「芥川賞受賞作家が読書バリアフリー対応の現状に苦言」「大宅壮一文庫、大規模リニューアル」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #580(2023年7月16日~22日)

ジュンク堂書店 池袋本店
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 2023年7月16日~22日は「芥川賞受賞作家が読書バリアフリー対応の現状に苦言」「大宅壮一文庫、大規模リニューアル」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

10月施行「ステマ法規制」何をしたら違反? 5年前の投稿でも違反になる!? 参考にすべきガイドライン | 知っておきたい法律関係〈Web担当者Forum(2023年7月11日)〉

 10月1日から改正景表法が施行されます。この記事でも冒頭に黄色のマーカー&太線が付いている「施行前に掲載されたものであっても、10月1日以降は規制の対象になる」が最大のポイントでしょう。過去の投稿すべてが対象になりますので、心当たりのある方はご注意を。「献本」も対象です。

 また、「イベントへの招待、イベントに参加できる特典」も「関係性がある」というのは、イベント主催者(=広告主)も注意すべき点でしょう。報道関係者だからと無料招待したら、その旨を明記してもらう必要があるわけです。

 しかしこの「イベントへの招待、イベントに参加できる特典」って、無料イベントの場合はどうなるんだろう? いわゆる「アゴ・アシ・マクラ」次第でしょうか? 経済的利益があるかないかで判断するのが一番でしょうね。

米政府「AI製」明示で合意 GoogleやOpenAIなど7社と〈日本経済新聞(2023年7月21日)〉

 AI製と明示、ですか。電子的な透かしを入れるのは、音声ファイル、画像ファイル、動画ファイルなら可能でしょうけど(ツールで消されるかもしれませんが)、テキストは無理でしょう。ツールを提供する側にできることは、せいぜい併記する程度だと思います。たとえば、ニュース・パブリッシャーが生成AIでゴミ記事を大量生産した場合、その責任はどこにあるのか。ツールの問題より、ツールを使う人の問題ではないかと思うのですが。

社会

生成AIで作成したレポート「見分けつかない」 大学の教育現場で困惑広がる…対応策は?〈弁護士ドットコム(2023年7月18日)〉

 Googleは以前から、AI生成コンテンツについて繰り返し「制作方法は問わない」「品質に重点を置く」と言っていますが、少なくとも高等教育の教育現場においては、スタンスは同じで良いと私は思います。便利な道具の利用を禁じるより、使ってもいいけどより高いレベルを求める、みたいな。

 現状の生成AIは万能の利器ではないので、レベルの高い文章を出力させるには質問する側にもそれ相応の知識や能力が必要です。正しい出力がなされているかどうか、検証する力が求められるはず。むしろ未編集のまま「とってだし」で通用するような、クイズみたいな課題を出すほうが悪い、となるでしょう。

 そもそも、見分けがつかないことは、問題の本質なんでしょうかね? 実際のところ、手書きの時代には手で書き写しただけのレポートが、インターネット普及後はウェブからコピペしただけのレポートが、昔も今もそれなりの数が存在していた(る)と思うのですよね。

 学ぶことが目的ではなく、大卒の肩書きを得ることが目的。だから、単位が取得できればそれで良し。そういう学生も多いわけです。結局、それを許容するかどうかという話ではないか、と。私自身が不真面目な学生でしたから、過去の自分の所業を思い返せば苦笑いするしかない。

「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」を公開しました〈国立国会図書館―National Diet Library(2023年7月19日)〉

 これは力作。「図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会」(事務局:国立国会図書館)が作成した、民間電子図書館サービスの導入ガイドラインです。項目別に細かな説明がなされている以外に、「附属資料1. 利用ストーリー」では閲覧に至らなかった場合/閲覧に至った場合をストーリーに仕立ててあり、具体的なイメージがしやすくなっています。

 本ガイドラインの対象範囲は「(4)書籍が、出版者、電子書籍制作会社、電子取次及び電子図書館事業者を経由して、図書館で導入されている電子図書館経由で視覚障害者等に届く。」の一部とされていますが、ほとんどそのまま「(5)書籍が、出版者、電子書籍制作会社、電子取次及び電子書籍販売事業者を経由して、消費者向け電子書籍サービスとして視覚障害者等に届く。」にも適用できるでしょう。

 これって実際のところ、電子図書館、電子書店に限った話でもないんですよね。ウェブサイト、ウェブアプリ全般にも共通する話。つまり、出版社の公式サイトがどれだけアクセシブルか? という話でもあります。

「日本の“読書バリアフリー環境”の遅れは目につきました」市川沙央氏が芥川賞受賞作で伝えたかった自身の“問題意識”〈文春オンライン(2023年7月21日)〉

 そのいっぽうで、芥川賞の受賞会見で重度障害の当事者でもある著者が、日本の読書バリアフリー対応の遅れについて苦言を呈するというニュースもありました。仮にウェブサイトやウェブアプリがアクセシブルであったとしても、肝心のコンテンツ提供がまだまだ少ないのが現状です。何度も繰り返すようですが「売っていないものは買えない」のですよ。

 デジタル編集論の連載でも書いたように「2019年の新刊は、コミックスは8割近くが紙でも電子でも買えるのに対し、コミックス以外はまだ4分の3が紙でしか買えない状態」です。コミックスの電子化率が高い理由の一番は「儲かるから」でしょう。そして、電子コミック市場の隆盛で恩恵を受けているのは大手出版社が中心です。

 逆に、文字モノはいまの市場規模だと電子版を出す追加費用が回収できない、と考えている中小出版社がまだまだ多い、ということだと思うのですよね。政府が電子化に補助金を出すなどの後押しが必要――と思ったんですが、そういえば「緊デジ」がそういう趣旨の事業でした。おうふ。

大宅壮一文庫、索引システムを一新 雑誌140年分が検索可能に〈好書好日(2023年7月19日)〉

 1988年以前に作成された手書きの索引情報100万件を統合し、約140年分のデータがまとめて検索可能に。また、レスポンシブデザインの採用で、スマートフォンやタブレットにも対応しました。検索機能の向上も図られているようです。

 2015年ごろから経営危機が報じられ、クラウドファンディングによる資金調達なども行われてきました。今回のリニューアル費用は1億4000万円とのこと。大型投資によるサービス向上で「攻め」に転じたと言って良いでしょう。

なぜ不健全図書を規制するのか 「必要」と主張する審議会委員に聞く〈毎日新聞(2023年7月19日)〉

 毎日新聞による「有害図書」規制のあり方を有識者に聞く連載、恐らくこれが最終回でしょう。これまでは規制と戦っている側が中心でしたが、今回は規制している側へのインタビューです。無料で読める箇所でいきなり「僕らが若いころに比べると、青少年の事件が非常に多くなっているように感じます」と、盛大な事実誤認をやらかしています。

 記事でも直後に「(※統計上は、刑法犯として検挙された少年は実数・人口比ともに減少傾向にある)」と発言を否定する補足が入っています。実際どうなのかは、令和4年版犯罪白書のグラフをご覧いただくとよくわかるでしょう。

 1961年生まれの方の言う「若いころ」というと、1970年(昭和45年)から1980年(昭和55年)くらいまででしょうか。犯罪白書によれば、人口比(10万人あたりの検挙人数)が最も高かったのが昭和56年で、令和3年はその8分の1にまで下がっているそうです。まあ、感覚と実態にズレがあるのはよくある話ですから、問題は、事実誤認であることを知ったあとにどう対処するか。開き直って「規制があるから減ったんだ」と正当化しなきゃいいんですけど。

「事件の背景に漫画やアニメ」は本当か 専門家の科学的な考察は〈毎日新聞(2023年7月15日)〉

子どもには過激? 『ニコ☆プチ』炎上から考える少女マンガと性表現〈弁護士ドットコム(2023年7月17日)〉

性的表現は女性差別を助長する? 相次ぐ炎上なぜ…憲法学者が語る「表現の自由」との線引き〈ENCOUNT(2023年7月19日)〉

 先週は毎日新聞の特集以外にも、性表現について有益な記事がほぼ同時多発的に公開されていました。上記3本はいずれも「女性の声」である点にも注目したい。

性犯罪の記事はアダルト系コンテンツじゃないのに…。ライターたちの憤りと指摘。 専門家と企業に取材した〈BuzzFeed(2023年7月20日)〉

 こちらも表現規制関連ですが、ちょっとベクトルの異なる問題です。ニュースプラットフォームによる表現規制がアルゴリズムによる「自動判定」で行われるため、特定のキーワードが含まれていると内容関係なくシャットアウトされてしまう、という情報流通上の問題です。

 Yahoo!ニュース、LINE NEWS、スマートニュース、Twitter、YouTube、TikTok、Facebook、Instagramに取材し、回答ももらっている(Twitterが💩ではなくちゃんと回答している!)という意欲的な記事。内容的には面白いのですが、プラットフォームを「プラフォ」と略すメディア記事は初めて見た……。

経済

「Microsoft 365 Copilot」の価格は月額30米ドル/1ユーザー ~Microsoftが発表〈窓の杜(2023年7月19日)〉

 日本円で月額約4500円。Microsoft 365 Personal(Office)が月額1490円であることを思うと、かなり強気な価格設定です。もちろん人をリアルに雇うことを思えば断然安いわけですが、生産性がどれだけ上がるか、業務の効率化がどれだけ図れるかは、正直、未知数です。

 また、Microsoftがこれでガッツリ稼ぐようになったら、メディアや著作者の反発はいま以上に強くなるでしょう。ハリウッドではすでに俳優と脚本家の組合がストライキに突入しており、年末まで続くとの見方も出ています。Microsoftが、火に油を注いでいるような。

無料で商用可、ChatGPT(3.5)に匹敵する生成AI「Llama 2」 Metaが発表、Microsoftと優先連携〈ITmedia NEWS(2023年7月19日)〉

アップル、「Apple GPT」でAIチャットボット競争に参戦か〈CNET Japan(2023年7月20日)〉

 とはいえ、生成AIには他のビッグテックも力を注いでおり、この動きを止めるのは難しそう。まあ、Apple(Siri)もGoogle(Assistant)もAmazon(Alexa)も、音声認識→音声出力のサービスは以前から提供しているわけで。出力がテキストに変わるだけであり、いまから「参戦」するわけではない、とも言えそう。

日本人が今年最もお金を使ったアプリは「ピッコマ」 韓国カルチャーWebToonで人気に〈KAI-YOU.net(2023年7月21日)〉

 ゲーム系を含めたランキングで1位というのは素直にすごい。data.aiの調査ですから、例によってGoogle PlayとApp Storeだけのデータであり、アプリを経由しない決済の比率が高いサービス(KindleとかKoboとか)はランキングに入らないことに留意する必要はあります。が、それでもすごい。

技術

予想に反して、Bingチャットはより多くのトラフィックをサイトに送っている〈海外SEO情報ブログ(2023年7月18日)〉

 タイトルを読んで思わず「え?」と声が出ました。講演でそう主張しているのは、Microsoftの副社長です。「トラフィックが増えたサイトも現れている」とのこと。ほんとに? 少なくともウチは、Bing Chatリリース前後でほとんど変わってません。このブログの鈴木氏も、その周囲の方々からも「増えた」という話は聞いていないとのこと。「増えた」と主張するなら、データを開示すべきでしょう。Bingウェブマスターツールにレポート機能を追加すると言っていたにも関わらず、予定を過ぎても追加していないような状況では、疑いの眼を向けるしかありません。

Meta、文言から画像を生成する新ジェネレーティブAI「CM3leon(カメレオン)」を発表〈BRIDGE(2023年7月20日)〉

 text to imageの生成AIで現在主流の拡散(diffusion)モデルではなく、トークンベースの自己回帰(autoregressive)モデルを用いて、計算量を5分の1(記事内での記述は“5倍少ない”)にしているとのことです。えっと、技術的なアプローチが異なる、ということくらいしか私には理解できません(汗)。

 学習段階では「Shutterstockのライセンス画像のみを使用」とあり、利用が許諾された画像だけを用いたクリーンな生成AIである点をアピールしています。「Adobe Stock」の許諾画像だけを用いた「Adobe Firefly」と同じアプローチです。

 日本国内では著作権法第30条の4で法的にはクリアになっている領域が、アメリカではまだグレーゾーンです。つまり、フェアユースが認められるかどうかは、判決が出ないと明確にならないのですよね。だから、AdobeやMetaのようなやり方が差別化ポイントになっています。

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雑記

 友人の死から1年。あっという間だった気がします。なにかしたいと思っていたけど、結局なにもできずじまい。亡くなった人のためにできることは、忘れないことくらいでしょうか(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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