「著作権データベース一元化や拡大集中許諾制度導入へ」「Googleの子ども向け無料リテラシー教育プログラム」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #509(2022年2月6日~12日)

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 2022年2月6日~12日は「著作権データベース一元化や拡大集中許諾制度導入へ」「Googleの子ども向け無料リテラシー教育プログラム」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

政治

著作権データベース一元化 文化庁「メタバース」に照準〈日本経済新聞(2022年2月7日)〉

 昨年夏から文化庁の文化審議会 著作権分科会 基本政策小委員会で審議されてきた「DX時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」の検討案がまとまったという記事。昨年末に著作権分科会で承認された中間まとめ案を噛み砕いた解説、なのはいいんですけど、タイトル後半の“文化庁「メタバース」に照準”は、さすがにちょっとPV狙いがあからさま過ぎではありませんか。

 中間まとめには、著作権者を分野横断で検索できるデータベースの作成、二次利用を相談できる一元的な窓口、そして、著作権の集中管理団体などが著作権者に代わって利用を認めるいわゆる「拡大集中許諾制度」の導入や、それを希望しない権利者が離脱できるオプトアウトの仕組みなどが盛り込まれています。

 記事の最後のほうに「文化庁の議論は始まったばかり」とありますが、オーファンワークス対策など、以前から議論されてきたことの延長上にある話です。つまり「アーカイブサミット2016」で提唱された「拡大集中処理」と「拡大裁定制度」であったり、

 9つの権利者団体による著作権者不明等の場合の裁定制度を改善するための実証事業など、故・瀬尾太一さんの遺したことがいま形になりつつある、ということだと私は理解しています。方向性は定まったので、あとは具体的な制度設計をどうするか? という詳細を詰めていく段階へ入った、ということでしょう。

 ちなみに、デジタルアーカイブ学会誌5巻(2021)4号に、福井健策さんによる「瀬尾太一さんの思いで」という追悼文が載っています。「彼の遺した宿題を進めて行きたい」という決意に、胸が熱くなります。「面白くなった」と満面の笑みを浮かべたいですね。

旧Facebook、「欧州でサービス断念も」 EUの規制で〈日本経済新聞(2022年2月8日)〉

 Facebookか、というニュース。実は先週、ピックアップするのを迷ったうえ外してしまったのですが、Yahoo!JAPANが欧州から撤退するというニュースがありました。

Yahoo!JAPAN、4月から欧州で利用不可能に–「継続が困難」〈CNET Japan(2022年2月1日)〉

 なぜ取り上げなかったかというと、ヤフーのリリースを読んでも理由がはっきりしなかったから。「欧州経済領域(EEA)およびイギリスでサービス利用いただける環境を継続的に提供することが困難になったためです」って、それだけじゃ説明になっていないでしょって。恐らく、欧州での規制がネックなのだろうと想像はできたのですが、それだけでコメントを書くのもちょっとなあ……と思い、取り上げるのをやめたのです。

 ところが、日経の報道ではヤフーからしっかりコメントもらっていたんですね。見逃していました。トホホ。1月20日に欧州議会で可決された「デジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)」やGDPRがさらに厳しくなる見通しであることなどから、対応するためのサービス再設計や、当局との交渉や情報収集などのコストを考えると「採算が合わない」という判断になったそうです。判断が早い。今後、他社も続々と追随しそうな気もしますが、どうなることやら。

文化審議会著作権分科会基本政策小委員会(第9回)〈文化庁(2022年2月9日)〉

 前述の「DX時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」の続き。「ブロックチェーンやNFTの活用について」のヒアリングや、「DX時代に対応したコンテンツの権利保護、適切な対価還元方策について」の審議が行われています。傍聴して要点をツイートしておきましたので参考まで。

 ちなみに、知的財産戦略本部の「デジタル時代のコンテンツ戦略検討タスクフォース」の第1回討議が、この2日前に行われています。文化審議会のヒアリングにも呼ばれている一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ代表理事 伊藤佑介さんは、こちらのタスクフォースでも同じ資料を使った説明を行っていたようです。なぜか知的財産戦略本部の記事は消えてしまったため、Wayback Machineへのリンクを貼っておきます。NetfrixやAvex Technologiesなどの資料もあったんですよね。なぜ消した

デジタル時代のコンテンツ戦略検討タスクフォース(第1回)議事次第〈首相官邸(2022年2月7日)〉

社会

Google、子ども向けの無料リテラシー教育プログラムを「セーファーインターネットデー」にちなんで公開〈INTERNET Watch(2022年2月8日)〉

 Googleの提供する「Be Internet Awesome(最高なインターネットユーザーになろう)」という無料プログラム。ゲームを遊びながら学べる教材や、教師向けガイドなどが公開されています。しかしGoogleさん、“「獲得」や「無料」という表現が使われている時、ほとんどの場合は詐欺です” というのは、ちょっと自虐的なのでは。「ウチは除きます」ってことなんでしょうけど。

両手の指10本を使うと、いくつまで数えられるか?(同じ組み合わせは不可)〈HON.jp News Blog(2022年2月9日)〉

 連載2回目。実はこの問い、大学の授業で毎年投げかけているのですが、正答は滅多に出てきません。2進法、いまの大学生は、高校の「情報」の授業で習ってるはずなんですけどね。教える側の体制にも難があるという話もあり。なんともトホホな現状が垣間見えます。

経済

アマゾンの広告収入311億ドル 世界の雑誌超え、新聞も〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年2月7日)〉

 YouTube超えというニュースは見かけていたのですが、まさか世界の雑誌広告費も超えているとは。今年には新聞広告費も超える見込みとのこと。なんとも凄まじい。検索結果の上のほうが広告だらけというのは、ECサイトのユーザー体験的にどうなんだろう? という疑問も。まあ、検索エンジンで慣れている人も多いとは思いますが。

 あと、これだけ広告収入が多くなってくるということは、裏を返せばセラーにとっては広告費を払わないと露出が厳しくなることを意味するわけで。広告費の高騰は商品価格に直結するでしょうし、広告費を捻出できないセラーが淘汰されて寡占化が進むとか、いろんな弊害が予想できます。いいのかなあ。

技術

デジタルアートの「盗品」横行 急拡大NFT市場で奪われる「本物」〈朝日新聞デジタル(2022年2月5日)〉

 偽NFT問題がとうとう一般紙でも取り上げられるようになったか、ということでピックアップ。前述の、デジタル時代のコンテンツ戦略検討タスクフォースでも話題になったそうですが、NFTマーケット大手の「OpenSea」がTwitterで「現在80%のアイテムが誤用、フェイク、もしくはスパムとなっている」と報告しているそうです。なにそれ。ブラックマーケットか。

焦点:仮装売買との懸念も、不自然な巨額取引で過熱のNFT市場〈ロイター(2022年2月12日)〉

 そのいっぽうで、こんなニュースも。異常な高値の売買が少数のウォレット間で繰り返されるという現象が、あるNFTマーケットで観測されているそうです。つまり、売却と買い戻しの往復で総取引額だけ膨れあがっていくような状態。株式市場なら禁止されている仮装売買ですが、NFTマーケットには規制が存在しないことによる弊害のようです。なんというか、ICO詐欺だらけになったころを思い出します。鵺が跋扈してる。近寄りたくない……。

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雑記

 今年はなんだか雪が多い気がします。10日から11日にかけて積もった雪は、昼間暖かかったこともあって、もうほとんど残っていません。でも、これから朝にかけてまた雪になるかもしれないとのこと。月曜日の朝、公共交通にも乱れが予想されます。ご注意を(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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