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2021年3月7日~13日は「コミケ再延期」「1日早く全部読める週刊文春 電子版」「国立国会図書館デジタル資料長期保存基本計画策定」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
政治
GAFAの天敵が「反独占」の棍棒を手に政権入りする〈新聞紙学的(2021年3月8日)〉
先週ピックアップした、アメリカのバイデン新政権人事についての解説。ホワイトハウス入りするのは、「ネットワーク中立性の父」と呼ばれている方なのですね。NYTに昨年「Google, You Can’t Buy Your Way Out of This(グーグルよ、金の力ではここからは逃げられない)」というコラムを寄稿している(↓)そうで、まだ提訴されていないアマゾン・アップルももちろん標的だ、と。これからいろいろ動きがありそうです。要注視。
IT交渉、報道機関が共同で 米法案、広告収入巡り〈共同通信(2021年3月11日)〉
米MS、記事使用料交渉を支持 「新聞が文明守る」と社長表明〈共同通信(2021年3月13日)〉
関連する話題なので2本まとめて。GoogleやFacebookなどのIT大手と報道機関が共同で料金交渉できるようにする法案を、アメリカの超党派議員が提出。その公聴会にMicrosoftの社長が呼ばれ、支持する考えを表明したというニュース。Microsoftの事業には直接影響しない(というかライバルの足を引っ張れる)ことから、報道機関側の後ろ盾になっているという、いかにも「政治」的な動きであります。
国立国会図書館(NDL)、「国立国会図書館デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025」を策定〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年3月10日)〉
国立国会図書館の納本制度は紙の本だけでなく、CDやDVDなどのパッケージ系電子出版物や、インターネット資料(ウェブサイト)、オンライン資料(いわゆる電子書籍)、紙をデジタル化した資料なども対象になっています。長期間保存したうえで、利用を保証する必要もあるわけです。
基本方針ではまず、物理劣化や再生環境の陳腐化が問題となるパッケージ系電子出版物の、媒体変換やファイルフォーマット変換(マイグレーション)から実施していくとあります。最近ときどき、初期の音楽CDが再生できなくなってる問題を見かけることがありますが、そうなる前に対策しておこうというわけです。
以前、イギリスの公文書館がマイグレーションする際に「データが変更されていない」ことを証明する必要があることから、ブロックチェーンの研究プロジェクトを始めたというニュース(↓)を思い出しました。国立国会図書館も、ここまで踏み込んで欲しいなあ……。
令和2年度第4回納本制度審議会オンライン資料の補償に関する小委員会議事要録〈国立国会図書館―National Diet Library(2021年3月11日)〉
納本制度審議会のオンライン資料の補償に関する小委員会から、新しい議事要録が公開されました。現在例外的に収集対象外となっている「有償」または「DRM有」の「電子書籍」について、報告書の草案に基づく議論が行われたというもの。
日本電子書籍出版社協会(電書協)が5年間も実証実験を行ったうえに「機関リポジトリなら収集対象外になる」ことを逆手にとった提案をしてきたことに対し、引き続き議論が行われています。どうやらいろいろ条件付きではあるものの、認める方向になっているようです。うーむ。
社会
ネットの歴史25年分が無料で読める「インターネット白書ARCHIVES」で25年前を振り返る〈ハーバー・ビジネス・オンライン(2021年3月7日)〉
誰でも無料閲覧できる形で公開されている「インターネット白書」のバックナンバーで、インターネットの歴史を振り返ってみようという企画。最初の版は1996年発行なので、内容的にはその前年の1995年。Windows 95が発売された年で、私がインターネットを始めた年でもあります。日本のインターネット人口は、当時まだ125万人程度だったんですね。25年間の変化は凄まじいものがある。
編集者、校閲者なしで書くことの恐怖。ライターとしてメディアの無個性化に抗う〈QJWeb クイック・ジャパン ウェブ(2021年3月8日)〉
昨年、複数回の炎上問題を起こした「cakes」で、開設当初から連載しているライターの近藤正高さんが、ライター志望者が「note」で世に出ることの難しさについて語っています。自分には編集者が必要だった、と。これは特定のプラットフォーム特有の話というより、デジタル・ネットワーク化により著者が読者へ直接作品を届けられるようになった状況全般に関わる話でしょう。
著者が読者へ直接作品を届けられる状況には、当然ながらメリットもあればデメリットもあります。私も「日本独立作家同盟」を立ち上げる前から今日に至るまでずっと、いろいろ頭を悩ませ続けています――と書き始めて、メルマガに短く書くような話題じゃないなと手を止めました。本が1冊書けそうだ。
コミックマーケット99の開催延期について〈コミックマーケット準備会(2021年3月8日)〉
5月に開催予定だったコミケが冬への延期へ。緊急事態宣言が3月21日に解除されたとしても、収容人数を1万人を上限とする経過措置期間が残る可能性が高いこと。直前に開催を断念すると参加者や関係者への影響が大きくなることから、サークル当落公開前に決断することになったとのことです。この状況下では致し方ない。
20周年ウィキペディアは高評価、でも編集ボランティアは人手不足〈ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト(2021年3月8日)〉
編集ボランティア不足の要因として、編集ルールに精通する必要があることと、編集者を標的とした嫌がらせの問題などが挙げられています。私も、ウィキペディア・タウンに参加しアカウントを作ってからは、誤字脱字やリンク切れの修正、写真のアップロード程度は貢献しています。ただ、がっつり記事を書くことには二の足を踏んでいるのが現状。そっちへ割くリソースが無い、というのが最大の要因ではありますが。
経済
ジャパンコンテンツの海外展開を模索するMyAnimeListが描く未来図【IMART 2021レポート】〈アニメ!アニメ!(2021年3月7日)〉
メディアドゥ溝口敦さんが登壇した回のレポート。私はクラウドファンディングでチケットを買ったので、アーカイブ(↓)もいつでも視聴できる状態なのですが、まだ観られていないので助かりました。
いまメディアドゥでは電子出版関連でブロックチェーンを用いたシステムを開発中ですが、その話をマクラに「アニメの分野でも新たな取り組みにつながる」という話が展開された様子。うおー、これは気になる。やはり観ておいたほうがよさそうです。
「BooksPRO」新機能と活用術 JPOが説明動画を公開、各担当者が展望を語る〈文化通信デジタル(2021年3月9日)〉
書店側から要望されていた「出版社系受注サイトとの連携」「雑誌情報表示」「販促情報表示の改善」「ためし読みの本格導入」などの新機能と活用術を紹介する「動画」が公開されました、というニュース。以前は説明会が開催されてましたが、こういう状況下ですし、とても良いことだと思います。わざわざ指定された時間に足を運ばなくて済みますし、動画ならいつでも観られますし、繰り返し確認もできる。良いことずくめ!
世の中を揺るがすスクープが1日早く全部読める 「週刊文春 電子版」スタート!〈株式会社文藝春秋のプレスリリース(2021年3月10日)〉
月額2200円のサブスクリプション。紙版が1冊440円ですから、4週分より高額という超強気な値付けです。「1日早く」にはそれだけ価値がある、という考えに基づくのでしょう。まあ、これだけスクープを連発し続けている「週刊文春」ですから、充分勝ち目アリとも思えます。紙版は苦しくなるでしょうけど。
ちなみにシステムは「キメラ」という会社が開発した「Ximera Ae」というサブスクリプション基盤を利用しているそうです(↓)。いま使っているCMSの大規模改修などは不要なうえ、初期費用なし、少額の月額基本料金と売上に応じた手数料のみというのは、結構魅力的に見える。気になる。
ユーチューブ、日本の配信者らに「税務情報」提出義務化 不履行なら収益「最大24%控除」〈J-CASTニュース(2021年3月10日)〉
見出しはYouTubeですが、実際にはGoogle AdSenseの話なので、ブログで収益化している人からウェブメディアを運営している会社まで、広い範囲に影響する話です。
KDPが日本で始まった当初、アメリカの法人番号(EIN:EmployerIdentifi cation Number)の取得が必要とされていたのを思い出します。コンビニからIRSに国際FAX送ったり、大変だったなあ……いまはウェブ上から手続きできるようです。
ちなみに提出する必要があるステータス証明書は、個人はW-8BEN、法人はW-8BEN-E、そしてNPO法人は「非課税団体」なのでW-8EXPと、種類が異なります。個人のは持っていますが、NPO法人はもちろん別口。まあ、もう運用型広告は止めちゃったので、これから24%源泉徴収されることになろうと、ウチには影響無いんですけど。
2020年度「電子書籍ビジネス動向調査」 電子書籍発行出版社が過去最多に〈文化通信デジタル(2021年3月11日)〉
1076社にアンケートを依頼して回答が240件、つまり回答率は22.3%のうち158社65.8%が電子出版をやっていると回答したとのこと。回答しなかった836社は「やってない」可能性が高そう。そういうデータを基に「過去最多」になったと言っちゃうのは、なんか違うくないか? と思った調査です。
去年、電流協のセミナーで登壇したときこの数字を聞いて、「さすがに回収率低すぎじゃありませんか」って素で言ってしまった記憶があります。「回収率は確かに課題」と返されたような。今後、改善される見込みはあるんでしょうか。正直、厳しいような。
もちろんアンケートにも価値はありますが、実態を掴む方法には公開情報を解析するというやり方もあると思うのです。昨年秋の日本出版学会で発表した「日本における 電子書籍化の現状 (2020年版)」もまさにそれで、用いているのは誰でも利用可能な公開情報です(↓)。もちろん他者が追試できるよう、手法もまるごと明かしてます。研究者の方に、あとを継いで欲しいなあ。
まあ、ブックウォーカーが公開している「全商品RSS」ならExcelで解析可能(まだ100万行は超えていないはず)ですから、簡易調査してみようかな。上記研究発表で挙げている今後の課題「ISBNに含まれる出版社記号での集計」まで踏み込むのは、かなり労力がかかりそうですが。
日本郵政と楽天が資本業務提携 1499億円出資へ〈共同通信(2021年3月12日)〉
いろんな方面へ影響がありそうな資本業務提携。出版関連では「楽天ブックス」の物流が関わりそう。取次の楽天ブックスネットワークは、先月から日販と協業範囲拡大の検討を開始してますが、それはそれ、これはこれですかね? 少額取引専用の「Foyer(ホワイエ)」には活かせるかも?
広告でSEOが有利に!? プロの考えるオーガニック検索と広告の関係と連携戦略【2021年版】 | JADEのSEOプロフェッショナル相談室〈Web担当者Forum(2021年3月12日)〉
タイトルは釣り気味(釣られた)ですが、実に素晴らしい内容の記事。広告が直接SEOに影響することはなくても、広告により認知された結果としてバックリンクが増え、結果として間接的にSEOへ好影響を与える、というのは確かにあり得そうです。
広告では複数のクリエイティブが同時に試せるので、効果的な文言を記事タイトルへフィードバックする、という連携も興味深い。広告もSEOも、どっちも本気でやろうと思うとめっちゃ奥が深いのですよね。それぞれ専門家がいる分野ですから、お任せしちゃうのも手ですけど、ある程度は把握しておかねば。
Donuts、主婦の友社から『Ray(レイ)』関連事業を譲受〈Media Innovation(2021年3月12日)〉
IT企業への雑誌事業譲渡です。編集は今後Donuts社がやるとのことなので、編集部ごと移籍した感じでしょうか。会社案内を見る限り、ファッション誌と直接シナジーできそうな事業はなさげ。医療からゲームまでいろいろやっているようなので、シンプルに「事業領域拡大」ってことなのかな。
技術
LIA EU Accessibility Act「すべての人のための電子書籍アクセス可能な電子出版のエコシステムを目指して」(慶應義塾大学SFC研究所 2/18開催セミナー関連資料)〈Advanced Publishing Laboratory(2021年3月11日)〉
米国の非営利団体“Fight for the Future”、デジタル出版時代のアクセシビリティ・利用可能性の不平等を可視化するウェブサイト“Who Can Get Your Book?”を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年3月11日)〉
アクセシビリティ関係で2つの異なる動きがほぼ同時に。前者は、アクセシブルな電子出版物のエコシステム構築を目指し、重要なポイントや国際標準仕様やガイドラインなどを解説した文書の、日本語訳版など。後者は、アクセシビリティ・利用可能性に関する不平等があることを可視化したツールです。
まだざっとしか目を通せていませんが、「ボーンアクセシブルな出版」というのは今後、出版物に関わるあらゆるプレイヤーが対応していかねばならない、重要なキーワードになっていくだろう、と思いました。日本もマラケシュ条約を批准し、読書バリアフリー法が制定されましたからね。そろそろ次のステップへ進まねば。
デジタルアート、75億円で落札 NFTで史上最高額〈DG Lab Haus(2021年3月12日)〉
ブロックチェーン関連の情報が追い切れてなかったのですが、ここへきてNFTがいきなり大きな話題になった感があります。NFTはNon-Fungible Tokenの略称で、代替不可能なトークンという意味です。デジタルデータは通常、劣化しないコピーをいくらでも作れますが、ブロックチェーン技術を用いて「発行数」に制限をかけたり、「唯一無二」の価値を持たせられる仕組み。
もちろんどんなデータにも価値があるわけではなく、「需要があれば」数量制限によって希少価値が高まっていく、というわけです。まあ、いま「何十億円」とか高騰しちゃってるのは、物珍しさからくるバブル的な需要とは思いますが。事例が増えてくれば、もう少し落ち着いてくると思われます。とはいえ、いろいろ夢のある話。
WIREDのNFTに関する記事(↓)にある「作家のみなさん。書籍へのサインは将来、NFTのかたちをとるだろう。それに割増料金を払えば、購入者は特別な献辞を書いてもらうこともできるかもしれない。」という一節が、クリエイターにとっての価値を端的に示しているように思います。
ブロードキャスティング
3月8日のゲストは吉川浩満さん(文筆家・編集者)でした。番組のアーカイブはこちら。
次回のゲストは平山亜佐子さん(文筆家・デザイナー・挿話蒐集家)です。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
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