「Google、ヤフー、Metaの広告事業に規制」「漫画アプリ韓国勢のすごみ?」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #541(2022年10月2日~8日)

岩波書店

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 2022年10月2日~8日は「Google、ヤフー、Metaの広告事業に規制」「漫画アプリ韓国勢のすごみ?」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

巨大なデジタル広告プラットフォームに対する規制の始動 ―規制の概要と広告主・パブリッシャーへの影響― | 著書/論文〈長島・大野・常松法律事務所(2022年10月4日)〉

 経済産業省所管の「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」で、10月3日に対象となる事業者が指定されたことを受けての解説記事です。「透明化法」と略しているように、指定されたデジタルプラットフォームに対し、取引条件の透明性や公正性を迫る規制です。つまり、取引先である広告主やパブリッシャーにメリットがある規制となっています。

 指定された事業者はGoogle、ヤフー、Metaの3社。こちらの解説記事によると「デジタル広告の分野でプラットフォームに対する規制が施行されるのは世界初」とのこと。ちょっと驚きました。デジタルプラットフォーム事業者への規制は世界的な潮流ですが、デジタル広告分野に限ると日本政府の規制が先行している、ということなのですね。

「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の規制対象となる事業者を指定しました〈METI/経済産業省(2022年10月3日)〉

 この規制は対象が「メディア一体型」と「広告仲介型」に分かれています。「メディア一体型」ではGoogle検索とYouTube、Yahoo!JAPAN(Yahoo!検索を含む)、FacebookとInstagramが対象となっています。Metaは、日本ではFacebookがそれほど強くないのでちょっと意外でした。日本ではInstagramのほうが売上への貢献度は高いのかも?「広告仲介型」はパブリッシャーの枠に広告を表示する事業で、Googleだけ(AdSenseなど)が対象です。

 この規制を受け、さっそくヤフーが審査基準やデータの取り扱いなどの情報を一元的に集約した特設サイトを公開しています。いち早く取り組んでいることは評価したい。

 ただ、これはあくまでデジタル広告分野での取り組み。ニュース提供社(パブリッシャー)から記事を集めて配信する事業(Yahoo!ニュース)の取引条件は不透明なままです。そもそも、ニュース提供社に選ばれる基準から不透明ですし(ウチは断られた)。

【爆速】弁護士も驚く「改正プロ責法」の本気、わずか3日でツイッター社に「プロバイダ情報」提供命令〈弁護士ドットコム(2022年10月6日)〉

 改正プロバイダ責任制限法が10月1日に施行され、裁判所も真剣になっているようです。これまで2段階必要だった開示請求が1回で済むようになっただけでなく、情報提供命令の発令までの期間まで短くなっているとのこと。「第1号」を手掛けた藤吉修崇弁護士のツイートはこちら。問題はこの後、命令を受けたTwitter社がどれだけ迅速な対応を行うかでしょう。

「副業300万円問題」大幅修正へ 通常の70倍の反対意見が殺到〈朝日新聞デジタル(2022年10月7日)〉

 パブコメでひっくり返るんだなあ……と、ちょっと感心しました。結局、金額での線引きは行わず、取引ごとの売上高や経費を書き込んだ帳簿や、請求書や領収書などの書類を保存していれば、事業所得として認められることになるようです。ホッとした方も多いのでは。

「著作権法施行令の一部を改正する政令(案)」及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令(案)」に関する意見募集の実施について〈e-Govパブリック・コメント(2022年10月7日)〉

 改正著作権法第31条、図書館等公衆送信関連のパブコメです。入手困難資料が対象の個人向けデジタル化資料送信サービスは5月からすでにスタートしていますが、複写サービスの公衆送信対応についてはまだこれから(施行期日は来年6月1日)。意見募集の内容は、一部ではなく「全部」の複製・公衆送信を行うことができる著作物についての規定と、補償金の指定管理団体について。「対象とする著作物に付随して複製される美術、図形及び写真の著作物」が争点になりそう? 締切は11月5日です。

社会

※デジタル出版論の連載はお休みしました。

日本ファクトチェックセンター「テレビ・新聞は対象外」が当然の理由(藤代裕之)〈個人 – Yahoo!ニュース(2022年10月4日)〉

 #540でピックアップした日本ファクトチェックセンターですが、この記事を読むまで「設立の背景」に思い至っていませんでした。これは、総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」がプラットフォーム事業者に自主的な対策を促したことがきっかけで、それをうけ、セーファーインターネット協会が「Disinformation対策フォーラム報告書」を公表し、日本ファクトチェックセンターを設立した――という流れだったそうです。そういう文脈だったとは。気がつきませんでした。

 つまり、そもそもデジタルプラットフォームにおける偽・誤情報対策と信頼性の向上が目的だからこそ、Googleやヤフーが資金を提供しているし、テレビ放送や新聞紙面はスコープ外になる、と。個人的には#540でも書いたように、こういう組織はいくつあってもいいし、対象はいくらでもあるので役割分担すればいいと思いますし、設立の背景まで説明されるとさらに納得しやすい。

 ただ、これはあとから気づいたのですが、日本ファクトチェックセンターの「編集チーム」でファクトチェッカーを務めているのが全員大学生というのは、ちょっといろんな意味で厳しいのでは。「人材の育成」も柱の一つになっていますし、エディターによる監修やリサーチチームの協力があるのが前提ですから、能力的なところはさておき。これだけ批判的な目に晒されている中で学生が実名を出してファクトチェックを行うのは、精神的にかなり堪えると思うのですよね。充分なケアをし、守ってあげて欲しい。

経済

商標出願急増の裏にAmazon 知財制度の啓発効果〈日本経済新聞(2022年10月2日)〉

 Amazonは偽ブランドや詐欺まがいの出品が横行していて、すっかり「レモン市場」化しているな……と思っていたのですが、こんな対策が2017年から行われていたのですね。知りませんでした。「Amazonブランド登録」を利用することで、権利侵害の疑いが平均で99%減少したと報告されているそうです。

 利用には商標登録が必須条件ですが、ブランド登録そのものは無料でできるようです。昨今、偽ブランドや詐欺まがいが増えてきたことから、対策するベンダーも増えてきたということなのでしょう。なるほどなあ……と思っていたら、こんなプレスリリースが。

Amazon、「日本の中小企業」バッジの表示を開始〈Amazon Newsroom(2022年10月4日)〉

 前述の「Amazonブランド登録」に登録されているブランド商品に、「日本の中小企業」というバッジが表示されるようになるとのこと。今後はこのバッジの有無でも信頼性が判断されることになりそうです。

 出版社はどうか? 紫苑商標特許事務所の記事によると、出版社の場合、社名やロゴ・シンボルマーク、雑誌などシリーズものなら商標登録するメリットがありそう?

実際の利用者が評価した『電子コミックサービス』ランキング(オリコン顧客満足度®調査)〈オリコン株式会社のプレスリリース(2022年10月3日)〉

 最初に見たとき「なぜ『ゼブラック』が総合型(複数の出版社・レーベルのマンガをウェブ上で配信しているサービス)側なんだろう……?」と思ってしまったことを告白いたします。集英社「ゼブラック」は、2019年12月の開始時は集英社の作品だけでしたが、2020年4月には白泉社が追加されるなど、わりと早い時期に他社連携が始まっていたようです。失礼しました。懺悔。

 ただ、現時点でも講談社やKADOKAWA、同じ一ツ橋グループの小学館も、まだ配信はしていないようです。KADOKAWA「BOOK☆WALKER」ほど業界横断的ではない、とは言えるでしょう。それでも利用者の満足度がこれほど高いというのは興味深い。なお、「Kindleストア」は11位、「楽天Kobo」は18位でした。

丸善雄松堂と図書館流通センターが連携 電子図書館Maruzen eBook Libraryの全国公共図書館への販売を開始〈丸善雄松堂コーポレートサイト(2022年10月6日)〉

 丸善CHIホールディングスのグループ内で、丸善雄松堂「Maruzen eBook Library(MeL)」は学術機関向けに強く、図書館流通センター「LibrariE & TRC-DL」は公共図書館向けに強い、というすみ分けでした。ところが「都道府県立図書館等のお客様からは専門書を中心としたMeLの導入を望む声も高まってい」たそうです。同じグループ内でニーズに応える融通を図ったといえるでしょう。

 実際のところ、MeLの中でも「学術機関向け」と「企業向け」ではラインアップが若干異なっており、企業向け扱いになっているHON.jpの契約では買いたくても買えない本があります。売ってなきゃ買えないんだけどなあ……これは出版社側の意向によるものなので、公共図書館向けへの展開でも差があるのかどうかは少し気になるところ。

 あと、MeLは1タイトルごとの買い切り契約なので、一度購入すれば同じタイトルで追加経費はかかりません。「TRC-DL」も多くは買い切りですが、「LibrariE」は2年または52回の有期限回数制限付きで、3年目から都度課金に切り替えていく形がスタンダードになっているはず。ラインアップの違いとともに、契約形態の違いもあることは頭に入れておいたほうがよいでしょう。

漫画アプリで覇権を広げる「韓国勢」のすごみ | 特集〈東洋経済オンライン(2022年10月6日)〉

 LINEマンガとピッコマを中心とした縦スクロールマンガの動向についての記事。正直、私はもうこういう切り口は食傷気味で、「すごみ」というなら「売上」がどうなっているかをもう少し詳しく開示して欲しいと考えています。要するに「で、なんぼ売れてるの?」って話です。

 確かに、インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2022」では、LINEマンガ・ピッコマが利用率で1位・2位になっています。ただ、実態としては無料の「メディア型モデル」が利用率を底上げしているはずなので、「ストア型モデル」として見た場合にどれだけのシェアを占めているのかは不明です。売上=客数×頻度×単価ですからね。

 また、Sensor Tower発表の「世界モバイルアプリ市場調査」で、2021年の国内マンガアプリサービス年間セールス1位・2位がピッコマ・LINEマンガであるのも確かです。しかしこれは、App StoreとGoogle Playだけを合計したランキングですから、Apple決済やGoogle決済を使ってないサービスはこのランキングに出てこない点に留意する必要があります。Kindleなどが比較対象に入ってないわけです。

 むしろ、このランキングに入っているイコール「AppleとGoogleに決済手数料をガッツリ抜かれている」ことを意味するわけで。出版社直営ならまだしも、出版社からコンテンツを仕入れて販売しているモデルの場合、そのぶん利益率が下がるリスク要因として捉えなきゃいけないと思うのですよ。

 矮小化しようとは思いませんけど、実態以上に過大評価するのも避けたいところ。いまみたいに断片的な情報しか出てこない状態だと判断が難しいんですよね。たとえば以前、ピッコマで(縦スクと横読みの)売上比が50:50という情報がありましたけど、それは単月の数字なのか、年間の数字なのか。「人気作の最終回」など、イレギュラー要因でたまたま単月の売上が跳ね上がってる可能性もあるわけで。

技術

米国最大の書籍流通企業Ingram が、Web3電子書籍会社Book.ioと資本・業務提携〈Media Innovation(2022年10月4日)〉

 あのイングラムがWeb3企業と資本業務提携。びっくりしました。調べてみたら、本稿執筆時点でイングラムの公式サイトにお知らせはとくに出ていないのですが、「Book.io」のプレスリリースにはイングラムCEOのコメントが確かに載っていました。ううむ、どうやら本気らしい。PODの印刷配送部分をイングラムが担う形になるようです。

 ではその「Book.io」はどういう仕組みなのか。さらに調べてみたところ、「Cardano(カルダノ)」ブロックチェーンのエコシステムについてニュースを配信する「AdaPulse」というメディアで詳しい記事を見つけました。当初「Book Token」という名称だったのが、最近「Book.io」に変わったようですね。

“By using the blockchain infrastructure, along with smart contracts and decentralized storage, Book Token is creating the ability to have unique digital book assets, which are fully decentralized, as well as fully encrypted, all stored on the blockchain. ”

 つまり、コンテンツは外部保存ではなく「オンチェーン」で暗号化されていると言っているわけですが、ほんとうかなあ……トークンの所有者しか閲覧できない制御がほんとうにできているなら、擬似的な所有権の売買も可能でしょうし、スマートコントラクトで権利者への還元も可能なんでしょうけど。現時点では正直、判断保留です。

Twitter、ユーザーによる誤情報対策「Birdwatch」のメモを米国の全ユーザーに表示〈CNET Japan(2022年10月7日)〉

 これは面白い試み。誤解を招くようなツイートに対し「Birdwatch」の協力ユーザーがファクトチェックを行う仕組みなのですが、検証メモが一般公開されるには他の「Birdwatch」協力者から有益な情報だと評価される必要があるとのこと。つまり、ファクトチェックのファクトチェックまで考慮に入れたシステムになっているわけです。

 これ、専門家やファクトチェック機関といった権威性に頼らないぶん、よりフラットで透明性の高い検証・判断ができるようになるんじゃないかなあ……アメリカ以外にも展開して欲しい。もちろんその「Birdwatch」協力者をどうやって選定するか? 次第ではあるとも思いますが。ファクトチェックの技能検定が必要かもしれません。

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雑記

 なんだか急に寒くなりました。気象庁のデータを見たら、10月4日の最高気温は29.9度だったのに、10月7日の最高気温はなんと12.8度。さすがにこれは堪えます。みなさま風邪など引かぬようお気を付けください(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0

※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

 

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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