「文化庁、海賊版学習AIの著作権侵害は開発運営事業者にも責任等の素案」「Google広告に表示されたサポート詐欺広告事例集」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #600(2023年12月17日~23日)

啓文堂書店 高幡店
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 2023年12月17日~23日は「文化庁、海賊版学習AIの著作権侵害は開発運営事業者にも責任等の素案」「Google広告に表示されたサポート詐欺広告事例集」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【お知らせ1】年末恒例の出版ニュース振り返り特番は、ニュースまとめ配信者の大西隆幸氏と菊池健氏と古幡瑞穂氏と鷹野凌が、司会の西田宗千佳氏とともに2023年を振り返り&掘り下げます。12月27日開催!

【お知らせ2】こちらも年始の恒例、9年連続のJEPAセミナーです。毎週配信している「出版ニュースまとめ&コラム」から、2023年の電子出版関連の主な動きを振り返り、2024年を予想します。1月10日開催!

【目次】

政治

AIイラストは“著作物”!? 中国で画像生成AIブームが大爆発したわけ〈ASCII.jp(2023年12月18日)〉

 中国の裁判で、大胆な判決が出ました。「Stable Diffusion」で生成された画像に著作権が認められたのです。公開されたプロンプトを検証してみた新清士氏の解説によると「生成AIを操作するスキルはそれほど高いものではなく、初心者とそれほど違わないのではという印象」とのこと。そのレベルのAI生成物が“著作物”だと法的に認められるとなると、さすがにそれは人間による創作活動に大きな支障が出るかも? という気がします。とはいえ一審判決なので、後になって覆されるかもしれませんが。

まとめ「中国のAI生成画像の著作物性を認めた初の判決と米国との比較」〈企業法務ナビ(2023年12月18日)〉

 こちらはその判決のさらに詳しい解説です。読んで気になったのは、裁判所が「例えば, ある作品が一定の順序・公式・構造に従い完成され, 異なる者が同じ結果を得る場合, その表現は同じだから独創性があるとは言えない」と判断している点。「Stable Diffusion」はシード値を固定すれば同じ絵が生成できるはず(他のパラメーターやモデルも同じなら)なのですが、それを理解した上での判断なのだろうか? という疑問が。

生成AIのコンテンツ学習、違法のケースも 文化庁が「考え方」素案〈朝日新聞デジタル(2023年12月20日)〉

 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)を受けての報道です。文化庁からお知らせが出ていたのに気づいておらず、今回は傍聴できませんでした……痛恨、無念。事務局から、これまでのヒアリング結果などを踏まえた「AIと著作権に関する考え方について(素案)」という資料が出ていますが、これを元にかなりの激論が交わされたようです。そのため、まだ確定したものではない、という前提で読み解く必要があるでしょう。

 まだすべてに目を通せていないのですが、8ページ目の「ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきもの」という記述には、おお、となりました。違法ダウンロード範囲拡大のときの議論を思い出します。

 続けて「仮にこのような行為があった場合は、当該AI開発事業者やAIサービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる」とあります。

 これは、HON.jpが去る9月に開催した「HON-CF2023」の規制セッション「生成AIと著作権」で、福井健策氏が「海賊版のデータをAIに学習させることは、権利者の利益を不当に害しているのではないか? という視点は充分あり得る」とおっしゃっていましたが、まさにそれ。

 この解釈がそのまま定着すると、たとえば「海賊版だらけ」と言われているデータセット「Books3」を学習に用いている生成AIは、日本では相当危ういことになりそうです。

 他にも、無断転載の疑いが強いイラストサイト「Danbooru」の画像を学習したと公言している「Novel AI」なども、日本では違法性が問われることになりそう。

 ただ、どういうデータを学習しているのかを秘密にしているところも多いんですよね。「ChatGPT」のOpenAIも、「GPT-4」以降は詳細な技術情報が非公開です。ちゃんと追求するには開示義務が必要になるでしょう。裁判所が命令すればいいのかな?

 また、「HON-CF2023」で橋本大也氏がおっしゃっていたように、そもそも「海賊版そのものがすでに問題」なのですよね。順番としては、まずそのデータが海賊版であることの立証から、ということになるでしょう。

Googleが「サイドローディング簡易化」や「アプリストアの選択肢拡大」へ、米国の訴訟和解で〈ケータイ Watch(2023年12月20日)〉

 アメリカでの独占禁止法(反トラスト法)違反の集団訴訟が和解となり、基金に計7億ドル拠出するほか、Androidのサイドローディングプロセスを簡素化したり、Google以外の決済システムをユーザーが選択できるようにしていくそうです。Epic Gamesとあれだけ争っていたのに、急にそこまで譲歩するのかと少し意外でした。これ、どう考えても「じゃあAppleはどうするの?」となりますよね。それを狙ってるのかしら?

社会

電子出版アワード2023は「Bingチャット」「世界J文学館」「コミチ+」「YourEyes」「Firefly」〈日本電子出版協会(2023年12月21日)〉

 今年も選考委員として候補選出のお手伝いをしました。ジャンル賞は一般投票+会員投票、大賞は会員投票+選考委員投票です。今年の大賞は「YourEyes」(スプリューム)に決まりました。おめでとうございます。なお、3年前のサービス開始時とは運営会社が変わっています。

 また、HON.jp News Blogも特別賞を受賞いたしました。9月に団体立ち上げから10周年を迎えた節目ということで、他の選考委員から推薦いただきました。2018年にはスーパー・コンテンツ賞をいただいてますので、JEPAアワードで賞をいただくのは2回目です。

 本のつくり手をエンパワメントする非営利の団体として10年間活動してきましたが、振り返ってみるとあっという間でした。続けられているのはひとえに、会員のみなさまやボランティア活動のおかげです。関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。ありがとうございます。

経済

総数約130点の圧倒的ボリューム、Google広告で表示されたサポート詐欺広告を集めたエントリ【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2023年12月19日)〉

 先週の本欄で「広告内容(クリエイティブ)の審査が甘すぎるプラットフォーム」の問題を指摘したばかりですが、タイミング良くその実例が公開されました。しかも大量に。

サポート詐欺とネット広告 100以上のGoogleの詐欺広告、その実例を集めました〈web > SEO(2023年12月18日)〉

 これを見ると、こういう問題クリエイティブを入稿してくる一部の広告主や広告代理店にそもそもの問題があることがよくわかります。そして、実際に広告を見る「ユーザー側」が置き去りになっている、と私が指摘し続けていることの意味も。ユーザーとしては、自衛のためにアドブロックとなるのが自然です。つまり、こういう広告主や広告代理店を放置することは、ネット広告業界の自殺行為と言っていいでしょう。

 なお、問題提起している辻正浩氏によると、これらの広告は「Googleが直接審査したものではなく、Googleが提携したアドネットワークから流し込まれている広告」とのこと。それでもなお「Googleであればどうにでもできるはず」「Googleに大きな責任があります」という見解には、私も同意。もっとしっかり対策しろと、行政が動くべきでしょう。

ヤフー広告、140億円相当のクリックなどを無効・非課金化〈Impress Watch(2023年12月19日)〉

 プラットフォームと広告審査という観点で、併せてピックアップ。Yahoo!広告はこの「広告サービス品質に関する透明性レポート」を2019年から公開し続けています。要は「ちゃんとやってますアピール」なんですけど、私は「やってるならちゃんとアピールしましょう」とも思うんですよね。

広告掲載料は0円。3万部がすぐに在庫切れ。京都の型破りフリーマガジン『ハンケイ500m』編集長/円城新子さん【編集者の時代 第8回】〈CORECOLOR(2023年12月19日)〉

 読み応えたっぷりのインタビュー。端的に言えば、コンテンツの制作費はいただくが、広告掲載料は0円というビジネスモデルです。ただ、そこに至るまでのプロセスとか考え方が、ただの広告屋とは根本的に違います。「(無料で読める)ウェブと同じような情報が雑誌に載っていて、買う必要ないから、買わないんじゃないの?」という円城氏の問いかけは、あらゆるメディアに通底する話でしょう。短小軽薄で刺激ばかり強い情報が大量に流布しているトレンドに抗う動き。良いインタビューを読ませてもらいました。

書店のドン「紀伊國屋」がTSUTAYAと組んだ裏側 紀伊國屋会長に合弁会社設立の狙いを直撃 | メディア業界〈東洋経済オンライン(2023年12月19日)〉

赤字、リストラ、コンビニ撤退「本の物流王」の岐路 業界を騒がせた取次大手「日販」の幹部に聞く | メディア業界〈東洋経済オンライン(2023年12月15日)〉

コンビニへの雑誌配送開始へ「お客にとって必需品」…トーハン社長に聞く〈読売新聞(2023年12月20日)〉

 東洋経済オンラインで先週公開された日販グループホールディングス 専務・奧村景二氏へのインタビューに続き、紀伊國屋書店 会長・高井昌史氏へのインタビューも公開されました。どちらもいろいろぶっちゃけていて、広報担当者が青ざめてるんじゃないかと心配になるレベル。トーハン 社長・近藤敏貴氏へのインタビューと併せ、“業界”の動向としてピックアップしておきます。

KADOKAWAに手応え 消える雑誌、そのブランドに命を吹き込む方法〈日経クロストレンド(2023年12月20日)〉

 CDO 橋場一郎氏などへのインタビューです。雑誌の販売というビジネスモデルから、ファンコミュニティ運営への転換を図った『電撃G’s magazine』などについて。「ニコニコチャンネル」の運営ノウハウが活かされているということなので、ドワンゴを吸収合併した効果が出ているのでしょう。

 1年ほど前、日本出版学会 出版デジタル研究部会にご登壇いただいた際に、橋場氏は「ファンコミュニティビジネスと出版のシナジー」や「雑誌ブランドをファンコミュニティ化」などを今後の課題として挙げていました。それが実を結びつつあるということになります。素晴らしい。

Pontaポイントがたまる電子書店「Pontaマンガ」開始 「キングダム」「進撃の巨人」「SPY×FAMILY」など最大10万作を配信〈ITmedia Mobile(2023年12月21日)〉

 え? いまから新規参入? と、ちょっと驚きました。Pontaポイントと電子書店という組み合わせに既視感があり、あらためて調べてみたところ、2013年末に終了した「エルパカBOOKS(電子書籍)」の記事を発掘しました。2014年2月にサービス終了。ちょうど10年前!

 当時の運営はローソンで、サービス終了時に購入代金を全額Pontaポイントで還元しています。なお、今回の運営はand factoryとロイヤリティ マーケティングなので、共通点はPontaポイントという点のみ。なんか、半端に思い出しちゃって申し訳ありません。

「定年まで逃げ切れなかった」デイリーポータルZ独立 林さんに聞く不安と希望「もう一度、インターネットらしく」〈ITmedia NEWS(2023年12月22日)〉

 デイリーポータルZがついに独立、編集長・林雄司氏の1人会社となりました。ニフティ時代からの経緯や今後の方針などについて、IT戦士ゆかたんこと岡田有花氏がインタビューしています。月額1000円の「はげます会」会員が1500人、毎月100万円の赤字見込みなど、いろいろ赤裸々になっています。

 毎月100万円の赤字って何にどれだけ使っているんだろう? と思ったら、「経費は月間300万円ぐらい。人件費、制作費、サーバ費用がだいたい3分の1ずつ」とのこと。2023年4月の媒体資料(PDF)によると月間PV数は約1000万くらいなので、その規模でサーバー代が月100万円はさすがに高すぎでは? という印象を受けました。

 まあ、記事内でもそのあたりを見直していくとされているので、余計なお世話かもしれませんが。これくらいの規模のメディアの生存戦略は、うちとしても非常に気になるところです。うちのほうがもっとずっと小粒ですが。

技術

生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える〈ASCII.jp(2023年12月16日)〉

生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある?〈ASCII.jp(2023年12月17日)〉

 リード・ブラックマン『AIの倫理リスクをどうとらえるか:実装のための考え方』(白揚社)を翻訳された小林啓倫氏に、まつもとあつし氏がインタビュー。非常に読み応えがあります。

 小林氏には、去る9月に開催した「HON-CF2023」の規制セッション「生成AIと著作権」にもご登壇いただきました。ただ、そのときは司会の私の力不足で、倫理リスクについてはあまり掘り下げられなかったんですよね。期せずして、まつもと氏に補っていただいた感があります。

Facebookは既に画像生成AIが作ったパクリ投稿で埋め尽くされている〈GIGAZINE(2023年12月19日)〉

 バズった画像をそのまま転載するいわゆる「パクツイ」の、亜種と言っていいでしょう。バズった画像を生成AIのimage to image(i2i)で加工し、元とは少し違った形のフェイク画像にすることで、元投稿よりバズを稼いでしまうような事象が起きているそうです。

 技術の悪用が、ある意味、予想通りに起きている感があります。ただの転載なら著作権侵害に問えますが、生成AIによる加工を行ったことで「アイデアの範疇」での類似にみなされる可能性もあるように思えます。構図やポーズには、基本的に著作権はありませんからね。

 私の観測範囲ではまだほとんど目撃していませんが(私がフェイク画像に気付いていないだけかもしれませんが)、恐らく、Facebook以外でも同じようなことが起きているでしょう。これが行き着く先になにが待っているのか……ちょっと想像したくないなあ。

お知らせ

「HON-CF2023」について

 デジタル・パブリッシングのオープンカンファレンス「HON-CF2023」の録画視聴チケット販売中! すべてのセッションが2024年4月まで視聴できます。

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記

 これが年内最後の週刊出版ニュースまとめ&コラムとなります。とはいえ、12月27日にはイベントがありますし、年末恒例の振り返り記事も未着手なので、私の年内の仕事はまだ納まっていません。また今年も大晦日までかかっちゃうかな……がんばります(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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