「EPUBが約9年ぶりの大型アップデート」「Adobeの“ジェネレーティブ塗りつぶし”」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #572(2023年5月21日~27日)

アニメイト立川
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 2023年5月21日~27日は「EPUBが約9年ぶりの大型アップデート」「Adobeの“ジェネレーティブ塗りつぶし”」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

「他人のツイートをスクショして投稿」を違法とした判決、なぜ知財高裁で覆ったのか?〈弁護士ドットコム(2023年5月23日)〉

 以前、Twitterの投稿をスクショで引用したら著作権侵害という地裁判決が出ていましたが、知財高裁ではその判断がひっくり返りました。それはなぜか? という解説記事です。当時も指摘されていましたが、地裁の判断がおかしいというより「被告側から『公正な慣行』に関する具体的な主張立証がなかった」ことが原因だったので、控訴審ではそこをしっかり主張した結果「控訴審が判断しやすかった」ということのようです。

 で、もちろん「すべてのスクショが引用で適法」というわけでもないので、引き続き注意は必要です。記事の最後のほうで解説されていますが、今回のケースは発信者情報開示請求なので「引用が成立する可能性があると述べたにとどまる」のですね。明確に「これは引用である」と判断されたわけではない、と。つまり、コメントが短すぎると主従関係が逆転するので「これは引用ではない」と判断される可能性もある、と。気をつけましょう。

海賊版漫画「ただ読み」やめて 文化庁、若者向け動画教材〈共同通信(2023年5月23日)〉

 文化庁の「海賊版対策情報ポータルサイト」に新たに掲載された、高等学校の「情報Ⅰ」や「公共」の授業で使える教材についてのニュース。「みんなで考えよう!著作権と海賊版」というタイトルで、教師用と生徒用のPDFと、動画が用意されています。

 この取り組み自体は非常によいことだと思うのですが、共同通信社の伝え方には首を傾げてしまいました。ハイパーリンクをなぜ貼らないのか、と。これじゃまったく誘導できないわけですよ。まあ、これは他の記事でも同じなんで、共同通信の共通ルールなのでしょうけど。仕方ないから文化庁の公式サイトへ行ってみたのですが、お知らせも何も出ていません。難易度高ェ……。

 たまたま私は「海賊版対策情報ポータルサイト」の存在を知っていたから「たぶんここかな?」と推測して辿り着けましたが、ふつうの方にはちょっと難しいのでは。titleタグも「教材 | 文化庁」だけなので、検索結果の上位に出てきてもCTRは低そう。文化庁にちゃんと広報する気があるのか、共同通信社にちゃんと報道する気があるのか、ダブルで大いに疑問を感じてしまいました。

「ネット書店の送料の実態、調査を」 消えゆく本屋支援、議連が提言〈朝日新聞デジタル(2023年5月24日)〉

 書店議連の提言がまとまりました。中間報告ではネット書店の送料無料やポイント還元について、事実上の値引きなので「一定の制限やルールを設けることを検討する」としていましたが、「実態を把握するために調査する」という内容に留まったそうです。後退してますね。

 私は以前、これは「利用者に負担増や不便さを強いることが確実」なので、「有権者を敵に回してまで、フランスのような『文化を守る』という大義名分を貫き通せるかどうか」だという指摘をしました(#567)。後退したということは、つまり「このままでは有権者の理解が得られない」という政治的判断だったのでしょう。

 また、「ベストセラーや新刊本といった同一タイトルの本を過剰に図書館が持つことを原則禁止にするルールづくり」と、いわゆる「複本問題」も再燃しています。これも、どこまで実態を把握したうえでルールが必要と判断しているのか? という疑問があります。

 ちなみに以前ピックアップした「公共図書館での貸出が近隣の書店での同タイトルの書籍の売り上げをどの程度減らすか」という調査(#538)によると、公共図書館での蔵書数は、2014年から2016年の紀伊國屋書店ベストセラーランキング各年50点(×3年分)では平均0.132冊ですが、さらに上位6分の1では平均2.02冊という実態が明らかになっていました。

 そして売上への影響は、上位6分の1は月平均0.24部減少させている(つまり複本の影響がある)が、他のタイトル(つまり残りの6分の5)では無視できた、という結果が出ています。つまり、仮に複本をルールで縛ったところで、年間ベスト10に入るような本以外には影響がないことが見えているわけです。まあ、年間ベスト10だけでも影響が緩和できれば、ひとまずそれでいいのかもしれませんが。

社会

博報堂DYMP「メディア定点調査2023」、メディア接触時間の「携帯電話/スマートフォン」シェア初めて全体の1/3超え〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2023年5月25日)〉

 テレビ・ラジオ・新聞・雑誌のいわゆる「4マス」メディアと、パソコン・タブレット・スマホ(携帯)との接触時間についての定点調査。対象は「東京都の15~69歳の男女計629人」なので、あくまで「東京の」実態であることに留意する必要があります。東京は公共交通機関がべらぼうに便利なのに対し、地方は車社会ですから、他の調査でもけっこう違いが出ます。とはいえ、スマホシフト以降の10年間でどんな変化が起きたか? を如実に示しているグラフだな、と。総務省「情報通信白書」の「主なメディアの平均利用時間」よりわかりやすい。

「夏のイラスト フリー」で検索したのに…著作権者から賠償請求 学校だよりやHP掲載、明石市の小学校 | 明石〈神戸新聞NEXT(2023年5月26日)〉

 私は以前から学生に「Googleで『フリー イラスト』などと検索して出てきた画像を何も考えずにそのまま使うと事故るよ」と指導していますが、まさに、そういう典型的な事例です。授業目的公衆送信補償金制度の説明会のとき、教える先生の側も著作権法35条の理解があいまいだったり、拡大解釈して逸脱するような状況があると苦言を呈されていたのを思い出しました。

 同じ「フリー」という言葉を使っていても、完全に自由に使える著作権放棄レベルから、「印刷物への利用は有償」みたいな制限があるものまで、許される範囲にはけっこう幅があります。規約を確認しないと危ないです。「事故るよ」と警告しているそばからさっそく使っている(ぜんぜん聞いてない)学生も少なからずいますが、それが許されるのは授業のあいだだけだよ、と。

経済

「日本のマンガ」をもっと世界へ…新たに始動した「K MANGA」が見据える挑戦(飯田 一史)〈マネー現代 | 講談社(2023年5月26日)〉

 ローンチしたばかりのアメリカ向けマンガアプリ「K MANGA」のチーフ・平岡雄大氏へのインタビューです。同じ講談社の媒体なので初見は後方(広報)支援? と思いましたが、そこはさすがの飯田一史さん、しっかりした内容になっています。「マガポケの機能や仕様をほとんどそのまま横展開」なのですね。なるほど。アメリカの子会社任せではなく、日本から直営というのは大きなポイントでしょう。

 ちなみに、アプリの協力会社はどこだっけ? と思い調べてみたら、2015年の「マガポケ」登場当時の記事には「企画・制作は、セガゲームス セガネットワークス カンパニーと共同で進めた」とありました。いまでもそうなのかな?

コンテンツをどう残すか “無料”に苦しむ情報メディアの未来〈AERA〉〈AERA dot.(2023年5月25日)〉

 タイトル「コンテンツをどう残すか」だけを読むとアーカイブの話なのかと思いますが、そうではなく、メディアビジネスの持続可能性についての話でした。匿名の個別事例がいろいろ挙げられていますが、3ページ目の「都内の専門商社で働く男性(49)」には強い違和感がありました。

毎朝、ベランダでタバコを吸いながら朝刊をチェックするのが日課という。だが、見ているのはスマホの画面。デジタル会員になっている新聞の画面表示を新聞の紙面そのままに設定し、タップしてページをめくる。

 新聞の紙面ビューアをスマホで見るならピンチアウトが必須だと思いますが、タップしてページをめくるってほんとうでしょうか? 続きに「新聞の体裁になじみがある」とありますが、スマホで見たらぜんぜん体験違うでしょう。縦書き段組みをピンチアウト&スクロールって、読めないことはないけど、めちゃくちゃ読みづらいですよ。悪いけど「作り話?」と思ってしまいました。現実味が薄い。描写が甘い。

技術

本来写っていないものもAIが生成。Photoshopの塗りつぶし機能がさらに進化〈PC Watch(2023年5月23日)〉

 Adobeの生成AIに新機能、ジェネレーティブ塗りつぶし(Generative fill)が追加されました。Photoshopベータ版もしくは、Adobe Fireflyでも試せます。試してみましたが、楽しすぎてヤバイ。いろんな風景写真に猫を生やして遊んでしまいました。

元画像(歩道に刻まれた足跡の写真)
元画像
Adobe Fireflyで猫を追加
猫を追加

 よくできているとは思うのですが、一般的なコラージュと同様、影の不自然さを解消するのが難しい。この写真は曇り空なのであまり違和感がありませんが、晴れた日で影がしっかりあるような写真だと、モロに合成っぽい感じになります。それを違和感なく馴染ませるには、やはり相当なテクニックが必要になりそう。

これぞAIの威力!低解像度の画像を劣化なしで高精細に拡大する〈日経クロステック(2023年5月23日)〉

 同じようなタイミングで、低解像度の画像を引き伸ばして高解像度“風”に修正してくれるツールが紹介されていました。これ、元の低解像度画像に存在しない情報をAIが予測して補っているので、本来写っていないものを生成している可能性がある点には注意が必要です。イラストならともかく、写真は別物に化けてしまうかも。

 少し前に「AIの画像補正技術が高すぎて、そこに存在しない生物を作り出して起きてしまった悲劇」というTogetterまとめが話題になっていました。きっとこれから、こういう事故が多発するんだろうな……。

Cortana後継の「Windows Copilot」は、大規模言語モデル利用のAIアシスタント〈PC Watch(2023年5月24日)〉

 いまは、わざわざ自分から「ChatGPT」や「Bing Chat」にアクセスしないと関わることのない生成AIが、今後はOSに組み込まれることに。すべてのPCユーザーに影響する、かなりインパクトの強い話です。まあ、スマホで言えばiPhoneのSiriやGoogleアシスタントと同じではあるのですが。Officeのカイル君やCortanaのように、またしても邪魔だからと速攻で消される存在となってしまうのか、それとも……?

EPUB 3.3がW3C勧告に〈W3C(2023年5月25日)〉

 IDPFがW3Cへ統合してから初めての、正式なEPUB仕様が勧告に至りました。約9年ぶりの大型アップデートです。とはいえ、このプレスリリースにも「前バージョンであるEPUB 3.2が同仕様としても有効であるという下位互換性を持ちます」と明記されており、いまのところワークフローを変える必要がないのは大きなポイントでしょう。今後、ビューアのアップデートやガイドの改訂、アクセシビリティ対応の検討が本格化していくことになるのでしょう。関係者の方々、お疲れさまでした。引き続きよろしくお願いいたします。

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雑記

 画像生成AIが手軽に利用できるようになったので、HON.jp News Blogでは「日刊出版ニュースまとめ」のアイキャッチを日替わりにしました。以前は無理だと諦めていたのですが、いまは生成AIの性能テストを兼ねて「猫と本」をテーマに楽しみながら出力しています(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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