「有償電子書籍納本制度、審議会から答申」「トーハンとメディアドゥが資本提携」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #466(2021年3月21日~27日)

週刊出版ニュースまとめ&コラム

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 2021年3月21日~27日は「有償電子書籍納本制度、審議会から答申」「トーハンとメディアドゥが資本提携」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

著作権法改正は民業を圧迫するか?(ほんのひとこと)〈一般社団法人日本出版者協議会(2021年3月20日)〉

消費税総額表示問題、物流運賃負担金問題、取次配本中4日問題など、直近数カ月だけでもさまざまなトピックスがありますが、さて、著作権法改正問題です。 すでに色々な媒体で書かれているので長々と繰り返しません。今回の法改正の要点は以下の2つ。①これまで国会図書館内か、認可された図書館内でしか見られなかったデジタル化資料を各家庭の端末にまで配信可能にするというもの。デジタル化の対象になるのは、市場での入手...

 日本出版者協議会の理事で、皓星社代表取締役社長の晴山生菜さんによるコラム。今回の図書館関連の権利制限規定改正案について「全面的に賛成」とするものです。私が書いた関連記事にも言及いただいてます。ありがたや。あくまで皓星社の意見とはいえ、出版協公式サイトにこういう声が載るのは、なかなかすごいことだと思います。前身の流対協時代は、とにかくなんでも反対ばかりだったような記憶が。

 皓星社は、出版業と同時にデータベース業も営んでいる企業です。昨年春のコロナ禍第一波のときには、雑誌記事索引データベース「ざっさくプラス」の無償公開を行っています(↓)。先駆的かつ考え方が柔軟なのでしょう。こういう方が理事をやっているというのは、団体の未来にとっても良いことだと思います。

 株式会社皓星社は3月31日、同社の雑誌記事索引データベース「ざっさくプラス」を期間限定で無料公開することを発表した。新型コロナウイルス感染拡大を受けての対応。 「ざっさくプラス」は、明治期から現在までの雑誌記事索引をデータベース化し、検索、所蔵情報の確認、コピー申込みまでをワンストップで利用できるサービス。通常は、契約図書館を通じて利用する。今回の措置は、臨時休館で図書館を利用できない学生、研究...

懸賞プレゼントを長期間発送せず 出版社に措置命令 消費者庁〈NHKニュース(2021年3月24日)〉

 晋遊舎に行政処分。パズル雑誌の懸賞企画で3年半ものあいだ当選者に懸賞品や景品を送っていなかったという、景品表示法違反です。消費者庁の公表資料PDF(↓)が257ページにも及ぶという凄まじさ。

 ちなみにNHKで「秋田県にある出版社」と報道されているのに驚き調べてみたのですが、公式サイト(↓)の住所は神田神保町です。でも、消費者庁の公表資料から秋田になっているのです。法人名・代表者名は同じ。なぜ?

晋遊舎の会社概要をご確認いただけます。法人名、住所、創業年のほか、資本金や役員構成などをご確認いただけます。また、GoogleMapによるアクセス情報もこちらよりご確認いただけます。

社会

表現の現場でハラスメント横行 「アニメ監督にホテルに連れ込まれた」「レッスン室でレイプ寸前」〈弁護士ドットコムニュース(2021年3月24日)〉

 表現の現場調査団による調査報告。文芸やマンガなども含めたさまざまな「表現」ジャンルで仕事をしている1449人が回答しています。編集者から「漫画家は社会のゴミ」と言われた事例や、デザインで「過度な露出や際どいセクシー表現」を求められた事例など、自由記述の抜粋(↓)を読んでいると胸糞が悪くなります……。こういう実態が明るみになることで、世の中が良いほうへ変わっていくと良いですね。

私たちは、すべての人々が安心して携われる、自由で平等な表現の現場を目指します。そのために、表現の現場における調査や活動を、今後5年間行います。

村上舞台「バッテンガール」大賞 チーム創作「阿賀北ノベルジャム」 | 地域 | 新潟県内のニュース〈新潟日報モア(2021年3月25日)〉

 HON.jpはNovelJamの商標を使っても良いという許諾を出した程度で、直接的にはほとんど関わっていませんが、実はかなりの人数の関係者が関わっている「阿賀北ノベルジャム」が、ついにフィナーレ。お疲れさまでした。次は「共催」とか「後援」とか、もうちょっと公式に関わっている形にしてもいいのかも?

 今後、コロナ禍が落ち着いたら、学校や図書館が開催するイベントとして、NovelJamのような出版ハッカソンはいかがでしょうか? 楽しくて新しい出版文化の普及活動として取り組んでみたいところです。

納本制度審議会から答申が提出されました(付・プレスリリース)〈国立国会図書館―National Diet Library(2021年3月26日)〉

国立国会図書館が発信する新着情報の一覧です。プレスリリース、ニュース、刊行物、採用情報の新着情報の一覧があります。

 有償電子書籍の納本制度について、審議会から答申が出ました。電書協が受託して5年間ものあいだ行われていた実証実験の成果が、これで一定の答えを得たことになります。このまとめ&コラムでも何度か取り上げてきた「リポジトリで電子納本義務を免れる」問題(#412#430#464)については、補論で結構厳しい条件を付けています。

 とくに、「広く一般に利用可能である(有償契約や会員登録が必要な場合を含む。)」という条件は、電書協が受け入れ可能かどうか。会員登録に特別な条件が必要ならば「広く一般に利用可能」とは言えないでしょうし、有償契約が必要だったら「それってもう定額読み放題サービスや電子図書館サービスと何が違うのか?」という。

漫画の海賊版が再び拡大 サイト相次ぎ被害急増、「漫画村」超す〈産経ニュース(2021年3月26日)〉

 漫画の海賊版被害が再び拡大している。悪質性が際立っていた海賊版サイト「漫画村」が3年前に閉鎖されて以降も、新たな海賊版サイトが次々と誕生。コロナ禍の昨年12月…

 昨年末あたりから何度か報道されていることですが、改めて。この急増している数字には「ダウンロード型」の海賊版サイトが「含まれていない」という記述に目が留まります。つまりかつての「漫画村」同様、ユーザーの手元にダウンロードしない「ストリーミング型」が伸びているのだ、と。ダウンロード型へのアクセスは減っているので、法改正にも一定の効果があったとのこと。こうなると、次の法規制という話もいずれ出てきそうな気がします。

経済

【序章】多様化、重層化するメディアのサブスクリプションの今・・・特集「進化するサブスク」#1〈Media Innovation(2021年3月24日)〉

 ニューヨーク・タイムズ699万人に続くのはどこか? ということで、公表されている数字を元にまとめた表が興味深い。日本勢で載っているのは、日経電子版76万人、朝日新聞デジタル32万人、NewsPicks17万9000人。読売毎日など、他紙はまだ非公開なんですね。英語と日本語の人口が10倍くらい違うことを思うと、現時点での普及度はほぼ同じくらいとも捉えられます。

出版取次トーハン、電子書籍大手メディアドゥと資本提携〈日本経済新聞(2021年3月24日)〉

出版取次大手のトーハンは24日までに、電子書籍流通大手のメディアドゥと資本業務提携を結ぶ方針を固めた。約30億円を相互出資する。トーハンは紙の書籍の市場縮小と物流費の高騰で経営環境が悪化している。メディアドゥが扱う電子書籍の書店での拡販など新規事業に活路を求める。トーハンは紙の書籍を出版社から引き取り、書店に卸す出版取次で2位。首位の日販と市場シェアを分け合ってきた。紙の書籍の市場が縮小する一

 紙の取次2位と、電子取次1位のビッグな提携。「メディアドゥが扱う電子書籍をトーハンの取引先書店で販売する計画だ」という記述に、2012年に開始され2016年に終わった「c-shelf」(↓)を思い出した人が散見されたことを記しておきます。まあ、過去の失敗事例からは、学んで活かせば良いだけだとも思うのですが。

【編集部記事】出版取次大手の株式会社トーハン(本社:東京都新宿区)は9月3日、一般の書店店頭でも電子書籍が販売できる専用システム「c-shelf」を今年12月から提供開始することを発表した。 c-shelfは、店頭に置かれた紙書籍・陳列用買い物カード・検索端末を使い、訪問客がレジで電子書籍を購入できるようにするためのシステムで、書店主側はインターネットに接続可能なPCおよびカラープリンタ等を用意しておくだけ。来店...

 あと、日経の記事は本の販売そのものに関することが中心なのですが、メディアドゥのプレスリリース(↓)には最近話題の「NFTを活用した事業」が真っ先に挙げられているあたりが、さすがだと思いました。

最先端テクノロジーと業界における稀有なポジションを活かし、電子書籍を中心としたデジタルコンテンツを世に広め、出版市場全体の拡大に最大限貢献することを目指しています。それにより、コンテンツが世に生み出され続ける“創造サイクル”を実現し、人々をコンテンツの力で豊かにしていきたいと考えています。

メディアドゥ 日本文芸社を子会社化、インプリント事業に注力〈文化通信デジタル(2021年3月25日)〉

   電子書籍取次最大手のメディアドゥは3月25日、日本文芸社の発行済み全株式をRIZAPグループから取得し、同30日付で完全子会社化すると発表した。取得価額は約15億円。    …続き

 そしてそんなメディアドゥから連続でほぼ同時に、こんなリリースも。RIZAPから全株式取得で子会社化です。メディアドゥは2019年8月にポプラ社からジャイブの全株式を取得、同10月に宙出版社ネクスト編集部を譲受し、管理組織や在庫・生産管理などの業務を共有する「インプリント事業」を開始しています。今回の日本文芸社子会社化も、その流れの一環です。どんどん大きくなるなあ。すごい。

【人事】KADOKAWA、ドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏が6月22日付で代表取締役社長に就任へ 現社長の松原眞樹氏は代表権のない取締役副会長に〈Social Game Info(2021年3月25日)〉

KADOKAWAは、本日(3月25日)、6月22日付で取締役でドワンゴ代表取締役社長の夏野剛氏が代表取締役社長に就任することが内定したことを発表した。また、同じく取締役の山下直久氏も代表取締役に就任する。▲代表取締役社長就任が内定した夏野剛氏一方で、現・代表取締役社長の松原眞樹氏は代表権のない取締役副会長となり、代表取締役の井上伸一郎氏は新たに顧問に就任する。異動の理由は、経営体制強…

 見出しは夏野さん単独ですが「同じく取締役の山下直久氏も代表取締役に就任」とのこと。現・代表取締役の井上伸一郎さんが顧問に、というのもトピックスです。角川歴彦さんは会長のまま。後継者問題は、どうなるんでしょうね?

書協とVIPO、「Japan Book Bank」を開設〈新文化(2021年3月25日)〉

 日本の出版物の海外展開を促進することを目的としたウェブサイトが開設。トーハンが協力しています。マンガ以外もしっかり対応していること、権利情報の検索機能があること、問い合わせ窓口機能がある点などがポイントでしょう。以前、書協の公式サイトに出版物情報提供の依頼が出ていましたが、ここへ結実したわけですね。良い取り組みだと思います。

ジュンク堂が「バーチャル書店」に。自宅で本との偶発的な出会い〈Impress Watch(2021年3月26日)〉

大日本印刷(DNP)は、3月27日オープンのテレビ東京運営「池袋ミラーワールド」に参画。DNPグループのジュンク堂書店池袋本店を「バーチャルジュンク堂書店池袋本店」として池袋ミラーワールドに構築し、「バーチャル書店」の事業化に取り組む。

 テレビ東京運営の「池袋ミラーワールド」への出店。ちょっとウロウロしてみましたが、まだ試し読みとかはできないみたいです。DNPとTRCは昨年の図書館総合展(オンライン)でバーチャル図書館のデモ版を公開していますが、雰囲気は似ています。VR端末だけでなく、ブラウザからでもアクセス可能です(↓)。

バーチャルとリアルを行き来する全く新しい体験「ミラーワールド」

業務提携、株式の売出し、主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動並びにその他の関係会社(親会社等)の異動の予定に関するお知らせ(PDF)〈株式会社富士山マガジンサービス(2021年3月26日)〉

 カルチュア・エンタテインメントが保有する株式の一部をTRCに売却、「開示対象となる非上場の親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社は今回の異動により、当社の親会社等から外れる予定」とのことです。今後はCCCの決算情報が、富士山マガジンサービスからは出てこなくなる可能性が高いものと思われます。

 また同時に、経営陣への株式譲渡も行われ、筆頭株主は西野伸一郎社長に。創業社長の権限が強くなるわけなので、今後はもっといろいろな動きが活発に行われるようになる? とくに図書館関係での動きに注目しておきたいところです。

技術

【山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ】カラーE Ink搭載Androidタブレット「BOOX Nova3 Color」。モノクロとの違いを検証〈PC Watch(2021年3月24日)〉

 Onyx Internationalの「BOOX Nova3 Color」は、最新のカラーE Ink電子ペーパー「E INK Kaleido Plus(カレイドプラス)」を搭載した7.8型のAndroid 10タブレットだ。KindleやKoboなど、特定の電子書籍ストアと紐づいたE Ink端末と異なり、Google Playストアからさまざまなアプリをインストールし、カラー表示で使えることが特徴だ。

 詳細な検証記事。「モノクロ部分が300ppi、カラー部分が100ppiと、異なる解像度が混在している」というのは面白い。事前に「カラーは100ppi」との情報があったので、カラーページにある文字は相当読みづらいんじゃないかと思っていたんですが、#000000(あるいはK100)に近い色域は自動で300ppiになるみたいなんです。それすごい。ただ、液晶タブレットと並べてしまうと、やはりどうしても彩度の低さが目に付いてしまいますね。欲しいけど、ちょっとこの価格はためらってしまう。むむむ。

「NFTアートは価値がなくなるだろう」…著名アーティスト「ビープル」が語る〈Business Insider Japan(2021年3月25日)〉

NFTアートへの投資とは、デジタル作品の価値が上がることを期待して、その所有権を買うことだ。だが「これらの価値は、間違いなくゼロになる」とマイク・...

 最近急に話題になっているNFTアート市場について、7000億ドルで売却したアーティスト自身が「バブルになっているようだ」と述べているとのこと。まあ、そうですよね。大金持ちが、市場を盛り上げるための景気づけに買った、みたいな雰囲気を覚えます。「(インターネットの)バブルが崩壊しても、インターネットはなくならなかった」「くだらないものが一掃されただけだ」というのはなかなか含蓄がある言葉。

ブロードキャスティング

 3月22日のゲストは唐渡千紗さん(ルワンダでタイ料理屋を経営)でした。番組前半の部のアーカイブはこちら。

 また、3月27日には菊池健さん(漫画の助っ人マスケット合同会社代表)をゲストに迎え、1時間の特番「マンガ産業の現在と未来」を配信しました。こちらはまるごとアーカイブされています。

 次回のゲストは大洞敦史さん(台湾在住作家・翻訳家)で、「自主検閲が必要な現代作家の不自由さ」をテーマにお届けします。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。

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CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 727 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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