「日本新聞協会が検索拡張生成(RAG)を問題視する声明」「夏休みの宿題から読書感想文が消えつつある?」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #628(2024年7月14日~20日)

アニメイト 吉祥寺パルコ店
noteで書く

《この記事は約 14 分で読めます(1分で600字計算)》

 2024年7月14日~20日は「日本新聞協会が検索拡張生成(RAG)を問題視する声明」「夏休みの宿題から読書感想文が消えつつある?」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

新聞協会、AIは「著作権侵害」 検索連動型、記事の利用承諾要請〈共同通信(2024年7月17日)〉

 記事を読んで「あれ?」と思い、日本新聞協会の声明を確認して「あれれ?」となりました。内閣府「AI時代の知的財産権検討会(第3回)」で主張していた「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」が、今回の声明ではどこにも書かれていません。

 どうやらその主張に関しては、黙って取り下げたようです。いや、私としては、これはどう考えてもおかしな主張だったと思うので、取り下げていただくぶんには構わないのですが。

 で、今回このコメントを書くのにあたって、あらためて「AI時代の知的財産権検討会(第3回)」のページを開いてびっくり。日本新聞協会提出資料のところに赤字で「※2024年1月5日差替」と書いてあるではありませんか。2カ月も経ってから差し替えたのか!

 なにが変わったんだろう? と思い、取り急ぎ私がツッコミを入れた箇所(スライド番号8)を確認したところ、左に貼ってあったスクリーンショットに枠が付き、上下に分かれていることを強調したことがわかりました。

日本新聞協会資料の差し替え後

 これ、私もツッコミ記事を書いたあとに気づいたんですが、左上と左下は別のページのスクリーンショットなんですよね。差し替え前は上と下が繋がっているように見えたんですが、差し替え後は別記事であることが分かりやすくなっています。

 左上の青学大・佐竹准教授へのインタビュー記事の無料公開部分と、左下の「ミニラテラルとは?」という別記事の無料公開部分を要約すれば、恐らくこのGoogle SGEの回答は作れます。つまり、少なくともこのページに示されている事例で「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」しているとは断言できません

 まあ、筋の悪い主張だと気づいたから、今回の声明からは取り下げたのかな? とは思うのですが。ちなみに、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)に日本新聞協会が提出した類似資料はまだ差し替えられていないようです。それはそれで、なぜだろう?

AI検索による「ただ乗り」に懸念…法的には? 著作権から見ると〈朝日新聞デジタル(2024年7月18日)〉

 関連して。こちらは「日本は機械学習パラダイス」で有名な上野達弘氏(早稲田大教授)などにコメントをとっており、日本新聞協会所属の新聞社としては比較的まともな論調です。必ずしも自分たちが有利になるとは限らないことでも、しっかり伝えようとする姿勢が見えて、少し好感が持てました。

日本の音楽を違法アップロードして約10年間活動していた海賊版リーチサイトが閉鎖、日本レコード協会が発表〈INTERNET Watch(2024年7月19日)〉

 出版ニュースではなく音楽関係なのですが、ちょっと「おや?」と思ったので取り上げておきます。海賊版リーチサイトが閉鎖されたことはもちろん喜ばしい。ですが、約10年間ものあいだ活動し続けてきたサイトだった点をどう評価すべきなのでしょう。正直、私には判断しかねます。

 つまり、Cloudflareが頑なに守り続けてきた方針を曲げさせたのであれば、RIAJを褒めるべきでしょう。しかし、実はいままでCloudflareに対し適切な情報開示請求が行われていなかったのなら、それは10年間の無作為を責めるべきではないか、と思えたのです。

 なお、「漫画村」など国内向け海賊版サイトが大問題になっていた2018年の時点で、ディスカバリー制度を利用することによりCDNを利用している海賊版サイト運営者の特定は可能であるという事例が山口貴士弁護士により共有されています。そこを起点に考えても、もうすぐ6年が経とうとしているわけですが……。

社会

電子書籍導入で貸出冊数が倍増~愛知県日進市の図書館改革~NEW EDUCATION EXPO 東京会場セミナーより〈KKS Web:教育家庭新聞ニュース|教育家庭新聞社(2024年7月15日)〉

同市ではこれまで学校図書館の紙書籍の貸出冊数は年間20万冊で推移していたが、電子書籍導入後の2023年度は紙書籍の20万冊は変わらないまま電子書籍の貸出冊数は23万冊になった。

 これはすごいなあ……電子の貸出数がこれまでの紙以上となり、しかも紙の貸出数は減っていないという好事例です。私の把握している範囲で、ここまで激増した事例は目にした記憶がありません。どういう取り組みによって「児童生徒に積極的に利用され」たんだろう?

 ちなみにこの記事だけだと、どのサービスか? が不明です。調べてみたところ、英語多聴多読電子書籍「eステーション(eステ)」であることがわかりました。コスモピアのサービスです。英語多読なら、たくさん読まれても不思議ではないのかな?

夏休みの宿題から「読書感想文」が消えつつある? 背景にある2つの“切実な事情”とは〈AERA with Kids+(2024年7月19日)〉

 ちょっとこれはどうなの? と思ってしまった記事です。

子どもの「読書離れ」は、20年以上前から懸念されてきました。

 2ページ目のここで、またよくある無根拠な「読書離れ」論か? と警戒したのですが、3ページ目で学研教育総合研究所の調査結果を元に論じていることがわかりました。

小学生の読書量(電子書籍· まんが除く)の月平均は月4.0冊。親世代が小学生だった頃と比較すると、半分以下の冊数です。

 へー、そんな調査結果があるのか……と思いつつ、警戒レベルが上がった直後だったので「電子書籍・まんが除く」の括弧書きが気になり、念のため学研教育総合研究所が公開している「小学生白書」を確認してみました。

 AERAの言う「親世代が小学生だった頃」というのが、いつの調査との比較なのかが書かれていないので推測するしかないのですが、公開されている「小学生白書」には1990年から2009年の調査結果がないので、恐らく最も古い1989年の調査でしょう。35年前の小学生だから、いま41歳~47歳くらいです。

 1989年調査では平均9.1冊なので、2023年調査の4.0冊を「半分以下の冊数」とするのは正しい……とはなりません。1989年調査には「調査時の条件には漫画を含むかどうかは指定していない」とあります。警戒レベルを上げていて正解でした。どうやら、当時とは前提条件が変わっている数字で比較しているようです。マンガを含むか含まないかで、冊数は大きく変わります。それ、そのまま比べちゃダメでしょ。

 なお、2023年調査ではマンガ(紙のみ)だけ/電子書籍(全ジャンル)で読んだ冊数も尋ねています。マンガは平均2.5冊、電子書籍は平均0.6冊。合計すると7.1冊だから、それでも1989年調査の平均9.1冊より減っているのは確かです。ただ、無料マンガアプリの話読みをどうカウントするか? と、2023年調査では除外されている雑誌(紙)の扱いが1989年調査では不明です。マンガと同様、含まれている可能性が高い気がします。

 ちなみに、電子書籍の平均冊数が0.6冊と少ないのは、利用率自体がまだ低いからでしょう。「読まない」が紙の本30.2%に対し、電子書籍85.1%です(この数字からすると無料マンガアプリは含まれていないように思えます)。決済のハードルで小学生には買いづらいですし、電子図書館サービス(学研ライブラリーとかまなびライブラリーとかYomokka!)で読んでいる小学生も、割合としてはまだ低いということなのでしょう。だから、平均すると冊数は必然的に少なくなってしまいます。

 しかし、ひとつ前の記事にある「英語多読で貸出数倍増!」みたいな事例を見た直後だと、このように「小学生の読書量」を平均冊数で測ることが実態を正確に表しているのか、疑問にも思えてきます。無料マンガアプリの話読みもそうだし、イーシングル(短い電子書籍)を片っ端から読んでいるような子がいるかもしれません。冊数なら中央値、あるいは読書時間?

経済

スキマ時間で読書家に…オーディオブック利用者が急増 ビジネス書1冊を1時間強で読破 障害者や育児の味方にも〈東京新聞 TOKYO Web(2024年7月16日)〉

 新潮社の方が「電子書籍ほど大きくはないが、もはやオーディオブックも一つの柱になっている」とコメントしています。2023年の電子書籍(文字もの)市場は440億円ですから、日本能率協会総合研究所が2020年に発表した「2024年度260億円」という予測はいい線いってるのかも?

書店経営難を考える④ 定価設定方式の変更とそれに付随した出版業界の変革事項〈ウィスキーキラー(2024年7月16日)〉

 出版社が定価を決める際に「書店・取次もこの中で十分利益が享受できるものにしなければならない責任がある」というところまで意識しているか? という指摘は、耳が痛いかも。まあ、それでも、文庫本の1000円の壁が消えたように、原価上昇分の新刊価格への転嫁は行われるようになってきているとは思いますが。

トーハン ローソン・ファミマ配送 2万店引き継ぎへ 1万店は引き継げず 川上社長が表明〈The Bunka News デジタル(2024年7月18日)〉

 末尾に「※初出時の記事についてトーハンからの指摘により一部表現を変更しました。(2024年7月19日11時)」とあるのが気になりました。Wayback Machineに残された公開当初の記事タイトルは「トーハン コンビニ配送最大1万店終了へ 川上社長が表明」です。「2万店引き継ぎへ」や「終了」の言葉の有無で、イメージが少し違います。

 また、初出時はペイウォールありだったようですが、見えている部分だけでも「終了する方針を固めた」が「引き継げないとの見通しを示した」に変わっています。インタビュー全文を読むと、確かに「1万店終了」とは言っていません。

 言い方としては「各CVS本部と加盟店舗の間の協議を経て、雑誌売上がごく少ない店舗では取り扱いが中止となります」なので、中止店舗が少なくなる可能性も、逆に、多くなる可能性も、まだ残されている段階なのでしょう。

2023年北米コミック市場、前年比7%減 6年ぶりにマイナス〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2024年7月18日)〉

 昨年末の振り返り記事で「実際のところ北米ではまだ紙が強いようで、2022年のコミックス・マンガ市場は過去最大の3200億円に達したというニュースもありました。ただ、2021年から2022年の前半にかけては好調だったものの、2022年下半期以降は売上が鈍化しているという少し気がかりな情報もあります。2023年の数字がどうなったか、気になるところです」と書きましたが、やはり減りました。まあ、コロナ禍での巣ごもり需要がすごかったので、ある程度減るのは想定内と言っていいでしょう。

 しかし、今回からデジタル販売の数値は除外ですか。理由は、ダウンロード型市場が小さく、より大きいはずのサブスク市場の数値が正確には捉えられないからとのこと。まあ、日本などからアメリカ向けに越境で提供されているサービスの数字は、恐らく把握できないでしょうからね。

技術

アップルやNVIDIAら、無許可でYouTube動画の字幕をAI訓練に利用か〈CNET Japan(2024年7月18日)〉

 うーん……もしそれが本当なら、少なくともその生成AIモデルの日本語能力には疑問符が付きそう。YouTubeって字幕が自動生成されますが、日本語はそれほど精度が高くない印象があります。というか、話し言葉と書き言葉ってかなり違いますから、話し言葉だけで学習するとすごーくフランクなAIになりそう。

 ちなみに、アメリカの著作権法でこれがフェアユースにあたるかどうかは、まだ確定していません。それに対し日本の著作権法は、AI開発・学習段階で「著作物を享受する目的で利用しない場合」は権利が制限される規定になっています(法30条の4)。

 ただ、利用規約違反になる可能性がない……とまでは言いづらいのですよね。法律による権利制限を規約が上書きする「オーバーライド」が有効か否かは、実は諸説あってまだ定まっていないという。

Google Docs、Markdown形式でのドキュメントのエクスポート、インポートなど可能に〈Publickey(2024年7月18日)〉

 これは面白いアップデート。まだ私の環境にはロールアウトしていませんが、EPUBの制作でお世話になっているでんでんマークダウンを試してみたいです。

 でんでんマークダウン公式によると「オリジナルの Markdown の記法、PHP Markdown Extraに由来する記法、でんでんマークダウン独自の記法が混在」しているそうなので、恐らく「オリジナルのMarkdown」対応の記法だけが使える感じなのでしょう。

お知らせ

HON.jp「Readers」について

 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 東京は7月18日に梅雨明けとなりました。例年より短い梅雨だったそうです。暑い暑い夏本番がまたやってきました。すでに朝起きたら汗だくだったりします。みなさまも熱中症にはくれぐれもご注意ください。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

noteで書く

広告

著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
高評価順
最新順 古い順
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る