「映画業界の性暴力撲滅を訴える女性作家たちの声明」「日経掲載広告が国連女性機関から規約違反と批判」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #518(2022年4月10日~16日)

ボヘミアンズ・ギルド
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 2022年4月10日~16日は「映画業界の性暴力撲滅を訴える女性作家たちの声明」「日経掲載広告が国連女性機関から規約違反と批判」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

産廃関連本貸し出し 御嵩町図書館 町長反論付けず /岐阜〈毎日新聞(2022年4月12日)〉

 #513 でピックアップした、御嵩町立図書館の資料が町長発言を受け閲覧不可となっていた事件。続報として#517 で、資料への反論貼り付けは「ラベリング」という検閲行為の一種であると日本図書館協会から指摘が入ったことをお伝えしましたが、さらに続報です。有料記事なので冒頭しか読めませんが、結局、反論は貼り付けないと町教育委員会が決めたそうです。町長の放言が総ツッコミを受けた結果、収まるべきところに収まった、ということになるでしょう。関係者各位、お疲れさまでした。

文化庁、新たに「著作権契約書作成支援システム」を構築し公開:時代の変化に合わせたひな形の見直しを実施〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年4月13日)〉

 文化庁による「著作物の創作又は利用を職業としていない人でも著作物の利用許諾等に関する契約を簡単に行えるよう」な仕組みの提供。もともと2006年から公開されていたのですね。知りませんでした。マニュアルを除き、全面刷新のようです。「講演・パネルディスカッション・座談会」「原稿の執筆」「イラストの作成」「既存の(著作物の)利用許諾」などさまざまなケースにおいて、著作権の帰属をどうするか、利用目的、対価などを入力すると自動で契約書ひな型が作成できます。そのまま使うのはもちろん、こういう条件だと契約書ではこういう文言になる、という勉強にもなりそうです。

文化庁、令和3年度⽂化庁委託事業「研究目的に係る著作物の利用に関する調査研究」の報告書を公開:アンケート調査や外国法調査の結果等〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年4月15日)〉

 研究目的の権利制限規定を創設すべきか否かどうかを検討するための実態調査。2020年にはヒアリング調査が行われていますが、今回はアンケート調査(n=6128)です。回答者の約4分の3を大学関係者が占めています。つまり、著作権法32条の「引用」は、論文等でめちゃくちゃ使う機会が多いはず。それなのに、許諾が必要か否かが分からなかったとか、許諾が得られなかった、あるいは、許諾を得ない形での適切な引用の方法が分からなかった、という回答が結構多い。え……? マジ?

 また、研究発表会などが非営利無償なら著作権法38条により無断で利用(上演・演奏・上映・口述・貸与)できることも、あまり認知・理解されていない実態が浮き彫りになっています。そのためか、まとめでは法改正云々ではなく「(既存の)規定の役割を周知していくことが必要と考えられる」とされています。研究目的の制限規定創設は当面なさそうかな……という内容です。ちなみに38条は公衆送信権に対応していないので、研究発表会をYouTubeなどで配信する場合には、権利侵害になる可能性があります。ただ、研究成果を発表するなら、おおむね引用でいけるのでは。切り貼りだらけで主従関係が逆転しているようならダメでしょうけど。

社会

「映画業界の性暴力・性加害の撲滅を」…映画化作品の女性作家たちが声明を発表 : エンタメ・文化 : ニュース〈読売新聞オンライン(2022年4月12日)〉

 声明には具体名が出ていませんが、映画監督などによる性加害の告発スクープ報道(by週刊文春)を受けての声明です。家族内の性被害が主題の映画監督から性被害を受けたという告発を端緒に、他者による過去の所業も次々と明らかになり、同様の行為が業界全体に蔓延していたことが明らかになっています。

 本件、なんとなく把握はしていましたが、映画業界のこととして他人事のように感じていました。しかし、この原作者による声明では理解と協力が出版業界にも求められています。考えてみれば、原作はもちろん、脚本や台本も「本」なのですよね。まったく他人事ではありませんでした。反省。

 ちなみに、読売新聞の記事本文には、声明のタイトルが「映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます」と記述されていますが、正確には「原作者として、 映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めます。」です。記事の後ろのほうで「原作者という立場で映画に関わる私たちにとっても、無関係ではありません」と声明を引用しているとはいえ、この声明のタイトルから「原作者として、」を省かないほうが良いと思います。原作者も、映画業界の性暴力・性加害と無関係ではいられない、という声明なのですから。

多品種少量生産な本や雑誌には、流通合理化や保存利用のためのコードが存在する〈HON.jp News Blog(2022年4月13日)〉

 いつものデジタル出版論の連載。今回は、授業の中ではチラッとしか触れないISBNなどのコード体系について、この際なのできっちりまとめておきました。これで今後は「詳しくはここを読んでください」と誘導できます。なお、雑誌コードの系統で電子版を別途識別するような業界標準は、調べた限りでは存在しないようなのですが、あまり詳しくない領域で断定するのも怖いので、「情報求む」と逃げの記述になっています。情報求む。

note、 無料で学校のホームページ環境を構築できる「note pro一括導入プラン」を教育委員会向けに提供開始〈EdTechZine(エドテックジン)(2022年4月15日)〉

 以前から学校や地方公共団体向けに無償提供されていた「note pro」が、教育委員会で一括導入できるようになりました。良いこと……なのですが、これで囲い込みが進んでしまうな、とも感じました。いまだにインポート/エクスポート機能がない状態のままなのですから。なにかあって他社サービスに乗り換えようと思っても、簡単には逃げられません。自分がインポート/エクスポート機能を使う使わないではなく、他者に勧めづらいというのが正直なところ。

 なお、4月12日に新バージョンの編集画面(= 新エディタ)の正式版がリリースされたばかりですが、そのお知らせにはインポート/エクスポート機能についての記述が存在しませんでした。2021年7月7日のお知らせまでは「今後の追加予定機能」に載っていたのですが、今回のお知らせからは消えています。かといって、実装されたわけでもない。あるぇ?

大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)、「「Maruzen eBook Library におけるダウンロードサービス一時停止のお知らせ」に対する見解と要望」を発表〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年4月15日)〉

 #517 でピックアップした、「Maruzen eBook Library」ダウンロード機能停止の続報です。大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)運営委員会から、不適切利用を行っていない機関まで巻き添えになっていることへの苦情や代替措置などの要望が出たのが4月12日。それを受けてか、それ以前から準備が進められていたのかは不明ですが、4月13日には丸善雄松堂から少し詳しめの経緯報告が契約機関各位宛に届いています。

 ピックアップした際のコメントで、ダウンロードサービスには最大ページ数に制限があると括弧書きしておいたとおり、本来は、1冊まるごとダウンロードできるような仕組みではありません。ところがSNSなどで、制限を超過し1冊まるごとダウンロード可能になっているかのような記述が発見された、という経緯だったようです。

 もし、最大ページ数の制限が機能していない、あるいは、抜け道があって1冊まるごとダウンロードできてしまうような状態だとしたら、おおごとです。コンテンツを預かっている立場としては、調査検証が必要と判断するでしょうし、緊急停止もやむなしでしょう。ダウンロードが止められてもブラウザでの閲覧は可能ですから、同時アクセス制限さえ気をつければ……あ、代替措置で要望されてるのはそこですね。なるほど。

日経の広告に国連機関抗議 新聞全面に女子高生の絵〈共同通信(2022年4月15日)〉

 おおごとになってきました。比村奇石さんの漫画『月曜日のたわわ』(講談社・週刊ヤングマガジン連載)の単行本最新刊が、日本経済新聞に全面広告で告知され、「『見たくない表現に触れない権利』をメディアが守れなかったことが問題」「作品で起きているのは、女子高生への性的な虐待」などと批判されていました。

 さすがにその批判は無理筋ではないか? 炎上狙いか? と思い、先週時点の本欄では直接触れるのを止めました。米国学校図書館での検閲の動きについてのコメントで、米議員の発言から「もし人々が不快に思うものをすべてキャンセルまたは検閲すると、何も残されません」という一節を翻訳引用し、「昨今の日本の問題を考える上でも重要な指摘である」という言い方で間接的に批判するに留めていました。

 ところがこんどは国連機関です。穏やかではありません。ただ、ハフポストで前述の批判を展開している東京工業大学准教授・治部れんげさんは、国連女性機関(UN Women)「アンステレオタイプアライアンス」日本支部のアドバイザーにも名を連ねているではありませんか。つまり、発信源は共通なのです。

 ただ、日本経済新聞は2020年に UN Women と連携し「UNSTEREOTYPE ACTION(アンステレオタイプ・アクション)」を訴求していくと告知している立場であるのも事実なのです。2020年5月15日にはフルカラーの全面広告でアピールしています。

 日本経済新聞は「アンステレオタイプアライアンス」のページで、FOUNDING MEMBER(創設メンバー)として、筆頭に名前が挙げられています。両者にはそういう関係性がある、ということは念頭に置く必要があるでしょう。つまり、UN Women の抗議は、アライアンスパートナーに対するものなのです。UN Women と日本経済新聞のあいだで交わされた覚書、同意書、会員規約、加盟規約――要するになんらかの合意事項に違反しているか否か、という問題と言えるでしょう。

 では具体的になにがどう違反しているのか? と、まず規約を読んでみようと思ったのですが、参加申込みフォームを送って審査を通過したのち、同意書や会員規約に署名する流れになっているようです。フォームに載っているのは質問と確認事項だけで、残念ながら同意書や会員規約そのものを見つけることはできませんでした。

 ハフポストの UN Women 日本事務所所長・石川雅恵さんへのインタビューによると、ステレオタイプのない広告を制作する上で大切な「3つのP」の原則――「Presence 多様な人々が含まれているか」「Perspective 男性と女性の視点を平等に取り上げているか」「Personality 人格や主体性がある存在として描かれているか」――に反する広告だ、とのことです。

 その「3つのP」について、別のインタビュー記事を見つけました。石川所長は「誤解を招かないように申し上げますと、アンステレオタイプアライアンスは炎上する広告を作らないためのネガティブチェックをしているわけではありません。ポジティブで深みのある広告を検討するための視点として、3つのPを示しているのです。」と説明しています。つまりこの原則は加点主義だというのです。しかし、今回の日本経済新聞に対する「加盟規約違反」などの指摘は、減点主義に思えます。なんか、噛み合ってない感があります。

 正直言って私はこの作品、Twitter初出でバズって週刊連載までこぎつけた「事例」としては興味深いと思っていますが、内容的には1巻を読んだ時点で Not for me だと判断しています。生理的に受け付けない感じでした。しかし、少なくとも1巻の内容が「作品で起きているのは、女子高生への性的な虐待」とまで言われるような内容か? と問われたら、それはNOだと答えます。広告に使われているイラストがステレオタイプを助長しているか? と問われたら、冒頭で述べたように、それはちょっと無理筋では? と答えます。

 結局これは、以前「大阪府が萌え絵を禁止?」と騒ぎになったガイドラインと似た構図の話ではないでしょうか。新聞社にはそれぞれ広告掲載基準がありますが、細かなところは「その他弊社が不適当としたもの」などと曖昧な形にとどめ、社内運用の非公開基準(内規)に基づき判断しているはずです。ところが日本経済新聞の「UNSTEREOTYPE ACTION」は、そこをさらに「3つのP」の原則に基づきますと、良く言えば踏み込んだ――しかし曖昧な基準を明らかにしているわけです。内規では問題ないと判断されても、踏み込んだ基準ではどうなのか。恐らく、内規ほど細かな認識のすり合わせを行っているわけではないでしょうから、そもそも双方の認識に齟齬がある状態なのかもしれません。いきなり外から燃やすのではなく、両者でじっくり話し合ってみて欲しいと思いました。

経済

小学館は、講談社・集英社と雑誌コンテンツを使った新規サービスの創出を目指します〈小学館(2022年4月15日)〉

 小学館からのリリースなのに、講談社の名前があることにギョッとしました。この総合誌面制作プラットフォーム「MDAM」は、もともと集英社が中心となって開発し、大日本印刷が導入促進・運用支援パートナーになっている仕組みとのことです。去年の集英社×大日本印刷のリリース、日刊まとめでは拾っているのに、すっかり忘れていました……不覚。すでに、小学館と集英社(一ツ橋グループ)、講談社と光文社(音羽グループ)、主婦と生活社、世界文化社グループが採用しているそうです。

 今回のリリースはその「MDAM」から、雑誌コンテンツを使った新しいサービスの創出を目指すというものです。ウェブを含めた多面展開はすでに実現できており、複数社が導入している共通の基盤であることを活かした新サービスを始める、と。このあたりは講談社のリリースのほうが多少詳しかったです。「戦略的業務提携」であること。3社から委員を任命し、MDAMを基盤とした新サービスの企画・設計を行うこと。今後は他社にも協業・共創を呼びかけていくこと。

 ただ、それで具体的になにをするか? までは明かされていません。なにをやるんでしょうね? 想像するに、たとえばYahoo!ニュースやdマガジンのようなプラットフォームと対抗する、有料会員制の業界横断型ポータルサイト、とか?

技術

ジャストシステム、「一太郎ビューア2022」を無償公開〈窓の杜(2022年4月11日)〉

 Adobe Acrobat Readerのように、閲覧機能のみのソフトを無償公開。おおすごい……と思ったら、「一太郎ビューア」って少なくとも2002年から存在してるんですね。まったく知りませんでした。

 窓の杜をサイト内検索してみたら2010や2014の記事もあったので、それなりの頻度でアップデートされ続けているようです。しかも「一太郎Ver.2以上」ってことは、1986年に登場した「新・一太郎」からずっと後方互換性を保ち続けているんですね。すごい!

Twitterの埋め込みツイートを削除した場合の表示方法、大騒動の末、結局元通りに【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2022年4月11日)〉

 #517 で「自分のブログで試してみたら、本稿執筆時点では元のまま。すぐに元の仕様へ戻したのかしら? ちょっと謎です」と書いた件の続報です。予想通り、#517の執筆時点ではすでに、元通りの仕様へと改められていたようです。ユーザーからのフィードバックを受けての決定とのこと。聞く耳を持たないような企業も多いですから、まあ、それに比べたらマシかなあ。

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雑記

 先週は、某大学の新入生研修のお手伝いと非常勤先の授業開始などが重なり、日課の散歩ができない――どころか、睡眠時間まで削られるレベルの忙しさでした。体力の衰えで、無理がきかない年齢になってきたことを痛感します。大災害や戦争が起きたら、真っ先に死んでしまいそうです。だからというわけではありませんが、戦争反対!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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