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日本新聞協会は、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)とAI時代の知的財産権検討会(第3回)のヒアリングで、Google SGE(Search Generative Experience)が「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」と主張しました。これは本当なのでしょうか?
【目次】
【結論】有料会員限定のコンテンツをもとに生成された回答ではない可能性が高い
結論から言えば、少なくともこの事例は有料会員限定のコンテンツをもとに生成された回答ではない可能性が高いと私は判断しました。以下で、その理由を説明します。なお、以下の説明では、AI時代の知的財産権検討会(第3回)のスライド番号8を用いていますが、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)のスライド番号5と内容は同じです。
違和感① 他にもソースがあるのになぜ無視する?
まず、日本新聞協会が「Google SGEによる出力」として提示しているスクリーンショットを見て私は、「毎日新聞以外にもソースが提示されているが、そっちの記事から要約引用されている可能性はないのか?」と疑問に思いました。
ところがぼかしが入った状態なので、他のソースがなにかを確認できません。そこで「ミニラテラルとは」と検索してGoogle SGEによる出力を表示してみたのですが、残念ながら本稿執筆時点では異なるソースしか提示されません。Googleニュースで「ミニラテラル」を検索してみましたが、似たようなサムネイルの記事は見つけられませんでした。
ただ、複数のソースが提示されているのに「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」と主張するからには、有料会員限定箇所だけに書かれていることが出力されているのでしょう。
なお、私はAI時代の知的財産権検討会(第3回)を傍聴していますが、質疑応答で委員の方が「この回答はペイウォールの向こう側にある情報を使ってるの?」と確認し、日本新聞協会の方は明確に「はいそうです」と回答しました。しかし、根拠は提示されませんでした。
違和感② サムネイル画像が異なる
そこで私は、例示されている毎日新聞の記事を確認してみることにしました。ところが、スライド左側に提示されている毎日新聞の記事と、右側に提示されているGoogle SGEによる出力の右上にある毎日新聞の記事の、サムネイル画像が異なることに気がつきました。
同じ記事でサムネイル画像が異なることなんてあるか? と強い違和感を覚えました。
違和感③ 有料会員限定のコンテンツを使っているようには思えない
日本新聞協会のスライド左上に出ている記事は、青学大・佐竹准教授にインタビューしているこちらの記事です。確かに、インタビューのコメントであれば、他のソースに無い内容があってもおかしくはありません。
こちらの記事にはペイウォールが設定されており、有料会員としてログインしていない状態だと「残り619文字(全文874文字)」と、255文字しか公開されていません。仮にGoogle SGEの出力ソースがこの記事だけだとしたら、公開されている255文字から生成するのはさすがに無理でしょう。
私は有料会員なので、ログインして内容を確認してみました。ところが、日本新聞協会が「Google SGEによる出力」としている文章が、有料会員限定のコンテンツを使っているようには思えませんでした。要約しても「こうはならないよな」という印象なのです。
違和感④ スクショとURLが異なる
そこで日本新聞協会のスライド左下にあるURLをクリックしてみました。それがこちらの記事です。青学大・佐竹准教授へのインタビューとは別の、「ミニラテラルとは?」を解説した記事です。
この記事のサムネイルは、日本新聞協会のスライド右側に提示されている「Google SGEによる出力」の右上にある毎日新聞の記事のものと同じです。つまり、日本新聞協会はこのページの左上に「Google SGEによる出力」とは異なる記事のスクリーンショットを提示していることになります。
なぜスクショとURLが異なる記事なのか、理由はわかりませんが、意図的にやっているなら誤認を誘う可能性がある悪質な行為だと感じます。
なお、こちらの記事にもペイウォールが設定されており、有料会員としてログインしていない状態だと「残り1562文字(全文2399文字)」と表示されます。つまりこちらの記事は、837文字は誰でも閲覧可能な形で無料公開されているのです。
毎日新聞が無料公開している837文字を要約すると、日本新聞協会が「Google SGEによる出力」として提示しているスクリーンショットの文章に近しいものが生成されるように思われます。
つまり本件は、Google SGEが「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」した事例としては不適切な可能性が高いです。ただ、著作権法第47条の5(軽微利用)の但し書き「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当する可能性はあるかもしれません。