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2024年1月21日~27日は「AIと著作権に関する考え方について(素案)パブコメ開始」「Maruzen eBook Libraryで被災地支援」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
生成AIと著作権めぐる「考え方」案 文化庁が意見公募開始〈朝日新聞デジタル(2024年1月23日)〉
パブリックコメントが始まりました。「AIと著作権に関する考え方について」でSNSを検索すると、パブコメ開始直後から多くの反応が観測できました。生成AI反対派も推進派も、どちらも言いたいことがたくさんあるようです。任意の意見募集ということもあり、締切は2月12日と早いので注意。文化庁からのお知らせはこちらです。
私はもう意見送付済みです。昨年11月に、日本新聞協会の「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」という主張が虚偽であることを指摘する記事を書きましたが、結局、この「考え方(素案)」では「有料会員限定のコンテンツをもとに、回答を生成」が事実という前提になっています(p20の例に挙げられている)。それはおかしいのでは? と指摘しておきました。
ちなみに、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回)で福井健策氏が食い下がっていた箇所がどうなったかを確認して、少し驚きました。「生成AIで大量かつ高速にアイデアが盗まれることは、やはり考慮すべきではないか?」という意見が、脚注ではなく本文に追記されていました。これにより「アイデアは保護されない」という著作権法の原則に、法制度小委員会が一石を投じた形になっています。すげえ。
読売新聞、Web記事の“生成AIへの学習利用”を禁止に 利用規約を改定 スクレイピングなどもNG〈ITmedia NEWS(2024年1月25日)〉
関連で。上記の「考え方(素案)」では「著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難」つまり利用規約では30条の4をオーバーライドできないことが明確化されていますが、それでもなお、あえて意思表示を行っています。まあ、「考え方(素案)」はあくまで識者や行政の意見であって、最終的には裁判じゃないと決まりませんからね。やれる限りのことをやっておく態度は正しい。
AI時代の知的財産権検討会(第5回) 議事次第〈内閣府知的財産戦略推進事務局(2024年1月26日)〉
関連でもう一つ。内閣府の検討会では主に著作権法以外の論点を扱っているためか、文化庁とは対照的に、驚くほど反応が少ないです。私も傍聴できていないのですが、個人的に気になったのは資料「生成AIと知的財産権に関する横断的見地からの検討 (討議用)」の(3)「声」の保護について(p7)。
ここには「実演の学習行為には、著作権法30条の4が準用されるため(102条1項)、同条が適用される範囲内の利用については、原則として許諾を得る必要がない」とありました。準用って知らなかった。必要な修正を加えて当てはめるという意味なのですね。
アイデアの範疇なので著作権では保護されない「文体」や「画風」と異なり、声は著作隣接権の範疇だから別の考え方が必要なのでは、という意見が法制度小委員会でも出ていました。要するに声優や歌手の声を無断でAIに学習させ、声真似できるような生成AIを開発した場合にどうなるか。「実演家の利益を不当に害することとなる場合」についても明確にしておく必要がありそうです。
生成AIの「無断学習」を規制するうえでの論点 強く規制することにはデメリットも | インターネット〈東洋経済オンライン(2024年1月23日)〉
さらに関連して。とくに以下の指摘は重要だと感じました。
(「無断学習」を規制することは)生成AIの学習に反対している人でも日常的に使っているであろう翻訳サービス、動画サービスの文字起こし、デジタルペイントツールの自動彩色機能など、多くの機能やサービスが巻き添えとなって規制されてしまいます。
要するに、生成AIは2022年に突然発生したわけではなく、もう何年も前から多くの方がその技術の恩恵を享受している状態だったのですよね。Google翻訳が機械学習によって急激に進化したのは2016年ですが、その当時、翻訳業界には「グーグル・ショック」と呼ばれる激震が走っていたそうです。しかし、翻訳家以外の人は、それを他人事のように眺めつつ、機械翻訳を便利に使い倒しています。
実際、画像生成AIに拒絶反応を示して猛反対している方々が、過去にDeepL翻訳などを便利に活用していた事実を指摘されている様子を何度も観測しています。これは私自身もそうですけど、結局、自分に直接影響するかもしれない事態になるまで、なかなか当事者意識を持つことはできないのですよね。インボイス制度のときに痛感しました。
社会
ウィキペディアでまちおこしを 学校司書が体験もとに出版〈朝日新聞デジタル(2024年1月24日)〉
ウィキペディアタウンを紹介する本が出ました。私の大学の授業(デジタル編集論)でもWikipediaについて説明する回があるので、これ幸いと買って積んだままになっていました。読まねば。
ウェブページを「魚拓」するしか? デジタル時代の記録、保存方法は〈朝日新聞デジタル(2024年1月24日)〉
私の大学の授業(デジタル編集論)でも「ウェブ魚拓」……ではなく、Internet Archiveの「Wayback Machine」や国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)について説明する回があります。この記事でも会員限定部分で触れられています。同じ媒体から同じ日に近しい話題が記事化されたのが興味深く、併せてピックアップ。
出版社と丸善雄松堂が電子図書館で被災地を支援~「Maruzen eBook Library」で電子図書を無償配信〈KKS Web:教育家庭新聞ニュース(2024年1月25日)〉
HON.jpも賛同しました。「Maruzen eBook Library」へ配信している私の著書4点(年鑑)が対象になっています。ぜひご活用ください。「賛同出版社一覧」のPDFを開いたら、うちが先頭で驚きました。社名順なのですが、アルファベットHより前がたまたまいなかったみたい。
「読書バリアフリー法」「障害者差別解消法」を意識した電子書籍アクセシビリティ対応をアップデート!〈株式会社ボイジャー(2024年1月25日)〉
https://www.voyager.co.jp/info/detail/?id=news_2024_0125_01
電子書籍制作ツール「Romancer」そのもののアクセシビリティ機能向上(「NRエディター」へのALTテキスト入力UI追加など)や、「Romancer」ユーザー向けのアクセシビリティを高めるための制作ガイドなどが用意されました。「ルビを使って傍点(﹅)をつけないでください」あたりは「だったらNRエディターにも傍点を入れられる機能を用意してよ」と言われそうですが、恐れずガイドしているあたりが素晴らしい。「BinB」ブラウザビューアのアップデートも予定されているようですね。楽しみです。
経済
23 million subscribed to ad-supported Netflix. Book-streaming platforms should explore the option(2300万人が広告付きのネットフリックスに登録しました。書籍ストリーミング プラットフォームはオプションを検討する必要があります)〈The New Publishing Standard(2024年1月22日)〉
映像配信サービスの「Netflix」が通常プラン(日本だと月額1490円)より安価な広告付きプラン(同月額790円)を始めてうまくいっているのを見て、これなら書籍の定額読み放題サービスにも応用できるのでは? という声が上がり始めていたので紹介しておきます。無料+広告ではなく、安価なサブスク+広告というやり方。章の途中で中断される体験は誰も望んでいないが、章の間なら頻度次第では許容できそう……といった考察です。まあ、確かに、閲覧できるコンテンツが限定されている代わりに安価なプランより、多少広告は入るけどラインアップは変わらないほうが喜ばれるかも?
有料ビジネスニュースとクーポンを集約した購読サービス「SmartNews+」、提供開始1カ月半で累計購読者数1万人を突破〈スマートニュース株式会社のプレスリリース(2024年1月25日)〉
各社の有料記事を束ねた定額制のニュース配信サービス「SmartNews+」が、開始1カ月半で1万人突破です。参加メディアに日本の大手新聞社が入ってないことから、私には月額1480円が「高い」と判断していたたため、正直驚きました。全国の飲食店チェーンなどで使えるクーポン300種類が毎月使い放題、というのも大きいのでしょうか。おみそれしました。
2023年出版市場(紙+電子)は1兆5963億円で前年比2.1%減、コロナ前の2019年比では3.4%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2024年1月25日)〉
毎年恒例の。数字を入れるだけの状態にした原稿やグラフを用意し、プレスリリースが流れてくるのを待ち構えていました。タイトルに「コロナ前の2019年比」を入れるかどうか迷ったのですが、比べてみたら「増」だったので入れることに。あと、凡例クリックで項目のオンオフを切り替えられるような動的表示のグラフも実は準備していたのですが、どうもテーマ(もしくは他のプラグイン)と競合してしまうようでうまく表示できず、今回は断念。残念、無念。ぐぬぬ。
「大金持ちに余裕あっても…」メディア経営、ジェフ・ベゾス氏も苦戦〈朝日新聞デジタル(2024年1月26日)〉
他はどうかわかりませんが、ワシントン・ポスト紙は一時期「ベゾス流で劇的に復活」みたいに称揚されていたのを思い出します。2023年には約1億ドル(約148億円)の赤字を計上しているそうです。
そういえば、ワシントン・ポストが提供しているSaaS型CMS「Arc XP」も、最近はあまり話題になっていません。「高い」という評判を聞いたことはありますが。どうなってるんだろう?
縦読み漫画賞、賞金総額1億円が登場 高騰の背景は、クリエイター争奪戦とIPビジネスの競争激化〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2024年1月27日)〉
賞金総額1億円の「Amazon Fliptoon 縦読みマンガ大賞」が始まったことが話題になっています。確かに突出して高額です。「Kindleインディーズ無料マンガ基金」は他で配信している作品でも登録可能ですが、この賞に関しては独占配信縛りがあります。クリエイター争奪戦がますます激化しそう。
とはいえ「Amazon Fliptoon」は誰でも投稿できるサービスでもあるので、出版社やスタジオ制作のモデルより、もともと韓国「NAVER Webtoon」で行われていたモデルのほうが近いようにも感じます。直接ぶつかるのは「LINEマンガ インディーズ」や「pixivコミック」かな?
技術
VRとARは再び「次の大きな波」になる–真に役立つデバイスへ〈CNET Japan(2024年1月26日)〉
アメリカでApple「Vision Pro」の予約が開始され、私の周囲でもイノベーター理論のイノベーター(最上位2.5%)たちが「日本からでも予約ができた!」とレポートを公開している様子が観測できました。早くも熱狂の気配が。でもこのタイミングでピックアップするなら、こういう「今後どうなるだろう?」という記事が良いと思いこちらを選びました。「空間」をデジタル化することにより「本棚」や「ストア」がどう変わるんだろう? と想像してワクワクするのが楽しい。
お知らせ
HON.jp News Casting
2023年の主な出版ニュースを振り返る毎年恒例の特番、アーカイブ視聴チケットは1月31日までの販売となります。登壇者はニュースまとめ配信人の大西隆幸氏と菊池健氏と古幡瑞穂氏と鷹野凌、司会は西田宗千佳氏です。
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日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記
なんだか最近、夜が近づくと目がかすむようになってしまいました。少し前に、直線が波打って見える症状が出たときは、眼科で検査してもらったんですけど、結果は異常なし。目を酷使し過ぎかなあ……(鷹野)
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