「Meta、ファクトチェックを止めコミュニティノートモデルへ移行表明」「ドラゴンマガジン休刊、ウェブメディア『メクリメクル』創刊」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #648(2025年1月5日~11日)

第一法規株式会社
noteで書く

《この記事は約 16 分で読めます(1分で600字計算)》

 2025年1月5日~11日は「Meta、ファクトチェックを止めコミュニティノートモデルへ移行表明」「ドラゴンマガジン休刊、ウェブメディア『メクリメクル』創刊」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

「トランプ2.0」はビッグテックに追い風、2025年の米国政治とITの関係を予測〈日経クロステック(2025年1月8日)〉

 対中国という観点で考えると、確かにビッグテックを必要以上に追い詰めるのは得策ではない、という判断になるかもしれません。1期目ではビッグテックへの規制を声高に主張していましたが、司法省が動いたのはバイデン政権時代ですもんね。AIに関してはすでに、バイデン氏の出した安全性に関する大統領令を破棄すると言っているみたいですし。

GoogleとMicrosoftもトランプ氏に100万ドル寄付〈ITmedia NEWS(2025年1月10日)〉

 そして、揃いも揃って、2期目は帰順の意を示しているわけです。まあ、経営的観点からすると「4年間我慢すれば済む話だ」と割り切っているかもしれませんけど。

ワシントン・ポスト紙の風刺漫画家が辞職、ベゾス氏やトランプ氏めぐる作品掲載拒否で〈CNN.co.jp(2025年1月5日)〉

 で、そんな姿勢を皮肉る風刺漫画が編集判断で止められてしまい、漫画家が辞表を叩きつけたという痛快な事件も起きています。

メタ、AI訓練に海賊版書籍を使用か 作家たちが新証拠を提示し訴訟拡大〈Reinforz Insight(2025年1月10日)〉

 MetaがAIの学習に使ったデータセット「Books3」に海賊版が含まれていたという指摘は以前からあったのですが、今回のこれはまた別件です。「LibGen」というデータセットが、海賊版作品を含んでいることをMetaが認識していたこと、そのうえでザッカーバーグCEOが学習用での利用を承認していたことが、内部からの情報リークにより明らかになったとのこと。これぞまさに公益通報ですね。素晴らしい。

社会

生成AI翻訳の先に見る「あどけない夢の話」|JEPA会長 松田真美〈日本電子出版協会(2025年1月6日)〉

 そう! 平野暁人氏の「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」は、この最後の「夢の話」が良いんですよ。でも「長さ」とか「文体」の問題で、ここまで辿り着く前に脱落してる人がけっこう多い印象です。ただ単に「生成AIに仕事を奪われました」という愚痴だけではないんだけど、そういうふうにしか捉えられていない人も散見されます。

 複合的な要因で翻訳の仕事がなくなっていったという話なのに「話があっちこっち飛んでて読みづらい」などとも言われてしまってます。ものすごく拡散して話題になったけど、実にもったいない読まれ方(というか読まれてない)をしています。まあ、編集者視点で言うと、見出しがあれば多少は違ったかも? とは思いますが。

メタのファクトチェック終了 日本の監視議論に後退懸念〈日本経済新聞(2025年1月8日)〉

 そうか、日本では昨年9月にリトマスと提携してファクトチェックを始めると発表したばかりでしたね。とりあえず今回の終了措置はアメリカだけみたいですが、どうなることやら。もっとも、ただ単に止めるというだけではなく、X(旧Twitter)のコミュニティノートと同じような仕組みを導入していくという話なので、その出来次第かなという感じではあります。

 X(旧Twitter)のコミュニティノートは、多数派工作がしづらいように考えられた仕組みになっていたりして、オーナーが変わって以降の変化の中では数少ない「良い」点だと思っています。もっとも、これはジャック・ドーシー氏の置き土産で、イーロン・マスク氏は単に名前を変えて正式サービス化しただけなんですけどね。

経済

生成AIでクローン書籍が無限増殖する?:2025年の大ピンチ図鑑2〈オーディオブックファンクラブ(2025年1月5日)〉

 日本語のKDPもこんな状態になっちゃってるんですねぇ……最近ウォッチしてなかったから、気づきませんでした。まあ、こういう類似本って昔から取次書店流通でもたくさんありましたけどね。生成AIだと真似っこ生産コストが遥かに低い点が問題になるわけです。

Crunchyroll is launching a new Manga App for iOS and Android(クランチロールがiOSとAndroid向けの新しいマンガアプリをリリース)〈Good e-Reader(2025年1月6日)〉

The original Crunchyroll Manga app had been around since 2013 but was sunsetted in late 2023.(オリジナルのクランチロール・マンガアプリは2013年から存在していましたが、2023年後半に廃止されました)

 そうなんですよ。ソニーグループ入りする前からやっていたのに、止めちゃったんですよね。だから今回のこれは、再出発ということになります。恐らくソニーグループ入りしたことを活かして、以前とは違う仕組み、違う仕入れ元に切り替えていくのでしょう。ソニーのReader Storeは北米から2014年に撤退しているので、ブックリスタ系で再上陸するのか、資本提携したばかりのKADOKAWA(ブックウォーカー)を使うのか、はたまた、ぜんぜん別系統でいくのか。

 ところで、数土直志氏がアニメーションビジネス・ジャーナルでこんなことをおっしゃっていて、ちょっと首を傾げてしまいました。

ひとつは出版社の垣根を越えたプラットフォームがないことである。現在、海外向けのマンガ配信では、集英社・少年ジャンプの運営する「MANGA Plus」、講談社の「K MANGA」、KADOKAWAの「BOOKWALKER」などがある。しかし、いずれも運営会社の作品を中心としており、そのサービスで日本の主力マンガ全体をカバーするわけでない。

 挙げられている中で少なくとも「BOOK☆WALKER Global」に関しては「垣根を越えたプラットフォーム」と言っていいと思うのですけどね。「Publishers」のメニューから確認できますが、Kodansha 647点、VIZ Media(小学館・集英社・ShoPro)502点、KADOKAWA 93点、Yen Press(KADOKAWAとアシェットの合弁)597点なので、運営会社の作品だけ突出して多いわけではありません。

 ただ、いずれも3桁程度とあまり多くないところは気になります。「K Manga」や「VIZ Manga」は配信点数がわからないので、「BOOK☆WALKER Global」に配信していない作品がどれくらいの点数あるか、すぐにはわかりません。

 あと、名前の挙がっていないところでは、NTTソルマーレの「MangaPlaza」や、アムタス「めちゃコミック」の北米版「Comicle」も、恐らく「出版社の垣根を越えたプラットフォーム」でしょう。存在を忘れられないよう、日本でも積極的に広報して欲しいところですね。

関係性開示:ブックウォーカーには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

【新春インタビュー】新聞社を超える新聞社へ 読売新聞グループ本社・山口寿一社長に聞く〈The Bunka News デジタル(2025年1月6日)〉

【新春インタビュー】「寄せる大波」に対応 「朝日新聞のブランド力をアップさせる」 朝日新聞社・角田克社長に聞く〈The Bunka News デジタル(2025年1月6日)〉

 読売新聞社も朝日新聞社も「不動産」について語っている分量がけっこう多くて、新聞社の実態を感じさせられます。読売新聞社はとくに築地再開発関連(ドーム移転)の話が多いです。あと、朝日新聞社の角田克社長が「朝日新聞社のど真ん中、基幹が紙の新聞であることは間違いありません」とか「新聞社はメディアでありますが、メーカーでもあります。紙という形で読者の元に届かなければ無価値です」なんてことを言っていて、うひょーと思いました。

 いや、まあ、業界紙のインタビューだから新聞販売店に向けた言葉なんでしょうけど、これは「朝デジ」つまり有料デジタルで30万超に届けているぶんまで「無価値」と言ってしまってるわけですよね。それって、有料で契約している読者を愚弄してませんか? 有料デジタルの契約が伸びないのは、社長がそんな姿勢だからでしょう。

【下山進=2050年のメディア第43回】週刊ダイヤモンド書店売り廃止の衝撃!サブスク特化へ〈AERA dot.(2025年1月7日)〉

書店や取次の反発はないのだろうか? こう聞くと麻生は、こう答えた。「丁寧に説明をしていきます。うちは書籍が強い。こちらで儲けてください、と」

 本件のプレスリリースが出たとき私は「書籍は引き続き取次・書店ルートを使うから大きな問題にはならない?」と書いたんですが、予想通りでした。そして、具体的な数字が挙げられているので、いろいろ合点がいきました。

 有料デジタル購読者数4万3049に対し、紙の書店売りが1万6862部、紙の定期購読が3万1779部。つまり現状すでに、有料デジタル購読者数のほうが紙の定期購読より多く、書店売りは2割以下です。その状態なら紙の書店売りを止めるのは納得できます。紙の定期購読は、恐らく今後も Fujisan.co.jp をそのまま使うのでしょう。

講談社のグローバル担当が語る、マンガのデジタル化とグローバル化が変えたミライのエンタメビジネスのあり方とは?〈講談社C-station(2025年1月8日)〉

当時は、読者アンケートや書店店頭のPOSデータをもとに編集方針や販売方針を考えていましたが、2016年くらいに、従来の基準だけでは作品の人気が測れないような感覚が生まれてきたのです。紙の売り上げは伸びていないのに、電子版はすごく売れているというケースが見られ始めて、「あれ? これ、POSの数字だけ見て連載の先行きを決めるのは危ないんじゃないか?」みたいな。

 2017年の初頭に「電子書籍の購入は作家の応援にならない」云々という記事が出て猛反発したことを思い出しました。当時、反論記事まで書いたのですよね。この証言により、少なくとも講談社には2016年の時点で「POSの数字だけ見て連載の先行きを決めるのは危ない」という感覚がちゃんと芽生えていたことが分かります。8年越しの答え合わせができました。もっとも、そういう感覚が生じるのは「マガポケ」で直販していたから、とも思いますけど。

KADOKAWAのライトノベル/新文芸領域がメディア戦略を一新! 今春新メディア「メクリメクル」スタート | 商品・サービストピックス〈KADOKAWAグループ ポータルサイト(2025年1月9日)〉

 唯一残っていたライトノベル誌がついに休刊。お疲れさまでした。集約してウェブメディアに移行とのことですが「読者のみなさまとのコミュニケーションの場として整備する所存です」あたりの記述がポイントでしょうか。と思います。つまり「G’sチャンネル」のようなファンコミュニティビジネスをこちらでもやるのかな? と。

 あと、プレスリリースで挙げられている「アニメ」「マンガ」「イベント」「音楽」「声優」というジャンルと、KADOKAWAの雑誌・ムック一覧を見比べて、今後どこが集約されていくのかを想像してしまいます。マンガ連載には「カドコミ」がありますので、アニメ誌・ゲーム誌あたりがどう絡んでくるか? でしょうか。ん? 音楽? などなど、いろいろ考えてしまいました。

『ラブひな』作者のマンガ図書館Z 唐突な決済代行停止でサイト閉鎖〈日経ビジネス電子版(2025年1月10日)〉

 日経ビジネス「敗軍の将、兵を語る」にマンガ図書館Zが登場です。といっても赤松健氏ではありません。「Jコミックテラス代表取締役 乙川庸之氏」と記されていて驚きました。「24年12月から現職」なのですね。おめでとうございます……でいいのかしら?

 しかし、これは日経ビジネスの編集が良くないのかもしれないのですが、「作家の許諾を得て広告を挿入し、広告収入を作家に還元する方式です」と「大半の決済サービスを利用できなくなり」のあいだの説明が飛んでいて、知ってる人じゃないと意味がわからない状態になっているように思います。ユーザーが無料で閲覧できる広告モデルだけなら決済サービスは不要なはずですから。

 決済サービスが必要なのは、ローカルに保存できるソーシャルDRMの高画質PDFを販売していたのと、有料会員限定で提供されているコンテンツやサービスがあったからです。とくに、有料会員向けのサービスは、私もそうですが、初期のメルマガ時代からお布施のつもりで契約している人も多かったのでは。それが毎月定期的な売上として、マンガ図書館Zの経営を支えていたはずなのです。

 その決済を断たれてしまった。これは経営上、非常に痛かったはず。さらに、その売上2カ月分の支払いを半年留保するというのは、あまりに鬼畜な所業と言えるでしょう。

海外企業、AI学習目的で日本の画像触手 「安すぎる」単価提示〈日本経済新聞(2025年1月11日)〉

 まあ、「提示される購入価格は1点数十円と従来の100分の1以下」というのは、さすがに馬鹿にされていると感じちゃいますよね。用途が違うので同じ額というわけにはいかないでしょうけど、生成AIが学習により賢くなるほどストックフォトのようなサービスは不要になっていくという側面もあるので、適正価格がどの辺りなのか? は難しいところです。

技術

GoogleがChrome向け「AIによる詐欺検出機能」を開発中〈ライフハッカー・ジャパン(2025年1月7日)〉

 この記事を読んで思い出したのですが、ウェブメディアによく採用されている「通知を受け取る」系のポップアップを操作ミスで「受け取る」ほうをクリックしてしまったら、Chromeが自動的に「いつもは『ブロック』を選択しているので、ブロックしておきます」みたいなメッセージが出てきてびっくりしたことがあります。そうやってブラウザ側でユーザーの危うい動きを自動制御してくれると、いろいろ助かりますよね。「監視されているようで怖い」と感じる方もいるとは思いますが。

XにおけるAI学習の拒否設定、自動解除され許可状態に戻る現象が発生し波紋【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年1月10日)〉

 この記事を読んだ直後に念のため確認してみたら、私の個人アカウントはモロにこれが起きてました。設定できるようになったタイミングで、いちおうチェックは外しておいたはずなんですよね。もう新規で投稿はしていないのであまり意味はないなと思いつつ。でも、チェックが入った状態に戻っていて、もう一度チェックを外してもその状態は保存されず、またチェックが入った状態になってしまいました。

 面白い(面白くない)ことに、同時に設定を変えたHON.jp News Blog、NPO法人HON․jpのアカウントは無事でしたが、NovelJamは私のアカウントと同じ症状でした。ただ、本稿執筆時点で確認したら、チェックは入ったままでしたが、外したらその状態は保存されるようになっていました。ただのバグだったということでしょう。しかし、よりによってピンポイントでこの設定にバグが出るなんて、偶然にしてもなかなか皮肉なことで。

お知らせ

新刊について

新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』12月1日より各ネット書店にて好評販売中です。1月からKindle Unlimited、BOOK☆WALKER読み放題、ブックパス読み放題にも対応しました!

「NovelJam 2024」について

11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。

HON.jp「Readers」について

 HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。

日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。

雑記

 じつは年末にギックリ腰をやってしまい、無理して帰省したけどほとんど身動きがとれない状態でした。東京へ戻ってきて、一時期に比べたらマシにはなってきましたが、長い時間同じ姿勢でいられないこともあり、毎年恒例の2025年予想の原稿が終わっていません。JEPAセミナーが先になっちゃった。とほほ。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

noteで書く

広告

著者について

About 鷹野凌 834 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

コメント通知を申し込む
通知する
0 コメント
高評価順
最新順 古い順
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る