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2023年3月12日~18日は「GPT-4の衝撃」「AIに仕事は奪われる?」「アメリカでAI生成画像は著作権で保護されないと規定」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
鳥取県「有害図書」指定の理由を公表へ|鳥取県のニュース〈NHK(2023年3月14日)〉
記事に名前は出ていませんが、三才ブックスが抗議した件の影響でしょう。「すべての委員に意見を述べるよう求めたあと投票を行うとともに、その要旨を後日ホームページ上で公表すること」を決めたそうです。当時、おそらく今後の審査は慎重になるであろうと予想しましたが、プロセスもきっちり見直してきたことに。正直、予想以上でした。意義のある抗議でしたね。
文化審議会著作権分科会基本政策小委員会(第3回)〈文化庁(2023年3月17日)〉
今回は傍聴しなかったのですが、公開されている資料1「ニュースコンテンツ配信分野の実態調査について(公正取引委員会発表資料)」が気になりました。2021年2月に公表された「デジタル・プラットフォーム事業者の取引慣行等に関する実態調査(デジタル広告分野)」で指摘された課題が改善していないことから、昨年11月から再度実態調査が行われているそうです。基本政策小委員会ではいま「DX時代におけるクリエイターへの適切な対価還元方策」について話し合われているので、その絡みで行政委員会とも連携を図っているのでしょう。
資料に名前は挙げられていませんが、Googleやヤフーなどの巨大プラットフォームがターゲットになっているのは間違いありません。これまで行われてきた「Google ニュース ショーケース」による対価還元や「ヤフーニュース」の対価上乗せ施策などが、メディア側からはあまり評価されていないということなのでしょう。まだ調査結果は出ていませんが、今後どうなるかが気になります。
AI生成画像に著作権なし。米著作権局が通告「プロンプトは画家への注文のようなもの」人間の創造性の関与で判断〈テクノエッジ TechnoEdge(2023年3月17日)〉
官報に掲載されたガイダンス文書で、アメリカでAI生成画像は著作権で保護されないと新たに規定されているそうです。これ、日本でも同様の判断になると思われます。以前、専門家による解説記事に「実は著作権が発生しないAI生成物の方が少数なのかもしれません」という見解が示されていて、私はそれに疑義を呈したことがあります。
要するに、人間が人間に発注する場合と考え方は同じで、編集者がイラストレーターに依頼するときの指示は「創作的寄与」として認められるのか? と。「実は編集者からの指示で描かれたイラストは、編集者に著作権が発生しないケースの方が少数なのかもしれません」と言い替えてみると、ちょっとそれはあり得ないでしょという話になりそうです。
短文ではなく原作と言っていいレベルの指示であれば、創作的寄与と認められる可能性はあるでしょう。原作付きマンガは二次的著作物という判例もあります。ただ、AIで画像を生成する際の呪文(プロンプト)に「著作物」と言えるレベルの創作性があるか? というと、正直かなり疑問です。まあ、これは現状の画像生成AIの仕様上の問題かもしれませんが。
私も最近、オープンソースの画像生成AI「Stable Diffusion」で試行錯誤していますが、長い文章を入力すればイメージ通りの出力ができるというわけではないんですよね。文章ではなく、キーワードの集合体とか「ただのコマンド」みたいな状態のほうが良い結果に繋がる印象があります。「プロンプトエンジニア」なんて言葉も生まれてますが、確かにこれは、クリエイターというよりエンジニア(技術者)ですね。
社会
※デジタル出版論はしばらく不定期連載になります。ご了承ください。
学校だよりのイラスト、著作権侵害で賠償金 フリー素材と誤認、12万円支払う 山武市の中学校で〈千葉日報オンライン(2023年3月11日)〉
私は大学の授業で、「フリー 画像」みたいなキーワードで検索して出てきた画像をなにも考えずに使うと権利侵害になる可能性があるから、必ず利用規約を確認しましょうと指導しています。まさにそういうパターンで権利侵害になってしまったケースです。やらかしたのは学校職員の方とのことですから、教育課程に「情報」が組み込まれる前の世代かもしれませんね。
経済
Amazon、美容院にタブレットとdマガジンをセットで〈日本経済新聞(2023年3月13日)〉
端末とサービスのセットで5%割引に。「dマガジン」がアマゾン「Fireタブレット」に対応したのがちょうど1年前。当時、西田宗千佳氏にNTTドコモとブックウォーカーの関係者へのインタビュー記事を書いてもらいましたが、そのとき西田氏が「dマガジン for Biz」について尋ねていたのを思い出しました。電子雑誌全体では減少傾向で厳しい状況だが、for Bizの領域は微増である、と。端末とのセット販売により、さらにテコ入れしていくことになるのでしょう。
技術
「AIに仕事は奪われませんよ」から「今度は本当に奪われますよ」のヤバすぎる逆転…「第4次AIブームは《インターネットの発明》を超えるインパクトになる」と松尾豊さんが断言する理由(サイエンスZERO)〈現代ビジネス | 講談社(2023年3月13日)〉
これまで「AIに仕事は奪われませんよ」と言っていたAI研究者が、最近の技術の進歩を目の当たりにして「いやいや今度は本当に奪われますよ」と意見を変えたそうです。確かに、学び方(教え方)や働き方の大幅な見直しを余儀なくされそうで、社会にインターネットを超えるインパクトを与えることになるかも。
Microsoftエディターを使ってWordの文章を読みやすくしよう〈日経クロステック(xTECH)(2023年3月14日)〉
AIを使った文章校正機能「Microsoftエディター」の解説記事。恥ずかしながらこの機能の存在そのものを、私はこの記事で初めて認識しました。調べてみたら「Office 2016」のころから存在していたんですね。「Microsoft Edge」や「Google Chrome」で利用可能な拡張機能も、2020年には登場していたようです。
私は原稿をブラウザで「Googleドキュメント」を使って書いているので、「一太郎2023」が発表されたときに校正支援ツールのブラウザ拡張機能「JUSTチェッカー」に心を揺らしていたのですが、Microsoftがすでに3年前から提供していたのですね。うぐぅ。
ところがこの「Microsoftエディター」の拡張機能、試してみたらなんと「Googleドキュメント」には非対応。ま、マジですか……地味な嫌がらせだ。MicrosoftとGoogleのどちらが原因なんだろう?
Google、ジェネレーティブAIをGmailなどWorkspaceアプリに全面統合。自動で返信や議事録、プレゼン画像や音楽まで生成〈テクノエッジ TechnoEdge(2023年3月14日)〉
この発表、タイミングが「GPT-4」発表の直前で、意図的にぶつけてきた感があります。個人的には、「Microsoft Word」より「Googleドキュメント」、「Microsoft Excel」より「Googleスプレッドシート」、「Microsoft PowerPoint」より「Googleスライド」、「Microsoft Outlook」より「Gmail」のほうが圧倒的に使用頻度が高いため、ジェネレーティブAI機能の追加で作業効率が上がるのは大歓迎です。
ですが、世の中的にはMicrosoft製品が圧倒的に強いのと、「GPT-4」が発表と同時に「ChatGPT」有料版を契約していれば使えるようになったことのインパクトが大きく、Googleの発表はすっかり霞んでしまった感があります。Googleのほうはまだ、クローズドベータテストみたいな段階ですからね。今後に期待。
「GPT-4」発表 日本語でもChatGPT英語版より高性能、司法試験で上位10%、「この画像何が面白いの?」にも回答〈ITmedia NEWS(2023年3月15日)〉
そしてこの発表。AI技術の進歩は、とうとう画像の面白さについて解説できるレベルにまで達したようです。ついにここまできたか! と、うなりました。AIが画像について解説ができるとなると、ALTテキストを用意しなくても済むようになりそう? ただ、まだ画像入力機能は研究段階なので、いまのところは公開しないとのこと。残念。
で、この「GPT-4」は、前述のとおり「ChatGPT」の有料版である「ChatGPT Plus」(月額20ドル)を契約していれば、すぐに使える状態になっています。ところがこの「GPT-4」は、すでに「Bing Chat」で使われていたそうなんですね。
「新しいBing」のエンジン、実は「検索用にカスタマイズしたGPT-4」〈ITmedia NEWS(2023年3月15日)〉
GPT-3.5の「ChatGPT」と「Bing Chat」にまったく同じ指示をしてみたら、どちらも最初は指示の一部である「敬体ではなく常体で」を無視してきたのですが、「Bing Chat」は修正指示にちゃんと応えたのに対し、「ChatGPT」は無視したまま同じ回答を返してきた、という経験をしました。そのときは検索向けにかなりカスタマイズされているのかな? と思ったのですが、エンジンから違っていたとは。
なので、「ChatGPT Plus」を契約しようか少し迷ったのですが、すでに「Bing Chat」で「GPT-4」を体験できていることになるので、現時点での契約は見送りました。私はイノベーターではなく、せいぜいアーリーアダプターだなあ。さっそく使ってみて驚嘆した声と、予想は超えてこなかったという声を紹介しておきます。
ヒエッ! GPT-4がスゴすぎて、「AIで仕事がなくなる」不安がいよいよリアルに〈ITmedia NEWS(2023年3月16日)〉
やはり予想を超えてこなかったGPT-4と、GPUの未来、ホビイストへの手紙〈WirelessWire News(2023年3月16日)〉
AIチャット vs 校閲記者~人間校閲はAIに勝てるのか~〈毎日ことばplus(2023年3月15日)〉
こちらは毎日新聞の校閲記者の方が「ChatGPT」を試してみたレポート。やはり、ファクトチェックが弱い、という印象です。「AIは人間の校閲の仕事を奪いますか?」という質問には希望に満ちた回答が返ってきていますが、記事公開のタイミングからすると、まだこれはGPT-3.5の「ChatGPT」でしょう。発表されたばかりのGPT-4だとどうなるか。ただ、結局のところ「AIも間違える」という前提で、回答が正しいかどうかの検証作業は欠かせないかも。
AIフル活用の「Microsoft 365 Copilot」。文書もプレゼン作成もAIとの対話で完結〈PC Watch(2023年3月17日)〉
そしてもちろんMicrosoftもオフィスソフト系への搭載を発表。コパイロット(副操縦士)という名称が「機長はあなただ」というサービスの思想を示しているように感じました。しかし、こうやってMicrosoftとGoogleがガチンコでサービス競争をしてくれると、利用者としては恩恵が大きくなって良いですね。そんな呑気なこと言ってる場合ではないかもしれませんが。
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日刊出版ニュースまとめ
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雑記
確定申告は期限前日に無事終了。その過程で、Kindleダイレクトパブリッシングの管理画面をひさびさに開きました。すると、プライスマッチングで常時無料にしてある「Google+」のガイドブックが地味にダウンロードされ続けていて、思わず笑ってしまいました。「Google+」は2019年4月にサービス終了しているのですが、在りし日の姿を確認するといったニーズでもあるのでしょうか?(鷹野)
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