「ソニーグループがKADOKAWAを買収?」「アメリカ司法省がGoogleにChrome売却要求」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #643(2024年11月17日~23日)

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 2024年11月17日~23日は「ソニーグループがKADOKAWAを買収?」「アメリカ司法省がGoogleにChrome売却要求」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

グーグルに「クローム」売却要求へ、独占解消で米司法省-関係者〈Bloomberg(2024年11月19日)〉

 今週のびっくりニュースその1。いや、独占禁止法違反で分割を検討しているのは知っていましたが、そこを切り離す? いや、これ、オープンソース・プロジェクトの「Chromium」はどうするつもりなんでしょう? 「Microsoft Edge」「Amazon Silk」「Opera」「Brave」「Sleipnir」「Vivaldi」など多くのブラウザが「Chromium」ベースなんですけど。そのあたりのことをなにも考慮していない、とんでもない愚策なのでは?

米司法省、Google分割要求 Chrome売却で独占解消迫る〈日本経済新聞(2024年11月21日)〉

 結局、連邦地方裁判所に是正案が提出されちゃいました。もちろん、Googleは強く反発しています。間違いなく裁判で争われることになるでしょう。Microsoftのときと同様、そうこうしているうちに情勢変わっちゃうじゃないだろうか?

トランプ氏「AI規制は即破棄」 民主主義か革新かアメリカ二分 AI世界の秩序探し④〈日本経済新聞(2024年11月21日)〉

 そして、二度目の大統領就任が決まっているトランプ氏が、この民主党政権下で下された判断をどうするかが注目されます。この記事にあるように、生成AIについては、事前安全評価を義務付けたバイデン氏の大統領令を「即破棄する」と公言しているそうです。前回、TPP離脱も就任初日にやりましたから、今回もやるだろうなあ。

Google分割の行方「米の技術革新力を左右」識者の見方〈日本経済新聞(2024年11月22日)〉

 識者の意見は割れていますが、これは報道にありがちな両論併記でしょうねぇ……どっちの意見が強いんだろう? というか、やはりトランプ氏が大統領就任後にどう判断するか次第な気がします。

社会

「生成AIの知見不足だった」人による確認も不十分 誤情報を記事化〈毎日新聞(2024年11月17日)〉

 福岡県のPR記事が生成AIで作成されていた事件の続報です。

社長の説明によると、生成AIでの記事作成後に人の目で実施した確認は、ネガティブな内容や犯罪、子供の危険につながるものを除外する目的で、掲載情報が事実かどうか確認する視点は不十分だった。

 いやあ……「雑」の一言でしょう。初報には「典型的なダメ活用事例」と指摘しましたが、こんなの生成AIではなく、人間の書いた原稿であっても、そんな雑なチェックをしてたら痛い目にあいますよ。最後のほうで九州大准教授の小林俊哉氏がおっしゃっているように、これは「AIではなく発信者の問題」です。

「図書館=無料貸本屋」は本当なのか データ分析が突きつける実態〈朝日新聞デジタル(2024年11月17日)〉

 日本大学教授・大場博幸氏の著書『日本の公立図書館の所蔵 価値・中立性・書籍市場との関係』について。過去の経緯含め、けっこうしっかり取り上げてますね。

報道経験ないニュース系インフルエンサー、米若者の頼れる情報源に〈Bloomberg(2024年11月19日)〉

Fifth of Americans regularly get news from social media influencers(アメリカ人の5分の1はソーシャルメディアのインフルエンサーから定期的にニュースを入手している)〈Press Gazette(2024年11月18日)〉

 アメリカでは以前から、新聞廃刊により公共問題の報道に接する機会がほとんどなくなる「ニュース砂漠」が広がっていると問題視されていましたが、その穴を報道経験のないインフルエンサーが埋めているというニュースです。

 2018年にノースカロライナ大学が発表した「ニュース砂漠」についての報告書では「地元ニュースに触れられる機会が最も少ない人たちは、たいてい最も弱い立場にある人たち、つまり最も貧しく、最も教育水準が低く、最も孤立した人たちだ」と指摘されていました。

 今回の調査では、黒人、ヒスパニック、アジア系アメリカ人、低所得のアメリカ人などがインフルエンサーからニュースを入手する可能性が最も高いとされています。好意的に捉えれば「ニュース砂漠」問題を個人の力が解消しているわけです。しかし同時に、注目を集めるほど稼げる「アテンションエコノミー」に翻弄されていることも予想できます。

 日本でもすでに、重要な情報がペイウォールの向こう側に行ってしまい、無料でアクセスできる情報にはろくなものがない状況が進みつつあります。まだ一定程度のクオリティが担保されたメディアは残ってますが、広告収益だけで食っていくのは難しい状況です。これからどうなってしまうのだろう?

AUTOMATONサイトリニューアルの実施のお知らせ。リニューアル理由と記事内広告運用方針について〈AUTOMATON(2024年11月20日)〉

 リニューアル理由はさておき、運用型広告に対するポリシー表明が実に良いです。反響を確認したら、大半が好評で羨ましい限り。やっぱりこういうのって、単独の記事できちんと表明しておくのが大事ですね。HON.jp News Blogは2020年から運用型広告(Google AdSense)を止めているんですが、その理由の表明を新年の長文記事末尾にさりげなく書いたら、ほとんど反応がもらえませんでした。わはは。改めて表明しておくと「読者を不快にする広告の排除と、ページビュー争奪戦から身を引くため」です。正しい判断だったと自負しています。

 最近でも、西田宗千佳氏に寄稿いただいた「アップルの「気をそらす項目を非表示」から感じるウェブ広告への危機感」は非常に多くの方に読まれましたが、そういった現状の広告への批判コラムが載っているメディアそのものに対する声はほとんどありませんでした。もしあのコラムが、本文内まで広告だらけになっている他のメディアに載ってたら、きっと「お前が言うな」の大合唱だったことでしょう。

宮城:読書脳を刺激、学力向上 東北大川島教授に聞く:地域ニュース〈読売新聞(2024年11月20日)〉

 よりによって「読書脳」ですか……疑似科学と批判されていた「ゲーム脳」を連想しちゃいました。最近でも「スマホ脳」みたいに、なんとか脳って、ネガティブな意味で使われることが多い印象があります。なんだか「読書とは自分の頭ではなく、他人の頭で考えること」と書かれているというショーペンハウアー『読書について』を読んでみたくなりました。

生成AIは創作者の仕事を奪うのか? 脚本家や漫画家、編集者の場合 稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解〈ビジネス+IT(2024年11月21日)〉

 漫画家ユニット・うめの小沢高広氏と脚本家の小林雄次氏へのインタビュー。編集者は足りてないし忙しいから、生成AIは軽めの相談を気軽に延々とできる相手として良い、という観点はなかったなあ。なるほど。単純に代替されるとか仕事が奪われるって話とは、確かにちょっと違いますね。

経済

マンガの表紙に金が出ない件の話〈デンノー忍者|pixivFANBOX(2024年11月17日)〉

 この記事が話題になっていて「デンノー忍者って誰だ?」と思ったら、『映像研には手を出すな!』の漫画家・大童澄瞳氏でした。アシスタントにしっかり謝礼を払っているのですね。偉いなあ。また、11月19日付で「2025年度から、小学館コミック局全体、全ての漫画で単行本の作業に対し、一定の協力費を支払うこととなりました」と追記されています。交渉が実った! 素晴らしい! 儲かっているぶんをちゃんと作家へ還元するという判断ができた小学館も偉い!

ソニー、KADOKAWA買収へ協議=関係筋〈ロイター(2024年11月19日)〉

 今週のびっくりニュースその2。恐らくこのロイターの報道が一番早かったと思います。その後、東証からKADOKAWA株の「買収に関する不明確な情報」について注意喚起が行われていますが、それもしれっと報道するロイター。あのねぇ。

 なお、KADOKAWAからは打診があったのは事実だけど現時点で決定した事項はないという声明が出ています。当日はストップ高まで高騰してましたし、後日、インサイダー取引で捕まる人がいないことを祈ります。得する人がいるから、リーク情報が出てくるわけですもんね。怖い怖い。

ソニーグループ、KADOKAWA買収へ協議〈日本経済新聞(2024年11月19日)〉

 内容的には、ロイターよりこちらの日経の報道のほうが詳しいです。とくに数字関係。KADOKAWAの時価総額約5300億円に対し、ソニーは成長投資枠に1兆8000億円設定しているのですね。そういえばソニーは「めちゃコミック」買収にも名乗りを上げてましたけど、ブラックストーンに競り負けて逃しちゃってます。

 ちなみに、大株主・大量保有報告書によると、現時点でKADOKAWAの株式を個人で一番持っているのは川上量生氏です。けっこう前から角川家の名前は上位にありません。

カドカワには「メリットがはっきり見えない」ソニーの買収提案、そのウラに「生き残りをかけた事情」ありか(数土 直志)〈マネー現代 | 講談社(2024年11月21日)〉

 ソニーのメリットではなく、KADOKAWAのメリットについて言及している記事。要は「株主構成が不安定」という指摘です。さすが数土直志氏。そう、川上量生氏が個人では筆頭の大株主とはいっても、比率は4.78%程度なのですよね。だんだん手放して保有率は下がっています。

 安定株主がいない状態だと、安定的な経営がしづらいというリスクがあります。そういえば2020年にカカオが5%超保有というニュースや、2021年にはテンセントが300億円出資というニュースもありました。ところが現在、どちらも大株主には名前がありません。あれ?

 大量保有報告書の履歴を見るに、どうやらいま1位のコリア・セキュリティーズ・デポジトリー・サムスンは信託口で、実施の保有者はカカオの子会社で投資事業を担っているカカオインベストメント(PDF)になるようです。また、テンセントの出資は子会社のシックスジョイ・ホンコン・リミテッド(PDF)経由のようですね。

ローソン、既存店の一部を書店併設型にリニューアル 雑誌やビジネス書など約5000タイトル用意〈ITmedia ビジネスオンライン(2024年11月22日)〉

2025年3月からは、これまでにオープンしたLAWSONマチの本屋さんと通常店舗への本の配送を、日本出版販売から順次引き継ぐ予定だ。

 この段落は主語が抜けていますが、文脈的に2つ前の段落に名前が挙がっている「トーハンが」引き継ぐことになると解釈できます。というか、改めて調べてみたら文化通信から10月の時点で続報が出ていました。日刊では拾っていたのに、週刊でのピックアップから漏れていました。とほほ。

技術

新たな仕様とどう向き合うか? EPUB専門家が語り合った【HON-CF2024レポート】〈HON.jp News Blog(2024年11月19日)〉

 今回は小桜店子さんにレポートいただきました。難しい話題を丁寧にまとめていただいてます。司会をしていて、高見氏から「電書協EPUB制作ガイドが近々アップデート予定」と言質を取ったのはいいけど、直近では「名前を(電書連に)変える程度」と聞いてガクッとしました。ガクッ。でも、経産省関連でもアクセシビリティガイドライン策定に動いているそうなので、今後に期待です。

お知らせ

文フリ東京出店について

文学フリマ東京39に出店します。12月1日有明ビッグサイトで、ブース位置はI-49〜50、カテゴリは評論・研究[メディア]です!

新刊電子版先行販売について

文学フリマ東京39で紙版を販売する新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』の、電子版を直営ストアで先行販売しています!

「NovelJam 2024」について

11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。

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 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記

 新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』は、紙版を確定したあとに、印刷版のページ番号埋め込み(ページナビゲーション)作業をしています。EPUBアクセシビリティ対応です。現状では対応しているビューアが非常に少ないのですが、将来のために。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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