「インボイス制度で声優の2割が廃業を検討」「裁判手続簡素化の改正プロ責法が施行」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #540(2022年9月25日~10月1日)

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 2022年9月25日~10月1日は「インボイス制度で声優の2割が廃業を検討」「裁判手続簡素化の改正プロ責法が施行」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

「インボイス制度は日本のエンタメ業界を破壊する」 声優の甲斐田裕子が反対の声を上げる理由〈まいどなニュース(2022年9月24日)〉

 インボイス制度に反対する声優の有志グループ「VOICTION」についての記事。ここが実施したアンケートによると、答えた声優の約7割が年収300万円以下、4割が100万円以下で、2割以上が制度導入での廃業を検討しているそうです。ライター・イラストレーター・マンガ家なども零細事業者が多いので、恐らく似たような割合になるだろうな……と思いピックアップ。納税の重さはもちろん、申告のための事務コストがキツイという意見にも同感です。

 なお、この「まいどなニュース」はゆるーい印象を受けるウェブサイトですが、実は神戸新聞社を中心とした関西の複数メディアが集まってつくっている、根は真面目なサイトです。新聞は軽減税率の適用対象なので、藪蛇になるからインボイス制度はあまり積極的には取り上げない印象があります。だから、ここにこういう記事が出るのはちょっと意外でした(神戸新聞NEXTにも転載されています)。

 “印象”だけだとアレなので、大手新聞社のウェブサイトをGoogleでサイト内検索(引用符付き”インボイス制度”)してみました。すると本稿執筆時点で、毎日新聞は約52件(「エコノミスト」の記事が多い)、産経新聞は約47件(プレスリリースが多い)、読売新聞は1件でした。ついでに、軽減税率の財源の一部を小規模免税事業者の「益税」を充てる検討に入ったという、2018年9月の記事を毎日新聞で発掘。やはり軽減税率が諸悪の根源ではないか。

 朝日新聞は約4680件と飛び抜けて多かったのですが、見出しをざっと眺めてみたら、インボイス制度とはあまり関係なさそうな記事が大半です。どうやら、同じ記事(シルバー人材センターが不安視する声など)が「関連記事」機能で表示されるのを、Googleがみんなカウントしている模様。サイトに設置された検索機能だと12件でした。

 日経新聞は約612件とそこそこ多く、自治体での登録率が低調であることや、企業での対応状況、請求書システムの対応状況などとともに、個人事業主の懸念も伝えています。ただ、他紙はウェブから過去記事を消してる可能性があるんですよね……ちゃんと調べるなら「ELNET」のような過去記事データベースを検索したほうがよさそう。

フリーランス保護新法、国は企業の「ルール破り」にどう対応するのか 歓迎と懸念の声〈弁護士ドットコム(2022年9月26日)〉

 下請法の適用範囲を資本金1000万円以下の企業に広げる方向性について、労組関係者と福井健策弁護士からコメントを取っています。監督官庁が対処しきれないかも? という懸念は、確かに。全国に拠点がある労働基準監督署に比べ、公正取引委員会は規模が小さいですからね。

 これって結局、インボイス制度を止めない代わりのガス抜きなんでしょうか。仕入税額控除の制限は消費税のババ抜き状態を起こすわけですが、より弱い立場のフリーランスを保護することは、取引先企業側を泣かせることになるわけで……ううむ。

中傷の投稿者、特定容易に 迅速救済へ改正法施行〈共同通信(2022年10月1日)〉

 改正プロバイダー責任制限法が10月1日に施行されました。発信者情報開示請求の裁判手続きが簡素化され、誹謗中傷や著作権侵害などの権利侵害に迅速な対応が可能となります。というか、従来通りの2段階手続きはそのままで、別途1回で済む「非訟手続」が新設されたのですね。総務省による概要説明資料はこちら。悪用や濫用も少し心配です。

社会

※デジタル出版論の連載はお休みしました。

「無料で動画やマンガが見られるソフト」のつもりで「ファイル共有ソフト」を使ってしまうトラブル、国民生活センターが注意喚起〈INTERNET Watch(2022年9月26日)〉

 P2Pのファイル共有ソフトといえば「WinMX」「Winny」「Share」などの名前が思い浮かびますが、いずれも猛威を振るったのはゼロ年代が中心という印象でした。いまになって国民生活センターから注意喚起が行われるというのは、歴史を知らない若い世代による利用が増えているのでしょうか。

 なお、出版広報センター「深刻な海賊版の被害」のコーナーにはまだ「P2P」についての解説ページが残っています。「ユーザー数を激減させました」「海賊版対策の成功例といえます」という記述も。

「日本ファクトチェックセンター」設立。Googleが150万ドル〈Impress Watch(2022年9月28日)〉

 ファクトチェック専門の新たな組織が設立されました。ところが、大手新聞社など伝統的なマスメディアを対象外としている点や、編集部の全員が朝日新聞社出身である点などが、強い反発を招いています。ちょっと意外なほど。なんというか、アレルギー反応っぽい。個人的には、こういう組織はいくつあってもいいし、対象はいくらでもあるので役割分担すればいい、とも思うのですが。

パソコンやスマホで言葉が「影響を受ける」9割超 文化庁世論調査〈朝日新聞デジタル(2022年9月30日)〉

 毎年恒例、文化庁「国語に関する世論調査」の結果が出ました。今回は「国語に対する関心」「言葉や言葉の使い方の課題」「生活の変化とコミュニケーション」「ローマ字表記」「新しい言葉の使用と印象、慣用句等の意味・言い方」などで、読書についての調査はなし。5年に1回でしたっけ。

令和3年度「国語に関する世論調査」の結果について〈文化庁(2022年9月30日)〉

 記事でも取り上げられている問4付問の「情報機器の普及で受けると思う影響」は、「パソコンやスマートフォンなどで、漢字を多く使うようになる」が15.9%と低いのですが、個人的にはここが結構大きい気がします。なんというか、漢字を「必要以上に」多く使うようになっている、みたいな。

 自分でも、手書きだったらそんな漢字書かないし書けない(薔薇とか魑魅魍魎が跋扈とか)と思うことがあります。手書きなら漢字は手間だから、補助動詞はおおむねひらがなにするでしょう。同音異義語の誤変換も多いです。そういう影響は大きいだろうな、と。

経済

『カノジョも彼女』作者、「書店特典のイラストは基本的に原稿料が出ない問題」解決に向けた実験が話題に〈ねとらぼ(2022年9月26日)〉

 実験的に、書店特典と同じイラストを色紙に書いてヤフオクへ出品してみたら、いずれも10万円以上で落札されたとのこと。マンガ家も個人事業主ですから、マネタイズの手段を工夫するのは当然のこと。アリ寄りのアリだと思います。ただ、出版社が単行本の表紙イラストや書店特典などには原稿料を出さない悪しき商習慣のほうを、そろそろ変えて欲しいところ。権利闘争ですから、団体が強く言うべきなんでしょうね。

ミンカブ、ライブドア事業を買収 livedoorニュースなど71億円〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年9月28日)〉

 LINEが「ライブドアブログ」「livedoorニュース」「Kstyle」の3つを新設の株式会社ライブドアに分割継承したうえで、全株式を「みんかぶ」「株探」などを運営するミンカブが取得します。ヤフーとの経営統合で重複する事業を手放した、ということなのでしょう。LINE(当時はNHN Japan)がライブドアの全株式を取得したのが2010年。その後、事業の再編統合を経て2012年に「株式会社ライブドア」の名称は消滅していたので、10年ぶりの復活ということに。

漫画家志望者と出版社の架け橋「pixivコミックインディーズ」始動 有望な投稿者のデビューを支援金付きでサポート〈ねとらぼ(2022年9月29日)〉

 現状、参画している編集部は5社7誌。女性向けが中心のようです。仕組み的には講談社「DAYS NEO」を想起しましたが、こちらの運営はパブリッシャーではなくプラットフォームなので、色がついていない点は運営的な利点となるでしょう。

 「pixiv」は投稿サイトとしては圧倒的なポジションで、現状すでに草刈場になっているとはいえ、編集者とのマッチングをシステム的に支援するという意味では後発となります。「DAYS NEO」が「“編集ガチャ”みたいな状態を解消したい」という強い思想のもと、編集者のメッセージ数がすぐわかるうえ、評価まで可視化されるという尖った仕組みを構築しているのに対し、どんな差別化を図るのか。

 まあ、まだβ版ですからね。投稿者からすれば、ただ単に投稿するだけでなく、編集者に「見て見て!」とアピールできるようになり、うまくいったらデビュー支援プログラムまで付いてくる――あれ? それだけでもけっこう強そう?

技術

【ニュース・フラッシュ】CLIP STUDIO READER、100以上のコマ演出が可能なKOMATOONに対応〈PC Watch(2022年9月29日)〉

 縦スクロールマンガに、カットインやフェードイン、拡大・縮小といった映像効果が入るのを「KOMATOON」と呼ぶようです。初耳と思ったら、セルシスが商標登録していました。

 映像効果はカッコイイんですけど、どういう仕様なのかが気になります。もし独自仕様だとしたら、配信先が限られてしまうとか、バージョンアップで古いファイルが再生できなくなるなど、過去に繰り返されてきた悲劇が再び起きることが危惧されます。ケータイコミック時代のコマ表示フォーマット「BSF」は、いまでも閲覧環境が維持されているのが偉いとは思いますが。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 うちの近所は庭にキンモクセイを植えている家が多く、いまの時期は散歩をしているとあちこちから甘い香りが漂ってきます。トイレの芳香剤を思い浮かべてしまうのは……製薬会社の罪(?)は重い(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

 

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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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