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2024年10月6日~12日は「雑誌発売日協定が“謎ルール”?」「コンテンツ省」「軽出版」「3拠点同時開催 NovelJam 2024」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
経団連「コンテンツ省」の設置提言 予算2000億円に〈日本経済新聞(2024年10月10日)〉
このニュースを見て、反射的に「文化庁じゃダメなの?」と思ってしまいました。別で設置したら、役割が重複しそう。詳細を確認しようと経団連のサイトを観たんですが、本稿執筆時点ではまだ「コンテンツ省」設置という提言は載っていませんでした。連休明けかな?
社会
「3日間で小説を作り上げるからこその熱量がある」 3拠点同時開催する“NovelJam2024”の新たな挑戦〈FINDERS(2024年10月8日)〉
NovelJam 2024プロデューサー・波野發作氏へのインタビューです。私は主催団体の理事長ですが、企画内容などにはなるべく口は出さず、事務局として裏方雑務をお手伝いするスタンスで関わっています。ちなみにまだ参加者も支援者も募集中ですよ!
伝統的な大量生産・大量流通出版の対極にある、著作者自らによる軽やかな小商い【HON-CF2024レポート】〈(2024年10月8日)〉
出版ジャーナリスト・成相裕幸さんによるレポートです。軽出版は本の中身が軽いわけではなく、仕組みが軽いという意味なのですよね。私は仲俣暁生氏の活動を見ていて「フットワークが軽いなー!(もちろん良い意味で)」とも思っていました。そこでこの記事のタイトルは、いろいろ考えたうえで「軽出版」の言葉をあえて使わず「軽やかな小商い」としてみました。
NHK、地上契約なら追加負担なし ネット配信月1100円〈日本経済新聞(2024年10月8日)〉
わりと妥当なのでは。私はいま家にテレビがないので、これくらいの金額でウェブ視聴できるなら契約してもいいかなと思えます。気になるのは「放送番組の文字ニュースなど関連情報も流す」という記述。NHKのウェブ記事がペイウォールの向こう側へ行ってしまう? まあ「本業」になるなら、費用を負担している方だけが受益者になるというのも自然かなとは思いますが。
同意ボタンでNHKネット受信料の契約対象に。サービス仮案公開〈AV Watch(2024年10月9日)〉
あくまで仮案ですが、反響を見ているとなんか猛烈な反発が起きていて、首を傾げてしまいました。名前を呼びたくない例の党の扇動に乗せられてる人が多いのかしら? 同意ボタンを押したら即座に自動で契約が結ばれるわけではなく、そこから契約手続きをする必要がある、という話ですよねこれ。
経済
本来なら「少年ジャンプ」は土曜日に買えるのに…消費者の利益より業界の都合を死守する出版界の謎ルール だから街の書店も出版社も次々と潰れていく〈PRESIDENT Online(2024年10月7日)〉
こちらの記事、すでに削除されお詫びも出ていますが、このURLで配信されていたという記録を残しておきます。「一部に事実誤認があった」とのことですが、どこが「事実誤認」だったのかは不明です。
私は消える前に読んでいますが、内容的には『2028年 街から書店が消える日 ~本屋再生!識者30人からのメッセージ~』(プレジデント社)の著者・小島俊一氏による寄稿記事で、いちおう本の中身の抜粋とかではなく、新規原稿の体裁でした。
前半は、経済産業省「国内外の書店の経営環境に関する調査(PDF)」に基づく諸外国との比較について。こちらは以前、別の記事に対するコメント(#634)でも指摘しましたが、諸外国は元がどういう状態から増えているのか? などの疑問があります。たとえば韓国では「書店は一度滅びた」と言われるほど酷い状況からの回復基調であることは頭に入れておいてもいいでしょう。
後半は、タイトルで謎ルールと言われている「雑誌発売日協定」について。これは、書店経営の話とうまく繋がっていないように感じました。この協定があることでコスト増になっているプレイヤーは取次ですよね? 協定がなくなってもリアル書店のコスト削減には繋がらないですよね? また、協定がなくなることで有利になるのはネット通販事業者で、それは中小書店の経営をさらに圧迫するのでは? といった疑問を感じました。
ちなみに関連でいろいろ調べていて気づいたのですが、経済産業省経済解析室は2023年11月に公開した「活字離れは本当か?」という記事で、書店の状況について「全店舗の坪数計は減少しているものの、1店舗あたり坪数は増加しており、中小書店と大手書店で明暗を分ける状況にあるようです」と分析しています。単純に「書店数が減った」というより、「書店の大型化が進んだ」と捉えているわけです。
7 lessons from a year of paywalled podcasts at The Economist(エコノミスト誌の有料ポッドキャスト1年間から学んだ7つの教訓)〈Media Voices(2024年10月7日)〉
7つの教訓、見出しの日本語訳は以下のとおりです。ポッドキャストに限った話ではなく、無料配信しているコンテンツを有料化するとき全般について言えそうな話だと感じました。
1. 人々はお金を払う
2. リスナー数は(有料化後も)依然として好調
3. 個性を高く評価する
4. 考え方を変える必要がある
5. 長期的な思考が重要
6. これはまだ始まりに過ぎない
7. 他の出版社も追随を恐れるべきではない
じゃらん、休刊の理由は? 旅行雑誌ライターが語る“旅選び”の変遷と“マニアック特集”のトレンド化〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2024年10月8日)〉
ちょっと首を傾げてしまいました。リクルートのプレスリリースには、以下のように記されています。
今後、旅行に関する情報発信および予約については、ウェブサイト・アプリの『じゃらんnet』に集約し、読者のライフスタイルに寄り添ったサービスのさらなる強化をしてまいります。
つまり、「紙をやめてウェブに注力する」って話なんですが、Real Soundのコラムからは後半の「ウェブに注力」がすっぽり抜けていて、他媒体の話に終始しています。これではさすがにリクルートが気の毒です。
なお、日本交通公社の調査によると、国内旅行における情報収集手段は、Z世代では「インターネットの検索エンジン」が最多で51.2%、次いでSNSが37.2%、旅行専門サイト27.9%と続きます。検索エンジンやSNSで予約はできないので、他の手段で情報収集しても、結局、最後には旅行専門サイトを利用する形になる可能性が高いと思われます。なお、(紙の)旅行雑誌はたったの4.7%……。
遅すぎた「じゃらん休刊」で露呈した残酷な真実 一強だった同誌がそれでも休刊となったワケ | レジャー・観光・ホテル〈東洋経済オンライン(2024年10月11日)〉
こちらは元リクルートで、しかも「じゃらん」で仕事をしていた方による見解です。休刊の判断が遅いという意見は理解できるのですが、物理メディアの発行はリアルでの「じゃらん」ブランドの認知向上には繋がっていたとは思うのですよね。まあ、広告宣伝費としては高いかもしれませんが。
ちなみに私の古巣(※リクルートではありません)は、完全にウェブが主流となったいまでもまだ紙媒体を残していて、2013年に書いた「情報誌が歩んだ道を一般書籍も歩むのか?」の「私がいた会社も恐らく近い将来、どこかのタイミングで『紙媒体の発行をやめる』という判断をせざるを得ない時がくると思います」という予想は、まだ裏切られています。すげぇ。
電子コミックの源流は“PDA”から――「コミックシーモア」が歩んだ20年、朝日代表に聞く:小寺信良のIT大作戦〈ITmedia NEWS(2024年10月9日)〉
NTTソルマーレが20周年で経営指標を公開してから、メディア各社に取り上げられています。
こちらのインタビューは、読んでいていくつか気になる点がありました。「先行事業社は1社しかなかった」というのは、恐らく携帯電話に限った話でしょう。当時すでに、PC向けでは「パピレス」と「eBookJapan」があったはず。海賊版対策関連で日本電子書店連合らしき話も出てきているので、存在を忘れたわけではなさそうです。ちなみに先行事業者は、2003年12月にサービスを開始したビットウェイ「Handyブックショップ」だと思われます。
また、インタビュアー小寺氏が「違法対策としては隣接権を持ってる出版社は法律で戦えます」と言ってますが、正確には自然発生する「隣接権」ではなく、契約に基づく「出版権」です。電子出版市場が拡大する直前に、レコード会社等が持つ著作隣接権を出版社が求めていたことがあります。当時、日本漫画家協会が否定的な見解を発表するなど、著作権者にとっては違いの大きい、けっこうセンシティブな話題です。
コミックシーモア「売上高800億円超え」の衝撃度 経営指標を初公表、なぜ高シェアで生き残れた? | ゲーム・エンタメ〈東洋経済オンライン(2024年10月10日)〉
国内勢ではコミックシーモアが最大手とみられる。
NTTソルマーレの売上高は2024年3月期で812億円と発表されています。「最大手」という記述に一瞬「あれ?」と思ったんですが、「国内勢」限定です。「電子書籍ビジネス調査報告書2024」の利用率上位から、「Kindleストア」「LINEマンガ」「ebookjapan」「ピッコマ」「Google Playブックス」あたりは除かれます。「楽天Kobo」も本国カナダ扱いで除外かな。
出版社直営系も除くと、あとは「めちゃコミック」「DMMブックス」「ブックライブ」あたりとの勝負でしょうか。DMMは事業別の売上を公表していないので不明ですが、2024年3月期の売上高は「めちゃコミック」のアムタスが558億3200万円、ブックライブはグループ売上で250億円でした。確かに「シーモア」のほうが上っぽい。
電子書籍は恐ろしいんですよ……。刊行から年単位で経過してても、家計の足しになる程度の印税がスッと入ってくるんです→家計の足しになっているなら読み手側も嬉しい〈Togetter(2024年10月11日)〉
マンガ家からこういう声が挙がるのはもう珍しくなくなりましたが、文字もの作家の声なんですよ! Togetterまとめだけど、思わず取り上げてしまいました。良いですね。実に良い。マンガ市場は、2016~2017年あたりが分水嶺でした。文字ものもそろそろ流れが変わるかも?
「ロングテールは幻想」みたいな言われ方をすることもありますが、過去作でも売れ続けるのは在庫切れしない電子ならでは。これが物理メディアだと、こうはなりません。あと、やはり単に並べておくだけではダメで、セールなどの仕掛けも必要です。「幻想」の論拠になっているiTunesストアが、過去作の掘り起こしを熱心にやってるか? というと、正直疑問です。
ドコモ、電子書籍サービス「ひかりTVブック」を終了へ–購入書籍は「dブック」で閲覧、12月から〈CNET Japan(2024年10月11日)〉
NTTドコモに吸収合併されたNTTぷららが運営しているサービス。整理統合の対象になるのは当然と言っていいでしょう。「dブック」で販売されている本は継承されるので、あまり実害は出ないと思われます。それでもきっとまた「コレダカラ電子書籍ハ信用デキナインダー」って声が挙がるんだろうなあ。
技術
GoogleのAI NotebookLMで資料をサクッとポッドキャスト化【今日のワークハック】〈ライフハッカー・ジャパン(2024年10月7日)〉
試しにやってみたんですが、非常に面白い。「ディープダイブ」と称する10分ほどのトーク番組が自動作成されます。要約を読み上げるとかではなく、男女が交互に喋る感じです。ちょっと笑ってみせたり、呼吸音が聞こえたり、相手が喋っているところへ被せてみたりと、たいそう自然な感じの会話が繰り広げられます。すげえ。なお、まだ英語のみ対応です。
Internet Archive、ダウンは続くも「データは破損していない」〈ITmedia NEWS(2024年10月11日)〉
過去記事が消えてしまうメディアが多いため、年鑑「出版ニュースまとめ&コラム」の編集には「Wayback Machine」が欠かせません。DDoS攻撃により10月8日から使えなくなってしまっていて、非常に困っています。止まっているあいだのアーカイブはどうなっているんだろう?
お知らせ
「NovelJam 2024」参加者募集中!
3年ぶりの出版創作イベント「NovelJam 2024」は、11月2日~4日に東京・新潟・沖縄の3拠点で同時開催! 参加者枠は残りわずかです!
「NovelJam 2024」クラファン実施中!
11月2日~4日に開催するライブパブリッシングイベント「NovelJam 2024」は、東京・新潟・沖縄の3拠点で同時に行う新たなチャレンジ! クラウドファンディングでのご支援よろしくお願いします!
「HON-CF2024」について
今年もやります! デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」は9月6日(金)~8日(日)の開催です。詳細・チケット購入はこちらのURLから!
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雑記
やっと気持ちのいい秋晴れが拝めました。この連休は、世の中的には行楽日和になったことでしょう。私はひたすら執筆編集作業中……(鷹野)
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