ありがたや。意匠登録された内装をイラストやCGで制作することは、意匠法では禁止されていない、がFAです。私の認識も間違っていなくて良かった。
海外
「購入済みデジタルコンテンツ、いずれ利用できなくなる可能性」Amazonの主張が波紋【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2020年11月2日)〉
Amazonプライム・ビデオの話ですが、Kindleにもそのまま適用できるのでピックアップ。購入ではなく、利用する権利に対価を払っているに過ぎない、というのは、デジタル出版界隈では前からよく言われていたことではあります。
「速報をやらないメディア」コレスポンデントは米大統領選報道の興奮に「落ち着け」と「冷や水」を浴びせる(奥村信幸)〈Yahoo!ニュース個人(2020年11月3日)〉
速報や広告をやらないデジタルメディアの「The Correspondent」(↓)が、英語圏でスタートして1年ほど経ちました。そこでアメリカ大統領選挙の前日に公開されたコラムが、このメディアのスタンスをよく示しているということで紹介されています。5月からHON.jp News Blogの運営方針を変えたのは、実はこのメディアの影響も強かったりします。
1日の売上を500万円から7億8000万円に1年たらずで成長させた独立系オンライン書店サービス「Bookshop」とは?〈GIGAZINE(2020年11月5日)〉★
独立系書店のためのオンラインショップ。コロナ禍を受け、急成長しているようです。HON.jp News Blogでは大原ケイさんが昨年10月、立ち上げ前の時点で取り上げています(↓)。さすが。
フランスの広告団体、 Apple を独占禁止法違反として提訴:アプリの個人情報アップデートを巡って〈DIGIDAY[日本版](2020年11月5日)〉
AppleのiOS 14アップデートで、個人情報追跡の許可/不許可をユーザーが選べるようになることついて、フランスのオンライン広告事業者が提訴したというニュース。Apple自身は自社サービスに同じオプトイン条件を課していない(オプトアウトするためには自分から設定へアクセスしなければならない)ことなどが指摘されています。
「Appleはいまや、規制当局のように振る舞っている 」:北欧・シブステッドの公共政策担当ディレクター〈DIGIDAY[日本版](2020年11月6日)〉
こちらは北欧のパブリッシャーへのインタビュー。アプリ内課金の30%手数料だけでなく、読者との関係性が築けないこと、Appleとは話し合いが極めて困難なこと、そして、Googleも同じような方針に転換しようとしていることなどが挙げられています。1つ前の記事もそうですが、巨大ITプラットフォームの横暴が、世界のあちこちで問題視されるようになっています。
ブロードキャスティング
11月8日のゲストは漫画家コミュニティー・コミチ代表の萬田大作さんでした。上記のタイトル後ろに★が付いている4本と、「ぶんか社グループ買収に見る電子コミック業界の成熟と再編」について掘り下げました。
次回のゲストはマンガ家のこしのりょうさんです。ZoomではYouTubeへのライブ配信終了後、オンライン交流会を開催します。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
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