「公取委、巨大IT企業への記事配信で共同交渉可能と見解」「未登記海外IT企業に罰則へ」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #527(2022年6月19日~25日)

愛書館 中川書房

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 2022年6月19日~25日は「公取委、巨大IT企業への記事配信で共同交渉可能と見解」「未登記海外IT企業に罰則へ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

政治

未登記の海外IT企業に罰則も 法相方針、履行促す〈共同通信(2022年6月21日)〉

 政府は4月に、海外系のIT企業など48社を対象に「日本で法人登記するように」と要請していました。Facebook JapanとかGoogle JapanとかTwitter Japanと名乗っていても、日本で登記してなかったとは。会社法を厳密に適用すれば、罰金100万円以下です。

 これが問題になるのは、たとえば誹謗中傷投稿の情報開示請求を行った場合。海外企業で日本に登記がないと、海外から法人登記にあたる書類をとりよせるためだけに何カ月もかかるような例があるそうです。そうこうしているうちに、ログが消えてしまったり。日本で登記させることで、そういう手続きの迅速化が図れるようにもなる、と。

 ところが、要請から3カ月経っても、多くの企業がいまだに登記していないので、罰則手続きの検討に入った、というのが今回のこのニュース。ぶっちゃけ、「いままではなぜそれが許されてきたの?」と不思議に思えます。登記懈怠(とうきけたい)で検索すると、過料決定通知が届いたなどの記事がそこそこ見つかります。国内企業に対しては、罰則それなりに適用されてるようなんですよね。海外系企業が法人税払ってない問題とか、消費税の越境取引問題なんかが話題になったタイミングで、未登記問題も一緒に解消しておけばよかったのに。

記事配信巡り、共同交渉が可能 対巨大ITで公取委が見解〈共同通信(2022年6月22日)〉

 視界内の情報法関係者が、ちょっと騒然としていました。たとえばヤフーニュースのようなニュースポータルサイト事業を運営する巨大IT企業に対し、複数の報道機関が共同で「記事提供料の正確性を検証し得るデータの開示を要請」したり、「見出し等の提供契約の締結を要請」したりすることが独占禁止法上問題になるか? という相談に対し、公正取引委員会が「ならない」と回答した、というものです。公正取引委員会の公式サイトで公開されています。

 交渉相手のニュースポータルサイトは、二つの類型が想定されています。一つが、ヤフーニュースやスマートニュースのように、報道機関と記事提供契約を締結し記事の全文を転載しているパターン➀。もう一つが、GoogleニュースやNewsPicksのように、報道機関と契約を結ばずに記事の見出しなどを無断で無料配信しているパターン②(※Googleニュースショーケースのように契約している場合はもちろん➀となるでしょう)。

 ➀は、報道機関が共同で「記事提供料の引上げ等を申し入れる」場合は、独占禁止法上問題となります。②は、報道機関が共同で「共通の取引条件で見出し等の提供契約を締結するよう申し入れる」場合は、独占禁止法上問題となります。しかし、相談内容はその手前の段階(と表現するのが恐らく相応しい)だから問題にならない、ということだと解釈しました。

 ネットでの記事配信に関しては、欧米だとGoogleやFacebookが槍玉に上げられることが多いですが、日本だと「ヤフーニュースが強すぎる」なのですよね。それも圧倒的に。報道機関とプラットフォームの力関係は、これを機に変わっていくのでしょうか。関連して、スペインで「Googleニュース」が8年ぶりに再開というニュースもピックアップしておきます。

前澤友作氏の「なりすまし」に開示命令、「偽物」と記載も許されず〈弁護士ドットコム(2022年6月22日)〉

 笑いごとじゃないけど、思わず笑ってしまった判決。Twitter側の主張が片っ端から否定されています。「認証アカウント」の偽物だから、識別可能性が高く誤認混同のおそれもないという主張。プロフィールに「偽物」と書いてあるから、誤認混同のおそれはないという主張。パロディとして許容されるべきという主張。なりすましが違法と判断されるのは、平穏な暮らしを送るのが困難なほど精神的苦痛を受けた場合に限定されるという主張。ことごとく蹴散らされています。しかし、まだこれ発信者情報開示請求の地裁判決段階なのですよね……ログはいつまで残ってるんだろう。

第4回 景品表示法検討会(2022年6月23日)〈消費者庁(2022年6月22日)〉

 #507#514で触れた、「アフィリエイト広告等に関する検討会」の報告書で「ステルスマーケティングの実態を把握するとともに、その実態を踏まえ、消費者の誤認を排除する方策を検討すべき」と指摘されていた件、気づいたらもう第4回まで進んでいました。傍聴もできていないし、出ている情報もちょっと追い切れていないのが正直なところ。

 ただ、目を通せた中では、第2回の国民生活センターによる「最近の相談事例」には、なかなか興味深いものがありました。デジタル広告に問題表示があっても、相談員側で「再現できない」あるいは「再現が困難」という問題があるわけです。つまり、検証や指導も困難である、と。そういう問題提起に、どういう解決策が提示されるか。今後は、関係者等からヒアリングを行ったうえ、年内に報告書を取りまとめる予定となっています。

逮捕歴がわかるツイート、削除命令 最高裁初判断、検索エンジンよりも基準緩和〈弁護士ドットコム(2022年6月24日)〉

 いわゆる「忘れられる権利」についての判決。ちょっとそれはどうなの? と思ってしまいました。Googleの「検索結果」に出てこないようにするのは、GoogleのBotが収集・作成したインデックスから削除することであり、元記事を消すことではありません。ところが今回の場合、Twitterへの投稿そのものの削除が命じられてしまったわけです。え、それがGoogleのインデクス削除より緩和した要件で本当に良いの? ちょっと考え込んでしまいました。

 Twitterへの投稿ではなく、一般論として考えたときどうなのか? 「一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸般の事情を比較衡量して判断すべき」というのは、紙に印刷された新聞や雑誌の記事にも言えることなのか? さすがに物理メディアを消せという命令はそう容易く下るものではないとは思いますが(というか購入者に所有権があるから単純所持が禁止されるレベルの御法度品にならないと無理?)、これが記事データベースならどうなのか? 図書館でデータベースを契約していたら「一般の閲覧に供し続け」ているわけで。それはウェブ上の情報となにが違うのか? うーん、頭から湯気が出そう。どなたか解説プリーズ。

社会

再注目されるメール、ただし開封率やクリック率は低下傾向?〈Media Innovation(2022年6月22日)〉

 Eメールマーケティングのベンチマーク。「少なくとも1000人の連絡先を持つアクティブな送信者」の平均データです。「自動化されたメールが一番反応が良い」という結論には、正直ちょっと納得しがたいところがあります。というのは、メールの目的によって書き方や重要視すべき指標も違ってくるはずだからです。

 商品の販売促進が目的(商品が売れればコンテンツは読まれなくてもいい)なのか、メールに書かれたコンテンツを読んでもらうことが目的なのか。販促目的なら、本文中にリンクは1つだけ、メール単体で考えればCTR、リンク先のランディングページではCVRが重要、となるでしょう。でも、読み物としてのメールなら、そもそも購読者の集め方から異なるはず。開封率も自ずと平均より高くなるでしょう。

『週刊少年サンデー』前編集長が語る。マンガ創作の原動力「大好きなマンガのことだけをひたすら考えていられるのが楽しい」〈GetNavi web ゲットナビ(2022年6月22日)〉

 マンガ原作者として再出発している市原武法さんへのインタビュー。とくに後半の「ビジネスモデルが激変した少年マンガ誌と紙媒体の存在意義」あたりは、私の書いた「新作の認知手段は基本無料のウェブやアプリに変化した」を、内部にいた関係者から補完いただいたような内容になっています。

 ちなみに連載「デジタル出版論」は、筆者多忙につき2週連続でお休みとさせていただきました。ごめんなさい。ちょっと6月中の更新は厳しいかも。

経済

テクノエッジ創刊のご挨拶〈TechnoEdge テクノエッジ(2022年6月22日)〉

 更新終了した「Engadget日本版」のメンバーが立ち上げた新メディアが創刊。編集長のIttousai氏が挨拶しています。IT系ジャーナリストからのご祝儀原稿も。うちもお世話になっている西田宗千佳さんも寄稿しています。

 この新メディアを見てちょっと気になったのが、現時点では「広告が入っていない」点。一瞬、まさか広告なしのビジネスモデルを探求するのか? と思ったのですが、フッターの「広告掲載について」に問い合わせ先が載っているので、募っていないわけではありません(二重否定)。先々どうなるかはわかりませんが、とりあえず現時点では、Google AdSenseのようなクリック報酬型広告や、レコメンドウィジェット型広告は使わない形になっています。どうするのかな?

Twitter、ブログのような長文を投稿できる「Notes」機能をテスト〈CNET Japan(2022年6月23日)〉

 Twitterは新機能をテストして、結局リリースしないことも多いのですが、これはもし正式に始まったら多方面に影響がありそう……ということでピックアップ。名前のかぶっている「note」や、Twitterの共同創設者エヴァン・ウィリアムズがCEOを辞めたのちに立ち上げたブログサービス「Medium」あたりは、直撃を受けそうです。もちろん、どういう実装になるか次第ではありますが。Twitter社が買収したニュースレター「Revue」とのすみ分けや連携はどうなるか。

 個人的には、イーロン・マスク氏による買収がまだ成立していないこと、その後の方針がどうなるかわからないこと、そして根本的には「プラットフォームに抱え込まれてしまう」ことへの不安を感じます。どうせ制約も大きいだろうし、用途も異なるでしょうから、少なくともWordPressから「乗り換え」ようとは思わないかなあ。

 そういえば、Facebookにもブログ風の長文が書けるNotesって機能があったんですよね。実際に何回か使ってみて、ニュースフィードへ普通に投稿するのとそれほど大きな違いが感じられず、あまり積極的に使おうと思わなかったのを覚えています。いまどうなってたっけ……? と思ったら、なんとメニューに見当たりません。

 調べてみたところ、どうやら2020年10月末をもって新規投稿できなくなり、現在は「自分だけ」設定にされたアーカイブだけが残っている状態になっていました。いちおう、アクティビティログから掘り出すことは可能だったので、サルベージして個人ブログに載せ直しておきました。

技術

メタバースの標準化団体「Metaverse Standards Forum」が発足–Metaなど多数が参加〈CNET Japan(2022年6月22日)〉

 3D世界の話ですが、創設メンバーにWorld Wide Web Consortium(W3C)の名前を見つけたのでピックアップ。W3Cはウェブで用いられる技術の標準化と相互運用性の確保を目的とする団体ですから、こういうことに関わっていてもぜんぜん不思議ではないのですが、自分の中で「メタバース」という言葉とうまく結びついていませんでした。あとは、Meta(Facebook)やMicrosoftの名前はあるけど、AppleやGoogleが参加していないあたりは気になるところ。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 なんと! 6月に! 猛暑日! しかも! 2日連続! 本気でやばい。電力不足対策で省エネ……とかいって、エアコンつけずにいたら寿命が一気に縮んでしまいそうです。戦争反対!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 788 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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