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2023年12月10日~16日は「インボイス制度で現状維持できた免税事業者は半数に留まる」「JICDAQ事務局長、広告がユーザーに“邪魔”だと捉えられている現状を指摘」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【お知らせ2】こちらも年始の恒例、9年連続のJEPAセミナーです。毎週配信している「出版ニュースまとめ&コラム」から、2023年の電子出版関連の主な動きを振り返り、2024年を予想します。1月10日開催!
【目次】
政治
生成AIと知財権の政府検討会 文化庁などから意見聴取〈日本経済新聞(2023年12月11日)〉
AI時代の知的財産権検討会(第4回)について。今回は申込みを忘れていて傍聴できなかったのですが、レベルファイブの提出資料がすごいと話題になっていました。「妖怪ウォッチ」「イナズマイレブン」などを手掛けるゲームメーカーです。
事例の大半は、レイアウトや背景美術の“案”を生成AI(Stable Diffusion)でいくつか出力し、良いものを選んだうえで、人間が参考にしてイラストを作成するという流れです。AI生成物を直接使っているケースも、群衆の遠景や高解像度化(アップスケール)などであり、誰からも文句のつけようがない使い方を指向している様子が伺えます。
さてこちらの検討会、資料4の論点整理案では、真っ先に「産業競争力強化の視点」が挙げられており、政府の姿勢が垣間見えます。2番目も「AI技術の進歩の促進と知的財産権の保護の視点」とバランスをとる内容で、3番目が「国際的視点」です。
ただ、懸念・リスクへどう対応するかはきっちり検討課題として整理されており、文化庁(=著作権)での議論もちゃんと網羅されています。よくこの短期間でまとめたなあ、と感心させられます。日本新聞協会による「有料会員限定のコンテンツからの回答生成」という不適切な事例に基づく主張がそのまま載っているのが若干気がかりですが、これはパブコメのときに改めて指摘しましょう。
梶裕貴が苦言 AIに声優の声学習し無断使用問題「悔しい」 『クローズアップ現代』特集で出演〈ORICON NEWS(2023年12月11日)〉
関連して。声の学習については、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第4回)で中川委員が「特定の方の声というのは作風と同じレベルで考えて良いのだろうかというと、ちょっと違うのではないか」「30条の4のただし書については隣接権も含めた議論が必要なのではないか」と意見していたため、著作権では守られない文体や作風とは、結論が違ってくる可能性がまだあります。要注視。
インボイス制度「未登録」の半数以上が同じ報酬で取り引き継続〈NHK(2023年12月13日)〉
フリーランス協会が公開した「インボイス制度によるフリーランスへの影響に関する実態調査」の結果について。このタイトル、免税事業者の「半数以上が同じ報酬で取り引き継続」と言われるとなんだか悪くない状況のように思えますが、現状維持できた免税事業者は半数に留まるという話なのですよね。
記事本文で挙げられているのも、免税事業者が「報酬の値下げを一方的に通知された」15.5%、「契約解除を一方的に通知された」1.8%までです。次の「相談の場はあったが、結果的に契約を解除された」1.8%、「相談の場はあったが、結果的に報酬を値下げされた」9.7%はスルーされちゃってます。以前より悪くなった4つを合計すると28.5%です。免税事業者で売上が減る人がそれだけいるわけです。
また、「同じ報酬で取り引き継続している」ケースは最多の55.9%ですが、この場合、取引先が課税事業者であれば相手側が増税になることも忘れてはならないでしょう(取引先も免税事業者もしくは消費者であれば変わらない)。
またさらに、免税事業者から課税事業者になったorなる予定の計48.4%も、税負担増です。売上は減らなくても、増税で利益が減る。法人税とは異なり、赤字でも関係ない。そして事務作業量も増える。いやあ……天下の愚策ではないかこれは。
経済
日本マンガの米国向け新配信サービス開発、ドコモ、アカツキ、メディアドゥ、MyAnimeListが連携〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2023年12月11日)〉
http://animationbusiness.info/archives/15292
年の暮れに、年始に予想した「マンガ輸出増」に関連する良いニュース。とはいえまだ「提供に向けた業務提携契約を締結」の段階なので、実際に動き出すのは来年以降の話になります。提携社の中でいちばんの鍵になるのは、海外ユーザーを抱えているMyAnimeListでしょう。以前、HON.jpのイベントにもご登壇いただいた、溝口敦氏がCEOです。
MyAnimeListは2019年にメディアドゥが買収したあと、2021年の増資で講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、DMM.com、アカツキ、アニメタイムズ、電通グループ、ブシロード等が引受先になっています。それから2年。「満を持して」の感があります。今後が楽しみです。
スマートニュース、月1480円の「プラス」開始 ダイヤモンドやWSJ参加〈Impress Watch(2023年12月12日)〉
有料会員制メディアの中だけで配信されている記事を、外部でも有料配信するプラットフォームの登場です。子会社のスローニュースは単独での有料会員制メディアを1年ちょっとで断念していますが、その教訓を活かしたのでしょう、こんどは束ねて配信する形になりました。なるほど、そう来たか。
ただ、参加メディアに日本の大手新聞社がいない点と、雑誌系でも週刊文春・週刊新潮・東洋経済・日経あたりがいない点は気がかりです。この顔ぶれで月額1480円は、私は正直「高い」と感じました。だから私は今回、契約を躊躇しています。
未配信のメディアも、無料記事は「SmartNews」でふつうに配信しているので、声はかけているはず。週刊文春・週刊新潮は「dマガジン」「楽天マガジン」「Kindle Unlimited」でも後から配信が始まったのを思い出しました。
逆に、本の要約サービス「flier」や、個人のニュースレター配信プラットフォーム「theLetter」が入っているのは、別のベクトルで面白い(興味深いの意)。これはそのうち「note」の有料マガジンあたりも入ってくるんじゃないかしら。
デジタル広告 の未来を探る:「このままでは広告という仕事の創造性が失われ、面白いと感じることもできなくなる」JICDAQ 事務局長 小出誠 氏〈DIGIDAY[日本版](2023年12月13日)〉
デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の事務局長が感じている問題点。真っ先に“生活者の観点から見ると、広告のクリエイティブやフォーマットが「邪魔」と捉えられてしまっている現状”を挙げているのは、とても良いと思いました。
というのは、JICDAQが認証の対象としているのは、現状「アドフラウド」と「ブランドセーフティ」の2つだけであり、要するに広告主(アドバタイザー)の顔色しか伺っていない点がJICDAQの問題だと私は思っていたからです。
つまり、実際に広告を見る「ユーザー側」が置き去りになっているという問題点を、ようやく事務局長レベルが認識して外部へ発信するようになってきた、ということになります。「(広告は)受け入れられて初めて届く」というのは、とても重要な指摘でしょう。
いまのインターネット広告って、ユーザーを不快にさせることのほうが多くなっちゃってますもんね。同じようなタイミングでこんなTogetterまとめもありました。
次に問題なのは、広告内容(クリエイティブ)の審査が甘すぎるプラットフォーム。こちらも、その問題を指摘する「インターネット広告ポエム2023」というエントリーが同じようなタイミングで公開されています。
どちらも同じようなタイミングで出てきたのは偶然ですが、みんなが思っている不満がここに来て噴出している、ということなのだと思います。
JPIC・版元ドットコムなど 共同で「書店在庫情報プロジェクト」始動 書店在庫・図書館検索との連携など目指す〈BookLink(2023年12月15日)〉
実は少し前に概要は聞いていたんですが、ようやく記事になりました。「カーリル」はユーザーの位置情報を元に近くの図書館での所蔵および貸出状況を確認できるようなサービスですが、これはそれを「リアル書店」でやろうというプロジェクトです。
たとえば図書館のOPACと連携し、検索したら「貸出中」だけど「近くの書店に在庫あり」と誘導する、といった仕掛けが想定できます。以前、「OverDrive」が盛んに宣伝していた「Buy it Now」を、電子ではなく紙の本で実現させるようなイメージでしょう。
このプロジェクトで大きいのは、出版文化産業振興財団(JPIC)が最初からがっつり噛んでるところ。トーハン・日販が協力するとすでに明言していること。つまり少なくとも「業界による反発で潰される」みたいな心配は要らないでしょう。
ところで、この仕組みが効力を最大限に発揮するには書影が不可欠です。カーリル・版元ドットコムが提供している「openBD」プロジェクトの書影収録範囲は大幅に低下しましたが、JPROは有償なら提供可能としています。この仕組みで恩恵を受けるところが負担し、ぜひとも少しでも多くの書影を表示させて欲しい。
三毛別ヒグマ事件、アイヌ文化…北海道の出版社が電子化、売上上々〈朝日新聞デジタル(2023年12月15日)〉
北海道デジタル出版推進協会が、発足から10年を迎えました。ずっと地道にコツコツやってきたのが、コロナ禍で電子図書館のニーズが高まったことにより急激に売上が伸びたそうです。素晴らしい。私が前からずっと言ってる「売ってないものは買えない」は、裏を返せば「売ってたから買えた」なのですよね。電子版を売ってなかったら、こういう機会に恵まれることもなかったわけです。
なお、この朝日新聞の記事では「良いこと」ばかりを取り上げていますが、北海道新聞では「出版社の利益を守る目的から、図書館で貸し出される電子書籍は、紙の書籍に比べて約2~3倍と高い」という課題についても触れています。
紙より高いのは、データは繰り返し借りられても劣化しないので、紙より機会損失だから。要は、図書館貸出し用に頑丈な装丁の別バージョン(Library Edition)と似た話です。その理屈は理解できても、自治体の予算が乏しいのも現実でしょう。
だからうちは、電子図書館向けも電子書店向けと同じ価格に設定しました。その意図が伝わるといいなと祈りつつ。粋に感じて買ってくれてもいいのよ?(と地味なアピールをしておきます)
技術
画像生成AIが爆速で進化した2023年をまとめて振り返る〈ASCII.jp(2023年12月11日)〉
新清士氏による画像生成AIのこの1年の振り返り。大きな話題になり始めたのは2022年の夏頃からだったと記憶していますが、2023年に入ってもその進化は止まらず、むしろ加速していった感があります。私も「実際に使ってみないとわからん」と思い、しばらく「Stable Diffusion」と戯れていました。
ただ、使用にはリスクも感じていたため、途中から「Adobe Firefly」に乗り替えました。そうやって目を離した隙に、またさらに進化していったという。ポーズを指定できる「OpenPose」とか面白そうではあるんですが、カーネギーメロン大学のライセンス問題が気になって……。
OpenPoseのライセンスについては、新しい情報はいまのところありません。でも、「いままで大丈夫だったから、これからも大丈夫」なんて保証もないわけで。本格的な商業利用が始まった途端に「待った」がかかる、なんて悪夢も予想できます。怖っ!
出版について何も知らない状態から技術書典に参加する技術〈NIFTY engineering(2023年12月12日)〉
ニフティの方による技術書典参戦記。「Re:VIEW」を使い、執筆内容を含めて全てをGitHub上で管理する体制にしたとか、執筆者のためのDiscordサーバも開設したなど、非常にテッキー(techie) な感じの内容になっています。
ちょっと「およ?」と思ったのが、大規模言語モデル(Amazon Bedrock, Claude2)での校閲がうまくいかなかったところ。「指摘事項はありません」という出力のみになってしまい、結局、人力でやったほうが早いという判断になったとのこと。なにが要因でダメだったのかが気になります。
Meta、「Threads」の投稿を「Mastodon」などに表示するテストを開始〈CNET Japan(2023年12月14日)〉
Threadsをリリースするとき「Fediverseにも対応する」と予告していましたが、ようやくテストが始まりました。まだThreads開発者数名のアカウントを外部からフォローできるだけという段階ですが、忘れていたわけではないことがわかりホッとしました。
しかし、HON.jp News BlogのBlueskyとThreadsの公式アカウントは、ほとんど同じような時期に作ってまったく同じ運用をしているんですが、フォロワー数がBlueskyは356なのに対し、Threadsは56と差が付いています。Threadsの総ユーザー数はBlueskyより2桁多く、アクティブユーザー数でも恐らく1桁は違うはずなのですが。
Threadsを使ってみて、アルゴリズムに嫌われる投稿だとほとんど露出しないことがよくわかりました。Facebookもリンク付き投稿はダメだから、まあ予想通りではあったわけですが。ウチみたいに淡々とリンクを投稿し続けるような運用は、時系列タイムラインのほうが向いているのでしょう。
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雑記
12月も中旬になったというのに、ぽかぽか陽気が続いています。「この週末には気温が急降下」という予報も外れました。過ごしやすくて良いのですが。週明けから寒くなるのかな?(鷹野)
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