「マンガ市場過去最大に」「マス4媒体広告費にネット肉薄」「中国民法典」「Twitter有償サービス追加予定」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #462(2021年2月21日~27日)

週刊出版ニュースまとめ&コラム

《この記事は約 13 分で読めます》

 2021年2月21日~27日は「マンガ市場過去最大に」「マス4媒体広告費にネット肉薄」「中国民法典」「Twitter有償サービス追加予定」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

私権の保障を規範化した中国民法典(前編)――施行までの道のりとその意義〈HON.jp News Blog(2021年2月22日)〉

 中国で今年から施行された民法典は、メディア企業にどのような影響を与えるのでしょうか? おなじみ、北京大学・馬場公彦氏によるレポートです。前中後編でお届けします。[1]本稿執筆にあたって、民法典条文は『中華人民共和国民法典』(中国民主法制出版社・2020年)に依拠し、条文の引用に当たっては、小田美佐子・朱曄「中華人民共和国民法典」『立命館法学』390・391号、2020年の邦訳に依拠した。民法典全般の関連書と...

私権の保障を規範化した中国民法典(中編)――人格権 新設の背景とその中身〈HON.jp News Blog(2021年2月23日)〉

 中国民法典に新設された「人格権」とはどのようなものなのか? おなじみ北京大学・馬場公彦氏によるレポート中編です。前編はこちら独立して設けられた人格権 今回民法典全7編のうち独立の1編が設けられた全50条からなる人格権については、全く新たに法制化されたこともあり、その内容や運用について、中国内外の関心は高い。とりわけ日系の中国現地法人企業や、中国企業と取引のある日本企業は、たとえば従業員に対するハラ...

私権の保障を規範化した中国民法典(後編)――迫られるメディア界の対応〈HON.jp News Blog(2021年2月24日)〉

 中国民法典の人格権・契約・権利侵害といった条項は、メディア企業にどのような影響があるのか? おなじみ北京大学・馬場公彦氏によるレポート後編です。前編はこちら。中編はこちら。知財権と出版契約 著者と出版社は出版契約によってつながり、出版契約によって出版社は著作物の出版権を専有する。民法典の第3編契約は第463条から第988条まで、実に526条に及び、全条文の半分以上を占める膨大な体系である。とはいえ現行法...

 毎月おなじみ、北京大学・馬場公彦さんのコラム。今回は、2021年1月1日から施行された中国民法典について。中国の著者やメディア企業と取引している方や、これから取引を始める方は要注意、という解説です。私は、恥ずかしながら中国で民法典が制定されたこと自体を知らなかったんですが、調べてみたら「離婚申請にクーリングオフ」みたいな報道が数件見つかる程度でした。人格権とか契約のルールとか、いろいろ気をつけるべき点があるようですよ。

仏独禁法当局、米グーグルが命令違反と指摘 メディアとの協議で〈ロイター(2021年2月24日)〉

 フランスの報道各社が「Google News Showcase」の有償提供で合意という発表が1月にありましたが、Googleが政府の命令を遵守していないという指摘を受けているそうです。Googleがしたたかなのか、当局が必要以上に厳しいのか。このあたりの動向、油断も隙もない感じです。

Facebook 、豪でニュースを再開へ(だが、詳細は不透明) : 要点まとめ〈DIGIDAY[日本版](2021年2月26日)〉

豪政府は2月23日、2月中にも議会を通過する予定の法案に変更を加えたことを明らかにした。この変更は、ニュースメディアのコンテンツに対価を支払うことをFacebookに義務付けるものだが、同社にとって有利とみられる条件が盛り込まれたこともあり、Facebookはニュース記事の掲載を再開すると発表した。

 オーストラリアの法規制も、条文を修正する・しないという情報が錯綜していましたが、結局修正案が可決されることに。先週、Facebookがニュースフィードからオーストラリアのメディアを締め出して大騒ぎになっていましたが、修正されたため復活したそうです。前述のGoogleもそうですけど、ずいぶん荒っぽい駆け引きをなさる。

社会

教育IT「GIGAスクール」の“実質勝者”Googleの衝撃データ……「対象自治体の半数を獲得」はなぜできた?〈Business Insider Japan(2021年2月18日)〉

日本の教育機関をめぐる「教育IT国取り合戦」の“勝者”がグーグルであることが現実味を帯びてきた。グーグルは2月18日未明(日本時間)にオンラインイ...

 Googleによる発表。いままで国内ではMicrosoftの圧勝でしたが、これで一気に勢力図が変わったことになります。残りも、iPadの割合のほうが多いんじゃないかしら。ちなみにタイトルにある「なぜ」は記事内に書かれておらず、拍子抜けしました。

 個人的には、2020年の年始動向予想で「実用性を考えると恐らくアメリカと同様にChromebookが採用される可能性が高いものと思われます」と書いた通りになったなあと(↓)。あまり驚きはありません。

 新年あけましておめでとうございます。 2020年も HON.jp News Blog をどうぞよろしくお願いいたします。 毎年恒例、編集長 鷹野凌による出版関連の動向予想です。2019年の予想と検証 2019年正月の予想は以下の5つ。自己採点の結果を右端に付けておきました。メディア自体の信頼度がより一層問われるようになる → ○既刊も含めた書籍の電子化率が高まる → △マンガ表現の多様化が進む → ×学校や図書館向けの電書供給が本格化 ...

 クラウドサービスの乗り換えはかなり面倒なので、この割合でしばらく固定化されるだろう、というのは、元記事筆者のおっしゃる通り。スイッチングコストが高いというやつです。結果、どうなるか? うーん、複雑怪奇なWordより、シンプルなGoogleドキュメントのほうが、構造化された文書を書ける子に育ちそうな気がします。もちろん、教え方次第ではありますが。

震災の記録445万件収集 国会図書館8年で倍増〈共同通信(2021年2月22日)〉

 東日本大震災からもうすぐ10年。国立国会図書館による震災記録のデジタルアーカイブ「ひなぎく」の現状について発表がありました。教訓を後世に伝える、意義深い国家事業です。記憶は薄れるけど、記録は残る。

本の背表紙画像をAIが解析する「AI蔵書点検サポートサービス」が提供開始〈Digital Shift Times(2021年2月25日)〉

京セラコミュニケーションシステム株式会社(以下、KCCS)は、本の背表紙画像をAIで解析して蔵書点検の効率化を支援するAI蔵書点検サポートサービス「SHELF EYE(シェルフアイ)」を2021年2月25日から提供開始すると発表した。

 京セラコミュニケーションシステムが、図書館の蔵書点検業務に使うことを想定したシステム「SHELF EYE(シェルフアイ)」を提供開始。棚に並んでいる蔵書をタブレットで撮るとAIが自動解析して本を特定。所在不明の書誌リストを作成したり、貸出頻度の低い本を書架から外したりといった業務に活用できるそうです。図書館蔵書の背表紙には書籍用背ラベルが貼られているはずですが、それを織り込んだ上で解析できるってことですよね。面白い。

ネット広告費がマス4媒体に並ぶ 2020年の広告費、コロナ禍の影響受け二ケタ減〈AdverTimes(2021年2月25日)〉

電通が2月25日に発表した「日本の広告費」によると、2020年の国内広告市場(推計)は前年比88.8%の6兆1594億円と大幅に落ち込んだ。

 毎年恒例、電通「日本の広告費」が発表されました。マス4媒体が前年比86.4%と落ち込んだのに対し、インターネット広告費は同105.9%と成長を続けた結果、246億円差まで迫っています。とくに雑誌広告費は同73.0%と激減。2005年に対象誌を増やして4842億円と推定したのがピークで、2020年はとうとう1223億円に。15年間で4分の1になってしまいました。ぎゃーっ。

 また、私は雑誌デジタルはもっと伸びるだろうと思っていたんですが、前年比は鈍化という結果に(120.2%→110.1%)。まあ、インターネット広告費全体の成長率よりは高いので、鈍化はコロナ禍のせいかもしれませんが。

日本電子出版協会(JEPA)、小中学校への電子図書館サービス提供に関する緊急提言を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年2月25日)〉

 JEPAから「今こそ国は学校電子図書館の準備を!」という緊急提言が出ています。「全ての小中学校に5万点の読み放題電子図書館サービス提供」「利用料は全額国の負担」の2つ。ちなみに昨年11月の図書館総合展でも同様の緊急提言が行われていますが(↓)、比べてみたら答申の委員会設置が削られていることに気がつきました。おや?

提言1.国は1人1台の端末環境整備に合わせて直接、全国一律、全ての小中学校に5万点の読み放題の電子図書館サービスを提供する。2.サービス利用料は、全額 国の負担とする。3.国は、学校電子図書館の機能と学校司書の支援策を答申する委員会を設置する。今まで文部科学省は学校図書館図書標準を示して、各自治体の...

経済

コロナ時代の読書スタイルに?…人気広がる要約サービスとオーディオブック〈産経ニュース(2021年2月22日)〉

 新型コロナウイルスの影響で在宅勤務など家で過ごす時間が増える中、本の要約や耳で読むサービスなど、新しい読書スタイルが広がってきた。隙間時間を利用できる上に、活…

 記事に取り上げられている中で、要約サービスの「SERENDIP(セレンディップ)」は知らないなあ……と思っていたら、個人ブログ時代の2014年にピックアップしてました(↓)。すっかり忘れてましたよ。トホホ。

毎週月曜恒例。出版業界関連の先週のニュースで、ボクが気になったものにコメントをつけてまとめていきます。電子出版界隈が中心です。先週は「Kindle新端末登場」「Kindleのブラウザビューワ登場」などが話題になっていました。

 2012年くらいに、某著名な方が無断で要約サービスを始めて問題視された騒ぎが印象に残っていて、でもこのサービスは「※ダイジェストは出版社または著者の許諾を得て作成、配信しております。」と書いてあった(↓)ので、ちゃんとしてるなあと思った記憶が蘇ってきました。というか、ブログに書いてありました。記憶は薄れるけど、記録は残るんです!

 でも、いま「SERENDIP」のサイトを見ても、この記述が見つからない……勘違いする人が出るとアレなんで、ちゃんと明記しておいたほうが良いように思うのですが。

「○○殺人事件」がクレカ決済NGに? 大手クレカ会社から通達との噂にユーザー反発【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2021年2月22日)〉

 「○○殺人事件」といったタイトルの書籍について、クレジットカード決算がNGになるかもしれないという不穏な噂が、Twitterで拡散している。

 こういう動きは、2006年に金融業界などが「児童ポルノの撲滅」という目的で団体を結成したことが発端だったようです(↓)。それがだんだん問題視する領域を広げてきて、こんどは「殺人」というワードにも難色を示すようになった模様。

 金融業界とインターネット業界から18社が集まり,児童ポルノの撲滅を目指す団体「Financial Coalition Against Child Pornography」を結成した。国際社会福祉組織のICMECが米国時間3月16日に発表した。同団体は,2008年までに児童ポルノ撲滅の実現を目指す。

 反響で「カード会社は決済商品の名前を把握できないのでガセ」といった声も見かけましたが、決済のタイミングで判定しているはずもなく。誰でも見られるラインアップの時点で「こういう商品は困ります」と圧がかかる、という話です。しかも、基準が不明瞭で、相手を選んでいるっぽい。

 政府による表現規制とはレベルが若干異なり、法人には経済活動の自由、契約締結の自由があります。そのいっぽうで、社会インフラに近い企業に求められる役割と責任、というのもあるでしょう。そのバランス、という問題なのかな、と。いずれにしても、基準が明確じゃないと困っちゃいますよね。

伸びる電子書籍、恩恵は大手に集中? 進まぬ人文・専門書、「出版文化の多様性」は道半ば〈朝日新聞デジタル(2021年2月23日)〉

 大手を中心に電子書籍の伸長が著しく、出版のビジネスモデルが目に見えて変わってきた。講談社は通期決算で、電子書籍に権利ビジネスを加えた売り上げが紙の出版物を初めて上回った。KADOKAWAも、紙に電子…

 言い回しがいろいろ微妙で、無駄に分断を煽っているように感じてしまう記事。たとえば「恩恵は漫画のラインアップが豊富な大手に集中しているという指摘もある」とありますが、恩恵は「大手」に限った話ではありません。スクウェア・エニックスとか、スターツ出版とか、アルファポリスあたりも好決算なわけで。「指摘もある」ではなく事実を見ろ、と言いたい。

 あとは、見出しの「出版文化の多様性は道半ば」というのも微妙。多様性はすでにあります。でも、雑誌市場の落ち込みにより取次・書店流通が危機的状況に陥り、結果、書籍市場にも致命傷を与えかねない(結果、多様性が損なわれる)ので、少量生産の出版物は早くデジタル(POD含む)へ移行したほうがいい、という話なら理解できるのですが。

評価の高いノンフィクションが読めるサブスク型の新サービス「SlowNews」提供開始〈BOOKウォッチ(2021年2月24日)〉

スマートニュース株式会社の子会社であるスローニュース株式会社(東京都渋谷区、代表取締役:瀬尾傑)は2...

 スマートニュースが2019年に設立したスローニュースが、ついにサービス展開を開始。骨太ノンフィクションの新原稿と、既刊の電子版が100点くらい読み放題になっています。月額1650円(税込)と少々値が張りますが、調査報道に取り組むジャーナリストへ取材費用の支援などを行うと明言していますし、月に単行本1冊分程度と思えば……と、申し込んでみました。基本横書きですが、任意で縦書きにも変更できるというのが面白い。ビューアは独自開発だそうです。

Twitter、クリエイターに金銭を支援できる「SUPER FOLLOWS(スーパーフォロー)」発表 支援者向け特典機能も実装〈ねとらぼ(2021年2月26日)〉

 そうきたか。「note」の定期購読マガジンとかサークルに近い感じでしょうか。今年中にサービス開始予定とのことです。最初からペイウォールがある前提のサービスとは異なり、基本無料のオープンな形で普及したサービスにこういう仕組みが導入されると、生態系にどういう変化が起きるのかが気になります。現時点の反響を見ていると、反発や危惧する声のほうが目立つ感じがします。

2020年コミック市場は紙+電子で6126億円、前年比23.0%増と2年連続急成長で過去最大規模に ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2021年2月26日)〉

 公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所は2月25日、2020年のコミック市場(紙と電子合計)が推計6126億円と、1978年の統計開始以来過去最大の市場規模になったことを発表した。2017年は前年比2.8%減、2018年は1.9%増だったが、2019年は12.8%増、2020年はコロナ禍による巣ごもり需要もあり23.0%と2年連続で急成長している。 紙のコミックス(単行本)は、社会現象化した『鬼滅の刃』のヒットなどにより大幅プラス成長...

 1990年代後半を上回る市場規模まで一気に拡大。すごい伸びです。グラフにすると、インパクトが大きい。こうやって過去からの推移を見ると、紙のコミックス(単行本)については比較的堅調で、コミック誌が壊滅的だというのがよくわかります。新作マンガの認知媒体は、ウェブまたはアプリにすっかり移行しちゃいましたね。

ブロードキャスティング

 毎週ライブ配信している映像番組、2月28日のゲストは竹田信弥さん(書店主 / 双子のライオン堂)西島大介さん(漫画家)でした。番組のアーカイブはこちら。

 次回のゲストは吉川浩満さん(文筆家・編集者)です。配信終了後はZoom交流会もあります。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。

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CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。

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著者について

About 鷹野凌 727 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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