「AIと著作権に関する考え方について(素案)パブコメへ」「芥川賞と生成AI」「韓国ウェブトゥーンの輸出額」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #603(2024年1月14日~20日)

丸善 日本橋店

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 2024年1月14日~20日は「AIと著作権に関する考え方について(素案)パブコメへ」「芥川賞と生成AI」「韓国ウェブトゥーンの輸出額」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

生成AI「ただ乗り」へ危機感 無断学習の歯止め案、国がパブコメへ〈朝日新聞デジタル(2024年1月16日)〉

 1月15日に開催された、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回)を受けての報道です。今回は傍聴できました。素案では、著作権の保護対象とならない「アイデア」の類似する作品がAIで大量生成されても第30条の4「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には「該当しない」とされていますが、委員の福井健策氏が「生成AIで大量かつ高速にアイデアが盗まれることは、やはり考慮すべきではないか?」「少なくとも断定調は許容できない」と食い下がっていたのが印象的でした。今後、この議論を踏まえたうえで、月内にはパブコメが実施されることになります。

 それにしても、新聞各社申し合わせたように「ただ乗り」という表現を使っていますが、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の中にそのような表現はありません。各社の報道は、日本新聞協会の「知的財産へのタダ乗り(フリーライド)は許されない」という主張に沿った書きぶりになっているようです。「無断学習の歯止め」もなにも、そもそも現行法では「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は権利制限の対象にならないと定められているわけで。少なくとも、野放しではありません。

社会

子どもの読書離れ深刻化、デジタル時代に求められる新たな形〈ニュースイッチ by 日刊工業新聞社(2024年1月14日)〉

 えーっと……記事内にある「小中高生の不読率」というグラフは、なんのためにあるのでしょうか? これを見れば「深刻化」どころか真逆の状況、つまり、不読率は20世紀より改善していることが一目瞭然なのですが。読書の推進は良いとして、エビデンスベースでやりましょうよ。実態とは異なる「読書離れ」とか「活字離れ」といった枕詞を用いることは、むしろ害悪になりかねないと思いますよ。

遮音社会:自由な創作、萎縮 不謹慎は避けたい 若者ら「正しさ」呪縛〈毎日新聞(2024年1月16日)〉

 批判や炎上を避けようとするあまり「正しさ(ポリコレ・コンプラ)」の呪縛に囚われてしまい、自主規制によって表現が萎縮している現状と、それに抗う表現者といった内容の記事です。「遮音(ミュート)社会」という副題が面白い。「尖った表現が外へ伝わるのを防いでいる」という意味でしょうか?

「ChatGPTを駆使した」芥川賞作品を読む “ポリコレ的にOKな表現”が支配する未来とは〈ITmedia NEWS(2024年01月19日)〉

 ポリコレに関連して。芥川賞受賞作『東京都同情塔』(新潮社)の著者・九段理江氏が授賞式で「5%は生成AIの文章そのまま」と語ったことが話題になっていました。私も読んでみましたが、作中には「AI-built」という「文章構築AI」が登場し、「ChatGPT」のようにチャット形式で回答を返してくる描写があります。使っているとしたらその辺りかな? という印象でした。

 私はその「生成AI」とか「ポリコレ」より、ザハ・ハディド氏の設計した国立競技場が実際に建築された世界という設定に惹かれました。「Twitter」について、「別の新しい呼び名があったような気がする」という主人公のモノローグには吹いた。

経済

韓国の漫画・ウェブトゥーン、昨年上半期輸出70%↑…K-コンテンツで存在感 写真枚 国際ニュース〈AFPBB News(2024年1月14日)〉

 誰が言ったか「率が強調されているときは額を確認してみるべし」。漫画(というかウェブトゥーン)の輸出額は昨対比71.3%増ですが、金額では「約9000万ドル」とのことです。1ドル150円で日本円換算すると、2023年上半期は約135億円。つまり、さらに一期前の2022年上半期は約79億円ということになります。

 普通に考えたら、ここには日本の「LINEマンガ」や「ピッコマ」での韓国原作作品の販売額も含まれていると思いますが、この記事からは不明です。ジェトロなど他でちょっと調べた程度ではわかりませんでした。含まれているとしたら、正直「え? その程度だったの?」という印象を受けます。日本以外への輸出額もあるわけですからね。

 まあ、インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2023』の「コミックのうち約1割」が縦スク(つまり2022年度約520億円)という推計と、大きな齟齬はないでしょう。こちらには日本原作作品も含まれているわけですし。しかし、2022年の時点であれだけ「覇権広げる」「躍進」などと褒め称えられていたのに……そこから2023年に伸びたのが事実としても、釈然としないものがあります。

 私は、2022年の回顧で「縦読みマンガ単独の市場規模がわからない」から「断片的な情報で、過剰評価もしなくないし、過小評価もしたくない」と判断を保留していました。その態度はやはり正しかったなあ、と思いました。

Amazonのデジタルコンテンツが保証期間1年(かもしれない)件〈妄想科學倶樂部(2024年1月16日)〉

 また「消える電子書籍」問題勃発か? と少し騒ぎになっていました。ただ、こちらの当事者の方による記事の後ろのほうを読むに、本件は「過去1年以内に購入されたものに限り復元および再送ができる」というカスタマーサポートの回答が誤りであった可能性が高そうです。私も、サポートからトンチンカンな回答をもらった経験があるので、これもそういう類いなのだろうなあ、と。

 あと、ライブラリーから削除したわけではないのに、検索しても出てこないという症状は、私も遭遇した記憶があります。このブログ同様、検索しても出ないのにスクロールで遡っていくと表示されるとか、アプリだと表示されないのにKindle端末だと表示されるとか。「なんじゃこれ?」と苦笑いさせられた思い出が。そのあたりになにか不具合でもあるのでしょうかね?

生成AI、縦読み漫画の「助っ人」に 制作期間10分の1も〈日本経済新聞(2024年1月16日)〉

 マンガやウェブトゥーンへの生成AIの活用について。これは主に制作期間短縮という観点の話題ですが、マンガ家ユニットうめの小沢高広氏が文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)のヒアリングで、生成AIを使うことにより「時間が短縮されると、より深く掘って余計なことまでまたつい凝ってしまう」「効率化は図られているはずなんですが、より深く描いてしまっているという可能性が高い」とおっしゃっていたのを思い出しました。さもありなん。

生成AI活用の未来を議論 「Generative AI Japan」設立〈Impress Watch(2024年1月17日)〉

 生成AIの活用を進める業界団体の発足です。他の報道では「マイクロソフト、AWS、Google、オラクルなどの幹部が理事に」とあったので勘違いしそうになったのですが、こちらの記事を読む限り「発足時の会員企業」にMicrosoft、Google、AWS、Oracleは含まれていません。「理事体制」には確かに名前があるので、間違いではないのですが。

New Nonprofit Launches to ‘Certify’ Copyright-Friendly AI Practices(著作権に配慮した AI 実践を「認定」する新しい非営利団体が発足)〈Publishers Weekly(2024年1月17日)〉

 同じ日にアメリカでは、生成AIの学習用データの公正な使用を証明することを目的とする、ちょっとベクトルの異なる非営利団体の発足が報じられていましたので併せてピックアップ。アメリカ出版社協会(AAP)が支援しているそうです。フェアユースモデルではなく、権利者とライセンス契約を結んだ生成AI企業だけを認定しているとのこと。ならば、認定されている生成AI企業の名前にAdobeが入っていないのはなぜだろう……。

「現在の X の姿勢は、あまりにも無責任だ」:ある国内ブランド広告担当による怒りの告白〈DIGIDAY[日本版](2024年1月19日)〉

 業界関係者が匿名を条件に本音を語るシリーズ。DIGIDAYは翻訳(つまり海外事情)が多いのですが、これは「ある国内ブランドの広告担当者」の話です。能登半島地震のインプレッション稼ぎポストに広告が表示されてしまった事例。「グローバルでは問題を指摘する声が挙がっていたが、日本ではどこか遠い出来事のような感覚や危機感の薄さがあったのは否定できない」というのは、偽らざる本音でしょう。いまのX(旧Wtitter)へ広告出稿することは、ブランドを毀損する可能性があることを覚悟しておく必要がありそうです。やだやだ。

freeeの「透明書店」、棚貸しの「シェア型書店」を開始〈Impress Watch(2024年1月19日)〉

 昨年、あちこちの「シェア型書店」がニュースになっていたこともあり、棚貸し事業は(いまはまだ)比較的うまくいきやすい印象があります。棚を借りてくれる人が一定数集まれば、固定収入が得られますからね。小売店というよりテナント事業に近い。

 freeeの「透明書店」は実績や手法も透明化しますという触れ込みでスタートしており、開店以来赤字続きである状況も開示しています。棚貸し事業開始へ向け、内装工事費用をクラウドファンディングで、というのはうまい。リワードとして棚スペースを提供することで、ついでに募集もできちゃうわけです。

技術

Google検索のSEOスパム汚染は印象ではなく本当に悪化していることが研究で明らかに〈GIGAZINE(2024年1月17日)〉

 この記事、重要なポイントは「研究者の測定では、多くの場合でGoogleはBingやDuckDuckGoよりも優れたパフォーマンスを発揮したと報告されています」でしょう。つまり、Googleの検索結果が以前より悪化しているとしても、それでも他の検索エンジンよりマシってことです。そう簡単に優位性は覆らない。「バックリンクを買う」みたいな古典的SEOスパムの時代から、彼らはずっと戦い続けてきているわけです。まあ裏を返せば、対策を怠ったらあっというまに転落していく可能性もあるわけですが。彼らはそれもよくわかっていると思うんですよね。

お知らせ

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 年末恒例の特番は、ニュースまとめ配信人の大西隆幸氏と菊池健氏と古幡瑞穂氏と鷹野凌が、司会の西田宗千佳氏とともに2023年の主な出版ニュースを振り返りました。アーカイブ視聴チケットは1月31日まで販売します。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 一昨年は宅飲みを禁止することで10kgくらい減量できたのですが、昨年は宅飲みを復活したらまた10kgくらい増量してしまいました。今年、また宅飲み禁止を始めました。少しずつ体重が落ち始めています。効果てきめん(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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