「デジタル広告規制と品質向上は誰のため?」「収益化を急ぐTwitter社の試行錯誤」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #546(2022年11月6日~12日)

magnif マグニフ

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 2022年11月6日~12日は「デジタル広告規制と品質向上は誰のため?」「収益化を急ぐTwitter社の試行錯誤」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

インボイス導入、もう一つの変革 請求デジタル化進むか〈日本経済新聞(2022年11月6日)〉

 インボイス制度と同時に始まる予定の電子帳簿保存法の話。この記事では「デジタル化の推進は事務負担を軽減する効果が期待」と前向きな改革に捉えていますが、実はけっこう面倒な話だったりします。とくに事務処理が苦手な個人事業主にとっては、ほんとうにヤバイ。

 従来は、確定申告に合わせて年に1回まとめて処理すればよかったのが、電子帳簿保存法では「おおむね7営業日」以内にタイムスタンプを付与しなければならないので、随時処理していく業務フローに変えなければならないのです。「訂正削除の防止に関する事務処理規程」を備え付けすれば2カ月延びるとはいえ、少なくとも毎月の処理は必須になります。

 まとめてやるより随時処理したほうが、恐らくトータルではラクなんでしょうけどね。ただ、同時に始まるインボイス制度の事務処理コストぶんは増加するのが確実です。辛い。そして、免税事業者か否かに関わらず、キャッシュアウトは確実に増えます。事実上の増税なので。辛い。いやあ……知れば知るほど本気でヤバイですよこれは。

【詳報】ICタグ、キャッシュレス決済への補助・支援など 「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」に要望 ※有料会員限定〈文化通信デジタル(2022年11月7日)〉

 自由民主党議員の「全国の書店経営者を支える議員連盟」が「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」に変更する総会の詳報です。個人的に気になったのは、また図書館が攻撃対象の一つになっていること。有料会員限定記事なので、ポイントだけ引用しておきます。

 議連で検討する主要テーマは「①深刻化する不公正な競争環境」「②公共図書館問題」「③書店負担経費の増加」「④万引リスクの拡大」の4つ。具体的には、➀は対ネット書店、②は複本問題など、③はキャッシュレス決済手数料負担増など、④は防犯カメラや警備会社との契約などが挙げられています。

 出版文化産業振興財団(JPIC)の要望は「①書店産業振興のための経済対策」「②再販制度を基盤とした公正な競争環境の整備」「③書店と図書館共存・共栄のための環境整備」「④出版物への消費税軽減税率適用」の4つ。具体的には、➀は補助金や助成金、②は送料無料禁止や入札値引き禁止のルール化、③は新刊貸出不可期間のルール化や地元書店からの優先購入、④は諸外国との比較が挙げられています。

 リアル書店が苦境に陥っている状況はわかりますし、フランスの文化振興政策などと比較すると日本政府の腰の重さは頭を抱えたくなります。ただ、図書館が不便になると本のつくり手が困る(=品質低下の原因になる)ことは、念頭に置いて対策して欲しいと思います。

社会

※デジタル出版論の連載はお休みしました。

凸版印刷、古文書解読アプリ 古墳~江戸時代まで対応〈日本経済新聞(2022年11月8日)〉

 「技術」でも良かったんですが、古典の話ということで「社会」に分類。従来は「江戸時代」とか「明治期から昭和初期」と言っていたはずですが、いきなり「古墳時代」まで期間が拡大していてびっくり。凸版印刷「ふみのは」のプレスリリースには「江戸時代」としか書かれていないので、日経産業新聞による取材時にそういう話が出たのでしょうか。ちなみに御家流(江戸時代初期に生まれた茶道の流派)で書かれた古文書なら精度90%とのことです。

 同じようなタイミングで、明治期から昭和初期の手書き文字に対応したAI-OCRの実証実験を実施し、2023年4月よりサービス開始予定というリリースも出ていたので合わせて紹介しておきます。書き手によるくずし方の違い、筆記用具の多様化、カタカナ語の混在、旧字旧仮名遣い表記などにも対応していくそうです。そのうち、石原慎太郎氏のような人間でも判読の難しいくせ字が、自動判読できるようになるかも?

 また、こちらも同じようなタイミングで、中国でも古典のデジタル化プラットフォームの発表がありました。なんと「TikTok」のバイトダンスと北京大学の共同開発。バイトダンスって、動画系以外もやってるんですね。改めて調べてみたら、ニュースとか小説・マンガなどの事業も展開していて、驚きました。

経済

縦読み漫画は本当に“新しい漫画”なのか? WEBTOONの歴史と本質を伝説の編集者・鳥嶋和彦たちと紐解く ― 韓国の経済危機が誕生のきっかけとなり、「待てば無料」の確立が歴史を変えた【イ・ヒョンソク氏インタビュー】〈電ファミニコゲーマー(2022年11月7日)〉

 電ファミニコゲーマーによる、鳥嶋和彦さんとマンガ編集者との対談企画。今回は「WEBTOONのことを熟知している人物」ということで、イ・ヒョンソクさんに白羽の矢が立てられました。スクウェア・エニックスから「comico」などを経て、日本でもヒットした『俺だけレベルアップな件』の制作にも関わっている方です。以前、飯田一史さんによるイ・ヒョンソクさんへのインタビュー記事がありましたが、マンガ編集者かつ経営者でもあった鳥嶋さんの切り込み方も鋭い。超長いですが、実に面白いです。

 デジタル編集論でも「縦スクロールマンガ」について触れていますが、韓国では当初「Daum」や「NAVER」といった検索ポータルサイトへ集客するための「広告」モデルとして機能していた、という観点が欠けていました。そのためコストがかけられず、「待てば無料」の販売モデルが確立するまで編集者不在だった、というのは興味深い背景です。

電子漫画サービス「ピッコマ」営業利益が過去最大 日本アプリ市場で売上1位〈KAI-YOU.net(2022年11月8日)〉

 売上1位、営業利益過去最高、素晴らしいことです。ただ、これは何度でも言いますが、売上1位というのは「data.ai」による調査なので、AppStoreとGoogle Playだけが対象。つまり、あくまで「Apple決済とGoogle決済における売上1位」であることに注意が必要です。Amazonや楽天みたいにApple決済・Google決済を使っていないサービスはこのランキングに入りません。

 逆に、Apple決済とGoogle決済による手数料をがっつり払っているわけですから、収益率を下げる原因になっているはず……と思い改めて調べてみたら、ピッコマ公式サイトで第11期(2021年12月期)決算公告が公開されていることに気づきました。貸借対照表の下部に「※当期純利益 4,841,200千円」という記述が。売上高は不明。なるほど。

 なお、カカオピッコマのプレスリリースには、親会社カカオが「ピッコマは日本のマンガアプリ市場において50%以上のシェアを維持している」と業績発表の中でコメントしていることが記されています。その「50%以上のシェア」はなにを根拠としているのか。「シェア」って市場占有率ですから、通常、売上の割合のことを指します。つまり「ピッコマの売上は日本のマンガアプリ市場額の半分以上を占めている」と言っちゃってるわけですが、本気?

「アフター・コロナのデジタル広告」⑳ 世界初の規制は日本市場の信頼回復につながるか 曲がり角に立つデジタル広告〈文化通信デジタル(2022年11月8日)〉※有料会員限定

 この経産省によるデジタル広告規制の対象は、Google、Meta、Yahooの3社だけ。ぶっちゃけて言えば「大手だけあってかなりマシなほう」なので、日本市場の信頼回復につながるかどうかは……。後半で言及されている「デジタル広告独自の課題」はいずれも、広告主(アドバタイザー)=お金の出し主の顔色を伺うことしか考えていない指標であることは改めて指摘しておきたいです。

 デジタルメディア品質の三大指標とは、「ブランドリスク」「アドフラウド」「ビューアビリティ」のことです。「ブランドリスク」は、広告がおかしな場所へ表示されたら広告主のブランド価値を損なうこと。「アドフラウド」は、ボットなどでインプレッションやクリック数が故意に水増しされること。「ビューアビリティ」は、ユーザーの見られる場所へ広告が表示されているかどうか。はい、見事にいずれも広告主にとっての「広告品質」です。

 これ、広告品質認証機構「JICDAQ」が設立された際などにも指摘していますが(#451#526)、実際に広告を見るのは「ユーザー」です。まずユーザーのことを考えるべきなのでは。ユーザーを置き去りにしたままで、なにが広告品質ですか? と言いたい。なお、これは後述するTwitterとも関連する話です。

イーロン・マスク氏はなぜTwitterの収益化を急ぐのか(集中連載「揺れるTwitterの動きを理解する」第1回)〈テクノエッジ TechnoEdge(2022年11月10日)〉

なりすまし防止か有名
の証か。Twitterの認証バッジをめぐる経緯と混乱(集中連載「揺れるTwitterの動きを理解する」第2回)〈テクノエッジ TechnoEdge(2022年11月11日)〉

 堀正岳さんによる短期集中連載。イーロン・マスク氏がTwitterの改革を矢継ぎ早に進めていることは前回の本欄でも触れましたが(#545)、起きている事象単独ではなく、なぜ急ぐのか? なぜ朝令暮改なのか? という理由について、背景から解説されています。LBO(Leveraged Buyout)っていう資金調達スキーム、知りませんでした。勉強になる。第3回は本稿執筆時点でまだ公開されていませんが、揺れすぎていて書くの大変だろうなあ……。

ツイッター、「認証バッジ」の有料提供を停止 なりすましの急増受け〈朝日新聞デジタル(2022年11月12日)〉

 はい、有料提供を始めたと思ったらすぐに停止。揺れすぎです。いまは細かなトライアンドエラーを重ねてるようなので、今日見えている表示が明日もそのままとは限らない状態です。ユーザーも混乱するし、広告主や代理店も戦略が立てづらくて困ってるのではないでしょうか。

 本稿執筆時点で私がとくに気になっているのは、投稿に表示される「公式」という文字の新たなラベル。目撃した範囲ではほぼ「認証マーク付きアカウント」の、「プロモーション」投稿にだけ表示されています。「認証マークのないアカウント」の「プロモーション」投稿に「公式」ラベルが付いている事例はいまのところ見つけられませんが、「認証マーク付きアカウント」の「プロモーション」投稿なのに「公式」ラベルが無いケースもあり、表示に一貫性がない状態になっています。カオスだ……。

 Twitterの「プロモーション」表示は投稿の下端に表示される(リツイートやいいねボタンなどの列のさらに下)ので、ユーザーはある程度スクロールして初めて広告だと気づく仕様になっています。私もときどきありますが、「プロモーション」表示が隠れていて気づかずクリック/タップしてしまうユーザーも多いのでは。この「プロモーション」の位置には、なるべく広告だと気づかせたくないプラットフォーム側の思惑が透けて見えます。そして「ユーザーがよく使う機能のすぐ近くに配置した」という言い訳をするであろうことも予想できます。そういうところが「ユーザーを置き去りにしたまま」なのだと言いたい。

 ところが、今回新たに出てきた「公式」ラベルは、上に表示されています。ユーザー名のすぐ下です。つまり「これは広告投稿である」と、ユーザーがすぐに判断できます。これ、ヘタをすると「公式」ラベルがないほうが効果がある(クリックされる)状態になっているのでは。なんなんだこのチグハグさは。「公式」ラベルは信頼性が高いアカウントであることをユーザーにアピールする差別化なのですから、やるなら「公式」ラベルと同じ高さへ「プロモーション」表示を上げるべきでしょう。

媒体社でありプラットフォーマーであるヤフーが考える広告健全化・・・規制を超える情報開示がカギ〈Media Innovation(2022年11月11日)〉

 ……なんてことを考えていたところに、このヤフーへのインタビュー記事。真っ先に「媒体社としてユーザーの方々に対してはもちろん」とか「ユーザーに嫌厭されるような広告を出せば数年後にユーザーが離れてしまう可能性もあり」など、まず対ユーザーから考えている姿勢が見えるのが実に良い。ヤフーのことを少し見直しました。相対的に。仮にポーズだとしても、真っ先にユーザーを挙げるのは正しい姿勢。

 前述の広告品質がどうのこうのって話は、ユーザーを大切にする姿勢がぜんぜん見えないのですよね。媒体社や代理店に対価を払うのは広告主だけど、広告主に対価を払うのはユーザーなんですから。ユーザーを騙したり、ユーザーに嫌な思いをさせたりするような広告は、回り回って自分たちの首を絞めることになります。だからユーザーファーストなんですよ!

出版社の書籍制作作業を効率化する「DNP出版コンテンツ編集・管理システム」、大日本印刷が開発〈INTERNET Watch(2022年11月11日)〉

 大日本印刷が集英社と組んで展開している「MDAM」は雑誌制作のDXですが、こちらは書籍制作のDX。InDesignへの原稿流し込みや、文字修正・ルビ入力といったテキスト編集、校正作業でのゲラ(PDF)への赤入れなどを、すべてウェブブラウザ上で利用できるようにしているとのこと。問題はお値段。プレスリリースには「定額制のクラウドサービス利用料として、導入しやすいプランにてご提供いたします」とありますが、それが「中小零細企業にとって」導入しやすいプランなのかどうか。

 他にも気になったのが、「電子書籍制作」については触れられていない点。要するに、リフローEPUB出力までカバーしているのかどうか。プレスリリースを読んですぐ大日本印刷に問い合わせましたが、残念ながら本稿執筆時点までに回答は得られていません。これによって、InDesignから電書協ガイドに準拠したEPUBが書き出せるなら良いんですけどね。

技術

SNS有害投稿、AIと人で対応 Googleやヤフー規制強化〈日本経済新聞(2022年11月10日)〉

 いわゆる「コンテンツモデレーション」の問題で、実にタイムリーな話題。不特定多数が投稿するウェブサービスは、アメリカの通信品位法230条では「プラットフォーマー」として区別され、有害コンテンツの削除など誠意ある行動を取ることを条件に免責されています。それに対し、新聞や雑誌のような企業(や人)は「パブリッシャー」として扱われ、自らの発信した情報に責任を負います。日本でこの役割を果たしている法律が、プロバイダ責任制限法です。

 しかし、ドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利した際などに噴出した「フェイクニュース」問題などにより、プラットフォーマーにはその「誠意ある行動」が強く求められるようになっています。つまり、コンテンツモデレーションのための仕組みや人を維持するコストが、プラットフォーマーに重くのしかかっている状態なのでしょう。

 だから巨大IT企業は、なるべくアルゴリズムで自動的に処理するため、優秀なエンジニアを雇っていると言っても過言ではありません。そもそもGoogle検索が強いのは、ユーザーが求めている結果を素早く上位に表示する技術、裏を返せばスパムを排除する技術に優れていたから。Google検索が最近はダメになったと言われることもありますが、それだけアルゴリズムの裏をかくようなスパムが急増していることを意味しているように思います。ずっとスパムと戦い続けているわけですよね。

 ところが、TwitterやFacebookは大規模リストラを始めちゃったわけで……。アメリカではいま通信品位法230条を改正し、利用者投稿の管理責任をプラットフォーマーに負わせるかどうかという議論が進んでいます。今回のTwitterの動きは、規制強化への後押しになってしまうかも? 自主的にやれないなら、法律で縛るしかないわけです。

お知らせ

イベント

 11月28日開催の日本出版学会出版デジタル研究部会(HON.jp共催)は『パブリッシング・スタディーズ』第4章「書籍」第3節「デジタル化と今後の展開」の執筆を担当した林智彦会員(有斐閣)にご報告いただきます。

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。TwitterやFacebookページは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。

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雑記

 11月9日は皆既月蝕でした。好天にも恵まれ、食われた赤い月が実に見事に観測できました。空を長い時間見上げるのは、なんだか久しぶりだった気がします。小さいころはこういう天文ショー、大好物だったんですが(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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