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2021年9月19日~25日は「雑誌SPA!にNFTでデジタル特典」「簡素で一元的な権利処理に異例の早期パブコメ」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
政治
文化審議会著作権分科会基本政策小委員会「簡素で一元的な権利処理」の在り方に関する意見募集の実施について〈文化庁(2021年9月21日)〉
拡大集中許諾制度などの検討が進められている中、団体へのヒアリングだけでなく、広く一般からアイデアを募るパブリックコメントが実施されました。普段のパブコメは、ほぼ確定状態にあり想定問答まで用意されているようなカチコチに固まった「案」に対し実施されるパターンが多いので、異例と言っていいでしょう。これまでの権利者団体へのヒアリングでは消極的な意見が多い印象ですが、団体に属していないクリエイターや利用者サイドはどう考えているのか。早めに物申すチャンスです。締切は10月14日。詳細は「e-Govパブリック・コメント」を参照ください(↓)。
台湾、TPPに加盟申請 中国の反発必至〈日本経済新聞(2021年9月22日)〉
先週の週刊まとめ #489 で、中国がTPPへの加入を正式申請したというニュースをピックアップしました。それに次いで台湾も――というよりこれは、中国が台湾の動きを事前に察知していて先手を打った、ということなのでしょう。日本政府関係者が、中国の加入申請には慎重な構えを見せていたのに対し、台湾の加入申請には閣僚クラスが次々と「歓迎する」という発言をしていたのが印象的でした。
第35回納本制度審議会議事録〈国立国会図書館―National Diet Library(2021年9月22日)〉
納本制度審議会から有償電子書籍(オンライン資料)の制度収集について、答申が提出されたのが今年の3月(週刊まとめ #466 参照)。それから半年経って、ようやく「制度収集開始に向けた方針」という議題での納本制度審議会が行われ、その議事録が公開されました。配付資料(↓)によると、全面的な制度収集開始は令和5年(2023年)1月からの予定となっています。やっと!
ここでも何度か取り上げてきた「リポジトリで電子納本義務を免れる」問題(#412・#430・#464)については、答申でも悪意ある者による「収集逃れ」を排除できるようにと釘を刺されており、「広く一般に利用可能である(有償契約や会員登録が必要な場合を含む。)」という「利用の担保」条件に電書協がどう対応するかが注目されます。
第21期文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)〈文化庁(2021年9月22日)〉
こちらは9月22日に行われた国際小委員会の資料。コンテンツの海外展開関連です。「資料1-3 分部様発表資料」が「我が国のコンテンツの中国展開における現状、課題および方策案」で、とくに「2. 中国展開にあたっての留意点、課題」パートのあたりが、Vtuberの炎上や検閲によるアニメの配信遅れ、女性的な外見をウリにしている男性アイドル等の排斥など、最近の事例まで盛り込まれていて興味深いです。
「表現が性的で問題」などの意見受け 動画削除 千葉県警〈NHKニュース(2021年9月23日)〉
Vtuber出演の松戸警察PR動画に対し、全国フェミニスト議員連盟が公開質問状の体裁で「性犯罪を誘発」と指摘し、謝罪と動画削除を要求した事件。出版と直接関係しないためしばらくウォッチしていましたが、NHKニュースで取り上げられるほどの大騒動となったためピックアップしました。議連の公開質問状(↓)には「VTuber(アニメキャラクター)」などと書かれており、実はよく分かっていないのでは感があります。
なお、議連の中には環境生活警察常任委員会に入っている県議もおり、警察に対し政治的な圧力をかけられる立場からの要求だったことも判明しています。change.orgでの抗議署名(↓)は6万筆以上集まっていますが、そちらの公開質問状には期限までに回答が無かったそうです。
社会
そもそも「編集者」って何なんだ!? 『ドラゴンボール』を手がけた伝説の編集者・鳥嶋和彦が語る、優秀な漫画編集者の条件とは。〈電ファミニコゲーマー(2021年9月24日)〉
こちら、経済・社会、どちらのジャンルに入れるか迷ったんですが、この連載の趣旨として鳥嶋さんの問題意識が「編集者を育てる」ことにあるようなので、文化とか教育的側面のほうが強いのではないかと思い、社会へ分類しました。ちょうど大学の講義で「編集者に必要な能力は?」という話をしたばかりだったので、非常にタイムリー。
鳥嶋さんによると、漫画編集者は「ディレクター」であり「マネージャー」であり「プロデューサー」でもあるそうです。私は「ディレクター」的要素が重要だと思っていたので、TAITAIさんが「新鮮というか、意外に聞こえました」とおっしゃっているのが、むしろ意外でした。他の編集者との対談となる続きが楽しみな連載です。
スマホで読める電子図書館 コロナ禍で貸し出し急増〈産経ニュース(2021年9月24日)〉
公共の電子図書館(電子書籍貸出サービス)について、千代田Web図書館の現状を中心としたレポート。しかし蔵書数について「約1万冊と全国トップクラス」というのは、もう少し中身を確認して欲しいところ。本稿執筆時点で全ラインアップ10,760点のうち、青空文庫が5,635点です。つまり、千代田Web図書館のラインアップのうち「購入」している本は、半分以下なのです。
なお、最近サービスを開始した東大阪市の「ひがしおおさか電子図書館」は、蔵書数34,686点です(↓)。青空文庫5,600点あまりを考慮に入れても、私が知っている限りで「真の全国トップクラス」はここではないかと。ただ、それでもなお、2012年ごろの電子書店のラインアップと同等程度という現状には、少々頭が痛くなりますが。先週ピックアップした「お前には売ってやらない」問題が、ここには如実に現れています。
経済
グーグル広告が透明性の向上を目指し変更、 ユーザーが過去30日の広告主の履歴へアクセス可能に〈TechCrunch Japan(2021年9月24日)〉
非常に良い試み。現状の「この広告の表示を停止」や「この広告を報告」フィードバックだと、同じ広告主で同じクリエイティブで同じリンク先の、別広告が出てきちゃうんですよね。広告主単位でまるごと停止・報告できるようになれば、いろいろ捗りそう。
問題は、Google以外の広告ネットワーク。オプトアウトのみで違反報告する手段がなかったり、そもそもそういうフィードバックを受け付けていないところも多々……。
技術
雑誌「SPA!」で世界初のNFTによる特典、袋とじでグラビアアイドル33人の「デジタルトレカ」を提供〈INTERNET Watch(2021年9月21日)〉
メディアドゥ×トーハンの「NFTデジタル特典付き出版物」第1弾。扶桑社に続き、主婦の友社でも予定されているそうです。NFTは、こういう「デジタルなのに数量限定なちょっとだけお得感のある特典」に向いていると思います。美術品の売買を模した「NFTマーケット」は、いろいろ問題が多すぎる。胴元は、取引数が多くなるほど儲かる仕組みだから、メリットのみを過剰に喧伝するんですよね。
新Kindle Paperwhiteは6.8型大画面に。20%高速化で1.5万円〈Impress Watch(2021年9月21日)〉
従来の「Kindle Paperwhite」は6型だったので、少し大きくなりました。6.8型というと、2014年に出た「Kobo Aura H2O」と同サイズ。Kindleは、Koboに比べると大型化の進化が若干遅い。最上位モデル「Kindle Oasis」でも7型なのですよね。Koboの最上位モデル「Kobo Elipsa」は10.3型です。大は小を兼ねる!
書店で万引き疑われる人物、顔認識カメラで把握…導入後の被害が半減 : 社会 : ニュース〈読売新聞オンライン(2021年9月24日)〉
記事本文の冒頭にもありますが、JR東日本が主要駅に顔認識システム(※認証にあらず)で不審者を検知する防犯カメラを導入、検知対象に過去の重大犯罪者を含めていたことが問題視され、対象から外すことになったというニュースがありました(↓)。
それを受け、2019年から開始している「渋谷書店万引対策共同プロジェクト」にも改めて注目が集まっているそうです。公式サイト「開始後1年間のご報告」によると、登録人数は40人53件、抑止7件、捕捉7件。ロスの改善は店舗によって、ロス率ほぼ半減、ロス金額約6割、前年並みと大きく異なる結果が出ています(↓)。
いまや街中いたるところに監視カメラがあり、犯罪者追跡などのためフル活用されている実態からすると、もう一歩踏み込んで「顔認識」のテクノロジーで解決するという方向性は、それほど筋は悪くないと思うのです。問題はルールが未整備なこと、社会的合意が形成されていないことでしょう。
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雑記
私は大学で非常勤講師をやっています。実務家教員として週イチ程度の頻度で、デジタル出版の演習や講義をしています。いまはコロナ禍の影響で、おおむね遠隔授業です。遠隔での演習は、学生がなにに困っているのかを把握しづらく、もどかしく思うことも多いのが正直なところ。
それに対し講義は、映像アーカイブが簡単に残せることから、就活や病欠などの理由でリアルタイム受講できなかったとしても、動画視聴で取り返すことが可能です。まあ、倍速で観てるかもしれませんが、ゼロより遥かにマシではないかと思うのです(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。