「アメリカで生成AI企業への訴訟相次ぐ」「少女漫画の性愛表現」「pixivアプリ消滅→規制強化で再配信」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #579(2023年7月9日~15日)

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 2023年7月9日~15日は「アメリカで生成AI企業への訴訟相次ぐ」「少女漫画の性愛表現」「pixivアプリ消滅→規制強化で再配信」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

OpenAIなど生成AI企業への訴訟がアメリカで相次ぐ〈読売新聞(2023年7月11日)〉

Googleら、AIツールの訓練で数億人のユーザーからデータを盗んだとして提訴される〈PC Watch(2023年7月12日)〉

 さすが訴訟社会アメリカ。Microsoft・OpenAI、Meta、Alphabet・Googleなどによる大規模言語モデル(LLM)の学習が著作権侵害であると訴えられています。フェアユース規定があるといっても、合法であると認められるには裁判所の判決が必要になるわけです。

 日本の場合、こうなること見越してあらかじめ「柔軟な権利制限規定」が制定され、思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4)は合法だと明確化されていました。つまり「著作権法が想定していない事態」云々などというのは、風説の類いであると改めて明言しておく必要があるでしょう。

 また、この柔軟な権利制限規定に対し、いま改めて日本新聞協会など権利者側から批判の声が上がっています。しかしこの法改正当時、TPP協定による「保護期間の延長」「一部非親告罪化」という権利保護強化への動きがあったことも忘れてはならないでしょう。

 権利保護が強すぎると、公正な利用が難しくなります。バランスをとる意味で、権利制限が強化されたはず。生成AI関連の権利制限を緩めるなら、他の権利保護も緩めてバランスをとる必要があるでしょう。たとえば保護期間の短縮……は難しいかもしれませんが。

社会

“朝チュン”では伝わらない 少女漫画に性愛表現が描かれる理由〈毎日新聞(2023年7月9日)〉

 先週、新潮社「ニコ☆プチ」付録マンガが小学生向けなのに性的表現が過剰と批判され謝罪文が公表された件をピックアップしましたが(#578)、そこで私は「昔から少年マンガより少女マンガのほうが性表現は過激」だったという指摘をしました。そこへタイミングよく、毎日新聞の「有害図書規制」特集で里中満智子氏へのインタビューが掲載されました。

 冒頭、あの手塚治虫「鉄腕アトム」でさえ表現が残酷であると「悪書追放運動」の標的にされた歴史があることに触れられています。有料部分では逆に作品の提供側に対し「作家にはその必然性を考えて描いてほしい」「作者が覚悟して描いているのであれば」「自由だから何を描いてもいいとか、そんな気楽なものではない」とも言っています。批判されすぐ謝罪した新潮社に、そういう「覚悟」はあったのでしょうか。

 そういえば以前、BBCの記者が竹宮惠子氏にインタビューした「国連が批判する日本の漫画の性表現」という記事があったのを思い出しました。こちらは「非実在青少年」の表現が実際の人権を侵害しているのかどうか? という論点でした。次のピックアップとも関連する話です。

pixivのAndroidアプリ、Google Playストアから消滅。約1週間が経過するも復活せず【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2023年7月11日)〉

 BBCが「生成AIの児童性虐待画像を売買 日本のソーシャルメディアなどで」という報道で名指ししていたのを受けて、Googleが「pixiv」アプリをPlayストアから削除したらしい、というニュース。このときは原因が公表されていなかったため、BBCの記事との関連は噂レベルに留まっていました。

 しかし、7月14日にはピクシブから「一部機能の変更について」というお知らせが出て、翌15日からアプリの配信が再開されました。お知らせには「表現方法を問わず、特に写実的に児童を描写したイラスト・マンガが、iOS版、Android版pixivアプリにおいて非表示になります」とあります。つまり、BBCの記事の影響が大きかったことが裏付けられました。

 いまに始まった話ではありませんが、日本では合法な表現も、プラットフォームによる規制は免れません。ちょうど同じようなタイミングで、生成AIによる子供の裸画像は違法か否か? という記事が出ていたので、合わせて紹介しておきましょう。日本の法律では、実在する児童の描写か否かがポイントです。

経済

百科事典はスマホに取って替わられる? ウィキペディア編集者の警鐘〈朝日新聞デジタル(2023年7月11日)〉

「もう百科事典はつくれない」 元編集者が考えるネット社会の未来〈朝日新聞デジタル(2023年7月12日)〉

 ウィキペディア編集者で武蔵大学教授の北村紗衣氏と、平凡社で長年事典編集に携わった斎藤文雄氏へのインタビュー。どちらも後藤遼太記者による記事で、ウェブでは1日違いの公開です。紙面だとどういう展開だったのかが少し気になりました。

 北村氏の言う「(ウィキペディアは)信頼できる出典に当たれるように示してくれるサイト」というのは、私もデジタル編集論の授業で毎年学生に伝え続けていることです。出典を示してくれない生成AIは、むしろ裏取りに手間がかかってしまいます。「Bing Chat」みたいに出典が示されていても、リンク先にそんなこと書いてねぇ! ってことがあったりしますし。

 また、斎藤氏の「もう、百科事典はつくれませんよ」という言葉は、一般論ではなく「平凡社では」「紙版は」という前提があると読むべきでしょう。有料部分でも言及されているように、小学館グループ「ジャパンナレッジ」の「日本大百科全書」はいまでも更新・改訂が行われ続けています。

 また、「最大手の出版社でも、紙の百科事典はもう出せないと思います」とありますが、ポプラ社「ポプラディア」は2021年に第三版が出ています。よく紙版が出せたなとも思いますし、次の改訂が紙でも行われるかどうかまでは分かりませんが。物理メディアには一定のニーズがあるので、最後まで頑張れば残存者利益が得られるかも。

「少年ジャンプ+」がアニメ、漫画など映像コンテンツのコンテや漫画ネームをつくれるアプリ「World Maker」をリリース〈GAME Watch(2023年7月12日)〉

 JEPA電子出版アワード2022でエキサイティング・ツール賞を獲得した集英社「World Maker」ですが、実はまだベータ版だったんですよね。今回のリリースが正式版ということになるのでしょう。大きな変更点は、映像コンテの制作機能が追加されたこと。絵心がない人でも静止画・動画を問わず手軽に制作できるツールとして、活用されていくことになるでしょう。

ショートマンガ特化サービス「YOMcoma」 投稿者と読者に刺さる〈日経クロストレンド(2023年7月12日)〉

 2023年3月にリリースされた、ブックリスタの新規事業。開発室の方へのインタビューです。縦スクに注目が集まっているから“逆張り”した、というのが興味深い。Twitterへ同時投稿できる機能というのが少しタイミングが悪かった感もありますが、Twitter APIのBasicプラン(月額100ドル)の利用を開始するというお知らせも出ており、むしろ本気度の高さを感じました。

 私はこの「YOMcoma」には、TikTokなどのショート動画のマンガ版というイメージを持っていました。このインタビューでもずばり「TikTokのマンガ版っぽいね」と言われることも多いと言及されており、提供側も強く意識していることが伺えます。

Twitterが「広告収益分配プログラム」開始、クリエイター向けに〈ケータイ Watch(2023年7月14日)〉

 以前から予告されていた、投稿者に収益分配するプログラムが開始されました。過去3カ月間のインプレッション数が月間500万以上であること、Twitter Blueに加入していることなどが条件となっています。ちょうどこのタイミングでイーロン・マスク氏が「広告収入が最大50%減少した」という状況を明らかにしており、収益分配なんかやって大丈夫なのか? と心配になったのは私だけじゃないはず。

 しかし、月間500万インプレッションって相当ハードルが高いので、多くの方には縁のない機能になりそう。私のアカウントがいちばん閲覧されたときでも月間200万インプレションくらいだった記憶があります。まあ、私はテキスト中心だったというのもあるでしょうけど。写真・イラストが中心だと、求められている数字のレベル感がぜんぜん違うかも?

次回の週刊少年ジャンプは“電子版だけ”月曜に読める 紙は火曜に発売〈ITmedia NEWS(2023年7月14日)〉

 週刊少年ジャンプがサイマル配信になったのは2014年9月ですが、当初は朝5時配信でした。それが2020年の年始あたりから0時配信に変わりました。今回、7月17日が海の日で祝日ですが、電子版だけ月曜0時更新するということでニュースになっています。

 これ、いままで月曜日が祝日のときは火曜日0時配信だった、ということなんでしょうか。買っていないので、把握できていませんでした。朝5時配信が0時配信に前倒しされたときと同様、もう物流の都合に合わせて電子版を遅らせたりはしない、ということなのでしょう。

技術

2023年7月12日 高見真也 氏: W3C標準「EPUB 3.3」 とアクセシビリティ対応〈日本電子出版協会(2023年7月12日)〉

 拝聴しました。EPUB 3の歴史から、EPUB 3.3の特徴や変更点、EPUB向けアクセシビリティなどについて、わかりやすく解説されています。「なかったことにされたEPUB 3.1」とは異なり、しっかり後方互換が保たれている点が重要でしょう。YouTubeで講演動画が公開されています

 私の「電書協 EPUB 3 制作ガイドの改訂は動き始めていますか?」という質問に、「私の口から言うのは微妙なところではあるんですけど」と苦笑いしつつ「検討はされているみたいです」「まったく考えていないわけではない」「時期とか内容はこれから」と回答いただいたのが収穫でした。質疑応答の最初です。

ベネッセが小学生向け生成AIサービス、夏休みの「自由研究」支援目的に無償提供〈日経クロステック(2023年7月13日)〉

 中身は「Azure OpenAI Service」とのこと。ベネッセは生成AIを子供から遠ざけるのではなく「積極的に使わせる」方向で展開するようです。とはいえなんでも自由に使えるわけではなく、「(1)保護者の承認を必要とし保護者とともに利用する設計、(2)入力内容をAIの再学習に利用しない設計、(3)目的外の利用についてAIが回答しない設計、(4)1日の質問回数とAIの回答文字数に関する制限、(5)生成AIの使い方を学べる動画の提供」とあり、抑えるべきところはきっちり抑えている感があります。まあ、便利な道具を「使うな」と言うほうが無理なので、こういうある意味「子供向けフィルター」が実装されたものを使わせるほうが無難ではあるでしょう。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 エアコンに頼りっきりの季節がやってきました。とはいえうちの設定温度は28度で、その代わり扇風機との併用です。28度でも風があるとけっこう涼しいんですよね(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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