「インボイス制度に怨嗟の声」「出版物販売額の実態がExcel版のみに」「Google検索にコメント機能?」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #595(2023年11月12日~18日)

丸善 横浜みなとみらい店

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 2023年11月12日~18日は「インボイス制度に怨嗟の声」「出版物販売額の実態がExcel版のみに」「Google検索にコメント機能?」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

インボイスで「負担増」半数超 免税事業者に「着服・ネコババ」批判〈朝日新聞デジタル(2023年11月13日)〉

 「インボイス制度を考えるフリーランスの会」によるアンケート。かなり強めにバイアスがかかっていることが予想できます。だから「半数超」といった数字についてはあくまで参考程度に考え、どういう声が挙がっているか? という定性的な調査だと捉えておいたほうがよいでしょう。プレスリリースの「緊急意識調査に寄せられた声」には、さまざまな立場の人からの怨嗟の声が集まっています。

 とくに、6年間の経過措置が導入されたことによりかえって経理処理が複雑化したため、それがむしろインボイス未登録事業者の「取引排除を促進している」という声が鋭いと感じました。未登録事業者との取引は手間もコストも増えるので、選べるなら登録事業者を選ぶという圧が自然にかかってしまうのですよね。

 ちなみに私はHON.jpの事務処理で、海外からの仕入(たとえばZoomの利用料)をどうやって会計ソフトに入力すればいいのか? がわからず、調べていたらその1件だけで数時間が簡単に溶ける(そして結局わからない)という経験をしました。めっちゃ負担増。辛い。かなり辛い。

 これ、越境取引でもサービス利用が国内だから、いまは課税対象なんですよね。海外勢の電子書店では消費税がかからないのが不公平だと国内の事業者から声が挙がり、2015年10月から課税取引に変わった経緯を思い出しました。

 消費者の立場だとこれは単に消費税分の値上げだったわけですが、事業者の立場だとなんと「当該役務の提供を受けた国内事業者に申告納税義務が課されます(リバースチャージ方式)」とのことなのです。え、うちが代金支払う側なのに、申告納税義務も課されるの? わけわからん。で、このとき設けられた登録国外事業者制度が、今回、インボイス制度へ移行された、と。

 あー、Zoomは登録してないのかな。あれ? そういえば簡易課税制度選択届出書を提出したから、そういうの考えなくてもいいのか? freeeの解説記事も見つけたけど、具体的になにをどうすればいいのかわからない……これは税理士さんに相談だなあ、というところで力尽きて処理保留になっています。

 こんな生産性のないことに時間使いたくないよお。だれか助けて。

社会

ライトノベルの人気は本当に衰えたのか? あらゆるジャンルに波及したラノベ的要素を考察〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2023年11月12日)〉

 タニグチリウイチ氏による「ライトノベル衰退論」に対する反論です。ライト文芸、新書ノベルズ、ジュニア文庫などに「ライトノベルが市場を奪われたと見るか、ライトノベルが市場を広げたと見るか」は、結局のところ、ライトノベルをどう捉えるか次第なのですよね。私の見解と同じです。

 さらに「どこから入ろうと誰が手に取ろうと、本は読まれてこそなのだから」という結論が良い。文庫本ラノベ市場が縮小していようと、近接する領域が伸びてるなら、それでいいじゃないか、と。具体的な数字がどう推移しているのか? については……うん、まあ、うちの担当すべき領域でしょう。資料を集めてますので、揃ったら続編を書きます。

読書バリアフリーって?〈産経ニュース(2023年11月12日)〉※PDF版

 毎週日曜日に掲載される、週刊「学ぼう産経新聞」の紙面PDFが公開されています。読書バリアフリーの話題なのに、画像PDF(テキストなし)で読み上げ不可ってどういう冗談なんだ? と思いました。

読書バリアフリーって?〈産経ニュース(2023年11月14日)〉※HTML版

 ところが2日後にHTML版の記事が公開されました。なるほど。電子出版で、紙版を制作してからリフロー電子版を用意する(そのぶん公開が遅れる)のと同じようなフローってことでしょうか。しかし、PDF版のページからHTML版のページへの誘導が図られていないのが惜しい。もうあと一歩。

論文購読&掲載料で「もうけすぎ?」 あの学術出版社を直撃した〈毎日新聞(2023年11月15日)〉

 「あの学術出版社」と言われるとエルゼビアが思い浮かびますが、シュプリンガーネイチャー日本法人の社長インタビューでした。購読料高騰について「必要がなければ買う必要はない。最終決定権は図書館側にある」というのが、ビジネスとしては正しいんだろうけど、学術の領域はそうじゃねーだろ感があります。

文フリに現代の「文学とは何か」を見た〈マガジン航(2023年11月16日)〉

「文学フリマ東京37」に見た熱狂とさらなる可能性ーー映画、演劇、音楽系の参戦も進む“文フリ”レポート〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2023年11月16日)〉

【独占取材】拡大する「文学フリマ」8回出店の海猫沢めろん先生に聞いた “盛り上がりの実感”〈ロケットニュース24(2023年11月16日)〉

 文学フリマ東京への参戦記がいくつも公開されています。即売会として、コミケ、コミティアに続く場に成長したことは喜ばしい。ただ、次回から入場料金(1000円)がかかるようになることが、どの程度客足に影響するか。

 まだ購入方法などは決まっていないようですが、コミティアみたいにカタログ(ティアズマガジン)販売方式がいいなあ。出店者一覧の小冊子が有料というのが、分かりやすくて良いのでは。欲を言えば、一行でいいから出展内容が欲しいところではありますが。手間が増えて難しいかな?

阿佐ヶ谷から本屋が消える 太宰治 井伏鱒二も集った街で… | ニュース深掘り〈NHK(2023年11月17日)〉

 ちょっと気になって調べてみたんですが、もうすぐ新刊書店が無くなってしまうという阿佐ヶ谷駅は、1日の利用者が乗車のみで約3万8000人なんですね(JR東日本公式・2022年度)。乗降で倍と考えると約7万6000人です。

 実は私の地元の自治体は、人口7万人強です。同じくらいの人が1日で乗降している場所なのに、書店の経営が成り立たなくなってしまうのですね。東京みたいな人口密集大都市圏でも、いよいよそういう状態になってしまったのだなあ……と、このニュースを見て思いました。と同時に、地方ではずいぶん前から起きていたことだよな、とも。

 実際のところ、私が地元に住んでいた小さなころによく通っていた書店は2つあったのですが、駅前の小さな書店はもう25年くらい前に無くなってしまったし、もう1店舗も気付いたら店舗が無くなっていました。20代のころ幹線道路沿いに少し大きめの書店(CDショップ兼)が新しくできましたが、それも15年くらい前に無くなってしまいました。それでもその後、三洋堂書店が進出してきたおかげもあり、いちおうまだ新刊書店のある自治体です。

 まあ、三洋堂書店は古本も扱ってるし、文房具はもちろん、トレーディングカードもやってるから、新刊しか扱っていない書店と単純比較できないでしょうけど。ビジネスモデルがかなり違うはず。あと、徒歩電車で移動可能な商圏と、自動車が無いと暮らしていけない商圏との違いもあるかな。

経済

「出版物販売額の実態 2023」「書店経営指標 2023年版」発行のご案内|ニュースリリース〈日本出版販売株式会社(2023年11月13日)〉

 日販「出版物販売額の実態」は2021年版から紙の発行が中止され、それでも2022年版まではそのまま印刷できるレイアウトのPDF版とExcelが両方用意されていましたが、今回はとうとうExcelのみとなりました。つまり版面制作の手間を省いた形ですが、価格は据え置きです。まあ、買いましたが。

 今回のトピックスとしては、ネット経由/リアル書店経由購買額(シート2-2-2)の比較で、ネット経由(電子媒体との合算)の構成比が50%超になったこと。そして、「リアル書店」に含まれる「CVS(コンビニ)」が前年比79.6%で1000億円未満になったこと。コンビニは、ピークの2000年には4900億円あったので、5分の1以下になっています。

出版社・雑誌の垣根を越え、総勢10編集部が一斉審査する「マンガノ大賞」開催〈コミックナタリー(2023年11月15日)〉

 運営コメントに「出版社や雑誌の垣根を超えた前代未聞のマンガ賞を創設しました」とあるのを読んで、出版社や雑誌の垣根を越える投稿サイトとしての先駆者「DAYS NEO」のことを想起しました。マンガノ大賞は10誌ですが、DAYS NEOは48誌です。

 まあ、確かに「賞」としては前代未聞なのかもしれませんが。どちらにも参加しているのは、月刊少年マガジンと月刊ビッグガンガンだけかな?

米OpenAI、アルトマンCEOが退社へ 事実上の解任〈日本経済新聞(2023年11月18日)〉

 取締役会でクーデターが起きたようです。直感的に「Microsoftの差し金か?」と思ったのですが、どうやらMicrosoft側も知らなかったようです。投資家から解任の撤回を求められ復帰する方向で協議しているという報道もありました。状況はかなり混沌としています。

 技術の進化とか、政治による規制以外に、こういう内紛劇での崩壊というのもあり得るわけですねぇ……ちょっと想定外でした。競合他社が漁夫の利を得そう。

技術

グーグル、検索結果にフォロー機能 Webサイト内容へのコメント投稿も可能に〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2023年11月17日)〉

 検索結果のフォローはDiscoverの機能強化で、Googleアラートの延長上みたいな印象です。それに対し、コメント投稿が可能になるというのは、ちょっとびっくり。日本で言えば「はてなブックマーク」や「ヤフーコメント」のようなソーシャル要素がGoogle検索に内包されるようになるわけです。

 まだ現時点ではアメリカとインド限定の「Search Labs」での実験(つまり一般には展開されていない)ですが、これが全世界に展開されるようになると、さまざまなところに大きな影響が出そうです。「コメントが盛り上がるとPVが伸びる」みたいな昔からある(けどSEOとしては新しい)手法が流行るようになるかも。

 ちなみに、公式ブログではこの試みについて“We’ve seen in our research that people are interested in what people like them are saying about a given web page.(私たちの調査では、人々は自分と同じような人が特定のウェブページについて何を言っているかに興味を持っていることがわかりました。)”と言っています。え、いまさら「わかった」の?

 いや、まあ、いま実験やってる人たちはそういう書き方をするしかないんでしょうけど。Google+を2019年に終了し、ソーシャルメディアからは身を引いたような状態になっていたのが、また興味を持ち始めたことを素直に喜ぶべきなのか。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 日が沈むのがずいぶん早くなりました。うちのあたりでは、いまはもう16時半くらいに日の入りです。昼の時間がいちばん短いのは冬至の日ですが、日の入りが最も早い時期はそれより少し前なんですね。最近まで気付いてませんでした。鈍い(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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