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2024年6月16日~22日は「書店在庫情報プロジェクト実証実験開始」「家賃が安くないと/正味を下げないと本屋は続けられない」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
米連邦取引委員会、Adobeを提訴 サブスク解約料示さず「消費者欺いた」〈日本経済新聞(2024年6月18日)〉
いわゆる「ダークパターン」に対する規制。アメリカは連邦取引委員会法(FTC法)が根拠です。ちなみに昨年には、Amazonプライムの契約が問題視され、提訴に至っています。
日本にはまだ「ダークパターン」を包括的に規制する法律がありません。ただ、最近になって問題視する報道も増えてきたので、近いうちに規制されるかもしれませんね。
下請けに無償でやり直し2万4600回で印刷会社に公取委勧告 大阪|大阪府〈NHK(2024年6月19日)〉
やり直し2万4600回! しかし「980万円余りに相当」ということは、リテイク1回あたり約398円ですか……えっと、単価安すぎませんか? しかしこれ、印刷会社への勧告ですけど、ここに発注している側の問題も大きいのでは? 「食品ラベルの製造では全国一のシェア」ということは、食品業界あるいはスーパーでしょうか?
「おととし4月から去年10月にかけて」だから、期間は19カ月。「36の下請けの事業者」に対しリテイクの合計が2万4600回だから、1事業者あたり約683回。つまり、1事業者1カ月あたり約36回。それが何回の発注なのかは不明ですが、少なくとも1日1回以上(休みなし)のリテイクという計算になります。このニュースを見て「やばい」と思った発注側の人も多そう。
ステマ規制初の措置命令を解説(1)Googleマップ上の口コミの問題点〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2024年6月20日)〉
ステマ規制初の措置命令を解説(2)「#PRをつけたくない」は危険〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2024年6月20日)〉
ステマ規制初の行政処分がGoogleマップのクチコミだったことについて「著名なインフルエンサーによるものではなく一般の方のクチコミについても消費者庁は注視しているよ、というメッセージ」とか、対価が550円と少額でも処分されたことについて「「高額の対価でなくても規制の対象となり得るんですよ」というメッセージ」という見立てが興味深いです。
社会
Mrs. GREEN APPLE新曲「コロンブス」問題、「タブー化せず議論を」〈日本経済新聞(2024年6月15日)〉
Mrs.の「コロンブス」 負の歴史をタブー視せず、アートと知を耕す鍬に(志田陽子) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年6月16日)〉
本件、私が気づいたときには、すでに当該のミュージックビデオは削除されていて観ることができませんでした(無断転載された動画の存在は知っていますが視聴を避けました)。そのため作品の内容についてはコメントしづらかったのですが、「表現の自由」を守るという観点からはなにか言っておくべきだろうな……と思い、考えを整理していました。そんなとき、志田陽子氏のこのコラムを読みました。
たとえば「コロンブスを題材とした表現は炎上するからNG」といったふうに、問題となった表現の表層をとらえて反射的にタブー視するのでは、得るべき《気づき》は得られず、表現の世界がまた一歩、萎縮してしまう。
私が言いたかった(けど言語化できていなかった)ことが、見事に言い表されていました。脱帽です。
【訃報】井芹昌信氏66歳(株式会社インプレスR&D元代表取締役・インプレスグループ創設メンバー)〈The Bunka News デジタル(2024年6月20日)〉
ご冥福をお祈りいたします。井芹氏には、インプレスR&Dが発行していた電子雑誌「On Deck weekly」に、活動を始めたばかりの日本独立作家同盟(現・HON.jp)を取り上げていただきました。井芹氏にインタビューいただいた記事が2013年12月12日号に載っています。
このときはまだ「月刊群雛」も出ていない、「今後、デジタルの定期刊行物を出そうと思っている」くらいのタイミングでした。黎明期の団体にスポットライトを当てていただき、また、NPO法人化後には「NovelJam」の協賛や法人会員としても支えていただきました。本当にありがとうございました。どうか安らかにお休みください。
書店在庫情報プロジェクト、システムを一般公開〈新文化オンライン(2024年6月21日)〉
書店在庫情報プロジェクト実証実験について〈書店在庫情報プロジェクト(2024年6月22日)〉
JPIC、カーリル、版元ドットコムの書店在庫情報プロジェクトが、ついに実証実験段階へ。カーリル、版元ドットコム、青弓社、スタイルノート、ポット出版のサイトに実装されています。たとえばカーリルでは、詳細ページ「お気に入り図書館の蔵書」の下の「もっと探す」のところに、「近くの書店在庫を調べる」というリンクが追加されています。
また、版元ドットコムでは、詳細ページの右カラム最上部に「書店の店頭在庫を確認」というブロックが追加されています。いずれも、ブラウザで最初に開いたとき、位置情報へのアクセスを了解する必要があります。近所の図書館や書店を調べるサービスなので、まあ、当たり前の話ですね。
リンク先は、書店在庫情報プロジェクトの検索結果です。初期状態ではタブが[すべて]になっていて、位置情報で近い順に書店がずらっと表示されます。[店舗在庫あり]に切り替えると、在庫のある書店だけに絞り込まれます。カーリルの書店版のようなイメージですね。
実証実験なので、現時点で在庫検索できる書店は、ブックファースト・大垣書店・くまざわ書店・今井書店のグループと一部の地域書店だけです。とはいえ他のチェーン店とも協議中で、また「在庫データを持たない書店も、在庫情報の登録手段を準備しており、随時参加を募っていきます」ともあるので、今後連携が進んでいくと飛躍的に利便性が高まりそうな予感があります。
ネット書店でも「e-hon」(トーハンが運営)や「Honya Club.com」(日販が運営)なら比較的容易に実装できそう。それぞれの帳合書店だけ表示、みたいな狭量なことをしなければ、ですが。
経済
セルシス、7月1日付で主要株主である筆頭株主の異動が発生 第2位株主のLINE Digital Frontierと第4位株主のイーブックイニシアティブジャパンの合併で〈gamebiz(2024年6月17日)〉
セルシスの株主情報そのものではなく、タイトル後半の「LINE Digital Frontierと第4位株主のイーブックイニシアティブジャパンの合併で」に目を奪われました。イーブックイニシアティブジャパンをLINE Digital Frontierが吸収合併することが、少し前に決まっていたんですね。この記事で知りました……ふ、不覚。5月27日の配信です。
それにしても、2000年創業の電子出版老舗企業がとうとう消滅ですか……とはいえ、サービスとしての「ebookjapan」は存続するので、ユーザーにいますぐなにか大きな変化が起きるわけではありません。しかし、同じ会社でいつまで「LINEマンガ」と併存させるのか? という問題は残ります。なにしろストアも別、アプリも別、会員情報も別のままですから。簡単には統合できなさそう。
広島の「書店が一度なくなったまち」に生まれた本屋に過疎地域の希望があった〈ライツ社(2024年6月18日)〉
佐藤さん:平たく言うと、「家賃が安くないと本屋はできない」っていう言い方になります。
そこなんですよね。書店に限らず、いまでも生き残っているパパママ・ストアって、自前の土地建物だからなんとかやっていけてるところが多いはず。飲食系だと“家賃を払っていない味”などと言われたりするやつです。大型書店なんかだと、定期借家契約でテナントに入っているから、一定期間で撤退するサイクルになっている、みたいな話もあったりします。
本当の原因は「日本人の活字離れ」ではない…「街の本屋」がどんどん消えているビジネスモデル上の理由 「雑誌のついでに本を運ぶ」という構造が限界に〈PRESIDENT Online(2024年6月18日)〉
この考え方に異論があることは私も十分に承知していますが、まずはそこから出版界でタブーとなっている正味についての議論を始めることはできないでしょうか? 正味を下げて書店の粗利益率拡大ができないならば、出版社は再販制度を放棄して、価格決定権を取次と書店に委ねるほかに出版界が生き残る道は残されていません。
そこなんですよね。一つ前の「家賃が安くないと本屋はできない」と別ベクトルですが、同じ話です。いまの粗利率×販売数では、書店の商売が成り立たないのは明らかです。だから生き残るためには、本以外の商材の割合を増やすしかない。すると、本の売り場面積は減るので、ますます本が売れなくなる。悪循環です。
しかし、正味を下げるという話が出版社側から出ることは、確かにあまりないように思えます。2019年に幻戯書房が「出荷正味を原則60%といたします」と宣言したことは衝撃的でしたが、残念ながら他社があとに続いたという話は聞きません。
結局、こちらの記事で仲俣暁生氏が言うように「出版業界には大手と中小版元あるいは老舗と新興版元とのあいだで、取引条件をはじめさまざまな不公平な慣行が残っている」ことが、いまだに正味の話をタブーにしてしまっているのでしょう。端的に言えば、大手出版社と中小出版社では正味に大きな格差があります。まあ、大手は取引量や額も大きいですし、取次の株主でもあるし、差があって当然とも言えるのですが。
細かなことは私も知りませんけど、ビジネスですから、自社だけが有利な条件であることを維持したいのは当然のことですし、それを他社に条件を知られたくないからタブーになってしまうのもわかります。歴史ある業界ですから、なぜ特別な取引条件なのか? の経緯や理由を知る人がもうおらず、是正できないままになっているなどの事情もあるでしょう。
結局のところ、同じ取引条件のまま正味だけ下げるのは、多くの出版社が飲めないでしょう。だから、たとえばブックセラーズ&カンパニーのように、書店側から「完全買切・返品ゼロ」のような従来とは大きく異なる取引条件を提示し、それと引き換えに正味を下げる交渉をしていくしかないのかなという気がします。
技術
生成AI検索エンジンのPerplexityはクローラーを防ぐ「robots.txt」を無視してウェブサイトから情報を抜き出している〈GIGAZINE(2024年6月17日)〉
最近、急成長している生成AI検索エンジンとして話題になっていましたが、実はけっこうお行儀が悪いことが暴露されています。まあ、robots.txtに従う「義務」はないのですけど、従わないサービスだという認識はしておく必要がありますね。
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日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記
NPO法人HON.jpの第9期通常総会が無事に終わりました。去年は団体設立10周年でしたが、設立から2年後に法人化しましたので、今年度が第10期ということになります。ここまで支えていただいた方々に感謝!(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。