「OpenAIのCEO、権利者には“経済的に報いたい”」「交通新聞社、インボイス登録を強要しない指針」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #567(2023年4月9日~15日)

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 2023年4月9日~15日は「OpenAIのCEO、権利者には“経済的に報いたい”」「交通新聞社、インボイス登録を強要しない指針」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

パリ最新情報「町の本屋さんを守るため、仏オンラインの書籍配送料が値上げされる」〈Design Stories(2023年4月8日)〉

 本件、#565で取り上げたばかりだったので、非常にタイムリーな情報。送料無料を禁止したら1セントで対抗され、最低配送料を指定する形に修正したけど、いくらにするか? がまだ決まっていませんでした。それが「35ユーロ未満の書籍をオンラインで注文する場合、送料を最低3ユーロ(約420円)に設定する」と発表されたそうです。35ユーロ≓5200円ですから、多くの本が対象となりそう。10月7日の施行とのこと。

 さて、本邦でも書店議連がネット無料配送規制などを含めた最終報告を5月ごろにまとめ、立法など政策化に向けて動く予定と報じられています。それは利用者に負担増や不便さを強いることが確実です。有権者を敵に回してまで、フランスのような「文化を守る」という大義名分を貫き通せるかどうか。書店議連が超党派ではなく自民党単独であることがどう影響してくるか。また、仮に規制ができたとしても、リアル書店への回帰は進まず、むしろ電子版への移行を促進する効果が生まれるのではないか、など。今後の動向に注目です。

来日したOpenAIのアルトマンCEO、日本へ7つの提案–自民党の塩崎議員が明かす〈CNET Japan(2023年4月10日)〉

 日本に対する7つの提案の1番目に「日本関連の学習データのウェイト引き上げ」とあり、なるほどと思いました。OpenAIの方針ではなく「日本に対する提案」ですから、要するに「機械学習用の日本語データを出してくださいね」と言ってるわけです。

 これを見て最初に思い浮かんだのが、国立国会図書館によるデジタル化資料のOCRテキスト。2020年12月時点でデジタル化済みだった約247万点を対象に、OCR処理によるテキスト化が行われています。そしてそれはすでに、国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索機能として提供されています。著作権法第47条の5による軽微な利用で、スニペット表示も実装されています。

 ただ、テキストデータが誰でもダウンロードできるようになっているのは、著作権保護期間の満了した資料のみ。しかし#564でも触れたように、一般公開されていないデータでも国立国会図書館と協議すれば「著作権法上認められた範囲内での利用(著作権法第30条の4の規定による機械学習目的など)に限り」提供可能とされています。

 だから、今回の来日を機に協議するのか、あるいは、すでに提供されているのか、それは定かではありませんが、いずれにしても日本にはすでに、合法的に提供可能なデータが大量にあります。とくに新たな法改正などは必要としません。「機械学習天国」と呼ばれるような法改正を、珍しく世界に先んじて行っただけのことはあります。

OpenAIのCEO「クリエイターに経済的に報いたい」 自民党PTで発言〈ITmedia NEWS(2023年4月11日)〉

 関連して、赤松健議員が「今後クリエイターなど権利者とどう付き合っていくか」と質問したところ、「何らかの方法で経済的に報いたい」との回答が得られたそうです。これはチャンス! #566でも触れた著作権法第30条の4の但し書き「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」が生きてきそう。

 つまりたとえば、国立国会図書館のOCRテキストをOpenAIに提供する(orした)とします。国立国会図書館の図書館向け・個人向け送信サービスではすでに、「絶版等」ではない場合は、経済的な不利益が起きる可能性があるから送信しないという判断がすでになされています。対象を特定する運用も、すでにできています。援用できますよね。

 それを含めたデータを機械学習用に提供するなら、法第30条の4但し書き「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるから、なんらかの補償があって然るべきでは? とOpenAIに請求する大義名分があります。そして、すでに「経済的に報いたい」と言ってくれているわけです。あとは、価格交渉だけなのでは。

AIの無断学習、日本の著作権法ではOK 侵害にあたるケースは〈朝日新聞デジタル(2023年4月12日)〉

 その法第30条の4但し書き「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」について、弁護士・福井健策氏が指針を設けるべきだと提言しています。AI生成物が著作権侵害にあたる可能性については、「AIも一度その絵を学習しているなら依拠性は認めても良いのでは」という見解。納得しやすい。

 先週は、AIの無断学習とその影響に関してだけでも関連記事がいくつも出ているので、まとめて紹介しておきます。とくに中国の現場の悲鳴は「報酬はそれまでのイラスト作成の10分の1程度にまで落ちている」という具体的な数字が出ている点が参考になります。つまり、被害額が明確。訴えたときの説得力が段違い。

AIが中国で既にイラストレーターの仕事を奪い始めている、現場の悲鳴と実際にどのようにAIが用いられているのかをまとめたレポートが公開〈GIGAZINE(2023年4月12日)〉

アーティストの作品でAI訓練 「無断で複製された」米国で集団提訴〈朝日新聞デジタル(2023年4月12日)〉

生成AIでアーティスト失業「まだ始まり」 シカゴ大教授からの警告 [ChatGPT]〈朝日新聞デジタル(2023年4月13日)〉

AIとビッグデータ、規制と活用のバランス取る道は〈朝日新聞デジタル(2023年4月15日)〉

社会

※デジタル出版論はしばらく不定期連載になります。ご了承ください。

“奇跡のフォント”で小学生の正答率に差 開発者が語る「UDデジタル教科書体」の驚くべき効果とは〈デイリー新潮(2023年4月8日)〉

 ユニバーサルデザイン(Universal Design:UD)フォントのUDデジタル教科書体を開発し、『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って-UDデジタル教科書体 開発物語』(時事通信社)を上梓した書体デザイナー・高田裕美氏へのインタビュー。UDデジタル教科書体はWindows 10から標準搭載されているので、お世話になっている方も多いのでは。

人気作家の「模倣イラスト」を書籍表紙に使用 ダイヤモンド社が謝罪…作者「プロとしての意識欠けていた」〈J-CAST ニュース(2023年4月10日)〉

 著作権法上はグレーゾーンの事例。「他の作品を模倣したもの」というのが、絵柄や画風の真似なのか、特定のイラストをトレースしたのか、この記事からは判断できません。ただ、「二刷以降のカバー装画は新たに描き直したものに差し替える」ということは、初刷はそのまま販売を続けるわけです。ということは、恐らく絵柄や画風の真似だったのでは。絵柄や画風は「表現」そのものではないため、真似るのは著作権侵害ではありません。しかし、もしかしたら不正競争防止法に引っかかる可能性はあります。だから、そこで争うのを避けたのでは。落としどころが二刷以降差し替え、と。あくまで想像ですが。

交通新聞社、インボイス登録「強要しない」 指針公開は雑協加盟社初〈文化通信デジタル(2023年4月12日)〉

 以前、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会からの呼びかけにより、適格請求書が発行できない免税事業者と今後も取引を続けますと表明する企業や団体が出てきたというニュースをピックアップしました(#559)。残念ながらそこでは「取引は続ける」けど「税負担は受注側で負ってね」と要求されているケースもあるという声を散見しましたが、交通新聞社の指針はそういう抜け道もふさいでいる、免税事業者にとって真に安心できるものになっています。

  1. 適格請求書発行事業者登録は推奨及び協力の依頼のみとし、強要などの行為はいたしません。
  2. 適格請求書発行事業者登録を行わない事を理由に、発注停止や消費税相当額の一部または全部を、値引きや不払いとする行為を行いません。
  3. お取引様から自主的に消費税相当額の一部または全部の減額をご提案頂いた場合も、決して受諾いたしません。

 これはすごい。ぜひ見習いたい。HON.jpは、現時点では免税事業者なのでこういう宣言をする意味があまりないのですが、課税事業者として登録したら(するつもり)ぜひ追従したいと思います。

インボイス制度、登録すべきか悩む免税事業者 課税事業者は9割申請〈朝日新聞デジタル(2023年4月14日)〉

 そのインボイス制度の現状について。免税事業者の申請は約52万にとどまるそうです。国税庁は免税事業者の母数を把握していないとのことですが、確定申告の提出人数からおおよそは割り出せそうな気が……? 課税事業者は約300万のうち9割近い約268万が申請を済ませているそうなので、絶対数で比較しても明らかに少ない。まあ、課税事業者は登録しないと確実に損をする、免税事業者が登録すると出費が増えるのは確実なので、こういう差が付くのは当然のことではありますが。

出版市場が停滞するなか、じつは「児童書」は成長を続けているという「意外な事実」(飯田一史)〈マネー現代 | 講談社(2023年4月12日)〉

 2月に刊行された『オックスフォード出版の事典』に基づく、世界の出版市場についての概説と考察です。私はまだ第3章までしか読めていない……ヤバイ、読まねば。

あまりに「多様性」にかけていた出版業界に「電子書籍」と「セルフパブリッシング」がもたらした新たなビジネスチャンス(飯田一史)〈マネー現代 | 講談社(2023年4月12日)〉

 少し気になったのが、こちらの後編。「WIPOの2017年調査によれば、出版市場におけるデジタル版の市場シェアは中国28%、コロンビア24%、日本18%」というのは、さすがに情報が少し古い。翻訳前の原典が2019年の刊行なので、孫引き(本に書いてあることそのまま)なのでしょう。調べてみたら、WIPOの「The Global Publishing Industry」は、現時点で2021年版まで出ています。

 同じ箇所でもう一つ気になったのが、中国について。馬場公彦氏が2021年にレポートしてくれましたが、中国のデジタル出版産業統計にはアニメやゲーム・広告も含まれているのですよね。日本でいう「電子書籍」や「電子雑誌」にあたる数字はそれほど大きくないはずなのですよ。

 JETROが3月に発表した「中国コンテンツ市場調査 2022年版」の「中国の出版に関する市場調査」によると、電子出版物の占有率は0.11%です。中国ではまだ圧倒的に紙が強い。つまり、WIPOの統計はその辺りをちゃんと区別できていないのではないか、という疑惑が。

経済

アメリカで生き延びる町の本屋さん ネット書店・電子書籍の荒波耐え〈朝日新聞デジタル(2023年4月14日)〉

 大原ケイ氏による解説。肩書きに「本づくりに関わる人を支援するNPO法人HON.jpのファウンダー(創設者)」と記載いただき、ありがとうございます。独立系と呼ばれる書店や、大手チェーンでもバーンズ・アンド・ノーブルが、アマゾンの脅威をいかに乗り越えたか? が語られています。「分岐(bifurcation)」と呼ばれているのですね。ランチェスター戦略で言う、弱者の戦略、差別化戦略です。「局地戦」とか「接近戦」あたりに相当しそう。

書籍「ゲームの歴史」、返金対応へ 講談社は謝罪 「編集部による事実確認が不十分だった」〈ITmedia NEWS(2023年4月10日)〉

 続報。最終的に、講談社が「事実関係の確認が不十分だったためにこのような事態となりました」と編集部の非を認めています。全責任を著作者へ負わせるような形ではありません。それなら恐らく、私が心配していた「印税はどういう扱いになるのか」については、少なくとも全額返金にまでは至っていないと思われます。たぶん。

 ただ、書店在庫のみならず、販売済みの商品まで希望があれば返金対応としているのですよね……しかも、電子版まで対象です。徹底してる。直近だと、インプレスが『いちばんやさしいWeb3の教本』のとき同じ対応をしています。幻冬舎が『日本国紀』の間違いを大量に指摘されたとき、刷ごとに修正を入れつつ販売は続行したのと対照的です。

技術

AI×データ活用で「読まれる記事」の量産に挑戦。講談社のエンジニアが挑む、出版社に眠る“宝のデータ”活用プロジェクトの舞台裏 – エンジニアtype〈転職type(2023年4月14日)〉

 うーん……ちょっと考え込んでしまった記事。自然言語処理の博士が入社し、すぐに「記事タイトルからPV数を予測するシステムを作ってくれた」というのは、一見良い話のように見えます。しかしこれ、いずれ「釣りタイトル化」を促進していく圧になってしまうような気がするんですよね。でも、「そんなん釣ったもん勝ちやろ」「クリックされてなんぼやで」って声が聞こえてくる気もします。いつまでもPVをKPIにしてちゃダメだと思うんだけどなあ。

 トレンドブログなど最近の事例は言うまでもなく、いにしえのスポーツ紙が売店前でタケノコみたいになった状態だと「~か?」って疑問符が隠れるようにする釣りタイトル芸をやっていたとか、週刊誌の電車の中吊り広告の釣り見出しなども思い出しました。それがAI×データ活用で量産されるとなると……怖い怖い。

アマゾン、生成系AIアプリの構築を容易にする「Amazon Bedrock」を発表〈CNET Japan(2023年4月14日)〉

 ついにAmazonもこの市場に参入。といっても、主に強みであるAWSを活かした形の「ゴールドラッシュでツルハシを売る」ようなムーブです。自前の検索エンジンやOffice系ソフト・OSを持っているMicrosoftやGoogleとは異なり、Amazonの商品ラインアップで生成AIを直接活かせそうなのはスマートスピーカーの「アレクサ」くらいだと思うので、案外これが正解なのかも?

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雑記

 とうとう知天命に至りました。不惑を過ぎてからでも惑いっぱなしだった気がするのですが、こんどは使命です。私の使命ってなんだろう? いまだ目の前のことに精一杯な日々です(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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