「ChatGPTや新Bingがメディアや教育現場を否応なしに変えていく」「でんでんコンバーター10周年」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #559(2023年2月12日~18日)

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 2023年2月12日~18日は「ChatGPTや新Bingがメディアや教育現場を否応なしに変えていく」「でんでんコンバーター10周年」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

「インボイスはデスゲーム」、税の押し付け合いが始まる 反対署名18万、 “身バレ”問題も未解決〈ITmedia NEWS(2023年2月14日)〉

 本欄でも何度か述べてきましたが、これはまさに「税の押し付け合い」なのです。いままで「免税」だったぶんを、誰が負担することになるのか? という。つまり「全員が賛成」とか「全員が反対」はあり得ない、という状態になってしまっているわけです。だから難しい。

 だいたい、説明するのも難しい。適格請求書発行事業者以外(消費者、免税事業者、登録してない課税事業者)からの課税仕入れは仕入税額控除できない――それがだれにとってなにを意味するのか? を説明するのも難しい。なんか、仕入税額控除できないぶんは、決算時に雑損失として計上するみたいですよ? ややこしい……。

 ちなみに、4ページ目にある弁護士・宇都宮健児氏の「仕入れ税額控除を適格請求書に限るのは、税制改革法の10条2項に違反し、法律的にも問題だ」という指摘は、私は初めて見ました。税制改革法の条文を読んでもどういうことかわからなかったんですが、行政訴訟とかあり得るのかしら?

社会

※デジタル出版論はしばらく不定期連載になります。ご了承ください。

バリアフリー本? 電子書籍でいますぐ体験!〈Romancer(2023年2月13日)〉

 「ABSC準備会レポート」2号目の電子配信が始まりました。今回の内容では、図表で表現された「読書困難者数とバリアフリー本の種類と所蔵数」が、どうやってこれをアクセシブルにするんだろう? という感じだったのですが、大きな画像がそのまま挿入されていました。あー……まあ、難しいですよねこれは。読み上げてくれなかったけど、代替テキストはちゃんと入ってるのかしら?[2月20日10時30分追記:JPOの案内ページに「※代替テキストの読み上げは未対応です。ご留意ください。」という記述がありました]

 あとは、沢辺均氏(株式会社スタジオ・ポット代表)へのインタビューが、制作現場の現実をしっかり踏まえた感じで良いです。まだ紙しかやってない中小出版社が多い現状を踏まえたうえで、まずなにからやればいいか? を易しくガイドしています。さすが。

でんでんコンバーター 10周年特設ページ!〈でんでんコンバーター(2023年2月14日)〉

 10周年、おめでとうございます。私もコメントを寄せました。印刷版ページ番号の挿入に対応している制作ツールって、他にあるのかしら? なお、現状アクセシビリティメタデータは、EPUB出力後に手作業で入れてます。まあ、それはさほど手間ではないのですが、制作ツール側で対応してくれたらうれしいな、と。

本屋ないと本当に困る? 名物書店員・福嶋聡さん「売れない本こそ」〈朝日新聞デジタル(2023年2月14日)〉

 有料会員限定部分へ入る直前に書かれた「本屋が減っていくことに関して(中略)実は本屋自らが招いた事態であるとも言える」というのは、要は、POSデータを元に仕入れることによって金太郎飴化し、読者の来店モチベーションを下げてしまったのではないか? という話です。

 これ、少し前にトーハン・日販が「書店店頭や読者のニーズを起点とする」「マーケットインへ転換する」って宣言してますけど、あらためて「ほんとうにそれでいいの?」と問いかけているように思えます。まあ、多様性はボーンデジタルやオンデマンドが担えますから、マスプロダクションはマーケットインでいいのかもしれませんが。

 ちなみにこの「書店の金太郎飴化」というのは、調べてみたらけっこう前から言われてることなんですね。日本出版学会 出版流通研究部会の資料で、1998年の報告に“書店の「金太郎飴」化が業界内外で間題視されて久しい” という文言が見つかりました。25年前の時点ですでに「久しい」のか!

結局、AI創作とどう向き合うべき? 知られざる著作権の落とし穴と対策【弁護士解説】〈Workship MAGAZINE(2023年2月16日)〉

 明示はされていませんが、雰囲気的に最終回でしょうか? 非常にわかりやすく、ためになる連載でした。「ジェネレーティブAIなんか使わない」と思っている方も、読めば無関係ではいられないことがわかると思います。この回だけでも読んで欲しい。

経済

「自由な働き方」に紛れ込む「偽装フリーランス」 ある弁護士の確信〈朝日新聞デジタル(2023年2月13日)〉

 朝日新聞の「偽装フリーランス」特集。雇用契約ではなく業務委託契約なら、長時間労働の規制もなければ有給休暇もないし、残業代、年金、健康保険料もかからない、というわけです。「私自身がもっとも労働者性が高いと感じたのは、漫画家のアシスタントをしていた人のケースでした」と書かれた記事も同時に出ており、出版業界に直撃する話題。

 なお、これまでは「偽装請負」がよく問題視されてきました。なにが違うんだろう? と思ったら、記者の方がツイッターで「似て非なる問題」と説明しているのを見つけました。要するに、偽装請負は労働者派遣の実態を隠したものだけど、偽装フリーランスは雇用の実態を隠したもの(=偽装雇用)であると。なるほど。それ、記事にも書いておいて欲しかったなあ。

「論座」の終了と新たなオピニオンサイトの開始について – 論座編集部〈論座 – 朝日新聞社の言論サイト(2023年2月15日)〉

 週刊朝日の休刊に続いて、また朝日新聞系のメディアが終了します。しかし、ただ単に終了するわけではなく、別途新たなオピニオンサイトを始めるという、少し奇妙な終わり方です。リセットしたかったんでしょうか? 通算2万本以上の記事があったというのに、もったいない。

筆者の皆さまへお知らせ – 論座編集部〈論座 – 朝日新聞社の言論サイト(2023年2月15日)〉

 著者向けのお知らせには「論座編集部で編集させていただきましたご寄稿のページは、サイトから印字していただけます」とあります。つまり、編集後のテキストはデータでは渡さない、ということでしょう。うーん……まあ、更新終了後は自由に転載して良い、というのをちゃんと事前告知しているのは良いと思いますが。

フリーランスと取引、インボイスなしでも 7社・団体〈日本経済新聞(2023年2月17日)〉

 あー、やはりそういう宣言をする企業や団体が出てくるか、と思ったニュース。適格請求書が発行できない免税事業者と、仕入税額控除ができなくなっても、今後も取引を続けますという表明です。つまり「税の押し付け合い」を止め、税負担は発注側で負います、と。プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会からの呼びかけに、法人会員の一部が応じた形のようです。

 良い話……と思ったんですが、この記事への反響を確認したところ、この宣言をしたうちの1社からすでに「10月以降は税抜価格を請求するように」と通達されているという声が(リンクは貼りません)。それって「取引は続ける」けど「税負担は受注側で負ってね」という話ですよね。切られるよりマシとはいえ、記事にも書かれている「優越的地位の濫用」なのでは。うーむ。

技術

マイクロソフト新Bingが示す「検索」新時代 チャットUIとGoogleの憂鬱【西田宗千佳のイマトミライ】〈Impress Watch(2023年2月13日)〉

 チャットUIが組み込まれた新Bingについて。私は、先週の時点ではまだ試せませんでしたが、今週に入ってから“You’re in! Welcome to the new Bing!”というメールが届いて使えるようになりました。「ChatGPT」との大きな違いは、生成された文章の下に「詳細情報」として、参照したサイトへのリンクが貼られている点。情報ソースが簡単に確認できるようになっています。

 先週の本欄で私は「恐らくAI検索ではソースとして選ばれなければアクセスは皆無になることが予想できます」と書きましたが、実際に使ってみたら、たとえソースとして選ばれてもあまりトラフィックに結びつく気がしませんでした。答えっぽいものが提示されたあとでわざわざリンク先を参照する人がどれだけいるでしょう? 恐らく世の中の大半の人は、わざわざ確認などしないのでは。

 つまりこれはもう、メディアへトラフィックをもたらす従来型の「検索エンジン」とは完全に別物です。そこへ広告を表示することでビジネス化する従来型モデルをぶち壊す、革命的な存在であることも改めて実感できました。さらに、無料でウェブ公開するとただ単にAI生成文章のソースにされるだけになる状況を、メディアビジネスを展開しているパブリッシャーが容認できるはずがないことも予想できました。

 恐らくパブリッシャーの多くは今後、検索ロボットによるクロールをペイウォールで防ぐ道を選ぶでしょう。実際のところ、ウェブメディアはすでに広告モデルから読者収入モデルへ軸足を移しつつあるので、その動きを加速させることになるのかもしれません。「EPIC2014」で予想されたようなアナログ回帰(グーグルゾンに対抗してオンラインから撤退)は、いまさら考えづらいでしょうし。

 そうすると、先週の本欄でも書いたように、チャットUIで生成される文章でソースとして提示されるのは、ウェブに情報が残りやすいメディアの記事ばかりに偏ることになるわけです。そして、AI生成文章のソースにされることを狙った情報工作も横行することになるでしょう。「SEO」ではなく「GAO(Generative AI Optimization)」みたいな呼ばれ方になるのかな? がおー。

 ……とまあ、いろんな未来が想像できて面白いです。静観せず、とにかくいちど使ってみたほうがよいと思います。自分がこれをどう活用するか? という観点より、他者がコレをどう活用するか? を想像したほうがよさそう。他者が使うのは止められませんから。

人間かAIか「見分けつかなくなる」 ChatGPT教育現場に波紋〈朝日新聞デジタル(2023年2月12日)〉

 たとえばこういう話です。今後は、AI生成されたレポートや原稿を、教師や編集者が日常的に受け取ることになるわけです。この記事では「米国の教育現場に波紋を呼んでいる」とありますが、恐らく日本でも4月の新学期からはAIに書かせたレポートが大量に発生します。じゃあどうするの? をいまから考えておく必要があるでしょう。

 実際、私が明星大学で今年度「デジタル編集論」で出題したレポート課題の出題文を、そのまま新Bingに入力してみたら、ふつうの学生と見紛うレベルの答えが返ってきました。「薄い」とも思いましたけど、もっと薄いレポートを書く学生も大勢います。こんなの「使うな」と言うほうが理不尽です。絶対使いますよ。止められません。使うであろうことを前提にして、その上をいく課題の提示が必要でしょう。

 まあ、いまでもググればすぐ答えっぽいものが探し出せる状況ですから、私は以前から「記憶力テストの意義は薄れていく」と思っていました。だからそういうテストはやらないようにし、レポート課題だけで採点してきました。しかしとうとう次の段階、ビグればすぐ答えっぽい文章が出力できるようになってしまいました。つまり、ついに「レポート課題を課す意義」も問われるようになったわけです。

 じゃあどうすればいいの? と。現状だと、ウェブ上に存在しない情報、あるいは、ウェブ上に情報が少ないことについては「もっともらしいデタラメ」が出力される傾向があるように感じます。それも流暢に、しれっと嘘をつく感じ。それって、人間が生成した大量のデタラメである「Welq」事件なんかと似てるなあ、と思いました。

生成AIで間違いだらけの健康コンテンツ、「もっともらしいデタラメ」の本当のリスクとは?〈新聞紙学的(2023年2月13日)〉

 あれがもっとローコストで大量に出てくることになるわけです。そうなると、人間には「嘘を嘘と見抜く訓練」が必要不可欠なものになっていくことでしょう。たとえば、AIが苦手そうな問いをあえて新Bingに回答させたうえで「AIのついた嘘を発見し、根拠とともにレポートしてください」みたいな課題なんてどうだろう? なんてことを考えています。難しいかな?

 個人的には、AI生成コンテンツが悪いとは思わないのです。むしろ、ジェネレーティブAIをどんどん使いましょう、使った上で、そのまま世の中に出してほんとうに大丈夫か? をきっちり事前にチェックしましょう、って教育のほうが今後のためになるかな、と。

AI時代に批評家は失業する? ChatGPTの回答は正論、だけど〈朝日新聞デジタル(2023年2月18日)〉

 最後のほうに書かれている「経験からすると、学生がAIに書かせたリポートはすぐに見抜ける。悲しいことに、AIは平均的な大学生よりも明晰(めいせき)な論理と構造で書けるので、きれいで正確すぎるリポートはAIの可能性が高い」に、思わず笑ってしまいました。確かに。

 実際のところ、新Bingが生成した文章をコピペすると、普通の文章にはまず使わない「¹²³⁴」みたいな注釈番号が混入します。Wordで書くならふつうは[参考資料]→[脚注の挿入]を使うので、そのまま提出するとバレます。つまり短期的には、この注釈番号を素早く除去あるいは置換するテクニックが磨かれそう。みんな正規表現が使えるようになったりして。

Google、「プライバシー サンドボックス」ベータ版をAndroidへ展開開始〈窓の杜(2023年2月15日)〉

 サードパーティークッキー廃止に向けた動き。これまで何度も延期してきましたが、このベータ版展開がうまく進めば、いま予定されている「2024年後半から」の廃止に向け動き出すことになるのでしょう。

紀伊國屋書店リニューアル後の新宿本店をバーチャル空間で公開 海外に向けたプロモーションも可能に〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2023年2月16日)〉

 うーん……これを「バーチャル空間」と呼んでいいかどうかはちょっと疑問です。「展示商品はバーチャル空間と直結した紀伊國屋書店Webストアで購入が可能」とありますが、それは現状だと「入り口」のすぐそばにある「キノベス!2023」の展示コーナーにある30点だけ。ほとんどの場所は「Googleストリートビュー」室内版の「インドアビュー」とあまり変わらない感じです。つまり、360度のパノラマ写真がたくさんある感じ。こちらから確認できます。

 ただ、これが将来的に実在庫と結びついた形の「ミラーワールド」にまで進化し、映像で見えている本がすべて実際に購入できるようになってくると、まったく次元の違う話になることでしょう。そういう「可能性」は感じられる試みです。棚に並んでいる本を手にとることはできないけど、表紙を眺める程度のことはできるので。

 現状のネット書店とリアル書店を比較したとき、リアル書店の優位性として「店頭での圧倒的情報量」とか「セレンディピティ」みたいなことがよく言われてきました。つまり、ネット書店にはレコメンドシステムはあっても、リアル書店のような偶然の出会いが少ない、と。しかしバーチャル書店には、その差を埋める可能性があると思うのです。まだいまは解像度の問題がありますが、スマホの進化と同様、そのうち解消するでしょう。

 そしてリアル書店と同様、バーチャル書店も「棚をどう編集するか?」がポイントになることでしょう。だって、偶然の出会いが重要なのですから。だから、バーチャル書店で購入できるのは、電子版だけじゃなくてもいいとも思うのです。バーチャル書店で注文したら、通販で実物が届く形でも良い。そうなってくると、リアル世界をそのまま再現した「ミラーワールド」ってことになるんだろうな、と。

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雑記

 今年に入ってから晩酌を復活したら効果てきめん、体重が3キロ増えました。散歩の習慣は続けたまま、足踏み体操も追加したんですが、それでは足らなかったようです。またしばらく禁酒します。とほほ(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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