2025年出版関連の動向予想

Photo by Ryou Takano(+Adobe Firefly生成塗りつぶし“赤い座布団”&“白い蛇”)
Photo by Ryou Takano(+Adobe Firefly生成塗りつぶし“赤い座布団”&“白い蛇”)
noteで書く

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 毎年恒例、編集長 鷹野凌による出版関連の動向予想です。

過去の予想と検証

 過去の予想と検証は、以下の通りです。本年の予想は13回目となります。

(※2018年予想までは個人ブログと「DOTPLACE」、同年の検証からHON.jp News Blog)

マクロ環境分析

 例年通り、2025年以降の出版を取り巻くマクロ環境をPEST分析します。HON.jp News Blogの対象領域は、出版“業界”というより、デジタルを含めた広義の出版行為(publishing)です。その領域と関わりそうな事柄を、近未来でほぼ確定している予定や注目すべきトピックスなどからピックアップします1NRI未来年表 2025-2100
https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/nenpyo_2025/
生活総研 未来年表
https://seikatsusoken.jp/futuretimeline/
イベント出来事開店開業トレンド予定未来カレンダー
https://mirai.uriba.me/
Wikipedia – 2025年
https://ja.wikipedia.org/wiki/2025%E5%B9%B4
などを参照して抜粋した。

政治的環境(Political)

 政治的環境の分析対象には、政府、法律、規制、税制、裁判、外交などが挙げられます。

  • アメリカでドナルド・トランプ氏が大統領に就任(2025年1月20日)
  • 主要国の全与党が議席減、日本も少数与党で政情が不安定に
  • 改正育児・介護休業法が段階的に施行(2025年4月1日~)
  • 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロ責法)が施行(2025年5月16日まで)
  • スマホソフトウェア競争促進法が施行(2025年12月19日まで)
  • 経産省・書店振興プロジェクトチームの動き
  • 第27回参議院議員通常選挙が執行予定(2025年7月28日まで)

ドナルド・トランプ氏が2期目の大統領に就任

 “同盟国には「悪夢」”2トランプ氏再選は日本、韓国など同盟国には「悪夢」 元国家安保会議アジア部長が見通す最悪のシナリオ〈東京新聞デジタル(2024年1月3日)〉
https://www.tokyo-np.co.jp/article/299820
とまで言われたトランプ氏が大統領に再任することで、アメリカの政策は今まで以上に「米国第一主義」となり、保護貿易、一国主義、排外主義、役割縮小へと向かうことが予想されています3トランプ2.0の米国・世界経済への影響と日本に求められる備え|MRIオピニオン(2025年1月号)〈三菱総合研究所(2025年1月1日)〉
https://www.mri.co.jp/knowledge/opinion/2025/202501_2.html

 就任会見でも関税の引き上げを表明しており、対中国は60%への引き上げ、対メキシコ・カナダは25%、日本を含む友好国も一律10~20%とされていて、日本企業への甚大な影響が懸念されています4トランプ関税「日本企業に影響甚大の恐れ」 経団連会長〈日本経済新聞(2024年11月26日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA265OK0W4A121C2000000/
。これはインフレ要因となるため、日本経済にも物価上昇圧力が働くことが警戒されています。また、防衛費負担増を要求され、さらなる再出拡大を招く可能性も指摘されています5トランプ当選でこう変わる! ~日本経済へ飛び火するリスク~|熊野 英生〈第一生命経済研究所(2024年11月7日)〉

 また、選挙戦ではロシア・ウクライナ戦争を「就任から24時間以内に終結させる」などと豪語していましたが、就任を前にして「6カ月はほしい。できればそれより早く終わらせたい」と発言を後退させています6トランプ氏、ウクライナ戦闘終結まで「6か月ほしい」…「就任24時間以内」から後退〈読売新聞(2025年1月8日)〉
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250108-OYT1T50040/
。1期目にはベタベタに親イスラエルの政策をとっていましたし、ガザ地区の戦争終結も期待できそうにありません。

主要国の全与党が議席減、日本も少数与党で政情が不安定に

 2024年は世界的な選挙イヤーでしたが、なんと主要国の全与党が議席を減らしたそうです7選挙イヤー、主要国の全与党が議席減 世界に分断の爪痕〈日本経済新聞(2024年12月28日)〉https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB224V00S4A121C2000000/。日本では与党が過半数割れとなり、野党の賛成なしでは法案も予算案も通すことができないという不安定な政権が誕生しました。

 数の力で押し通せないため、良く言えば「建設的な議論が可能になる」あるいは「幅広く民意をくみ取ることができる」ことになりますが、裏を返せば「世論を二分するような重要案件はなかなか決められない」状態になります。法制度的には、大きな変化が起きない年になるかもしれません。もちろん、すでに決まっている制度は話が別です。

改正育児・介護休業法が施行

 4月1日からは、小学校就学前の子(従来は3歳未満)を養育する労働者は、請求すれば残業が免除されます。子の看護休暇は小学校3年生修了まで対象が拡大(従来は小学校就学始期に達するまで)されます。従来の病気・けが・予防接種・健康診断だけでなく、感染症に伴う学級閉鎖等や入園・入学・卒園式も取得事由になります。

 また、男性労働者の育児休業取得率等の公表義務が、従来は従業員1000人超でしたが、今後は300人超1000人以下の企業にも適用されます。たとえば新潮社は従業員数469人8数字で見る新潮社|新潮社 定期採用 RECRUITING SITE 2026
https://info.shinchosha.co.jp/recruit/number/
、文藝春秋は従業員348名9数字でわかる文藝春秋 | 文藝春秋 RECRUIT SITE
https://recruit.bunshun.co.jp/about/numbers/
なので、従来は公表義務の対象外でしたが、今後は公表義務の対象となります(両社ともすでに公表の準備は進めていたようなので例示しました)

 さらに、10月1日から事業主は、労働者が育児期の柔軟な働き方を実現するための措置を講ずる義務が発生します。始業時刻等の変更、テレワーク等、保育施設の設置運営等、就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇、短時間勤務制度の中から2つ以上の措置を選択する必要があります。詳しくは厚生労働省の「育児休業制度 特設サイト」をご参照ください10育児休業制度 特設サイト〈厚生労働省〉
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/point02.html
。育児中の方には優しい制度であるいっぽう、それ以外の従業員へのしわ寄せを防がなければいけませんし、人の手配で経営者の頭を悩ませることになりそうです。

情プラ法(旧プロ責法)とスマホ競争促進法が施行

 巨大IT企業をターゲットとした法規制が相次いで施行されます。まずは情プラ法(正式名:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律、通称:情報流通プラットフォーム対処法)です。プロ責法(プロバイダ責任制限法)が改正され名称も変わりました。

 従来は、違法・有害情報を流通させても一定の要件を満たせば賠償責任を負わないという制度でしたが、総務相から指定された大規模プラットフォームについては、対応の迅速化義務と、運用状況の透明義務が課されるようになります11情報流通プラットフォーム対処法の省令及びガイドラインに関する考え方〈総務省(2024年11月)〉
https://www.soumu.go.jp/main_content/000978031.pdf

 規制対象となる大規模プラットフォームは「国民の1割程度が利用するもの」という考え方で、MAU1000万人以上(閲覧だけも含む・日本国外の利用者を除く)の電気通信事業者が想定されています。日本での利用者の多いSNS122024年12月版!性別・年齢別 SNSユーザー数(X(Twitter)、Instagram、TikTokなど13媒体)〈株式会社ガイアックス(2024年12月3日)〉
https://gaiax-socialmedialab.jp/socialmedia/435
として、LINE、YouTube、X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、TikTok、Yahoo!JAPAN(ニュースなど)、noteなどの指定が予想されます。5月16日までに施行されるので、指定事業者もほどなく明確になるでしょう。

 次のスマホ競争促進法(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)は、スマホOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンの寡占企業であるAppleとGoogleを狙い撃ちにした法律です。

 こちらの施行は12月19日までとなっていますが、ゲームメーカーではすでに手数料回避のため独自の課金システムを導入する動きが見られるそうです13「スマホソフトウェア競争促進法」でゲームのアプリ外課金が急増、グーグルはどう見る〈日経クロステック(2024年12月2日)〉
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00086/00336/
。マンガアプリ・電子書店系でも今後、アプリから自社のウェブストアへ誘導しやすくなるなどの変化が起きる可能性があります。

 こういった巨大IT企業への規制強化傾向は今後も続く見込みです。とくに公正取引委員会はかなり活発な動きを見せているため、注視しておきたいと思います。なお、HON.jp News Blogでは現在、官公庁系は首相官邸、内閣官房、内閣府、総務省、経産省、文科省、外務相、文化庁、消費者庁、デジタル庁、国立国会図書館などの動きをウォッチしています。

経産省・書店振興プロジェクトチームなどの動き

 2024年に経済産業省で立ち上げられた「書店振興プロジェクトチーム」は、10月に「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」を公表14「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」を公表します〈経済産業省(2024年10月4日)〉
https://www.meti.go.jp/press/2024/10/20241004002/20241004002.html
、パブリックコメントを実施しました。現時点でまだその結果は公表されておらず、具体的にどのような対策が行われるかも不透明なままです。とりあえず年末に閣議決定された経済産業省の令和7年度予算案15令和7年度経済産業省関連予算案等の概要〈経済産業省(2024年12月27日)〉
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2025/index.html
に「書店」の文字はなさそうで、いまのところ中小企業庁の支援策16支援策チラシ一覧〈中小企業庁〉
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/support.html
の中に包摂される形になっているようです。

 なお、文部科学省の令和7年度予算案17令和7年度予算〈文部科学省〉
https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420672_00010.html
には「読書活動総合推進事業」の「文字・活字文化の振興」のところに書店関連予算がいちおう付いています。こちらは図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議18図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議〈文部科学省〉https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/050/index.htmlで議論が進められていくはずなので、引き続きウォッチしていきたいと思います。

社会的環境(Social)

 社会的環境の分析対象には、文化、教育、人口、ライフスタイル、世論、価値観、健康、環境などが挙げられます。

  • NHK大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」放送開始(2025年1月5日~)
  • 阪神・淡路大震災から30年(2025年1月17日)
  • NHKラジオ放送開始100年(2025年3月22日
  • 大阪・関西万博開催(2025年4月13日~10月13日)
  • ベトナム戦争終結50年(2025年4月30日)
  • 広島・長崎原爆投下から80年(2025年8月)
  • 第二次世界大戦・太平洋戦争終戦から80年(2025年8月)
  • 東京2025デフリンピック開催(2025年11月15日~11月26日)
  • 日韓国交正常化60周年
  • 昭和100年
  • 団塊の世代が75歳以上に
  • 電子図書館サービスの利活用が進む

大河ドラマ「べらぼう」

 1月5日から放送開始されたNHK大河ドラマ「べらぼう」19大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」〈NHK〉
https://www.nhk.jp/p/berabou/ts/42QY57MX24/
の主人公は、江戸時代中期から後期にかけて活動した版元・蔦屋重三郎です。出版界の大先輩ということもあり、さっそく関連記事や書籍も続々と出ています。関連して、山東京伝、曲亭馬琴、十返舎一九、喜多川歌麿、東洲斎写楽などにも注目が集まることでしょう。

大阪・関西万博

 4月13日から半年間の開催です。パビリオンの完成が遅れているとか、前売りチケットが売れていないなど、さまざまな負の情報が飛び交っていますが、どうなるでしょうか? 東京2020オリンピックは、コロナ禍で1年延期されたうえ、大多数の会場が無観客になったり、終了後にも汚職事件で逮捕者が出たりと散々でしたが、万博は果たして……?

メモリアルイヤー

 前掲のように、昭和100年、戦後80年、日韓国交正常化60年、ベトナム戦争終結50年、阪神・淡路大震災から30年など、さまざまな出来事からの節目の年となります。記念行事も予定されています。

経済的環境(Economic)

 経済的環境の分析対象には、景気、インフレ、デフレ、為替、金利、雇用、購買力、失業率などが挙げられます。

  • キャッシュレス決済比率が4割を超える(経産省予測・2017年の倍)
  • 65〜69歳の就業率が51.6%に(内閣府予測)
  • クレカ表現規制の強化傾向
  • ペイウォール型メディアの増加と無料メディアの減少傾向
  • 検索やSNSの流入元としての期待度減少
  • 原材料費や運送コストの増加傾向
  • 物理メディア市場の縮小傾向
  • 国内電子出版市場の成長鈍化
  • クリエイターエコノミーの拡大傾向

キャッシュレス決済の増加

 2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%20日本のキャッシュレス決済比率、過去最高 4割迫る〈日本経済新聞(2024年3月29日)〉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB283JH0Y4A320C2000000/
に達しており、2025年6月までに4割という政府目標は達成されそうです。HON․jpでPOSレジに使っているSquareがQRコード決済に対応したので、文学フリマ東京39で三角POPに「対応してます」シールを貼っておいたところ、PayPay決済の利用率が2割弱あって驚きました。現金を用意している人が多い(と思われる)即売会でもこれですから、普段使いで4割というのも不思議ではありません。

 こうなると問題になるのが、決済手数料です。経済産業省の全国書店ヒアリング21全国書店ヒアリングでの声〈経済産業省 書店振興PT事務局(2024年10月)〉
https://www.meti.go.jp/press/2024/10/20241004002/20241004002-3.pdf
でも、粗利率が約20%なのに、そのうえキャッシュレス決済手数料で3%持っていかれて負担が大きいという声が複数ありました。つまり、その声は経産省へすでに届いているわけです。あとはどう対処するのか。あるいは、対処しないのか。

クレカ表現規制の強化傾向

 また、キャッシュレス決済の中でも8割以上を占めるクレジットカード決済で、加盟店の扱う商品の表現内容を規制する傾向が強くなっていることも気がかりです。HON.jp News Castingの年末特番22【年末特番】2024年の出版ニュースを振り返る ―― HON.jp News Casting / 大西隆幸×菊池健×libro×古幡瑞穂×西田宗千佳×鷹野凌〈YouTube(2025年12月28日)〉
https://www.youtube.com/live/3odVPwysAiY?t=174s
でも大きな話題になりました。この得体の知れない圧力は、残念ながら2025年も続くのではないかと思われます。

 サービス停止に追い込まれた「マンガ図書館Z」の事例は、決済代行事業者に委ねている決済手段がまるごと止められるという暴挙でした23「マンガ図書館Z」サイト停止の背景を創設者の赤松健さんが説明 SNSでは決済代行会社による「焚書」と強い反発〈ITmedia NEWS(2024年11月6日)〉https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2411/06/news124.html。また、年末には「BOOK☆WALKER」で、R18作品や「アダルト表現等の要素を含む一部作品」にはクレジットカード決済が使えなくなりました24【12/18 13時更新】R18対象作品および一部の作品に対する決済方法の変更について〈BOOK☆WALKER(2024年12月18日)〉https://bookwalker.jp/info/2412-r18/。以前は、国際ブランドのVISAやMasterによる表現規制という見方が一般的でしたが、直近のこの2つの事例は「JCBならOK」というわけでもないことを示しています。

 また、いまはR18作品が中心ですが、放っておくとそこに留まらない恐れもあります。ゲーム等の先行事例を見るに、次は暴力や犯罪表現の規制でしょう。たとえば『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』には暴力表現や流血表現がありますが、それが「暴力行為を容認・助長する表現」などと言われ、規制される未来が想像できます。特番では菊池健氏が「ニーメラー」と表現していましたが、早めに反対の声をあげるべきでしょう。

ペイウォール型メディアの増加と無料メディアの減少傾向

 これは2024年回顧にも書きましたが、ペイウォール型のメディアは2020年から2024年にかけて倍増し、無料メディアは約3割減少しているそうです(日本新聞協会調査)。AI開発事業者による学習を防止する意味もあるため、この傾向は恐らく今後も続くでしょう。つまり、価値ある情報の多くがペイウォールの向こう側にある状態になります。

 なお、日本新聞協会は一時期、政府の検討会などで「(GoogleのAI Overviewsが)有料会員限定のコンテンツをもとに回答を生成」しているなどと批判をしていました25日本新聞協会が「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」と主張している生成AIの事例は適切か?〈HON.jp News Blog(2023年11月8日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/45740
。しかしその後の声明からは、この主張が消えました26生成AIにおける報道コンテンツの無断利用等に関する声明|通信・放送|声明・見解〈日本新聞協会(2024年7月17日)〉
https://www.pressnet.or.jp/statement/broadcasting/240717_15523.html
。恐らく自らの主張の誤りに気づいたのでしょう。

検索やSNSの流入元としての期待度減少

 また、FacebookやX(旧Twitter)などのSNSも、メディアへの流入元として期待できる状態ではなくなっています。彼らは外部リンクのある投稿の表示優先度を下げるアルゴリズムにより、自社サービスからなるべくユーザーを離脱させないようにしています。

 Google検索も、AI検索の影響が出ているのか、あるいはアルゴリズムの問題なのか定かではありませんが、流入元としての力が落ちているようです。その代わりにGoogle Discoverのパフォーマンスが上がっているという声27Google 検索由来のトラフィックの減少を、Google Discoverが補填するのか?〈DIGIDAY[日本版](2024年11月11日)〉
https://digiday.jp/publishers/for-reach-plc-google-discover-has-offset-search-driven-traffic-declines/
もありますが、あまり大きな期待や依存はしないほうがいいと私は思っています。

原材料費や輸送コストの増加傾向と物理メディア市場の縮小加速

 前述のように、トランプ氏の大統領再任で、関税引き上げに伴う物価上昇が予想されています。また、残念ながら紛争もまだ終わりそうにありません。つまり、紙やインクといった原材料費や輸送コストの増加傾向は今後も続くと考えたほうが良いでしょう。取次・書店に充分な利益を確保する意味でも、定価は上げざるを得ません。ますます売りづらくなり、物理メディア市場の縮小がさらに加速することが予想されます。

技術的環境(Technological)

 技術的環境の分析対象には、新端末、新技術、標準規格、産業構造の変化などが挙げられます。

  • Microsoft Windows 10、Office 2016延長サポート終了(2025年10月14日)
  • 5Gの人口カバー率がほぼ100%に
  • Google、サードバーティークッキー廃止中止の余波
  • カラー電子ペーパー端末「Kindle Colorsoft」が日本でも発売?
  • 暗号資産やNFTに再び脚光?
  • 生成AIは幻滅期へ?

Microsoft Windows 10、Office 2016延長サポート終了

 10月にはMicrosoft Windows 10とOffice 2016の延長サポートが終了します。前々から予告されていたことなので、大手企業や行政・教育機関などは恐らくすでに対応が終わっていることでしょう。私ももう11を使ってますが、思ったより変化は小さかったです。7→8や8→10の変化に比べたらぜんぜんマシ。

 私の勤務先大学は2校ともパソコン教室を縮小・廃止し、BYOD(Bring Your Own Device:私的端末の持込)体制へ移行しました。「学生によって環境が異なる」ことを前提として対処する必要があり、なかなか大変です。環境依存の少ないブラウザ経由のSaaS(Software as a Service)がますます重宝されることになるでしょう。

5Gの人口カバー率がほぼ100%に

 総務省は5Gの人口カバー率を「2025年度末までに97%」と目標設定していましたが、これは2024年時点で前倒し達成しています285G人口カバー率が98.1%まで拡大、その一方で進まない「5Gのマネタイズ化」の影響とは〈ケータイ Watch(2024年9月7日)〉https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/mca/1622064.html。ただし、これは基地局の整備状況だけであり、ユーザーの5G契約はまだ携帯契約者全体の41.6%です。実は私もまだ4GのSIMカードを使っています。そろそろ切り替えようかな。

 5Gのメリットは、超高速大容量・超低遅延・多数同時接続です。つまり、音声・動画・ゲームなど、テキストや静止画よりリッチな表現を、外出先でもストレスなく利用できる環境が整うことになります。つまり、可処分時間の奪い合いにおいて、テキストや静止画はより不利な状況になります。もちろんそれだけ早く「ギガが減る」わけですが。

 回線速度が遅かったころは、ページネーションで記事を分割することには、少なくとも「ページの読み込み速度を上げる」というユーザーメリットがありました。しかし、ここまで回線速度が上がると、ページ分割は単に「PVを盛る」「広告表示回数を盛る」という、メディア側にだけ都合の良い行為になっています。そしてそれはもうユーザーに見透かされている、つまり、嫌われているということも認識すべきでしょう。

Google、サードバーティークッキー廃止中止の余波

 Googleは2024年7月に、それまでの「2024年後半にはすべてのサードバーティークッキーを廃止する計画」を撤回しました29グーグル、サードパーティCookie廃止方針を撤回〈Impress Watch(2024年7月23日)〉
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1610348.html
。代替技術として開発が進められてきた「プライバシーサンドボックス」が、イギリスの競争・市場庁(CMA)から「むしろGoogleの市場支配力を強固にする」といった懸念を示されたことなどが理由だとされています。

 代わりに、新たなプライバシー制御機能をChromeブラウザに追加するという発表でしたが、続報はいまのところ出ていません。そうこうしているうちに、司法省から「Chromeの分割・売却」が要求されましたが、もちろんGoogleは争う姿勢です。いやはや、どうなることやら。

カラー電子ペーパー端末「Kindle Colorsoft」が日本でも発売?

 2024年にはAmazon初のカラー電子ペーパー端末「Kindle Colorsoft」がアメリカ発売されましたが、日本は未発売です。画面下部に黄色の帯が表示される不具合があり、出荷停止や返品・交換などの対応に追われているようです30Amazon Kindle Colorsoft E-reader Shipping Is Cancelled〈Good E-Reader(2024年11月3日)〉
https://goodereader.com/blog/kindle/amazon-kindle-colorsoft-e-reader-shipping-is-cancelled
。まあ、落ち着いたら日本でも発売されるでしょう。恐らく今年中には。

暗号資産やNFTに再び脚光?

 トランプ氏が大統領選挙に勝利したのち、ビットコインなど暗号資産の相場は急上昇しました。バイデン政権は仮想通貨の規制強化を図っていましたが、トランプ氏は推進する姿勢を示しているためです。相場が上がるにつれ、NFTの取引量にも回復の兆しが見られるそうです31NFTの取引高が急増し、市場は復活を遂げている:ギャラクシーが報告〈CoinDesk JAPAN(2024年12月19日)〉
https://www.coindeskjapan.com/267376/
。一時期のような狂躁はもう起きないと思いたいですが、これまたどうなることやら。投機目的の山師が去り、真面目にコツコツやっていたところに脚光が当たるといいですね。

生成AIは幻滅期へ?

 Gartnerが2024年8月に発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」で、生成AIは2023年に続いて「過度な期待」のピーク期に位置づけられました32Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」を発表〈ガートナージャパン(2024年8月7日)〉https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20240807-future-oriented-infra-tech-hc。「“プロ驚き屋”にご用心」などといった揶揄も目にするようになりました33【現代AI童話「驚き青年」】──「生成AIはヤバすぎる最強神ツール!?」 “プロ驚き屋”にご用心:新連載:マスクド・アナライズの「AIしてま~す!〈ITmedia AI+(2024年9月12日)〉
https://www.itmedia.co.jp/aiplus/articles/2409/12/news023.html

 また、調査会社のIDC Japanが年末に発表した「今後5年の国内ICT市場で起きる重要な動向10項目」には、「AIエコノミクス:AIが実験段階から実践、収益化のフェーズへと移行する中でのROI(投資対効果)の明確化」「AI投資の見直し:AIの投資効果が得られない企業による、AI投資の削減の可能性」と、AIブームの退潮を想起させる2つの予想が含まれていました34IDC Japan、今後5年の国内ICT市場で起きる重要な動向10項目を発表~IDC FutureScape Japan Implication~〈IDC: The premier global market intelligence firm.(2024年12月9日)〉
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ52786124

 私も、少なくとも一時期のような熱狂は収まりつつあるように感じています。なにができて、なにができないかの、理解が広がってきたということでしょう。つまり今後は、地に足の付いた、本当の意味での「活用」フェーズに入っていくのだと思います。

2025年の予想(というか、私が注目していること)

 これらを踏まえた上で、2025年にはどんなことが起こるか予想してみました。以下の5点です。今回から頭に【】で領域を示すことにしました。

  • 【雑誌】脱広告ビジネスモデル
  • 【書籍】読書バリアフリー対応
  • 【漫画】コンテンツ輸出の拡大
  • 【教育】図書館の役割が重要化
  • 【技術】サイバー犯罪は自分事

 毎年思いますが、予想は難しい。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と言いますが、私は今年、こういう領域に注目していると捉えていただけたら幸いです。

【雑誌】脱広告ビジネスモデル

 短くするため【雑誌】としましたが、新聞を含めた定期刊行物とその延長上にあるビジネス、という切り口です。2022年には「メディアビジネスの転換を進めよう(提案)」、2023年には「メディアビジネスの転換が進む」、2024年には「D2Cなど広告以外のビジネスモデル転換が進む」と、ここしばらく同じようなことを言い続けています。

 2024年回顧にも書きましたが、重要なことなのでもう一度。広告に埋め尽くされ、広告の中に記事があるようなウェブメディアに、明るい未来はありません。断言します。それは私に言われるまでもなく、当のメディア運営者が一番良く分かっていることでしょう。いまは目先の売上を確保するために、広告を増やしてメディアの価値を棄損しています。ユーザーを不快にすれば逃げていく。当たり前の話です。

 また、プラットフォームへの依存度を高めることは、彼らに生殺与奪の権を握らせること。広告も、広告以外もです。プラットフォームをうまく利用し数年間は恩恵を受けても、突然の方針変更やアルゴリズムの変更によって、息絶えてしまったり瀕死の重傷を負ったメディアやサービスはたくさんあります。

 互いにメリットがあるなら、ビジネスパートナーとして良好な関係が続けられるかもしれません。しかし、外部環境含めさまざまな要因で状況は変化します。いつまでも同じ関係が続けられるとは思わないほうが良いでしょう。脱広告、脱プラットフォームが、メディアの今後の重要課題になると予想します。

 具体的には、サブスク(subscription:予約購読・定期購読)、記事のバラ売り、まとめて書籍化、イベント開催、関連の物販、寄付などです。定期刊行物ですから、ビジネスモデル的に相性が良いのはやはりサブスクでしょう。

 以前、紙の雑誌(コミック除く)は「このままのペースだと2031年にはゼロになる」と書きました35枕詞のように「出版不況」と言われるが、実態は「雑誌不況」である ―― デジタル出版論 第3章 第1節〈HON.jp News Blog(2022年5月18日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/33768
。つまりそれは、雑誌の流通があるから成り立ってきた「重出版」の営みを、あと数年で大きく転換しなければ間に合わないということです。

【書籍】読書バリアフリー対応

 主に「書籍」という切り口です。今年こそ、電子書店や電子図書館サービスでのアクセシビリティ対応が進むことを強く期待します。電書連は年末に、合成音声読み上げ(TTS)に絞った対応要請の声明を発表しましたが36読書バリアフリー法への市場での対応に対する期待(PDF)〈デジタル出版者連盟(2024年12月20日)〉https://dpfj.or.jp/sites/wp-content/uploads/2024/12/20241220_dpfj_release.pdf、私は電子出版市場を活性化させる意味でも、印刷版ページ番号情報関連の機能改善を推したいです。

 JEPAキーパーソン・メッセージにも書きましたが、リフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報が入ることは、EPUBアクセシビリティの日本産業規格 JIS X 23761 で求められている要件のひとつであるのと同時に、「授業での参照範囲指定時や論文への引用」といった一般的な用途にも役立ちます37リフロー型電子書籍に印刷版のページ番号が表示されない(できない)現状について〈日本電子出版協会(2024年6月1日)〉https://www.jepa.or.jp/keyperson_message/202406_6541/

【漫画】コンテンツ輸出の拡大

 主に「漫画」としていますが、エンタメコンテンツ全般という話になるでしょう。昨年も書いたように、民間はもちろん政府まで目の色を変えて取り組んでますから、あまり心配はしていません。ぜひ輸出でも成功事例をつくって、他ジャンルにも応用できるようにしてください。一般社団法人MANGA総合研究所によるマンガ・アニメIPのグローバル市場規模の、次の発表を楽しみにしています。

【教育】図書館の役割が重要化

 主に「教育」という切り口での予想です。前述のような「価値ある情報の多くがペイウォールの向こう側にある状態に」なったとき、情報格差の拡大が予想されます。すると、図書館の果たすべき役割はいままでよりもっと重要なものになるはずです。

 文部科学省はすでに、2012年に全面改正された公共図書館の運営基準を見直し、学校図書館との連携強化や地域書店と共存する仕組みの検討に入っています38公共図書館の運営基準を見直しへ…学校図書館との連携強化へ、地域の書店と共存〈読売新聞(2024年12月10日)〉https://www.yomiuri.co.jp/national/20241209-OYT1T50256/。昨年末には第1回会議が行われました。論点(案)としてあげられたのは、「デジタル社会への対応」「多様な人々のための読書環境の整備」「これからの子供の学びを支える読書環境の充実」「関係機関等との連携・協働の促進等」「今後の図書館・学校図書館に求められる人材の育成等」などです39図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議(第1回)配付資料〈文部科学省(2024年12月17日)〉
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/050/siryo/mext_00002.html

 いままでとはひと味違った方策がまとまることを期待しています。

【技術】サイバー犯罪は自分事

 主に「技術」という切り口での予想です。昨年は、KADOKAWAがサイバー犯罪に巻き込まれ、大きな影響が出ました。私も、いつやられるかわかりません。「明日は我が身」という意味も込めて「自分事」としました。

 実は、セキュリティー関連のニュースを追っていると、ランサムウエアによる攻撃はかなり頻繁に起きていることがわかります。フィッシング対策協議会によると、2024年のフィッシング報告件数は過去最多だったそうです4024年「フィッシング」最多 偽サイト誘導148万件〈日本経済新聞(2025年1月12日)〉https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE110FG0R10C25A1000000/

 文面作成に生成AIを悪用しているとか、自動送信システムで大量に送っているといった情報もありますが、本当に怖いのは標的型攻撃だと思います。どんどん巧妙になっているそうですから、狙い撃ちされたら私も引っかかってしまうかもしれません。

 なお、サーバー攻撃を完全に防ぐことは難しいので、最近は「サイバー攻撃を受ける」ことを前提に、攻撃の影響を最小限に留めつつ、迅速に元の状態に回復・復元する「サイバーレジリエンス(復元力)」という概念が注目されているそうです41セキュリティ強化の新たな概念を学ぶ – サイバーレジリエンスがなぜ重要なのか〈TECH+(2024年10月31日)〉https://news.mynavi.jp/techplus/article/security_resilience-N0LOEPCB/

2025年もよろしくお願いいたします

 ……というわけで、今年の予想も大苦戦して1月もすでに半分が過ぎてしまったわけですが、ようやく公開まで漕ぎ着けました。2025年も引き続きよろしくお願いいたします。

脚注

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著者について

About 鷹野凌 835 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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