「Metaの詐欺広告への声明が火に油を注ぐ」「Google広告行政処分」「LINEヤフーに行政指導」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #616(2024年4月14日~20日)

東京駅

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 2024年4月14日~20日は「Metaの詐欺広告への声明が火に油を注ぐ」「Google広告行政処分」「LINEヤフーに行政指導」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

Meta、「著名人なりすまし詐欺広告」で声明–根絶には「社会全体のアプローチが重要」〈CNET Japan(2024年4月16日)〉

 Metaから声明が出ました。詐欺被害が実際に出ていることについて、いきなり「社会全体の脅威」と責任転嫁し、謝罪なし、対策はしている、200億ドル以上投資もしている、社会全体でのアプローチが重要だ、と。読んで「あ、これは燃える」とすぐ判断できるレベルのダメさです。案の定、大炎上しています。火に油を注ぐとはこのことか。

メタの投資広告、半数以上が著名人なりすましか 1位は森永卓郎氏、2位に堀江貴文氏〈産経ニュース(2024年4月14日)〉

 Metaの広告約2万点を産経新聞が独自調査。これ、Metaが「広告ライブラリ」で非アクティブも含め公開しているんですね。知りませんでした。試しにキーワード「投資」でアクティブな広告だけに絞ってチェックしてみましたが、これだけ騒ぎになったあとでもまだ「あ、これ詐欺だな」と瞬時に判断できるようなものがゴロゴロしています。ダメだこりゃ。

なりすまし詐欺広告と“誤認”か 「ホリエモンAI学校」、Metaに広告アカウントを凍結される 運営会社は「ずさん」と苦言〈ITmedia NEWS(2024年4月19日)〉

 そして雑な仕事で誤判定。一瞬、抗議や提訴されたことへの意趣返しか? なんてことも思ったのですが、これは「ハンロンの剃刀(無能で十分説明されることに悪意を見出すな)」ですね。単に「Metaが無能」で説明できます。

Google広告を行政処分へ 公正取引委員会、ヤフーの配信制限疑い〈日本経済新聞(2024年4月16日)〉

 Yahoo!検索がGoogleの検索エンジンを使っているのは知っていたんですが、検索連動型広告配信システムもGoogleのものだったんですね。当時のリリースにもちゃんとそう書いてあるのに、なんで私の認識から抜けていたんだろう? トホホ。

 で、ヤフーが取引先ポータルサイトに配信していたモバイル端末用の検索連動型広告を、Googleが「止めろ」と迫ってきたことがあった、と。2010年代半ばということは、切り替えて数年後。いまから10年くらい前のことということになります。独占禁止法って、そこまで遡って適用されるんですね。すごいな。

LINEヤフーに2度目の行政指導へ、「NAVERとのネットワーク完全分離が2年以上先」など“見直しの展望が明らかでない”と判断〈ケータイ Watch(2024年4月16日)〉

 そのヤフー、というかLINEと統合したLINEヤフーにも、ほぼ同時に行政指導が入っています。しかも3月に続いて2回目。LINEのシステムがNAVERと完全分離できるまで2年以上かかる、という報告が逆鱗に触れたようです。

街の本屋に補助金で支援を 斎藤経産相が書店経営者と車座で議論〈朝日新聞デジタル(2024年4月17日)〉

 書店からの支援の訴えに対し、斎藤経産相が「事業再構築補助金」を勧めています。事業再構築補助金とは、「新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、又は事業再編という思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援」する経産省管轄の補助金です。それってつまり「書店とは別のことをやりましょう!」と言っているのも同然なんですが、それでいいんでしょうか? 書店を支援するはずが、書店以外に転換する支援って話になってますよ。

 まあ、すでに予算が確保されている補助金ですし、これまで11回も公募・採択が行われてきた実績もあるので、名前を出しやすかったのもあるとは思います。ちなみに第10回から出版業、書籍・雑誌小売店業、印刷・製版・製本業などが、産業構造転換枠の指定業種に選定されています。そこで、第10回と第11回の採択結果を調べてみました。キーワード「書店」でPDFファイル内を検索してみたら6件見つかりました。

  • ブックカフェ事業および図書館向けの書籍販売事業に参入
  • BOOKS&お惣菜屋として新市場進出
  • 地方書店がメーカーになる!クラウドを活用し、オーダーメイド手帳作成に挑戦
  • 創立138年の銀座の老舗書店がECモール事業に進出する
  • 市場が縮小する大型複合型書店中心の物販業から、サウナに特化した温浴施設に進出
  • 書店でお買い物をしてくださる地域顧客の属性や購買データ等を収集、蓄積、整理可能なシステムを開発

 いやあ……見事に「書店」から離れていく話ばかり……あ、6番目の購買データ収集の事業は、書店そのものの事業再構築ではなくシステム提供の話なので、またちょっと違う話ではあります。「KINOKUNIYA PubLine」の汎用版のようなイメージでしょうか? まあ、本だけ売っても儲からないから別の事業を並行してやるという、内沼晋太郎氏の「本屋B&B」みたいなやり方を想定しているということなんでしょうけど。

 ただ、事業再構築補助金の「補助対象経費」ってけっこう偏っているんですよね。家賃や仕入れなどには使えません。そのうえ、使った額の何%か返ってくる仕組みだから、そもそも投資に回せる資金の余裕がないと使えません。

 また、補助対象外経費には「販売・レンタルする商品、試作品、サンプル品、文房具などの事務用品等の消耗品代、雑誌購読料、新聞代、書籍代、団体等の会費 、販売やレンタルを目的とした製品、商品等の生産・調達に係る経費」とあります。書籍・雑誌が対象外の時点で、書店向きの補助金ではない感ありますよね。

 実際のところ、仮に私が書店の経営者だったとして、この事業再構築補助金を勧められたら「なにができるだろう?」と考え込んでしまいます。ブックカフェへの改装費? イベント&ライブ配信事業? いずれにせよ、本を並べるスペースを狭くする以外、他の事業をやるのは難しいわけで。

 書店が書店として生き残れるようにするには、根本的にはやはり、本の粗利改善だと思うのですよね。するとどうしても従来モデルのままでは無理だから、ブックセラーズ&カンパニーのように販売コミットするか返品なしの買切モデルで正味を下げるって話になるでしょう。アレ? これって事業再構築のどれかに当てはまる? 当てはまらないよなあ。

「漫画村」裁判で約17.3億円の賠償判決、出版社側は抑止効果に期待も「海外で悪質な海賊版サイト」広がる〈ケータイ Watch(2024年4月18日)〉

 著作権侵害を理由とする訴訟で、どうやら過去最高額の判決となったようです。関係者の方々、お疲れさまでした。被告は「払いません」などとぬかしているようですが、民事執行法違反には2020年4月から刑事罰が導入されているので、そう簡単には逃げられないでしょう。

 記事の後半では集英社・伊東敦氏から「日本発の海賊版サイトはほぼ根絶できた」という報告も。ただ、海外から海外向け、あるいは、海外から日本向けの海賊版はまだ多く存在しているそうです。ベトナム系が猛威を振るっているという話もありました。

 ところが、メディアドゥの決算説明会では、興味深い報告がありました。日本政府からベトナム政府への働きかけによって違法サイトが摘発され、なんと2024年1月15日に違法サイト20カ所が同時に閉鎖されたそうです。やった!

「街の本屋」議連が総会 経産相・齋藤幹事長「議連とも連携し前進を」〈The Bunka News デジタル(2024年4月19日)〉

 こちらは書店議連の動き。会長の塩谷立氏が自民党を離れることになります。記事で理由には触れていませんが、裏金事件で離党勧告処分が出ています。「後を託す」と言っているので、離党するからには自民党だけの議連にも参加はできない、ということなのでしょうか。

街の本屋支援議員連盟総会〈桑原亘之介(2024年4月18日)〉

 総会の詳細なレポートも出ています。ちょっと気になったのが、日本書店商業組合連合会の会長・矢幡秀治氏の発言。図書館の複本について「残り4割に苦しめられているのです。そこをもうちょっと深掘りしてもらいたい」などと問題を蒸し返してます。なんでそういうことするかなあ……。

 先日まとめが出たばかりの「書店・図書館等関係者における対話の場」はなんだったのか。大場博幸氏(座長)の研究成果「①平均すれば、全体として図書館による新刊書籍市場の売上へのマイナスの影響は大きくないこと」と「②同時にそれは一部のベストセラーに限ればマイナスの影響が小さくないこと」を、業界全体の共通認識にするとしたはずなのですけど。

社会

版元ドットコムとopenBDプロジェクトは“だれもが自由に使える書誌・書影”を再び提供するためホワイトリスト作成という正攻法に出た〈HON.jp News Blog(2024年4月18日)〉

 本件、版元ドットコム沢辺均氏だけでなく、JPO渡辺政信氏にも話を伺うことができたのが良かったです。ちゃんとJPOにも事情があったという経緯を、可能な限り中立的な立場で記録に残したつもりです。また長い記事になってしまいましたが、そのわりに結構読まれています。前提知識や過去の経緯などは不要という方は、記事冒頭の版元ドットコム公式サイトへのリンクから離脱してください。

経済

【スクープ】グーグルが日本のマスコミに「宣戦布告」か…新聞社に突きつけた「不平等条約」の中身と「AI記者」驚愕の実力(週刊現代)〈マネー現代 | 講談社(2024年4月15日)〉

 Google News Showcaseに記事を配信すると、今後はGoogleの他のサービス(生成AI含む)でも利用されることに合意することになる、という追加条件が契約更新時に新聞社に対し突きつけられているそうです。この記事ではSGE(Search Generative Experience)での二次利用についての危機感を煽っていますが(もちろんそれもないとは言いませんが)、むしろGoogleの狙いは「良質な学習用データ」としての利用ではないでしょうか。

 現状、5大全国紙のサイトはすべて、robots.txtでAI学習用のクローラGoogle-Extended(検索用とは別)を拒否しています。文化庁の審議会が示した「考え方」で、著作権法第30条の4があっても、robots.txtの記述を無視すると権利侵害になり得るといった見解が示されてますから、Googleはうかつに無視できないはずなのですよね。

 良質な学習用データは競合他社との争奪戦ですから、逆にこれはより良い条件を引き出す交渉のチャンスだと思うのですよ。提供データの利用目的と影響範囲が大きく変わるわけですから。当然、対価の上乗せがあってしかるべきです。ビジネスなのですから、しっかり交渉しましょうよ。

OpenAI日本オフィス誕生で何が変わる?日本語最適化の本当の狙いを読み解く(本田雅一)〈テクノエッジ TechnoEdge(2024年4月18日)〉

 GPT-4の日本語カスタムモデルが登場。また、日本に拠点を設けるということで、日本の著作権法第30条の4を活かして安全に技術開発を行うつもりなのかと思いきや、いまのところそういうわけではなさげ。記者会見の内容は、企業向けに特化していたそうです。ビジネスユーザー向けの営業拠点という位置づけみたいですね。しかし、それってMicrosoft Copilotと市場の食い合いになると思うんですが、それでいいのかしら?

技術

AIが生成する画像を「ネコ」にするサイバー攻撃 絵師らを守る技術「Nightshade」 米シカゴ大が開発:Innovative Tech(AI+)〈ITmedia AI+(2024年4月15日)〉

 テキスト「犬」が紐付いた猫の写真、みたいな感じで、学習用データに毒を混ぜるような攻撃とのことです。ところが実際に検証してみた方々の声を見るに、喧伝されているほどの効果は期待できなさそうです。どうもダメっぽい事例として、あえてピックアップしておきます。

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雑記

 暑くもなく寒くもない、1年のなかでいまがいちばん過ごしやすい季節でしょう。晴天のもと、のんびり散歩でもしたいところ。でも忙しくて時間がとれない……ぐぬぬ。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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鷹野凌@HON.jp📚
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2024年4月23日 17:45

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