「Amazon KDPが日本でもPODにも対応」「共産党の政策で非実在児童ポルノが物議に」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #494(2021年10月17日~23日)

角川武蔵野ミュージアム

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 2021年10月17日~23日は「Amazon KDPが日本でもPODにも対応」「共産党の政策で非実在児童ポルノが物議に」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

GIGAスクール構想に緊急提言、端末整備やネット環境…経団連〈教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」(2021年10月18日)〉

 日本経済団体連合会(経団連)は2021年10月15日、GIGAスクール構想の確実な実施に向けた緊急提言を公表した。教育現場にとって特に緊急性の高い施策として、高校生の1人1台教育用端末とセキュリティ対策を2022年度前半まで完了すべきと提言している。

 GIGAスクール構想によって1人1台端末の環境が小中学生には整備できたけど、高校生はまだであること、教員用端末が古いことなどを改善すべしとする提言です。高校では2022年度から「情報Ⅰ」が必履修科目になるので、令和4年度(2022年度)の「前半までに完了すべき」というか、2022年度の最初から使える状態じゃないと困ってしまうのではないかと思うのですが。

 あと、経団連のサイト(↓)で内容を確認してみたら、「だれ」に対する提言なのか書かれていないことに気付きました。脚注には文科省や経産省の名前が出てくるので、まあ「そりゃ政府に対する提言でしょ」とは思うのですけど。当事者が誰かを明示するのって、大切なことじゃないかな、と。

「非実在児童ポルノ」めぐる日本共産党の政策紹介ページが議論呼ぶ 「誤った社会的観念を広める」〈ねとらぼ(2021年10月18日)〉

 日本共産党が公開した「2021 総選挙政策」に、創作表現の規制へ向けた動きを匂わせるようなことが書かれていました。従来の姿勢とは異なるだけに、創作関係者へ大変なショックをもたらしています。騒ぎになったのち、問題とされた箇所の1段落目「児童ポルノの定義」を「児童性虐待・性的搾取描写物」に改めようという提案部分に、「描写物」には「漫画やアニメなどは含みません」という説明が追加されるに至っています。ただし、「非実在児童ポルノ」について言及されている2段落目は、本稿執筆時点でもそのままです。むむむ。

 実在児童に対する性虐待とその記録物(国連子どもの権利委員会が提案している言い替えでは“material”という単語が使われている)がダメ絶対なのは大前提として――私が本件で一番違和感があるのは、この「子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意を」という主張が、なぜ「7、女性とジェンダー」に入っているのか? という点。児童への性虐待は、男女問わない問題では。

 たとえば、カトリック教会の聖職者が長年にわたり、未成年者に性的虐待を行っていた事実が、近年になって明らかになっています。フランスでの調査によると、被害者の8割は男の子です(↓)。

【NHK】フランスのローマ・カトリック教会で1950年以降、聖職者による未成年者への性的虐待が相次ぎ、被害者は推計で21万人を超え…

 つまり、児童への性虐待問題は本来なら「13、子ども・子育て」あたりの話なのに、なぜか「7、女性とジェンダー」に入れられているのです。カテゴリーエラーですよね? これ。また、力を注ぐべきなのは「実在児童」への対策であり、被害者のいない創作物をターゲットにしている場合ではないと思うのですが。

 ただ、これによって「あいつらは敵だ!」と切断する動きにも異を唱えたく。世の中って、敵/味方、正義/悪、白/黒、女/男みたいな二元論では表せないわけで。そのほうが深く考えなくていいからラクなんですが。ある人の主張に対し、ここは同意できる、ここは議論の余地がある、もしかしたら歩み寄れるかもしれない、でもここは絶対譲れないって、モザイク状になるのが普通です。むやみに敵を作るのではなく、味方を増やす方向へ進みたい。

社会

日常的にニュースを得るメディアは「テレビ」が定番、新聞は徐々に減少、実はWebサイトも下落気味【ドコモ・モバ研調べ】〈Web担当者Forum(2021年10月18日)〉

 パソコンや携帯電話でのWebサイト・アプリ閲覧が2010年の76.3%に対し、2021年には58.0%まで下落しています。それに対し、ソーシャルメディアは2017年の20.8%からグラフに登場し、2021年には40.7%まで上昇。

 ただ、「ソーシャルメディアでニュースを得る」ってどういうことなのかを思い浮かべてみると、要するにタイムラインへ流れている記事の見出しだけ見ているってことですよね。また、仮にリンクを開いたとしても、アプリ内でのWebView閲覧だから「Webサイトを見てる」という感覚になっていない可能性が高いようにも思います。

 新聞の下落も、紙で見ていないだけで、実際には新聞社から発信されたニュースを見る頻度がめちゃくちゃ高いはずなんですよね。「スマニュー見てます」「ヤフーニュース見てます」はいいけど、その中身は何? というところまで思考が向かないという。ロゴとか発信元の情報はちゃんと出てるんだけど、意識の外になっちゃってる気がします。

病気休職中に“小説出版し報酬”の市職員に停職6か月 神奈川〈NHKニュース(2021年10月20日)〉

【NHK】神奈川県の平塚市に勤務する28歳の職員が、病気で休職していた期間中に、市に無断で小説を出版して、およそ320万円の報酬を…

 無断営利活動が地方公務員法違反とされ、停職6カ月の処分を受け、依願退職となっています。匿名の通報でバレたとのこと。世知辛い。休職期間が2年強で、商業出版4点、報酬が約320万円。1点あたり80万円ですから、800円×10%として1万部。いまのご時世ならそこそこ多いほうなのでは? という反応が少なからず見られました。侘しい。2年で320万円じゃ、専業にはできないですよね。

あの人のスマートワークが知りたい! - 第29回 電子書籍の新しい文化を作りたい〈スマートワーク総研(2021年10月22日)〉

~株式会社ボイジャー社長 鎌田純子さんに聞いた電子書籍のパイオニアとして1990年代から電子書籍の普及に努めてきた株式会社ボイジャー。出版不況と言われる中でも、近年の電子書籍市場は拡大。2020年度の電子書籍の市場規模は4821億円と推計されており、2019年度の3750億円から28.6%も増加している。電子書籍の過去とこれからについて社長の鎌田純子さんに聞いた。

 ボイジャー鎌田社長へのロングインタビュー。HyperCardとExpanded Book Toolkit、CD-ROM版新潮文庫の100冊、富田倫生さんとの出会いと青空文庫、ドットブック、EPUBとBinB、そして、RomancerからNRエディターと、インターネット普及前から現在までを電子出版一筋で生き抜いてきた歴史の重さを感じます。

メディアドゥ決算説明会 藤田社長が電子図書館導入増や日本文芸社好業績など報告〈文化通信デジタル(2021年10月22日)〉

 メディアドゥの藤田恭嗣代表取締役社長CEOは10月14日に開いた2021年第2四半期決算説明会で、10月12日に開設したNFTマーケットプレイス「FanTop」について説明したほか、電子図書館サービ…続き

 第2四半期の決算説明会なのですが、エブリスタの買収、OverDriveの導入先急増、トーハンと提携して販売を開始したNFT特典付き出版物、NFTマーケットプレイス「FanTop」の開始など、話題が豊富。藤田社長の「電子書籍のメディアドゥから出版業界のメディアドゥに進化していかなければならない」という言葉が印象的です。

 ちょうどこの記事と同日、電流協から「電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館」の最新版が公開された(↓)のですが、10月1日時点でOverDriveの導入先は23カ所まで伸びていました。TRC-DL単独は43カ所、LibrariE&TRC-DLは180カ所(広域含む)。自治体ベースの普及率は約14.4%まで来ています。

自治体の公共図書館における「電子書籍貸出サービス」を実施している図書館となります。(電子出版制作・流通協議会 電子図書館・コンテンツ教育利用部会まとめ)

経済

岩波書店代表取締役社長・坂本政謙氏インタビュー “看板”以外は全て変えるぐらいの気持ちで〈文化通信デジタル(2021年10月18日)〉

  もう美徳と言えない「編集者は黒子」の感覚    今年6月に岩波書店の社長に就任した坂本政謙氏は、一般企業から中途採用で入社し、営業を経て編集者になった経歴を持つ。編集としては同社で主流の…続き

 “学術的な内容の単行本でも電子版のニーズがあることが分かってきて、その対応もしないと駄目だということが社内でも共通の認識に”なってきたそうです。やっとか。学術的な内容は、本文検索できることがすっごいメリットになるはずなのですよね。マンガの電子化(画像)とはベクトルが違います。

 そういえば以前、『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』についての原稿を書いているとき、ふと「あれ? そういえばこの本って図書館について言及された箇所あったっけ?」という疑問が浮かんで、電子版の本文検索一発で調査が終わって感動したのを思い出しました。そのとき書いたコラムがこちら(↓)。

Amazon、Kindle ダイレクト・パブリッシングで紙書籍出版を開始 個人著者の皆様に、紙書籍で読者へ作品を届ける機会を提供〈アマゾンジャパン合同会社のプレスリリース(2021年10月20日)〉

アマゾンジャパン合同会社のプレスリリース(2021年10月20日 09時00分)Amazon、Kindle ダイレクト・パブリッシングで紙書籍出版を開始 個人著者の皆様に、紙書籍で読者へ作品を届ける機会を提供

 KDPにPODが追加。個人作家でもAmazon PODが利用できる! というお祭り騒ぎが観測されています。以前からインプレスR&Dが「ネクパブ・オーサーズプレス」で提供している内容と大差ないないのですが、認知されてなかったんだなあ、と寂しい気分に。KDPに印税分配機能はないので、チームパブリッシングしたい方はネクパブを利用すると良いでしょう。

 なお、アメリカではEPUB入稿にも対応していますが、日本ではPDF、DOC、DOCX、RTF、HTML、TXTのみ。なぜだろう? 縦書き対応が難しい? 判型は.com向け(インチ表記)とco.jp向け(cm表記)のバリエーションがあるので注意。少し混乱しました。

 さっそく試してみた方がレポートを上げています(↓)が、ISBNがその場で無料発行されるというのがすごい。出版社名は「Independently published」になるそうです。ISBNは979-から始まる番号のようですが、日本では初かも? システム対応が必要になるところがあるかも……?

 hon.jp DayWatch 時代のアーカイブに、「CreateSpace」と並行して「KDP Print」が立ち上げられた2017年当時の記事が残っていました(↓)。のちに統合されていったんですよね。参考まで。

【編集部記事】米国の電子書籍ニュースサイト「The Digital Reader」によると、Amazon社(本社:米国ワシントン州)が電子書籍出版プラットフォーム「Kindle Direct Publishing(KDP)」米国版の管理画面にプリント・オン・デマンド製本(以後:POD)サービス「KDP Print」を追加したとのこと。 このKDP Printサービスは米国内のKDP作家向けにベータ公開されたもので、すでにKindle電子書籍を販売している個人作家が、米国内・...

アマゾン頼みにはリスクはあるが…最大手の講談社がついに方針転換した”深刻な事情” 日本独自の出版流通システムの限界〈PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)(2021年10月22日)〉

出版界の「アマゾン化」が急速に進んでいる。出版最大手の講談社が、「仇敵」のネット通販最大手アマゾンジャパンと、ついに“手打ち”し、取次会社(問屋)を通さずに、書籍をネット書店のアマゾンに直接納入する…

 いろいろツッコミどころのある記事ですが、とりあえず1つだけ。Kindle Unlimitedから講談社のラインアップが削除された2016年の事件を根拠に、「仇敵」「かたくなにアマゾンと一線を画してきた」「対抗する牙城」「にらみ合い」などと煽っていますが、読み放題以外では普通に取引してますし。読み放題も2020年2月には復活してますし。普通に、大切なパートナーの1社では。

技術

他界したアーティストの作品を無断でNFT化:プラットフォーム規制は進むのか〈WIRED.jp(2021年10月19日)〉

いまやデジタルアートの世界でNFTのマーケットプレイスが活況を呈していることは誰もが知っている。問題は、そうしたNFTのプラットフォームは統制や規制が充分でないことから、詐欺師たちをもひきつけていることだ。他界したアーティストになりすました偽アカウントによる作品のNFT化のケースからは、「デジタルの無法地帯」と形容されるこの新たな市場とプラットフォームの課題と向かうべき方向性が浮き彫りになる。

 NFTマーケットプレイスの問題点として以前から指摘されていた、第三者が無断でNFTを作ってしまう「無権限発行」の実例。しかもガンで急逝した方の作品を悪用しているという、最低な行為です。残念ながら、CGMでこれまで起きてきたことを思うと、誰でも出品できる形ならこうなってしまうのは必然。不可避です。運営側がちゃんと審査する体制を用意するとか、信頼できる取引先に限定して公式グッズだけを展開するといった形にするしかないように思います。騙し騙される場が栄えるはずがない。

Webのルビ仕様にはアクセシビリティを阻害している面がある。「日本DAISYコンソーシアム」が改善を求めてブラウザベンダ、WHATWG、W3Cらに公開書簡〈Publickey(2021年10月20日)〉

すべての人が等しく情報にアクセスできることを目指し、国際規格であるDAISY(Digital Accessible Information System:アクセシブルな情報システム)規格の開発・維持・普及のために設立された国際団体「DAIS...

 10月19日に開催された、Advanced Publishing Laboratory(APL)と日本電子出版協会(JEPA)の共催オンライセミナー「EPUB最新動向とルビ仕様について」のレポートです。OS標準の読み上げ機能が親字とルビ両方読んでしまうのを、EPUBの仕様としてどう解消すればいいのか。リフローで改行位置が変わる際に、グループルビをどう処理するかなどの問題提起が成されています。資料や動画が公開されてます(↓)ので、興味あるかたはぜひ。

モバイルブック・ジェーピー、「連想検索システム 知の泉」を開発し実証実験を開始〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年10月20日)〉

 連想検索といえば、国立情報学研究所(NII)の高野明彦先生だよな……? と思ったら、共同研究の成果を活用したものとのことです。NII「Webcat Plus」(↓)に実装されている仕組みが、MBJの「どこでも読書」に組み込まれる実証実験。販売増に繋がるでしょうか。

Webcat Plusは、国立情報学研究所が運営する本、作品、人物の検索 サービスです。連想×書棚が、あなたの知の世界を広げます。

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雑記

 10月中旬からGoogleアラートが不調で、しばらくほとんど機能していない状況になっていました。仕方ないので、これまでRSSリーダーには登録していなかった新聞系等もチェックするようにしたのですが、1日放置すると4桁を超える情報の荒波で溺れそうに。Googleアラートは1週間ほどで直りましたが、どれだけ依存していたのかを思い知らされた出来事でした。どんな試練だ(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 602 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学でデジタル編集論・二松學舍大学でエディティング・リテラシー演習担当の非常勤講師 / 日本出版学会員 / デジタルアーカイブ学会員 / 主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)/ プロフィール画像は©鈴木みそ氏
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