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2022年1月9日~15日は「出版関連動向予想」「週刊文春電子版が記事配信を4時間前倒し」「海賊版サイト被害前年比4.8倍に急拡大」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
総合
2022年出版関連の動向予想〈HON.jp News Blog(2022年1月10日)〉
毎年恒例、新年の動向予想は10年目となりました。記事内にも書いたのですが、最初のころは「元旦の書き初め」みたいな感覚でかなり気楽に書き散らしていたのですが、年を追うごとにだんだん慎重に、重厚になっています。今年も元旦から取りかかって、ほぼ10日間費やしてしまいました。
以前より知っていることが増えたというのもありますが、どうせならもうちょっと深く分析をと、PEST分析やったり、年内行事を確認したり。凝りだしたら止まらなくなってしまったという。まあ「予想」というより、鷹野が今年はこういうことに着目しているという「キーワード」的に受け取っていただけたら幸いです。
新春講演会 2022年の電子出版はどうなる?──JEPAセミナー資料を公開します〈HON.jp News Blog(2022年1月11日)〉
そして、JEPAセミナーへの登壇は7年目となりました。今年もスライド資料を公開しておきます。JEPAの公式チャンネルにアーカイブ動画もありますので、私がしゃべっている姿に興味があるかたはぜひご笑覧ください。
政治
メディアの「独立」と「信頼」を、Choose Life Project、読売新聞と大阪府から考える(奥村信幸)〈個人 – Yahoo!ニュース(2022年1月8日)〉
政党とメディアの関係ということで、政治ジャンルに。この記事で取り上げられている2つの「事件」は、メディアの姿勢というものを改めて考えさせられました。端的に言えば「大口顧客の悪口書けるのか?」と。利益相反で記事の内容に影響を受けてしまうような可能性は、できる限り「事前に」排除しておくべきである、ということですよね。「プロパブリカ」を見習いたい。
私は忖度や遠慮せず書くほうだと自認していますが、外部からはそんなことわかりません。ちなみにHON.jpに大口の寄付はありませんし、法人会員は明示してますし、記事内で法人会員を好意的に取り上げるときは「情報開示」と付記するようにしてます。そうやってコツコツと信頼を積み重ねていくしかないでしょうね。
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年1月11日)〉
デジタル庁発足後初めて策定された重点計画。まだざっとしか目を通してませんが、「誰一人取り残されない」を繰り返し強調しているあたり、デジタルデバイドへの配慮に重きが置かれていると感じました。
「マイナンバーカードで図書館を利用する」アプリ、北九州市で実験〈ケータイ Watch(2022年1月13日)〉
ちょうどタイミングよく関連記事が流れてきたので、一緒にピックアップ。たとえばこういう活用法が指向されている、ということです。利用者登録に手書き&郵送で対応ではなく、マイナンバーカードとNFC対応スマホでオンライン上から即座に本人確認できる、というもの。
ちなみに「図書館サービスにおいて、公的個人認証サービスによる本人確認とスマートフォンアプリを活用した取り組みは国内で初めて」とありますが、「利用者登録等Web申込」には静岡県立中央図書館という先行事例があります。「スマートフォンアプリを活用した取り組み」ではないので、決して間違いではありませんけど。けど!
Apple、苦渋の譲歩 韓国でアプリ外部決済を容認〈日本経済新聞(2022年1月12日)〉
Appleが韓国の法規制に従い、外部決済を容認すると政府に伝えたとのこと。外部リンクではなく、アプリストア内で他社の決済手段を認めるというのは、いままでのAppleから考えたらすごいこと。いくら巨大企業とはいえ国家権力には逆らえないわけです。これ、日本を含めた他の国も追随する可能性が……? ちなみにGoogleは「(韓国の)アプリ事業者にアプリストア利用などの名目で26%の手数料支払いを求め始めた」そうで。なんというしたたかな。
「ターゲティング広告」規制導入へ ネット利用者を保護 総務省 | IT・ネット〈NHKニュース(2022年1月14日)〉
総務省のサイトは毎日ウォッチしているのですが、このニュースが出た日に「ターゲティング広告規制導入へ」のような更新には気づかず。その日にまとめ案が提示された総務省の有識者会議は「電気通信事業ガバナンス検討会」なので、資料を確認してみました。それがこちら。
電気通信事業ガバナンス検討会|電気通信事業ガバナンス検討会(第16回)〈総務省(2022年1月14日)〉
個人情報保護法とは別に、電気通信事業法でも網を掛ける方向性なのですね。電気通信回線設備を持ってない電気通信事業者(第三号事業)の規模が桁違いに大きくなってきたのに、電気通信事業法の規制対象とされていないことを憂慮しているようです。報告書(案)PDFのp17に記述されている、LINEの個人情報問題が規制強化の発端だったっぽい。
ちなみに報告書(案)のPDF内を「広告」でキーワード検索してみたのですが、引っかかってきたのは脚注の「一般社団法人日本インタラクティブ広告協会」だけ。恐らく、PDFのp54「利用者の意思によらず、利用者に関する情報(中略)第三者に送信されている場合がある」という記述がその「ターゲティング広告規制導入へ」と繫がるのだと思うのですが……さすがにそれをここから読み取るのは難しい。NHKの記事にある「総務省の有識者会議」って、これじゃないんだろうか? と思えるほど。うーん?
社会
E2465 – 大学図書館とWikipediaの連携がもたらすものは?<文献紹介>〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年1月13日)〉
Wikipediaを教育に活用する試みについて。世界各国の大学図書館員等が行っている、Wikipedia(およびその姉妹プロジェクト)とのコラボレーション事例の報告書が出版されたそうで、こちらはその紹介記事です。Wikipediaに新規記事を書くことや、既存記事に追記していく編集作業の過程で、情報リテラシー、ライティング技術、批判的思考などのスキルが獲得できるとしています。「レポートにWikipediaをコピペ」みたいな低次元の話ではなく、「情報発信者としての鍛錬を積む場」として捉えれば有効活用できる、ということですね。素晴らしい。
漫画の海賊版サイト、被害1兆円超の推計 前年比4.8倍に急拡大〈朝日新聞デジタル(2022年1月15日)〉
一般社団法人ABJ調べ。正規市場の1.6倍という被害額の妥当性はさておき、「前年比4.8倍」という相対数字の急増には驚かされます。ひどい。コロナ禍で巣ごもり需要というのもあるとは思いますが、「STOP!海賊版キャンペーン」のようなユーザーの啓蒙を図る仕掛けが、ストリーム配信の「オンライン型」には効き目が薄いということなのでしょうか。
ちなみに、出版広報センターの「深刻な海賊版の被害」のページには「漫画村による被害額3200億円」という過去のCODAの試算が記載されたままになっていますので、恐らく2018年ごろに更新してからそのままになっているのでは。そろそろアップデートしたほうがよさそうです。
経済
昨年も180万部減、全然止まらぬ「新聞」衰退の末路 | メディア業界〈東洋経済オンライン(2022年1月10日)〉
「紙の新聞」の時代は終わったー17年連続、止まらない部数大幅減 (磯山 友幸)〈マネー現代(2022年1月13日)〉
とくにここ数年、新聞の発行部数が激減しています。大手紙には不動産事業など別の稼ぎ口があるとはいえ、支えきれなくなるのは時間の問題と思われ。沈む船から逃げ出す人たちは、どこへ向かえばいいのか。
文藝春秋 「週刊文春 電子版」記事配信時間を雑誌発売日前日12時に前倒し〈文化通信デジタル(2022年1月13日)〉
4時間の前倒し。プレスリリースを見た時点では「ふーん」くらいにしか思わなかったのですが、書店側には「雑協の早売り規制」という強い足枷があるのを、出版社が自ら破っていく構図であることに気づいてしまいました。取次・書店側からすれば「デジタルで先に情報出てるんだから、紙の発売日を守る意味あるの?」って話になりますよね。これまで発売日を厳守させてきた理由が、崩れつつあるということに。
ちなみに私の古巣では、「新鮮な情報を誌面発売より先にウェブへ公開」という取り組みを20年くらい前からやっていました。最初のうちは「誌面の発売前にウェブへ掲出するオプション」として提供していたのが、最終的にはクライアント自身が直接情報を入力、オンラインへ公開していく仕組みへ変わっていきました。「週刊文春 電子版」の4時間前倒しを「ふーん」くらいにしか思わなかった理由は、そういう経緯をこの目で見てきたからでもあります。詳しくは2013年にマガジン航へ寄稿した「情報誌が歩んだ道を一般書籍も歩むのか?」をご覧ください。
情報鮮度でデジタルは紙より圧倒的に強いわけですから、紙を残すならなんらかの形で商品の差別化を図っていく必要があるように思います。紙が強いのは「保存性」あたりでしょうか。ただ、それを強調しようとするあまり新聞社は「古い記事を消す」ことで、ウェブ上の影響力を自ら削ってしまったわけですが。消さずに、一定期間で無料から有料会員限定へ切り替える、みたいなやり方が吉なのかなあ。
電子書籍好調IGポート、通期業績予想を上方修正 売上高118億円へ〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2022年1月14日)〉
記事に名前は出ていませんが、IGポートの出版部門はマッグガーデンです。売上の60%が電子書籍とのこと。わお。決算資料も確認してみましたが、『魔法使いの嫁』『リィンカーネーションの花弁』『魔導具師ダリヤはうつむかない ~Dahliya Wilts No More』などが挙がっていました。電子は事実上無限の棚で売り続けられるので、紙と違って重版判断や流通タイムラグと機会損失を考えずに済みます。だから、ヒット作の既刊があると収益安定しますよね。素晴らしい。
集英社のファッション雑誌『Marisol』、ECと雑誌を連動させ「コマースメディア」として再始動〈ECのミカタ(2022年1月14日)〉
昨年に定期刊行を終了したファッション雑誌の、ウェブメディアを大幅にリニューアルして通販サイト連動型にし、年2回刊行で再始動する試み。4月1日のスタート予定です。「雑誌」の生き残り策の、一つの方向性ではないかと思います。うまくいくといいですね。
技術
NFT専門メディア「NFT Media」、編集長の“役職NFT”を発行 保有者に収益を配分〈ITmedia ビジネスオンライン(2022年1月11日)〉
役職のNFT化。この記事には、本稿執筆時点で「歴代の役職所有者に編集を分配する仕組み」とありますが、プレスリリースを読む限り「歴代の役職所有者に報酬を分配する仕組み」の間違いと思われます。公開場所はNFTプラットフォームの大手「OpenSea」で、誰でも参照できます。つまり、収益分配の約束という関係者間の契約事項を、役職所有者履歴を改ざんできない形で公開したうえで、世の中へ向けて高らかに宣言した事例と言えるでしょう。
一般向けにNFTを販売しているわけではないので余計なお世話かもしれませんが、ポイントは収益分配の約束を履行し続けられるか? でしょう。仮にスマートコントラクトで自動化したとして、肝心の分配原資である「売上の1%」が本当にその額なのかどうかを外部の人間(辞めた人を想定)には確認できない、という脆弱性に気づいてしまいました。
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雑記
年明けからまた、新型コロナウイルスの感染者が急増しています。あまりの急増っぷりに、感覚がついていかないほどです。みなさま、重々お気を付けください(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。