「“生成AIが有料会員限定コンテンツをもとに回答”という日本新聞協会の主張にダウト」「学校読書調査」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #594(2023年11月5日~11日)

啓文堂書店 高幡店
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 2023年11月5日~11日は「“生成AIが有料会員限定コンテンツをもとに回答”という日本新聞協会の主張にダウト」「学校読書調査」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

日本新聞協会、著作権法の早急な改正を要望…AI無断学習容認で偽情報拡散の危険性も〈読売新聞(2023年11月8日)〉

 AI時代の知的財産権検討会(第3回) のヒアリングで、日本新聞協会が主張した内容についての報道……というか、第三者のようなスタンスに見えるけど日本新聞協会の主張をそのまま伝えるだけの「広報」になっています。それでいいんだろうか? 当事者ならではの伝え方というのもあると思うのですが。

AI時代の知的財産権検討会(第3回) 議事次第〈知的財産戦略本部(2023年11月7日)〉

 今回も傍聴しました。資料はこちらで公開されています。今回は日本マイクロソフトもヒアリングに呼ばれ、まるでCopilotとBingの売り込みのようなプレゼンをしていました。

 で、日本新聞協会の発表は、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第3回)のときの資料からほとんど内容は変わっていませんでした。冒頭に「生成AIのデータ収集(基本パターン)」という図示と、「生成AIは、学習データとして報道コンテンツを利用している」というワシントンポストの分析が追加されただけに見えます。

 法制度小委員会で盛大なツッコミを入れられた結果をどう反映するか? を密かに楽しみにしていたのですが、著作権法第30条の4但し書き解釈の明確化を「当面の対策」と位置づけたうえで、「改正も必要」という言い方に微調整が図られた程度でした。うーん、残念。そのため、同じようなツッコミをこちらでも再度食らっていました。

 私が法制度小委員会のときからとくに気になっていたのは、日本新聞協会の主張の一つ「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」が現実にあり得るのか? という点です。メディア側が自主的にそういうマークアップをしてGoogleにインデックス登録しているなら話は別ですが、通常は、ログイン認証が必要な場所へクローラーはアクセスできないはず(クローラーはcookieを保存しないのでログインできない)。

 だから以前、OpenAIのクローラーがペイウォールを迂回してコンテンツを収集していたようだ、という記事があったとき、私はそれは「恐らくペイウォールの実装方法の問題」「実はソースを見ると全文読めちゃう」ケースではないか? という指摘をしたわけです。

 しかし、日本新聞協会が「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」と主張して例示している毎日新聞のペイウォールは、そういう実装ではありません。少なくとも、未ログイン状態でソースを見たら全文丸見え、なんて状態ではありません。だから、おかしいなあ? と思っていたんです。

日本新聞協会が「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」と主張している生成AIの事例は適切か?〈HON.jp News Blog(2023年11月8日)〉

 で、検証してみた結果がこちら。例示されているスクショが、同じメディアから配信された近い事柄を扱う別の記事でした。これ、意図的にやっているなら誤認を誘う可能性がある悪質な行為だと思います。「左側のスクショは単に“ペイウォールのある記事”という例示(URLは正しい)」あるいは「間違えて別の記事のスクショを載せた(URLは正しい)」などの可能性もあるので、意図的だと断定はしませんが。

 ただ、検討会での質疑応答では、委員の方が「この回答はペイウォールの向こう側にある情報を使ってるのか?」とわざわざ確認しているんですよね。それに対し日本新聞協会の方は明確に「はいそうです」と回答しています。根拠レスで。そこは根拠を更問いして欲しかった。だって、ペイウォールの手前にある無料公開領域だけでSGEの回答は充分生成可能だと思うので。少なくともこの事例では「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」という主張の妥当性は強く疑わしい、と言わざるを得ないです。

報道のコスト、誰が負担? 「ただ乗り」で取材者がいなくなる懸念〈朝日新聞デジタル(2023年11月8日)〉

AI記事の「ただ乗り」防ぐには? 著作権で対応は限界、識者が指摘〈朝日新聞デジタル(2023年11月9日)〉

ニュースは民主主義に不可欠 持続可能な流通と対価の仕組みを〈朝日新聞デジタル(2023年11月10日)〉

 読売新聞が(少なくともウェブに公開されている範囲では)ほとんど日本新聞協会の広報機関みたいな状態になっているのに対し、「専門家に意見を聞いてみた」というアプローチの朝日新聞は、当事者自身が報じるスタンスとして正しいように感じました。日本新聞協会の主張に沿わない意見もきっちり載せているんですよね。実に正しい。

 たとえば著作権法30条の4の改正について、神戸大・木下昌彦教授は「私は、それで何とかなる問題ではないと思っています」と、早稲田大学・上野達弘教授は「外国企業の活動には、ほとんど影響がない」と、どちらも否定的です。

 これ、文化審議会著作権分科会法制度小委員会で「30条の4の悪用事例が提示されていない」と指摘されたにも関わらず、その後のAI時代の知的財産権検討会でも主張が変わらず「30条の4の改正を望まれるのであれば、30条の4の悪用事例を提示しないと議論が空転しますよ」と指摘されているんですよね。恐らく、このアプローチは無理ですよ。

 AI時代の知的財産権検討会では「著作権が守らない“事実の報道”をするために払った労力を保護して欲しいのか?」と、助け船のような質問もありました。著作物では否定されている「額に汗(Sweat of the brow)」法理を、著作権法とは別の枠組みで目指すような方向性でしょうか。確かにそのほうが遠回りのようで実は近道かも。

記者の目:有害図書規制のあり方 「偏見」で指定していないか=小川祐希(仙台支局)〈毎日新聞(2023年11月8日)〉

 有害図書規制のあり方について、特集でインタビューを連載していた毎日新聞の記者自身からの問題提起です。審議会の委員に、同性愛への偏見や、実際には減少している少年犯罪の増加という思い込みがある、そして我々自身も「行政による規制を無批判に受け入れている」などと指摘しています。特集の締めくくりとして、非常に良い記事だと思いました。

生成AIの学習に政府保有データを提供へ、国会図書館の蔵書や国の研究データも対象〈日経クロステック(2023年11月8日)〉

 AI戦略会議のほうは熱心に追っていなかったのですが、政府としてAIを活用する方向へアクセルをさらに踏み込んだ感があります。ただ、念のため指摘しておくと、国立国会図書館デジタル化資料のOCRテキストは、以前から機械学習目的での提供は可能と告知されています。

 このNDLラボの記事には日付がありませんが、WARPの保存日で一番古いバージョンが2022年12月2日で、その時点から「当館との協議のうえで著作権法上認められた範囲内での利用(著作権法第30条の4の規定による機械学習目的など)に限り、当館と書面を取り交わした上で提供することが可能です」と明記されています。

 つまり、国立国会図書館については現行法の枠組みで対処可能であり政治判断は必要としないが、それを改めて明確化した、ということになるでしょう。

社会

台湾・文化部、図書館における電子書籍の貸出促進支援策を2023年9月から開始:最初の1か月の利用者数は約80%増〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年11月8日)〉

 いきなり80%増って、どんな施策なんだろう? と興味を持ちました。台湾・文化部の元記事は繁体字なのでGoogle翻訳の助けを借りてみたところ、従来は地方自治体の予算の都合で電子書籍貸し出しが「有限量(制限されていた)」だったのを「免受限、免等待(無制限かつ待ち時間なし)」に変更した、とありました。無条件で「無制限かつ待ち時間なし」に変えることは権利者側が許さないと思うので、予算措置・対価還元を前提とした施策と思われます。「藉由文化部點數加碼(文化部による加点)」という記述がそれかな?

全国学校図書館協議会、「第68回学校読書調査」の結果を公表〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年11月10日)〉

 毎年恒例。不読率は、小学生は6.4%→7.0%とほぼ横ばいですが、中学生は18.6%→13.1%、高校生は51.1%→43.6%と、けっこう大幅な下落傾向です。善哉。とくに中学生は、昨年わりと急増していたので心配だったのですが、下がって良かった。

経済

GoogleがAdsense広告を2024年に「クリック単価」から「インプレッション単価」に移行へ〈GIGAZINE(2023年11月7日)〉

 けっこう大きな変更だと思うのですが、日本語圏だとGIGAZINE以外に報道が見つけられない……ただ、ソースはGoogle公式(日本語版がない)なので、間違いないでしょう。パブリッシャー側からのアクションはとくに必要ないとされているようですが、誤タップや誤クリックを誘うような広告配置をしなくてよいという、ユーザーにとって好影響がありそう。ただ、極小のウィンドウに表示させてインプレッションだけ稼ぐという手法のアドフラウドは増えそう。ちゃんと対策できればいいのですが。

NYタイムズ、有料読者1000万人突破〈日本経済新聞(2023年11月9日)〉

 あれ? なんか既視感があると思ったら、以前は契約件数でのカウントだったそうです。「電子版やパズルなど複数のサービスを契約している読者」を複数のままではなく「1人」としてカウントする方式に移行した、と。なるほど。

  AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議の記事にはもう少し細かい数字が出ています。「ニュースのみの購読者は111万人減少。印刷版の購読者は67万人で、前年同期から7万人減となった」そうです。

 つまり、新聞社として好調というわけではなく、ニュース離れ、紙離れの傾向を、ゲーム(Wordle)やレシピ(NYT Cooking)など隣接する事業で補っている、ということなのでしょう。書店で文房具や日記帳を売るのと似てる。

韓国ネット2強ネイバーとカカオ、漫画で陣取り合戦 日本起点に世界へ〈日本経済新聞(2023年11月9日)〉

急速に成長しているデジタルコミック「Webtoon」の成り立ち–マンガとどう違うのか〈CNET Japan(2023年11月10日)〉

深掘り! 韓国漫画の世界|第1回 日本の誤解・疑問に応える〈新文化オンライン(2023年11月10日)〉

 ウェブトゥーン関係で取り上げたいと思う記事がここしばらくなかったのですが、いきなりほぼ同時に別々のメディアから3本出ました。いやあ、そんな偶然あるんですね。なお、CNETと新文化は連載です。

 日経の「作家の取り分が10%程度の日本の慣行に一石を投じる形となっている」という記述には疑問符を付けたい。それ、紙の話ですよね? 電子の出版社直販はもちろん、電子取次・電子書店経由でも、作家の取り分はもっと多いという認識です。

 あと、これも何度も言い続けていますが、日経が引用しているMMD研究所の調査は「コミックアプリ・サービス」だけに限ってますので、Amazon Kindleや楽天Koboといった総合型電子書店は選択肢に入ってません。

 インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2023』の調査では総合型も選択肢に入っており、「購入・課金したことのある電子書籍サービスやアプリ」では1位Kindleストア、2位LINEマンガ、3位楽天Kobo、4位ピッコマの順です。

 出版社が「LINEマンガとピッコマに後れを取っている」というのも、ちょっとおかしな話だと思うのですよ。LINEマンガとピッコマって、出版社から預かったコンテンツを販売するお得意先でもあるわけですから。「紀伊國屋書店とジュンク堂に後れを取っている」とは言いませんよね?

書協「ブックイベントナビ」がプレオープン〈文化通信デジタル(2023年11月10日)〉

 記事を読んで「そのプレオープンしたサイトはどこ?」となりました。あえてリンクを貼っていないのでしょうか。不思議。その「Book Event Navi」はこちらです。フッターに「運営事務局:株式会社角川メディアハウス」とあります。なるほど。

 なお、トップページに「イベント登録書店受付開始!」というバナーが出ていますが、「現在のところユーザー登録が可能な書店は、共有書店コード(JPO共有書店マスタ管理センター)を所持している書店のみに限らせていただいております」とのことです。あくまで「書店イベント紹介サイト」というスタンスなのですね。

出版取次の日販、コンビニ雑誌配送を25年初めに取りやめ…書店配送への影響に懸念も〈読売新聞(2023年11月10日)〉

 既報の専門紙より詳しい内容はありませんが、一般紙まで報じるのはちょっと意外だったのでピックアップしました。コンビニでの出版物販売額が激減していることを示すグラフ(出典:日販『出版物販売額の実態2022』)がちゃんと示されていてわかりやすいです。

【日販、CVS配送から撤退】奥村景二日販社長に聞く 混乱ないよう引継ぎまで物流請け負う ブックセラーズ&カンパニーで新たな取次モデル〈文化通信デジタル(2023年11月9日)〉

 その読売新聞で「書店などほかの出版流通への影響が懸念」がされていることなどについて、日販の社長がインタビューに答えています。紀伊國屋書店、CCCとともに設立したブックセラーズ&カンパニーで日販は物流に徹し、手数料収入という新たなモデルにチャレンジすること、そのうえで書店流通全体を持続可能にすることが日販の使命、などです。なお、ローソン「マチの本屋さん」は、今後も継続していく方向で協議しているそうです。スリーエフ時代からのユニークな試みなので、ぜひ続けて欲しい。

技術

写真を4枚並べた投稿を装いスパムサイトに誘導するポスト、X(旧Twitter)で増殖中【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2023年11月6日)〉

 X(旧Twitter)でURLを投稿すると表示されるサムネイルを、画像4枚を投稿したときと同じ見た目になるようにして、誤タップを誘うという手法です。なんてずる賢い……判別方法は左下にドメイン名が表示されているか否かだけなので、注意深くチェックしていないと私でも引っかかりそう。

 こういう騙しのテクニックが横行するようになると、ユーザーが警戒してリンクを踏まない(つまり外部へのアクセスが減る)方向へまっしぐらだと思うのですよね。いままでは単純に「タイムラインで大きく表示されて目立つ」からカードタイプを summary_large_image に設定していたメディアが多かったと思うんですよ。うちもそうでした。

 でも、仕様変更された直後に「目立たなくても、誤認されるよりマシ」と思い summary に変えました。ちゃんとリンクだということがわかりやすい summary のほうが、かえってアクセスされやすくなるかも?

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雑記

 最高気温が一気に10度くらい下がって、急に“寒い”季節が到来しました。体調にはくれぐれもご注意ください。私は慌てて毛布を引っ張り出し、部屋着も長袖長ズボンに変えました。もうしばらくしたら暖房器具が必要になるでしょうね(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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