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【目次】
本や雑誌の流通合理化のための工夫
本や雑誌は取次ルートを通じて、全国津々浦々へ大量に流通しています。冊数もさることながら、点数も多いため、管理や区別をするためのコード番号が存在しています。
国際標準図書番号 ISBN とは?
本は、出版科学研究所の集計対象だけで年間約7万点の新刊が発売されている、多品種少量生産なメディアです。この膨大な種類の商材を流通させるのにあたって、注文や在庫管理などをコンピュータで処理しやすくするため、業者間で用いる共通のコード番号が規格化されています。それが国際標準図書番号「ISBN(International Standard Book Number)」です[29]。
ISBNは、1970年にISO規格として承認され、世界での普及が始まりました。日本では1960年代後半から国内限定の標準規格である「書籍コード」が運用されていましたが、1981年1月からISBNへ移行しています。以前は10桁のコード番号でしたが、2007年から13桁に変わりました。同じISBNコードを表記する本はないルールですが、残念ながら運用上のミスなどにより、違う本に同じ番号が振られてしまったケースもあるようです[30]。
図書館関係の用語に「書誌同定」という言葉があります[31]。要するに「同じ本かどうか?」を特定することです。コード番号が無かったころの出版物は、タイトル、著者名、出版地、出版社(者)、出版年、版表示、ページ数などが一致しているかどうかをいちいち確認する必要がありました[32]。ISBNが付番されるようになったことで、販売流通だけでなく、保存や利用する上でも便利になっていったのです。
日本図書コードと書籍JANコードとは?
ISBNの付与対象は、紙の本や小冊子、雑誌扱いで配本されるコミックスやムック、点字出版物、マイクロフィルム出版物、電子書籍(eブック)および書籍をそのままデジタル化した出版物(狭義のデジタル出版)などです。詳しくは後述しますが、雑誌や新聞などの定期刊行物は、ISBNの付与対象となりません。
本の内容が同じであっても、紙なら判型が違う場合、電子ならフォーマットが違う場合は、別の本として別のISBNを付番するルールになっています。また、紙で1冊の本を電子では分冊する場合も、それぞれ付番するルールになっています。ところが、電子の本は実務での必然性が低いためか、ISBNが付与されていないケースも多いようです。ただしデータ上では、紙の本のISBNを「底本ISBN」として持っている場合もあります[34]。
なお、発行されている紙版の本のうち、同じ内容の電子版がどれだけ出ているか? という電子化率は、この底本ISBNをキーにしてデータをマッチングすると算出できます。私と堀正岳さんの共同研究では、ISBNベースの電子化率は2020年1月時点で11.9%でした[35]。出版年別では、2017年が29.6%、2018年が31.2%、2019年が33.2%と、徐々に電子化率は高まっています。
また、ISBNとは別に、デジタルコミック協議会(当時)[36]が推奨していた「JDCN(Japan Digital Comic Number)」をベースに定められた「電子出版コード(JP-eコード)」という識別コードも存在しています。「電子書籍のIDナンバーとして、今後ISBNのような普及が期待されている」[37]そうです。
雑誌コードと定期刊行物コード(雑誌)とは?
前述のように定期刊行物はISBNの付与対象外なので、雑誌には「雑誌コード」という商品コードがあります。雑誌コード管理センターより雑誌の表題(誌名・タイトル)ごとに付与される5桁の数字と、2桁の月号数で印刷表示されます[38]。
また、雑誌コードを含めた13桁のJANコード準拠コードに、価格を表現する5桁のアドオンコードを加えた「定期刊行物コード(雑誌)」をバーコードユニットとし、雑誌コードとともに表4(裏表紙)の下端に印刷表示するルールになっています。なお、雑誌コード系統で、電子版を別途識別するような業界標準の有無を調べてみたのですが、私にはわかりませんでした(情報求む)。

なお、JANコード準拠コードの13桁には「年号」を示す部分がありますが、実はこれが西暦の下1桁のみとなっています。このため、同じ雑誌が10年発行され続けると、同じ番号が重複することになります。この問題は雑誌コード管理センターでも把握しており、2004年の運用開始から10年目を迎えるにあたって、見直すかどうかの検討が行われました。
その結果、「定期刊行物は販売期限が決められており、重複するバックナンバーの発生頻度は極めて低い」という判断で、そのままの運用が継続されることになりました[39]。雑誌コードや定期刊行物コード(雑誌)は、新しい号を店頭で販売するときに使用するためのものであり、古い雑誌を管理するためのものではない、ということなのでしょう。
国際標準逐次刊行物番号 ISSN とは?
そのいっぽうで、雑誌や新聞のような逐次刊行物を識別するために定められた国際規格も存在します。それが国際標準逐次刊行物番号「ISSN(International Standard Serial Number)」 です[40]。ISSNは国際規格(ISO 3297)と、その対応規格の日本産業規格(JIS X 0306)により定められています。10年で重複する雑誌コード系統とは異なり、個々の逐次刊行物と1対1で結びつく固有の番号になっています。
日本では国立国会図書館が「ISSN日本センター」として活動しています。「毎号同じタイトルで発行される」「巻号や年月等、順序付けを示す表示がある」「終わりを定めずに継続して発行される」という3つの条件を満たしていれば、申請のみで無料登録できます[41]。
ISSNは紙だけでなく、CD-ROMなどのパッケージ系電子出版物や、オンライン資料(ジャーナル、データベース、メールマガジンなど)も対象です。それゆえ HON.jp News Blog でも、「週刊出版ニュースまとめ&コラム」[42](ISSN 2436-8237)と、「HON.jp メールマガジン」[43](ISSN 2436-8245)で、それぞれ登録しています。
出版統計に出てこない領域もある
このような流通合理化のためのコードがしっかり運用されている領域では、比較的実態が把握しやすくなっています。そのいっぽうで、たとえば「学術出版(ジャーナル)」「同人誌」「マニュアル」「社内報」「白書」など、一般的な出版市場の統計には出てこない領域も意外と多く、全容を把握するのは困難です。実は私も一時期、そういう出版統計に出てこない領域で仕事をしていたことがあります[44]。
学術出版の領域は、かなり特殊です。学術誌は一般書店で販売されず、購入するのは大学図書館や研究所です。ほぼ電子化されており、オンライン購読のみという契約形態もあります。しかし、電子ジャーナルの購読料は、出版統計には含まれません。
また、学術出版の編集作業や査読は無償で行われる習慣があるいっぽう、著者である研究者は著作権の譲渡を要求されるうえ、掲載料まで請求されます。さらに、著者自身が掲載誌を読むためにも購読料を払う必要があるなど、構造的な問題があるそうです[45]。
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脚注
[29] JPO 日本出版インフラセンター 日本図書コード管理センター『ISBNコード/日本図書コード/書籍JANコード 利用の手引き2010年版』(2019年1月改訂版)より。
https://jpo.or.jp/topics/2019/03/post-38.html
[30] たとえばJ-CAST ニュース「岩波文庫、新訳注文したら旧訳が届いた ISBN重複で起きる購入トラブル」(2016年12月4日)など。
https://www.j-cast.com/2016/12/04285125.html
[31] FJJ 図書館ポータル 図書館用語集「書誌同定(ショシドウテイ)」
https://cloud-app-support.fjas.fujitsu.com/libwords/443.html
[32] 国立情報学研究所 総合目録データベース実務研修 平成18年度 成果物 4班「目録初心者のための教育支援プログラム ~ひとり立ちを目指して~」添付資料4より。
https://contents.nii.ac.jp/hrd/db/2006/result
[33] 日本図書コード管理センター「書籍出版流通とISBNの利便性」より。ISBNの付与が法律で義務付けられているわけではないので、説明文では「要求されるはず」「一般的」「必要不可欠」などといった表現になっている。
https://isbn.jpo.or.jp/index.php/fix__about/fix__about_2/
[34] 電子書店「BOOK☆WALKER」では配信されている書籍一覧をファイルで取得できる。2021年12月時点で約77万点のうち、底本ISBNが存在するのは約42万点だった。
https://help.bookwalker.jp/faq/301
[35] 「日本における 電子書籍化の現状 (2020年版)―― 国立国会図書館所蔵資料の電子化率調査」より。電子書店「BOOK☆WALKER」で配信されている書籍一覧とのマッチング調査。
https://wildhawkfield.com/2020/09/shuppan-gakkai.html
[36] 文化通信デジタル「デジタルコミック協議会が解散 電書協に承継」(2021年8月27日)にあるように、デジタルコミック協議会は解散して、日本電子書籍出版社協会に継承されている。
https://www.bunkanews.jp/article/237907/
さらに、日本電子書籍出版社協会は2022年2月よりデジタル出版者連盟(通称:電書連)に社名変更している。
http://ebpaj.jp/information
[37] 沢辺均『電子書籍の制作と販売』(2018年・ポット出版)
https://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0232-0.html
[38] 雑誌コード管理センター「雑誌コードの概要」より。
https://jpo.or.jp/magcode/info/outline.html
[39] 雑誌コード管理センター「コード体系」より。
https://jpo.or.jp/magcode/info/system.html
[40] 国立国会図書館「ISSN日本センター」より。
https://www.ndl.go.jp/jp/data/issn/index.html
[41] オンラインジャーナルやデータベースは「バックナンバーの巻号を一覧できること」など、少し条件が異なる場合がある。詳細はISSN日本センターの説明を参照。
[42] https://hon.jp/news/1.0/0/category/weekly-news-summary
[43] https://hon.jp/news/registration
[44] 第1章の終わりで書いたように、紙の出版物も扱ってはいるが、売上の大半がデータベース提供という部署にいたことがある。
[45] 有田正規『学術出版の来た道』(岩波書店・2021年)