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2024年5月12日~18日は「プロ責法改め情プラ法成立」「カカオピッコマ欧州撤退」「GPT-4o」「Google I/O 2024」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
写真を反転した絵で展覧会に入賞した作品をめぐる裁判で二審は写真家勝訴の判決〈GIGAZINE(2024年5月11日)〉
いやあ、これは……いくらなんでも地裁判決が酷い。「(この写真の)ポーズに独創性がない」って、あらゆるポートレートの著作物性を否定するのと同義なわけですよね。こんな判決で決着してしまったら、ルクセンブルクの写真家やイラストレーターに多大な影響が出てしまうところでした。戦い抜いたことに経緯を表します。さすがにこの写真の著作物性の判断は、ベルヌ条約加盟国ならどこでもそれほど大差ないと思われます。ただ、まだ二審だというあたりに若干の不安が残りますが。
NHKのネット配信を「必須業務」に格上げ 放送法改正案が成立〈朝日新聞デジタル(2024年5月17日)〉
ついに成立。「スマホやパソコンなどを持つだけで契約を求めることはない」というNHKの言い分がどこまで信頼できるのか? などというNHK党みたいな批判がけっこう散見されます。まあ、私自身「スマホにワンセグ付いてますよね?」みたいな訪問営業を過去何度も受けてますので、いずれ覆すんじゃないか? という懸念が出るのは理解できますが。私、ワンセグ付きのスマホは買ったことないんですよね。
そんなことより、私がこのネット配信必須業務化に大きな関心を寄せていたのは「ウェブ記事はどうなるのか?」という点にありました。ただ、もう3月末の時点ですでに「政治マガジン」などは更新を停止し、「NHK NEWS Web」に統合済みです。4月以降は、放送素材をふんだんに使った特集記事が増えている印象があります。ヘタをすると、以前より記事のクオリティが上がっているかも。これが改正法施行後にまた大きく変わることは恐らくないのでは。日本新聞協会の圧力は、藪蛇だったんじゃないかなあ。
個人中傷やなりすまし広告、Xやメタに対応義務化 窓口設置など、改正法成立〈日本経済新聞(2024年5月11日)〉
プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)略して「プロ責法」が改正され、情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)略して「情プラ法」に題名変更されました。FacebookやX(旧Twitter)などでの誹謗中傷対策が中心だと思っていたのですが、有名人なりすましの詐欺広告への対策(肖像権侵害)も想定されているようです。
対象は、月間アクティブユーザーが一定以上のプラットフォーム(大規模特定電気通信役務提供者)です。削除対応の窓口や体制の整備、申請に対する迅速な対処、削除基準の策定と公表などが義務化され、1億円以下の罰則も課されることになりました。ちょっとやんちゃなアメリカ巨大IT企業も、こういう強制力を伴う法律にはわりと素直に従う印象があり、効果が期待されます。ただ、彼らは往々にして法の抜け道を探すのも上手かったりしますが。
細かな運用ルール策定はこれからです。プロバイダ責任制限法関連情報Webサイトにも既に、ガイドライン等の見直しについて言及があります。まずは「大規模」がどれくらいまでを対象とするのか? でしょう。条文は「総務省令で定める数」となっているので、総務省次第で影響範囲が大きく変わります。日経の記事では「ヤフーニュース(ヤフコメ)」が含まれる可能性も示唆されています。名前は挙がっていませんが、たとえばAmazonレビューあたりも対象になり得るんじゃないかしら?
社会
「入賞作品の著作権は主催者が取得」──生成AIアートコンテストが物議 ワコム協賛の記述も削除に【追記あり】〈ITmedia NEWS(2024年5月13日)〉
生成AIアートの文脈で炎上していますが、生成AIとは関係なく、受賞作品の著作権を主催者が取得する規定になっているコンテストはそれほど珍しくないという認識です。そもそも生成AIの出力が著作物として認められるのか? 利用者の創作的寄与を外形的に判断できるのか? という問題もありますが、それを考慮したうえでそういう規定にしたのだろうな、という想像はできます。
経済
【マンガ業界Newsまとめ】めちゃコミM&Aソニー勢他2社応札、オレンジAI翻訳約30億円調達、各社決算発表 など|5/12-152〈菊池健(2024年5月13日)〉
MANGA総研代表の菊池健氏による毎週恒例のマンガ業界ニュースまとめ。今回はとくに「めちゃコミ」と「KADOKAWAの決算」についてのコメントが鋭かったのでピックアップさせていただきました。私も「めちゃコミ」については前回取り上げていますが、「なんらかの思惑がある観測気球的記事」とまでは思い至らなかった。さすがです。
また、KADOKAWAについては、まだ決算資料に目を通せていない段階だったので「IP別の売上トップ10が面白い」という情報が助かりました。確かに、いままでこういう情報は出ていなかったですよね。確かに興味深い。と同時に、「無職転生」のアニメ収入がゼロなのはなぜだろう? という疑問も。「2024年3月期」の実績だから、「無職転生」アニメ第2期第1クール(2023年夏放映)は関係しているはずなのですが。
Kakao Piccoma to pull webtoon business in Europe(カカオピッコマ、ヨーロッパでのウェブトゥーン事業を撤退へ)〈Korea JoongAng Daily(2024年5月13日)〉
カカオ「ピッコマヨーロッパ」法人撤退 グローバル事業「多角化」において、 「選択と集中」に戦略旋回 競争激化する日本市場に全力〈MK(2024年5月12日)〉
先週、日本のマンガ関係者のあいだで大きな話題になっていた(と思われる)ニュース。私が最初に見つけたのは英語の記事ですが、あとから日本語の記事(しかも1日早い)も見つけたので合わせてピックアップしておきます。
これ、現地フランスでの報道がどうなっているか? が気になり調べてみた(Googleニュースをフランス語設定に変えて検索)ところ、約1カ月前の4月18日の時点ですでに“L’enfer pour le “paradis du manga” : quel avenir pour piccoma France ?(「マンガ天国」の地獄:ピッコマフランスの未来は?)”という記事が出ていたのを見つけました。あれまあ。
しかし、2022年3月のサービス開始から2年で撤退ですか……見切りが早い。正直、「じっくり育てる」という意識の薄い企業なのかなという印象を受けてしまいます。
講談社運営の電子書籍ストアがサービス終了、購入済み書籍はQUOカードで返金【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2024年5月15日)〉
講談社「じぶん書店」が終了です。コンテンツ配信システムはメディアドゥ、ビューアはセルシスが担当でした。2017年5月のサービス開始当初、私も少し使ってみた(未購入)のですがそのまま放置していました。自分で選んだ本を並べて書店にできる仕組みが、アフィリエイトと考えれば面白いかなと思ったのですが、個人的にそっち方面に力を入れる気にはなれず。しかし、昨年11月時点ですでに終了の告知が出ていたのですか……気づかなかったなあ。
LINEヤフー問題 韓日間の温度差はどこで生じているのか【寄稿】〈Chosun Online 朝鮮日報(2024年5月18日)〉
LINEヤフーに対する日本政府の資本関係見直し要請が韓国で反発を招いていたのですが、当の韓国からじつに真っ当な意見が出てきてちょっと驚きました。とくに以下の結びの部分は、私も同じことを思っていたので強く同意しました。
ネイバーはこの10年間、LINEが日本企業だと強調してきた。韓国人はLINEよりカカオトークをたくさん使うことは、日本人も知っている。今になって突然「LINEは韓国のものだ」と言いだせば、日本との協力の窓口を狭くする愚を犯すことになりかねない。ネイバーの賢明な判断を期待したい。
そうなんですよ。サービス開始当初から「NHN Japan傘下のネイバージャパンで企画・開発されたサービス」「韓国ネット企業の日本法人」だけど「日本で企画され、日本で作られた『純国産』」と喧伝されていました。当時の日経報道がしっかり残っていますが、これ日経が勝手に「純国産」とか「和製」と言っているわけではなく、LINE舛田氏へのインタビューでそのように語られていたわけですよね。
それが、LINEが上場した2016年ごろから急に「純国産」とか「和製」云々が否定され始めるようになり、当初と言ってることが違うではないかと強い違和感を覚えたのを覚えています。「言い出したのは誰か?」もなにも、LINEの人たち自身がそう言ってたはずなのでは。
「そこには『LINEが日本発のオリジナルアプリという”物語”』にとって、韓国という存在はできる限り消したほうが都合が良い、という経営判断があったからだ」
ここにあるように、経営判断で「存在をできる限り消し」ていたわけですよね。それが今では、こんなストーリーになっています。
韓国では既に「カカオトーク」というメッセンジャーアプリがあって市場を先取りしていたため、ネイバーは韓国市場をあきらめ、お隣の日本でサービスを展開せざるを得なくなったという経緯がある。「ネイバー」は日本法人を設立してアプリを開発、それにより現在のLINEが存在する。
まあ、そもそも、個人情報漏洩で総務省から指導されているのに、その原因であるNAVER Cloudのシステムをすぐには分離できないあたりを見るに、当初の「日本で企画され日本で作られた」というストーリーこそが眉唾だったのかな、とは思いますが。
日本アドバタイザーズ協会 ネット上の詐欺広告へ緊急提言 広告主は「安心・安全なメディアへの広告出稿を」〈The Bunka News デジタル(2024年5月18日)〉
名指しこそしていませんが、要するに「FacebookやInstagramへの広告出稿は避けましょう」という呼びかけです。以前、日刊まとめで「(Metaは対策を強化しないと)広告主が逃げますよ」と書きました(ネタが多かったので週刊には載せなかった)が、そのとおりになりましたね。
技術
OpenAI、「GPT-4o」発表 高速応答で音声・画像・テキスト対応〈Impress Watch(2024年5月14日)〉
音声での入出力速度の飛躍的向上や、画像の認識精度向上など、さらにパワーアップしているようです。「iPhoneに搭載されるかも」と噂されているのはこれかなあ。
【Google I/O2024】AIで「ググる」が変わる Google、音声から映像まで全方位〈日本経済新聞(2024年5月15日)〉
そしてほぼ同時に、Googleからも生成AI関連の新サービスがガンガン投入されています。こういうサービス競争は良いですね。超大手が後手に回って、どれもみな後追いになっている状況も良い。実に健全です。
Google 検索の「AI Overviews」について知っておくべきこと〈WIRED.jp(2024年5月18日)〉
そして、まだ日本ではSearch Labs(開発初期段階のテスト)の「SGE(Search Generative Experience)」が、アメリカでは「AI Overviews」と名前を変え正式に全ユーザーへの提供が開始されました。このWIREDの記事は「検索結果の信頼性の低下につながるかもしれない」と否定的です。個人的には、試験運用中のSGEを使ってますけど、以前からある「強調スニペット」と大差ないのでは? という印象です。
アップル、「iPhoneのタッチ決済」を日本で開始 スマホが店の決済端末に〈Impress Watch(2024年5月16日)〉
ユーザーが使う仕組みではなく、タイトルにもあるように「スマホが店の決済端末に」できる仕組みの提供です。たとえば「Square POSレジ」にはカード読み取り専用端末「Squareリーダー」が存在しますが、そういう機器がなくても、iPhoneでタッチ決済できるようになります。
HON.jpは、コロナ前にはリアルイベントの開催時に「Square POSレジ」と「Squareリーダー」を使って本の販売をしていましたが、イヤホンジャックが必要なのと、給電が必要(micro-BのUSBコネクタがある)なのが面倒なんですよね。タッチ決済への対応はありがたい。今後、同人誌即売会などでも使われるケースが増えそうです。
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雑記
春学期は金曜日に2コマ授業を担当しているのですが、どっと疲れてしまい土曜日は頭も体も使いものにならなくなってしまっています。うーん、困った。(鷹野)
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