「インターネット広告の闇にメス」「EPUBビューアの対応状況検証最新版」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #617(2024年4月21日~27日)

三省堂書店 有楽町店
三省堂書店 有楽町店

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 2024年4月21日~27日は「インターネット広告の闇にメス」「EPUBビューアの対応状況検証最新版」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

広がるSNS上の「詐欺広告」被害、前澤友作氏は警察に対応要請 事業者側の責任どうなる?〈弁護士ドットコム(2024年4月22日)〉

 HON.jp News BlogのFacebookページでこの記事をシェアしたら、Metaにコミュニティ規定違反と判定され投稿が削除されました。いちおう審査をリクエストしましたが、いまのところ音沙汰ありません。恐らく機械による誤判定なんでしょうけど、なぜそうなったのかはおおよそ予想がつきます。この記事のアイキャッチが、詐欺広告で頻繁に用いられている画像を含んでいるからでしょう。

「コンテンツが削除されました
この措置が取られた理由
あなたは人をだまして人からお金や所有物、法的権利を奪ったようです。」
と書かれている。

 まあ、画像だけ機械的にチェックして判定したら、そうなっても不思議ではありません。でもそれでは、詐欺広告について報道しづらくなってしまうなあ……と思っていたら、弁護士ドットコムニュースの公式Facebookページの投稿は、ふつうに掲載されたままでした。理不尽。なぜだろう?

生成AIと知的財産権の両立へ 内閣府の検討会が中間とりまとめ案〈朝日新聞デジタル(2024年4月22日)〉

 なんか、しれっと「しかし、許諾なく利用されることについて、クリエーターらから懸念の声が上がり」などと書いてありますが、日本新聞協会も声を上げてますよね? クリエイターを盾にし、自分たちは「ら」扱いで身を潜める気でしょうか? まあ、いつもの新聞しぐさといえばそうなんですが。

<主張>減る書店 抜本的な支援体制整えよ 社説〈産経ニュース(2024年4月24日)〉

 政府の書店支援についての社説です。薄いことしか主張していません。実はこれ、他紙の社説も似たり寄ったり。スルーしようかと思ったのですが、最後にこんな一文が。

「本は著者がとても苦労して身に付けたことを、たやすく手に入れさせてくれる」とソクラテスも言っている。

 私の知っているソクラテスは、書き言葉は話し言葉に劣ると考え著述を一切残していないはず。つまり、ソクラテスは本を否定していたはずなのですよね。偽名言のにおいがします。改めて調べてみたところ、こちらのサイトに検証記事がありました。アメリカで19世紀に出た本が元凶らしい、というところまでは遡れるようです。

 また、偽名言に詳しい堀正岳氏に尋ねてみたところ、日本でこの偽名言が拡散された元凶は、出版科学研究所「本や読書にまつわる格言・名言」である可能性が発覚しました。この記事を出典として、さらに偽名言集が増殖しているのだとか。ぎゃーす。

 ちなみに、レファレンス協同データベースでも、ナポレオン・ボナパルトの名言とされている「読書家の一族は、世界を動かす者たちなのだ。」という言葉の出典についての回答を見つけました。質問者の情報源は、前述の出版科学研究所のページです。

 回答者の豊中市立図書館が出版科学研究所に尋ねたところ、出典は「LIVE THE WAY」と「ウェブ石碑」という運営者情報がほぼ皆無の謎の名言集サイトであることが判明しています。そしてその謎の名言集サイトには、出典が記されていなかったというオチ。

 つまり、真偽不確かなネット情報に権威性のある機関がお墨付きを与えてしまったという、いわゆる「ソースロンダリング」になってしまっているのです。あまりよろしくないですねこれは。

社会

“消えない広告” ×マークが押せません!? 「ダークパターン」世界で問題に|デジタルでだまされない〈NHK(2024年4月20日)〉

 記事で紹介されているのと近似のダークパターンとして、私は「どの×マークが正解かわからない」広告に遭遇したことがあります。間違った×マークを押すと、広告が開いてしまうという極悪なやつです。スクリーンショットが残っていました。×マークが3つある! 広告を閉じる正解はどれでしょう?

「東芝デジタルソ……」のバナー広告に×マークが3つある

 正解は、右上の○に×でした。左側の四角い白に青の×と、右側下の四角い黒に白の×は、広告に付随するただの模様でした。つまり、×マークっぽく見える図をクリックしても、この広告(東芝デジタルソ…)のページが開くだけ。さすがにこういう×マークの偽装は罪深い。信頼性が地に落ちます。

 また、この広告には右下に「AdChoiceアイコン」が付いていますが、このリンク先には違反広告の通報メニューが存在しません。ユーザーのプライバシー設定が変更できるだけ。こういうのけっこう多いんですが、どうしてくれるのがいいんだろう? スクショして消費者庁へ通報?

 あと、クリック報酬型だとこういうふうに「ユーザーを騙してでもなんでもクリックさせればいい」方向へ傾きがちですが、インプレッション型だとこんどは「炎上してでもなんでもインプレッションさえ稼げればいい」方向に傾きがちで、どっちも地獄なのですよね。嫌になる。

追跡!フェイク SNS広告の闇 ~なぜだまされる投資詐欺 偽の広告で被害拡大~プラットフォーマーの責任は?|WEB特集|フェイク対策〈NHK(2024年4月24日)〉

 最近話題の詐欺広告を、NHKがクローズアップ現代でどーんと特集。なんとMeta副社長にもインタビューしています。「私たちは、人の力を使って、広告を審査していますが、必ずしも詐欺を見抜けるわけではないのです」などとぬかしておりますが、「嘘だッ!」と言いたい。

 また、ヤフーやGoogleなど他のプラットフォームでは透明化レポートを定期的に公開していますから、「なりすましや詐欺広告の具体的な削除の数」を明かしていないMetaは格段に不誠実であると言っていいでしょう。JICDAQの品質認証事業者にはFacebook Japanが載っていますが、こんな状態のプラットフォームへ広告を出したらブランドセーフティが確保できなくなりそう。

facebookで「詐欺広告」が放置され続ける真因 SNS企業の「責任」に関する法律が免罪符に? | インターネット〈東洋経済オンライン(2024年4月26日)〉

 しかし、私もちょっと認識が甘かった。アメリカの通信品位法第230条は広告も免責の対象になるそうです。ユーザー投稿と広告を区別せず、どちらも「第三者コンテンツの公開」とみなされるとか。マジか。

 さすがにそれは法の抜け道が大きすぎるのでは。だからこそ、230条の免責制限って議論が起きていたのでしょうけど。結局、法案も提出されたけど、改正には至っていないのですよね。

「あれ?このグラフ」著書に「無断転載」されたとXで訴え 扶桑社側は「編集部の不手際」と謝罪も「納得いかない」〈J-CAST ニュース(2024年4月26日)〉

 一般的に、グラフは創作的表現と認定されづらいと私は認識しています。ところがこの記事によると「グラフ使用料の相場は20~30万円」と答えた弁護士がいるとのこと。本気かなあ。無断転載の是非はともかく(もちろん扶桑社の編集担当は強く反省すべき)、裁判で正面から争ったら無断転載された側が負けそうな気がします。

 ちなみに、HON.jp News Blogで公開している私が作ったグラフは、わりと広範囲に無断転載されていることを把握しています。それはそれでぜんぜん構わないと思っていたのですが、縮小画像で数字が読みづらいとか、Googleスプレッドシートの埋め込みグラフ(数字が重なって読めない)のスクショが利用されてたりして、それはそれでどうかと思っていたんですよね。

 そこで、数年分の過去記事を遡って更新し「オリジナルサイズの画像はこちら(ご自由にどうぞお使いください)」と明示するようにしました。その代わりと言ってはなんですが、グラフの端にHON.jpのロゴを入れました。

 これで、転載されるほどHON.jpの宣伝になります。さあ、どんどん転載してください!

経済

「書店の店主になりたい!」人を支援するシェア型書店「ほんまる」〈日経ビジネス電子版(2024年4月24日)〉

 作家・今村翔吾氏が4月27日に始めたシェア型書店、オープン前からいろいろ話題になっていました。広報がうまい。この記事でちょっと「おっ?」と思ったのが、今村氏が「(棚主が)普通に新刊を仕入れることもできます」と言っている点。その後の質問と回答からすると、返品も可能みたいなのですよね。

 これ、先行事例の「PASSAGE by ALL REVIEWS」はどうなんだろう? と思い調べてみたら、「新刊を注文したが売れない場合、自分が買い取ることになる」と明記されていました。棚主の責任で買切の仕入れをする、ということなのですね。これは棚主のリスクが大きい。

 しかし、返品可能な新刊仕入れがシェア型書店でできるとなると、そのリスクは出版社持ちになるわけで。無責任な棚主による無謀な仕入れ、みたいな事案が起きないかちょっと心配になりました。まあ、棚スペースの限界でそれほど大量な仕入れはできないでしょうから、実際にそういう事案が起きたときに対策を考えるというスタンスでも良いとは思いますが。

出版された本の90%は2000部未満・50%は12部未満しか売れていないことが裁判記録から判明〈GIGAZINE(2024年4月24日)〉

 さすがに新刊で50%が12部未満はあり得ないと思い調べてみました。すると、裁判が進行していた2022年の時点ですでに否定する意見が出ていました。コメント欄には、実売データを持っているNPD BookScanのアナリストが降臨しています。

 どうやらこれは、新刊(フロントリスト)だけでなく、既刊(バックリスト)まで含めたデータを参照しているようです。要するに、長期在庫まで含めた全ラインアップのうち半分は、1年間の販売数が12部未満、という話です。それなら納得できます。生鮮食品とは違い、本は長期間在庫できますからね。

技術

各社のEPUBリーダーは、現行CSS仕様やアクセシビリティをどれだけサポートしているのか?〈日本電子出版協会(2024年4月24日)〉

 かなりの労力がかかっている、素晴らしい調査です。ありがとうございます。この結果を以てビューアの開発会社にプレッシャーをかけるのは、出版社団体の役目でしょう。適任なのは、電書連(旧電書協&デジコミ協)でしょうね。よろしくお願いいたします。

 しかし、サイドロードと実際に販売してみたときの結果が違うのもひどいけど、そもそもサイドロードができなければ第三者が検証できないあたりも問題なのですよね。取次を通じて流してみて初めてエラーが分かるというのは、相互に余計な負荷がかかるという意味で、あまりよろしくないように思います。

Accessible EPUB from InDesign(InDesignからアクセシブルなEPUB)〈International Publishers Association(2024年4月25日)〉

 国際出版連合(IPA)のEPUBワーキンググループが、InDesignのEPUB書き出しの問題(主にアクセシビリティ関連)修正をAdobeに働きかけ、Version 19.4で大幅な更新が行われたそうです。つい先日更新されたばかりの最新版ですね。Creative Cloudで詳細を確認したら、以下のような記述がありました。

(略)書き出されたEPUBファイルのアクセシビリティの強化が可能になりました。

Adobe Creative Cloud Desktopアプリの、InDesign v19.4の更新情報

 技術的な詳細は、こちらの記事を参照とのこと。ざっと確認しましたが、個人的に気になったのは「Another significant enhancement in InDesign 19.4 is the introduction of page navigation in reflowable EPUB exports.(InDesign 19.4のもう1つの重要な機能強化は、リフロー可能なEPUBエクスポートでのページナビゲーションの導入です)」という記述。

 つまりこれは、InDesignで制作した紙の本のページ番号が、EPUBへ比較的容易に埋め込みできるようになる、ということでしょう。ただし実際にこれで、電書協ガイドに準拠した販売可能なEPUBが出力できるかどうかは、検証が必要でしょうけど。

 また、前述のJEPAセミナー「EPUBリーダー表示テスト」(3-2.実ページ番号表示テスト)によると、現状で対応しているビューアはApple BooksとMurasakiだけという有様です(※BiBiも対応しているはずだが検証対象になっていない)。つまり、実ページ番号入りのEPUBを作っても、大半のストアでは表示できないのが現状です。ただ、こうやって制作ツール側での対応が進めば、ビューア側での対応も迫られることになるでしょう。

 恐らく今後、出版社側から「え? せっかくEPUBに実ページ番号を埋め込んだのに、なんでビューアで表示できないの?」という圧がかかるようになるはず。紙と同じようにページ番号で参照できるようになることは、アクセシビリティ対応だけでなく、一般ユーザーの利便性も高まること。早期に対応して欲しいところです。

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雑記

 先週、ここで「1年のなかでいまがいちばん過ごしやすい季節」と書いたばかりなのですが、本稿執筆日の最高気温は29度。30度超えの真夏日を観測した地域もあるそうです。まだ4月なのに、もうエアコンのお世話になるとは。熱中症になるよりマシですが。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 796 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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