「コインハイブ事件、最高裁で無罪に」「消費者庁、打ち消し表示に措置命令」「2021年中国出版市場動向」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #506(2022年1月16日~22日)

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 2022年1月16日~22日は「コインハイブ事件、最高裁で無罪に」「消費者庁、打ち消し表示に措置命令」「2021年中国出版市場動向」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

スクショ画像のツイートは「著作権侵害」 東京地裁判決はユーザーにどんな影響がある?〈弁護士ドットコム(2022年1月19日)〉

 この判決、昨年末に弁理士の栗原潔さんがYahoo!ニュース個人で解説していて、疑問に思ったけど判断保留にしていました。要するに、Twitterの規約に反してるか否かが、法律上の「引用」要件を満たしてるか否かになってしまっているような判決です。

 弁護士ドットコムのこの続報では、弁護士の澤田将史さんも同じ疑問を指摘しています。ただ、これは裁判所の判断がおかしいというより、「被告側から『公正な慣行』に関する具体的な主張立証がなかった」ことが原因のようです。なるほど。発信者情報開示請求訴訟には珍しく、被告のNTTドコモは控訴しているとのこと。控訴審では「スクショで引用するのも公正な慣行だ」という主張がなされることになるのでしょう。

Webやアプリの利用者情報保護規制、ネット業界反発で後退の舞台裏〈日経クロステック(xTECH)(2022年1月20日)〉

 先週の「ターゲティング広告規制導入へ」の記事は、やはり総務省「電気通信事業ガバナンス検討会」のことでした。有料会員限定記事なので3分の1しか読めていないのですが、業界団体からの強い反発を受け、当初案より後退するなどの紆余曲折があったようです。だから余計にわかりづらい報告書になってしまったのかな?

コインハイブ事件の有罪判決、破棄自判で「無罪」に 最高裁〈弁護士ドットコム(2022年1月20日)〉

コインハイブ事件、最高裁で無罪に 男性「心底安堵しています」戦い振り返る〈弁護士ドットコム(2022年1月20日)〉

 サイト閲覧者のCPUを暗号資産のマイニングに無断で利用する行為が、ウイルス供用罪に当たるか否かの判決。1審無罪が、2審で逆転有罪。どうなることかと思っていたら、最高裁で再逆転無罪です。「広告表示と比較しても影響に有意な差異は認められず、社会的に許容し得る範囲内」=不正性が認められないという判断なので、CPUパワーをどこまで使ったら「有意な差異」となるか? には留意する必要がありそうです。ただの広告なのに、めちゃくちゃ重くなることもありますからね。

「クレベリン」に措置命令 大幸薬品は「速やかに法的措置」〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年1月20日)〉

 消費者庁が、「ご利用環境により成分の広がりは異なります」「ウイルス・菌のすべてを除去できるものではありません」などの表示が併記してあったとしても、「一般消費者が受ける商品の効能の認識を打ち消すものではない」と判断。措置命令を下しています。

 少し調べてみたら、消費者庁は2017年7月時点で「※効果には個人差があります」みたいな通称「打ち消し表示」は、景品表示法上問題となるおそれがあるという報告書を公表していました。気づかない人も多いし、気づいても影響が小さい。つまり打ち消し表示は、免罪符にならない、と。

 広告ではないんですが、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」なんて啖呵を切っておきながら「※諸説あります」と字幕で逃げを打ってるテレビ番組のことを想起してしまいました。ボヤ騒ぎは何度も観測済み。そのうち大きな問題になりそう。そういう番組を、NHKがやってるんですからねぇ……。

米民主党議員、監視広告を禁止する法案を提出〈CNET Japan(2022年1月19日)〉

アップルとグーグル、アプリストア規制の法案に反発〈CNET Japan(2022年1月20日)〉

米上院司法委、ハイテク大手対象の法案承認〈ロイター(2022年1月21日)〉

 この3本、すべて違う法案の話です。1つ目はターゲット広告の禁止法案。2つめはサードパーティーアプリを入手する手段の開放と、サードパーティーの決済手段を認める法案。3つ目は自社事業の優遇表示を禁止する法案。いずれもまだ確定ではありませんが、ビッグテックのビジネスに大きな影響を与えそう。採決へ進む前に、修正や変更が加えられる可能性も高いようですが、どうなるか。

欧州議会、米IT大手の新規制案を可決 違法コンテンツ監視強化〈ロイター(2022年1月21日)〉

 こちらは欧州で、違法コンテンツの監視強化などを義務付けるもの。EU加盟国と欧州委員会との調整が必要なのでまだ確定ではありませんが、罰金は売上高(世界全体)の最大6%と巨額なものになる予定です。「違法コンテンツ」には児童ポルノや差別、デマ、ヘイトスピーチ、広告表示なども含まれます。なんか、日本にも間接的に、思わぬ余波が降りかかってくるかも……?

社会

絶版本、ネット閲覧5月から 国会図書館サイトで可能に〈共同通信(2022年1月16日)〉

 昨年末に「国立国会図書館のデジタル化資料の個人送信に関する合意文書」が公表されました。それを受け、翌週の週刊まとめ #503 でピックアップし、大晦日の振り返りでも、年始の予想でも触れたのですが、一般メディアで報じられていなかったことには気づいてませんでした。見落としたか? と思ったんですが、年末の合意文書を受けた報道はこの共同通信がどうやら初だった模様。マジか。

 反響を見ていると、知らなかった人がまだまだ多いようで、マスコミ報道には強い影響力があることを思い知らされます。法改正を検討していた2020年には、「図書館の本、スマホで閲覧可能に」みたいなちょっと飛ばし気味記事が散見されたものですが。マスコミ的には複写サービス(著作権法第31条1項1号)のほうが本丸なのでしょうね。

台東区の公共図書館にオーディオブック導入–読書のバリアフリーや非来館型サービスの充実で〈CNET Japan(2022年1月21日)〉

 KCCS「ELCIELO」との連携導入、これで全国8カ所目とのことです。台東区立図書館からは1月12日に「図書館システムリニューアルのお知らせ」が出ており、それに合わせての導入だったようです。「公共図書館でオーディオブック」も、徐々に広がりつつありますね。善哉。

経済

光文社、文藝春秋に続きマガジンハウスと、出版社が続々コミックに本格参入する理由(篠田博之)〈個人 – Yahoo!ニュース(2022年1月15日)〉

 そりゃあれだけ儲かってるのを、ただ指をくわえて眺めている手は無いと思うのです。もちろん、そんなに容易い話でもないはずですが。ただ、紙の雑誌を出し続けるリスクを考えたら、デジタル連載はトライしやすいのも確かでしょう。既に強いウェブメディアを自社で持っているなら、関連するマンガの連載から始めることもできますし。マンガ編集者を他社からヘッドハンティング、という動きもあるようです。

日経本紙・電子版購読数261万〈日本経済新聞(2022年1月18日)〉

 2022年1月1日時点の電子版有料会員数は79万7362。半年前、2021年7月1日時点の電子版有料会員数は81万1682だったので、なんと減っています。調べてみたら、すでに2020年1月時点で前例あり。3年連続の傾向でした。気づいてなかった……。

 日本のメディアで有料会員数トップ(のはず)の日経がダウントレンドなのか……と目の前が一瞬暗くなったのですが、毎年1月は大型割引で勧誘しているため、1年契約で12月に解約が増える可能性を指摘されました。なるほど、確かに。

 実際、過去の発表をずっと辿ってみたら、前年同月比で見れば増え続けていることがわかりました。だいたい5万人くらいずつ増えているので、このままのペースなら100万人突破は2025年7月または2026年1月ごろ?

2021年中国出版市場動向――微増だが不振、ネット文学の躍進、ショート動画販促〈HON.jp News Blog(2022年1月19日)〉

 おなじみ北京大学・馬場公彦さんによる、2021年の中国出版市場動向について。パレートの法則的には「上位2割が8割の売上を占める」ですが、中国出版市場は「上位1%の書籍は全体売上の60%を稼」ぐという極端なベストセラー依存。統一書号(ISBN)が当局による分配制であることから、品揃え的に「ロングテール」が効きづらいのかな? という気もします。

 日本との違いとして、中国ではコロナ禍以降ライブコマース市場が大きく広がった点が挙げられます。日本で昨年話題になった「TikTok売れ」は事前に録音録画し短く編集した動画の投稿によるものですが、中国ではライブ(生配信)も盛んです。ライブだと、チャットに書かれた質問にその場で答えるなど、即興のリアクションもあるリアルタイムな双方性が特徴になるようで。「バナナの叩き売り」芸に近いのでしょうか?

そのNo.1表示、調査は適切ですか 景表法違反の危険も〈AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議(2022年1月20日)〉

非公正な「No.1 調査」への抗議状〈一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会(2022年1月18日)〉

 広告で「No.1」「第1位」「トップ」「日本一」といった最上級表記をするには、根拠を示さないと景品表示法で不当表示とみなされます。そこで、「No.1」の根拠を示すため、調査対象者や質問票を恣意的に設定する「非公正な調査」が散見されるようになっているとのこと。つまり、「No.1」がとれそうなところへ網をかけたアンケート調査みたいなのを根拠にしている、と。

 どれどれ? と思いGoogleで「No.1 表示」と検索したら、キーワード広告枠に「No.1調査ならお任せください」「No.1称号獲得へ」といったマーケティングリサートの会社がぞろぞろと。いやあ、商売繁盛してらっしゃる……いや、日本マーケティング・リサーチ協会の言うとおり「適正で客観的で科学的な諸原則のもとに行われた市場調査で裏付けられたもの」なら何も問題ないのですが。無作為抽出法かどうかさえ書かれていないアンケート調査も多いですから。

 実際問題、この日本マーケティング・リサーチ協会の抗議状は、少しレベルが高い話であるように思います。根拠レス最上級表記のクリエイティブを平気で入稿してくる広告代理店や、アウトな表記なのが明白なのにスルーするプラットフォームやメディア。そういう低次元な問題がまだまだ多いのが現状です。溜息が出ますよほんと。

ヤフー、記事216本の炎上阻止 新機能導入で〈共同通信(2022年1月20日)〉

 コメント欄が荒れそうな記事を、AI判定で自動的にコメント欄非表示にする仕組みの実績。2カ月で216本、1日あたり約3.5本を非表示にしたそうです。興味深いのは「通信社の記事が計47本で最も多」い点と、それを報じているのが共同通信という点。自虐か。まあ、通信社の配信記事って桁外れに本数が多いので、割合的には少ないのかもしれませんが。「過度な批判や差別的な投稿で荒れ」やすいようなジャンルでも、扱いを避けることはできない、というのもありそうです。

 そういえば以前、MarkeZineに「コメント欄の活性化で記事PVが伸びていく」という記事があって、「活性化するほど荒しや誹謗中傷も増えてくるため、対策にも労力を食われる問題」を指摘したことがあります。裏を返すと、コメント欄を閉じるとそこでの炎上は阻止できる代わりにPVは伸びなくなると思うのですが、そのことを「閉じられた記事の配給メディア側はどう捉えているか?」が気になります。ストレートに考えると「外部配信の収益が下がった」と捉えられそうですが。

広告業界が回復するなか、メディア消費における広告型メディアの割合は減少していると判明〈Media Innovation(2022年1月20日)〉

 映像やゲームなども含めた、さまざまなメディアの世界傾向。広告主の出資額は増えたけど、ユーザーのメディア消費時間という観点では「広告支援(ad-supported)メディア」の比率が下がっているというレポートです。元記事には、消費者が広告に対し不寛容になりつつある、という記述もありました。ソースは3000ドル近い有償レポートなので、さすがに詳細な中身までは確認できませんが、興味深い傾向です。メディアの運営側としても、徐々に「脱広告」へ向かわざるを得ないのでは。

技術

Twitter、所有NFTアートをプロフィール画像にできる機能〈Impress Watch(2022年1月21日)〉

 ユーザーが暗号資産のウォレットをTwitterアカウントに紐付けすることで、保有NFTアートからプロフィール画像を設定できる機能。多くの他メディアがTwitterの発表文に引きずられたのか、「NFTをプロフィールに」という見出しを付けていて頭を抱えてしまいました。NFTはただのトークンですから、混同されるような書き方は避けて欲しいところです。

 あと、NFTの購入は「NFTアートの利用許諾を得ること」ではないので、単にシステム連携するだけだとアイコンへの無断利用になってしまう可能性があると思うのですが。権利者がNFTプラットフォームで販売する際に、「アイコンへの利用OK」という許諾をしていれば話は別ですけど。現状、多くの場合、そうはなっていないはず。画像直リンクなら、日本の著作権法上はセーフかもしれませんが。

 日本では未リリースの有料会員制度「Twitter Blue」限定機能なので、日本のTwitterユーザーにはいまのところ関係ない話。ただ、すでにNFTプラットフォームで販売しているクリエイターにはモロに影響がある話なので、ピックアップしました。

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雑記

 寒いし面倒なので、煮るだけ料理を作る機会が多くなっています。しかも鍋一杯。冷凍保存するとこんどは解凍が面倒なので、5食連続カレーみたいな事態が頻発。まあ、嫌いじゃないから良いんですけど(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 823 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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