《この記事は約 13 分で読めます(1分で600字計算)》
2024年10月20日~26日は「リワード広告を批判する記事にリワード広告が出る集英社オンライン」「朝日出版社、M&Aでトラブル」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
米国出版協会(AAP)、生成AIの学習のために創作物を無許諾で使用することに反対するオンライン署名活動に賛同を表明〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年10月24日)〉
この数日前に、ペンギンランダムハウスが書籍の著作権ページにAI警告を追加したというニュースがありました。こうして意思表示をしておくことにより、今後の訴訟に備えるという意味もあるのでしょう。まあ、アメリカは訴訟社会ですからね。AI学習がフェアユースか否かは、裁判で判断されることになります。
日本の場合、本欄でも何度もお伝えしてきたように、著作権法第30条4によりAI学習(思想又は感情の享受を目的としない利用)は原則、無断でできます。問題は「AI学習禁止」と書いてあった場合に、法律の権利制限規定より契約が優先されてしまうような「オーバーライド(上書き)条項」が有効なのかどうかが現時点では不明なところ、でしょうか。
VTuber事務所運営のカバーに公取委が勧告 クリエイターと不当取引〈日本経済新聞(2024年10月25日)〉
下請事業者にリテイクを無償で計243回やらせていたということで、違反認定されました。これ、現段階では下請法だから親事業者・下請事業者の資本金要件がありますけど、11月1日から施行のフリーランス法には資本金要件がありませんからね。とくにいままで対象外だった資本金1000万円以下の中小出版社も規制対象です。要注意ですよ!
社会
書き手にとって編集者は教師? ママ? それとも敵? NovelJam関係者が語り合う【HON-CF2024レポート】〈HON.jp News Blog(2024年10月22日)〉
出版ジャーナリストの成相裕幸氏にレポートいただきました。編集者は著者にとってどういう存在であるべきか? きっと人によって最適解は変わるのでしょうけど、どうあるべきか? は自らに問い続けたい。
記者の目:ネット上あふれる「エロ広告」 社会全体で対応策議論を=町野幸(経済部)〈毎日新聞(2024年10月25日)〉
こういう過激な広告って、おおむねゲームか電子コミック系ですよね。目を引きやすいよう「わいせつ」と判断されないラインギリギリを狙ったクリエイティブをちょくちょく見かけます。「業界のガイドライン策定など一定の規律作りに乗り出すべきだ」と言われちゃってますねぇ……。うーむ。
フィクションの中のセリフが人と社会を傷つけるとき ― 漫画「島耕作」問題を考える(志田陽子) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年10月22日)〉
漫画「島耕作」における「日当」表現 何が問題だったか――当事者性の観点から(志田陽子) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年10月24日)〉
「島耕作」における「日当アルバイト」発言を、民主主義のプロセスから考える(志田陽子) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年10月25日)〉
不適切表現において修復すべきものと塞ぐべきでないもの――漫画「島耕作」問題の教訓をどこに見るか(志田陽子) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年10月25日)〉
志田陽子氏(武蔵野美術大学教授)による長文論考。どれもおっしゃる通り。もう、さすがの一言です。ちなみに連投に見えるのは「必要な論点をカットせずに書いていったら2万字の論説になってしまったので、5000文字ずつに区切ってテーマごとに分けて投稿しているから」だそうです。
さまざまな論点がありますが、私は最後の「塞ぐべきでないもの」が最も重要だと感じました。「このテーマを扱うと燃えるから触れないでおこう」みたいにテーマで塞いでしまうことは、あってはならないと思います。
あと、志田氏に対し「漫画のことなどで法学者が目くじらを立てて、執拗に何本も投稿するとは大人げない」という趣旨の意見や助言がいくつかあったとのこと。私がこんなこと言われたら、その場で「大人げないと思われても結構です」と言い返してしまいそう。「漫画のことなどで」などと特定ジャンルを蔑み軽んじるような意見に耳を貸す必要はないでしょう。
「AIゴーストライター」が侵食する創作市場 編集委員 瀬川奈都子〈日本経済新聞(2024年10月25日)〉
デジタル出版の領域で言えば、たとえば「Kindle Unlimited」がAI美女写真集だらけになっている、みたいな状況の話です。HON-CF2023著作権セッションのレポートにも書きましたが、こうした生成AIによる「情報量の爆発的な増大」は決して想定外ではなく、予想されていた未来なんですよね。
とはいえ「あー、こういう事態が起きるのか」という驚きはありますが。基本なんでもありの投稿サイトなら大きな問題にはならないでしょうけど、作品を審査するコンテストなんかだと量に圧倒されゲートキーパーが機能不全になってしまう可能性を考慮しなければならないわけですよね。頭痛い。
経済
「異世界居酒屋『のぶ』」マンガ担当のヴァージニア二等兵氏、最新19巻に特典がつかないことを明言〈MANGA Watch(2024年10月21日)〉
直接的には本件がきっかけでしょうか。マンガ単行本の表紙絵にギャラが出ない(印税に含まれている扱い)問題について、『はじめの一歩』の著者・森川ジョージ氏や『映像研には手を出すな!』の著者・大童澄瞳氏などを中心に議論が起きています。
ちなみにヴァージニア二等兵氏はその後、編集長と話し合って「全て納得する形で解決」したそうです。「約束を反故にされたという言い方は過剰でした」ともあり、当該発言はすでに削除されています(MANGA Watchの記事には残骸が残っています)。うーん……論評は控えます。
市販No.1のビジネス経済誌『週刊ダイヤモンド』が「サブスク雑誌」として30年ぶりの大幅リニューアル!〈株式会社ダイヤモンド社のプレスリリース(2024年10月22日)〉
「サブスク雑誌」がなにを意味するのか明示はされてませんが、要するに「取次・書店ルートを飛ばします宣言」ということになるのでしょうか? 「日経ビジネス」や「ハルメク」のような先行事例もあります。デジタル有料会員が4.3万人と、すでに収益の大きな柱になっているから思い切った手が打てるというのもあるでしょう。自社で直接やるのか、あるいは、Fujisan.co.jpで販売するのか。書籍は引き続き取次・書店ルートを使うから大きな問題にはならない? など、さまざまなことを考えさせられました。
ウェブメディアで氾濫する「変な広告」の正体…なぜ記事を読みたいのに動画を視聴させられるのか「このままだと、ヤバい」〈集英社オンライン(2024年10月22日)〉
この記事は鈴木聖也著『最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?』(星海社)からの抜粋・再構成なのですが、記事内で批判されている「ページネーション」「フルスクリーン広告」「動画視聴を強いられるリワード広告」のオンパレードで、自虐かな? と思いました。
もしかしたら集英社オンライン編集部の方も、書かれている内容には同意しつつ、稼がなければいけないからツッコミが入るのはわかった上であえてやっているんでしょうか。そしてその目論見通り、私含め相当数のツッコミが観測され、そこそこ話題になっていました。
現状、インターネット広告は嫌われすぎて、無料で閲覧するユーザーへの罰みたいになってますよね。恐らく次のステップは、YouTube Premiumみたいに「お金を払うと広告が出なくなる」方向でしょう。ちなみにHON.jp News Blogは、ユーザー登録(無料)するだけで広告が出なくなります。まあ、そもそも運用型広告を止めてますから、不快な広告は出ませんけどね。
朝日出版社「経営陣全員クビ」 M&Aでトラブル、労組はスト権確立〈朝日新聞デジタル(2024年10月22日)〉
朝日出版社でM&Aのトラブル。先週の時点で社告や労働組合からのお知らせは確認していましたが、第三者からの報道待ちで取り上げるのは控えていました。オーナー経営者(創業者)が遺族とは長く別居状態だったうえ、遺書を残さず亡くなっているとのこと。つまりこれは「後継者問題」ということなのでしょう。
hiroyama氏のnoteがわかりやすかったのですが、遺族からすると喫緊の問題として「相続税」があるため、急いで買い手を見つける必要があったと。最初に提示された額が安すぎた、とか、印刷会社による10億円での買収提案が蹴られた、といったあたりは「急ぐ必要があったから」で説明がつくように思います。
他にも、新役員が会社に来ないといった不可解な部分もありますが、遺族やFA・買い手の声が出てこない以上、外部からはなんとも判断できない部分ではあります。ここから得られる教訓は、オーナー経営者は後継者問題を早めに片付けておこう、でしょう。
【詳報】第77回新聞大会 研究座談会 パネルディスカッション第1部「新聞は生き残れるか」〈The Bunka News デジタル(2024年10月24日)〉
若い人たちにとって「ネットフリックス」が月1000円前後で見られるのに、新聞の毎月4000円以上の購読料は高すぎると感じるのではないか
この発言には首を傾げてしまいました。朝日新聞デジタルのベーシックコース(紙なし)は月額税込980円で有料記事が月50本まで読めます。私はこれを契約してますけど、毎月50本まで使い切ったことはないです。充分。また、毎日新聞デジタルのスタンダードコース(紙なし)は月額税込1078円で、こちらに本数縛りはありません。
購読料の高さだけが問題なら、これらの契約がドーンと伸びていても良いと思うのです。でも、そういう景気の良い話は聞こえてきていません。つまり購読料だけの問題ではない、ということです。まあ、紙とセットでしか契約できない読売新聞や産経新聞は、「紙なし」で契約したいユーザーを排除している時点で論外ですが。
技術
「Facebook」などで著名人かたる詐欺広告、Metaの新たな対策は「顔認識」〈CNET Japan(2024年10月22日)〉
「あれ? Facebookって以前から顔認識システム持ってなかったっけ?」と思って調べてみたら、2021年11月の「顔認識の利用を中止へ」という記事が掘り出せました。以前は勝手にタグ付けされ、しかも別人みたいなことがよくありました。今回のこれも、きっとまた誤BANが出たりするんでしょう。
グーグル検索のトップが交代、新トップは収益増加よりもUX改善を優先?【SEO情報まとめ】 | 海外&国内SEO情報ウォッチ〈Web担当者Forum(2024年10月25日)〉
「あれ? 検索部門のトップって『Google検索を殺した男』などと批判されてた人?」と思ったら、ズバリその人でした。表記が「プラバッカー・ラガバン」と「プラバカール・ラガバン」で微妙に違いますが、日本語化(カタカナ表記)する際に揺れただけでしょう。
「Google検索を殺した男」では、Googleがメタクソ化した要因として「Googleの全盛期を支えた古参Googlerであるベン・ゴームズが、コンピュータサイエンティストからマネージャーに転身したプラバカール・ラガバンとの闘争に敗れた」ことが挙げられていました。
ところが新任トップのニック・フォックス氏は「特にユーザー体験の向上を重視してきた人物」なのだそうです。これは良いほうに変わることが期待できそうです。
お知らせ
「HON-CF2024」について
0月31まで販売! デジタル・パブリッシングの可能性と課題について議論するオープンカンファレンス「HON-CF(ホンカンファ)2024」の映像アーカイブがご覧いただけるリモートチケット・学割チケットは、下記URL(Zoom Events)よりご購入ください。
HON.jp「Readers」について
HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。
日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。
雑記
本稿を執筆しているのは、衆議院選挙の投票日です。「選挙のお知らせ」が部屋の中で行方不明になってしまったのですが、なくても投票できると聞いていたので午前中に行ってきました。受付で手になにも持たず「あの、」と言った瞬間「こちらへどうぞ」と後ろへ案内されました。慣れてる感じ。無事、投票できましたよ!(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。
昨年から書店を国や自治体が支援する方策の一つとして図書館の地元書店からの購入要望があがっていますが、なぜ購入していないのかの報道が不十分だと感じています
第一の理由は、書籍の再販価格維持制度が自治体には適用されないとの公正取引委員会の判断があり、そのため自治体では他の物品と同様に一番価格の安い業者から購入しています(私の知っている範囲ですが大都市の自治体では装備費用を含めても5%程度値引きがあります、年間の購入予算が5千万円だと250万円分多くの図書を購入できます)
また、多くの公立図書館で購入する図書には、請求ラベルやバーコード、館外貸出に備えるための保護フィルムなど「装備」といわれる処置が必要です
今はこの「装備」は図書を購入する際に一緒に含めて契約している自治体が大多数ですが、地元の書店では負担になる(できない)ので、図書館側での対応を要望されています
しかしながら先程の年間5千万円の予算ですと1冊平均2,000円とすると2万5千冊処理する必要があり、そのために新たに人員を雇用したり、保護フィルム等の費用を捻出することは特別な財源がない限り困難だと思われます
まずはなぜ今の状況になっているのか理由を明らかにして、自治体での図書購入にも再販価格維持制度を適用するのか、地元書店から図書を購入することで結果的に図書館での図書の購入冊数を削減してもかまわないのかなどをデメリットも明らかにしたうえで議論する必要があると思います
なお、地元に書店がなくなっても構わないと思っているわけでは決してありませんが、情緒的にあったほうがいいではなく、公的資金を入れても残すべきなのかを正面から議論することが先で図書館での複本貸出への批判や購入要望は順序が違うのではないでしょうか