新作の認知手段は基本無料のウェブやアプリに変化した ―― デジタル出版論 第3章 第4節

デジタル出版論

デジタル出版論 第3章

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電子コミックのビジネスモデル

 では次に、「従来の雑誌を代替できるほどの存在」にまで成長した、電子コミックのビジネスモデルをさらに深掘りしましょう。ここからは再び、「狭義の出版」領域だけに絞れない話も多くなります。

ユーザーとコンテンツの接点にあるもの

 ビジネスモデルの話をする前に、コンテンツをユーザーに届ける仕組みを、もう少し詳しく説明しておく必要があるでしょう。第1章の「表現と伝達のプロセス」で示した図を再掲します。左端の著作者から、右端のユーザーに向かって、コンテンツが伝達していきます。

 ユーザーのすぐ近くにあるのが「端末」です。この図には「放送」もあるので、テレビやラジオを含めた表現にしてあります。狭義の出版に絞って言えば、端末とは、スマートフォン、タブレット、パソコン、電子書籍専用端末などです。ユーザーは、こういった端末のディスプレイを通じて、マンガなどのコンテンツと接触します。

ウェブとアプリ

 コンテンツをディスプレイに表示する手段には、「ウェブ」と「アプリ」があります。ウェブはワールド・ワイド・ウェブ(World Wide Web)の略で、世界標準規格のハイパーテキストで記述されたページを、閲覧用ソフトウェアのブラウザ1Google Chrome、Microsoft Edge、Apple Safari、Mozilla Firefoxなど。で表示することを指します。

 ブラウザは幅広い用途に使えるため、端末の基本ソフトウェアであるオペレーティングシステム(Operating System:OS)に標準搭載されています。また、別途、無料でインストールすることも可能です。ウェブでコンテンツを配信しているサービス事業者は、閲覧だけなら無料かつ会員登録も不要としている場合も多く、利用のためのハードルは低くなっています。

 アプリはアプリケーション・ソフトウェア(application software)の略で、アプリストア2Google Play、Apple App Store、Microsoft Store、Amazon Appstoreなど。こういったプラットフォーム以外にも、「窓の杜」「Vector」といったオンラインソフトウェア専門の流通サイトや、個々の事業者から配信されているいわゆる「野良アプリ」も数多く存在する。などで配信されています。特定の事業者が提供するサービス専用で、ブラウザより高機能である場合が多いです3ここでいう高機能なアプリは「ネイティブ」と呼ばれているもの。「場合が多い」と留保したのは、アプリ内でウェブを表示する「WebView」という仕組みもあるため。ネイティブに比べ、WebViewは開発コストが抑えられるが、そのぶんUXは劣る場合も多い。。スマートフォンにインストールすると、サービス事業者からお知らせなどがプッシュ通知されることから、存在を忘れにくくすることも可能です4ただし、あまり頻繁に通知が届くと煩わしいため、設定で通知をオフにされてしまい本当に大事なお知らせが届きにくくなってしまったり、アンインストールされてしまったりする場合も多々あるようだ。

 電子コミックアプリのインストールそのものは無料ですが、そもそもユーザーにアプリストアで発見してもらうのが難しく、さらに、インストール後に会員登録&ログインが必要な場合も多く、利用のハードルはウェブより高いです。とにかくダウンロードしてもらわないことには始まらず、競争も激化していることから、広告宣伝のためのコストは年々大きくなっているようです5たとえばAppsFlyer Japan株式会社によるアプリインストール広告費予測によると、日本は2019年に約2943億円(27億ドル)で、1インストールあたり約349〜381円(3.2〜3.5ドル)必要。
https://www.appsflyer.com/ja/blog/trends-insights/app-install-ad-spend-2/

ストリーミングとダウンロード

 コンテンツをユーザーに配信する方法には、インターネット常時接続を前提とした「ストリーミング」と、端末のストレージへの「ダウンロード」があります。この違いは、ユーザーがスマートフォンなどのモバイル端末を利用している場合とくに、通信量(≒通信料)や端末の空き容量の問題として影響してきます。ウェブはストリーミングのみ、アプリはダウンロードとストリーミングのいずれかです。

 ストリーミングは、コンテンツを閲覧するたびに通信が発生するため、通信量が多くなり、動作も遅くなりがちですが、端末の空き容量には影響しません。ダウンロードは、いちど端末のストレージへ保存すればその後は通信を必要とせず、動作も軽くなりますが、端末の空き容量を圧迫します。ただし、購入したコンテンツが「クラウド本棚」に格納されるサービス事業者であれば、端末から削除して空き容量を増やしても、再ダウンロードが可能です6余談だが、いまではようやくこれが当たり前のような状態になったが、以前はたとえば「ダウンロードは1回のみ」「ダウンロードした端末でしか読めない」「ダウンロードしたファイルはバックアップコピーできない」「機種変更しても本体にダウンロードしたコンテンツを移動できない」「機種変更時にはファイルをmicroSDに移動して差し替える必要がある」「クラウド本棚からの再ダウンロードは購入から1年間限定」「クラウド本棚だけどファイル移動しかできない」など、ユーザーに妙な労力や不便を強いるサービスも多かった。十数年かけて徐々に変わってきたのだ。

 ストリーミングとダウンロードは、サービス事業者のビジネスモデルによっても違いが出ます。おおまかに言うと「メディア型モデル」と「ストア型モデル」に分類できます7この「メディア型モデル」と「ストア型モデル」という表現は、『電子書籍ビジネス調査報告書2021』(インプレス総合研究所)第2章を参考にした。
https://research.impress.co.jp/report/list/ebook/501228
。基本無料でコンテンツが閲覧可能なメディア型モデルでは、ストリーミングで配信される場合が多いです。逆に、購入したコンテンツが閲覧できるストア型モデルでは、ダウンロードとストリーミングの両方が提供される場合が多いです。

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脚注

  • 1
    Google Chrome、Microsoft Edge、Apple Safari、Mozilla Firefoxなど。
  • 2
    Google Play、Apple App Store、Microsoft Store、Amazon Appstoreなど。こういったプラットフォーム以外にも、「窓の杜」「Vector」といったオンラインソフトウェア専門の流通サイトや、個々の事業者から配信されているいわゆる「野良アプリ」も数多く存在する。
  • 3
    ここでいう高機能なアプリは「ネイティブ」と呼ばれているもの。「場合が多い」と留保したのは、アプリ内でウェブを表示する「WebView」という仕組みもあるため。ネイティブに比べ、WebViewは開発コストが抑えられるが、そのぶんUXは劣る場合も多い。
  • 4
    ただし、あまり頻繁に通知が届くと煩わしいため、設定で通知をオフにされてしまい本当に大事なお知らせが届きにくくなってしまったり、アンインストールされてしまったりする場合も多々あるようだ。
  • 5
    たとえばAppsFlyer Japan株式会社によるアプリインストール広告費予測によると、日本は2019年に約2943億円(27億ドル)で、1インストールあたり約349〜381円(3.2〜3.5ドル)必要。
    https://www.appsflyer.com/ja/blog/trends-insights/app-install-ad-spend-2/
  • 6
    余談だが、いまではようやくこれが当たり前のような状態になったが、以前はたとえば「ダウンロードは1回のみ」「ダウンロードした端末でしか読めない」「ダウンロードしたファイルはバックアップコピーできない」「機種変更しても本体にダウンロードしたコンテンツを移動できない」「機種変更時にはファイルをmicroSDに移動して差し替える必要がある」「クラウド本棚からの再ダウンロードは購入から1年間限定」「クラウド本棚だけどファイル移動しかできない」など、ユーザーに妙な労力や不便を強いるサービスも多かった。十数年かけて徐々に変わってきたのだ。
  • 7
    この「メディア型モデル」と「ストア型モデル」という表現は、『電子書籍ビジネス調査報告書2021』(インプレス総合研究所)第2章を参考にした。
    https://research.impress.co.jp/report/list/ebook/501228

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著者について

About 鷹野凌 789 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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