「文芸3団体が読書バリアフリーに関する共同声明」「“AI脚本”だけがイベント中止の理由ではない」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #615(2024年4月7日~13日)

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 2024年4月7日~13日は「文芸3団体が読書バリアフリーに関する共同声明」「“AI脚本”だけがイベント中止の理由ではない」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

松本総務大臣、SNSの偽広告対策に「プラットフォーム事業者へ適切な対応を求める」〈ケータイ Watch(2024年4月9日)〉

前澤友作 森永卓郎 有名人なりすまし広告相次ぐ 偽インタビュー記事も クリックすると…|デジタルでだまされない〈NHK(2024年4月6日)〉

米メタは「なめている」 堀江氏と前沢氏、なりすまし広告減らず怒り〈朝日新聞デジタル(2024年4月11日)〉

 なりすまし広告がとうとう政治的問題に。Meta社は「違反広告は削除している」などと言っているそうですが、とてもそうは思えません。いや、もしかしたら見えていないところで膨大な件数を処理しているのかもしれませんが、少なくとも同社の透明性センターには広告審査に関するレポートが見当りません

 私もFacebookで何度もこの手の広告に遭遇し、何度も[この広告を報告]→[詐欺または誤解を招くコンテンツ]でMetaへ報告しています。ところが私は「広告規定に違反するものではありませんでした」というサポートメッセージしか受け取ったことがありません。周囲でも同じような声を聞きます。堀江貴文氏の言うように、Metaは本件を「なめている」としか思えません。

「広告は削除されませんでした」というサポートメッセージ

 そういえば、私が以前、広告主として出稿してみたときには、バナー画像に占める文字の割合が20%以下じゃないとダメというルールに悩まされました。ところがこのルール、2020年9月ごろに撤廃されていたのですね。知りませんでした。このことにより、以前より騙しやすい状態になってしまったのかも。

生成AI 規律と活用両立、選挙や安全保障分野で法整備を…読売新聞社とNTTが共同提言〈読売新聞(2024年4月9日)〉

 読売新聞がコンテンツホルダーとして生成AIの規制を要求するのは理解できる(賛同はしません)のですが、NTTは自社でも生成AIを開発している立場なので、この組み合わせはちょっと驚きました。でも、先行している他社を牽制するための動きと考えれば、分からなくもないかも。イーロン・マスク氏がAI開発の一時停止を訴えつつ自社でも開発している状況と似ています。

 読売新聞はこれまで「著作権法第30条の4を改正せよ」というやや無理筋の主張ばかり繰り返してきた印象がありますが、ここに来て合意が得やすい(と思われる)領域で仲間を増やして攻める、あるいは、負の事例を多く取り上げ印象操作するやり方へシフトしたようです。

 声明ではオリジネーター・プロファイルについても触れられているので、そういえばと思いOriginator Profile 技術研究組合(OP CIP)の公式サイトを確認してみたら、新聞社以外の参画企業も増えていることに気づきました。出版社では小学館、電通・博報堂DY・ADKなどの広告代理店、LINEヤフー・SmartNewsなどのニュースプラットフォーム勢の名前もあります。

 W3Cに技術仕様の提案をしているという話もありましたが、その後、音沙汰がないのも気になります。W3Cのサイト内を検索してみたら、2023年9月の「– DRAFT –Updates on the “Trustable Internet” project」というページを見つけました。動いていないわけではないようです。

アプリストア開放、Apple・Googleが安全監視 IT新法で〈日本経済新聞(2024年4月12日)〉

 公正取引委員会管轄の巨大IT企業規制新法案について。iPhoneにもサイドロードを認めさせるのではなく、アプリストアを開放させる方向性になっているようです。「違反企業には課徴金など厳格な罰則を設ける」方針で、強い強制力のある法案になりそうです。

 しかしこれ、AppleはEUデジタル市場法(DMA)への対応で、外部アプリストアを認める代わりにコアテクノロジー利用料などをとる形にしました。そのやり方が、そのまま日本に来るのを追認するような話ですよね。まあ、もう他国で折れてるわけだから、従わせやすいというのもあるでしょうけど。

 また、Androidは外部アプリストアに対し比較的緩い(Amazon Androidアプリストアなどがある)方針ですが、この法律ができるとどうなるか。「安全対策が必要」なんて責任を負わせると、Googleも外部アプリストアから手数料をとるようになるかもしれません。大義名分ができるわけですもんね。

 あと、まるでスマートフォンだけが対象みたいな話になっていますが、これヘタをするとWindows OSやmacOSも射程に入りませんか? Windows 11でAndroidアプリサポートを終了した件とか、「開発元が未確認のMacアプリを開く」とか、どうなるんだろう?

社会

「報道しない自由」にもほどがある トランスジェンダー本脅迫事件を無視する同業他社〈産経ニュース(2024年4月7日)〉

 産経新聞出版 代表取締役社長の皆川豪志氏による、他のマスメディアを糾弾する論調のコラム。思わず「お前はなにを言っているんだ」と声が出てしまいました。少なくとも全国3大紙は以下のように報じています。印象操作も甚だしい。

トランスジェンダーに関する本の発売中止要求 産経新聞出版に脅迫〈朝日新聞デジタル(2024年3月30日)〉

トランスジェンダー書籍で脅迫メール 産経新聞出版が被害届提出〈毎日新聞(2024年3月30日)〉

出版中止求める脅迫があったトランスジェンダー扱う書籍を刊行…一部書店は販売見合わせ〈読売新聞(2024年4月4日)〉

 まあ、皆川氏の言い回しは「全国紙でも全く触れていない新聞があります」であり、私の調べた範囲で少なくとも日経は該当するので、「嘘」というのは言い過ぎかもしれません。また、私はテレビは見ていないので「報道していない」かどうかはわかりませんが、テレビ系のウェブニュースサイト(NHK含む)で検索しても記事が見当たらないのは確かです。

 しかし、産経にとっては自社グループの出版物ですから、報じれば報じるほど宣伝にもなります。「産経新聞の関連会社が被害者だから強く言っているのではありません」というのはさすがに白々しい。皆川氏は産経新聞出版の社長です。その肩書きを出さずにそう言ってしまうのは、ちょっとずるいでしょう。

 また、皆川氏は同じ記事内で、KADOKAWAが刊行中止したときについても「メディアはそれほど大きく取り上げませんでした」などと批判しています。しかしこちらも、少なくとも全国3大紙は以下のように報じています。まあ、このときも日経は報じていないようなので、スタンスとしては一貫していますが。

トランスジェンダーに関する翻訳本、KADOKAWAが刊行中止…「当事者を傷つけ申し訳ない」〈読売新聞(2023年12月5日)〉

KADOKAWAがトランスジェンダーめぐる本の刊行中止 批判受け〈朝日新聞デジタル(2023年12月5日)〉

性的少数者:性的少数者題材書籍 KADOKAWA、刊行中止し謝罪 「人権脅かす」対応要請受け〈毎日新聞(2023年12月6日)〉

 なお、私は、産経新聞出版や書店に脅迫メールが届いていることについて「言論を暴力で潰そうとする動きは看過できません」と、しっかり批判していることを申し添えておきます。可能な限り是々非々であろうと心がけています。

ペンクラブなど文芸3団体が読書バリアフリーに関する共同声明を発表〈朝日新聞デジタル(2024年4月9日)〉

 日本ペンクラブ、日本文藝家協会、日本推理作家協会の共同声明です。日本文藝家協会の名前を見て、そういえば市川沙央氏の芥川賞受賞作『ハンチバック』で「愛のテープは違法」事件について触れられていたのを思い出しました。これ、実話なのですよね。

出版界が障害者に今までしてきたことと言えば、1975年に文芸作家の集まりが図書館の視覚障害者向けサービスに難癖を付けて潰した、「愛のテープは違法」事件ね、ああいうのばかりじゃないですか。(市川沙央『ハンチバック』より引用)

 この「文芸作家の集まり」が、日本文芸著作権保護同盟(現・日本文藝家協会)です。つまりこれは、過去、障害者サービスに「難癖を付けて潰した」団体(を継承した団体)から発せられた声明、ということになります。そういう意味でも歴史的な転換と言って良いでしょう。

 実際のところ、日本文芸著作権保護同盟が2003年に解散するとき、その業務を日本文藝家協会が継承した、という関係性のようです。また、もう50年ほど前の事件ですから、いまの日本文藝家協会に当時の当事者は恐らくもういないでしょう。

 ただ、この事件が解決するまでには、なんと35年間かかっています。2010年に施行された改正著作権法でようやく、公共図書館でも録音図書を製作する障害者サービスが著作権者の許諾なしにできるようになったのです。その歴史的経緯を再認識させる意味でも、市川氏の『ハンチバック』は素晴らしかったと思います。

作家3団体による読書バリアフリーに関する共同声明はとても意義のある歴史的出来事だ(篠田博之) – エキスパート〈Yahoo!ニュース(2024年4月10日)〉

 「創」編集長の篠田博之氏もこの共同声明を高く評価しています。ところが、この三団体共同声明の動画について言及されているのに、なぜかリンクがない……こちらです。

 なお、動画を視聴しましたが、前述の「愛のテープは違法」事件の経緯についてまでは、触れられていませんでした。

「AI脚本」を人気声優が朗読…銘打ったイベントは中止、「盗作」と批判相次ぎ〈読売新聞(2024年4月10日)〉

 X(旧Twitter)で3月に起きていた炎上騒動で、私の観測範囲外でした。いまになって記事化する読売新聞の思惑――はさておき、イベント運営側である株式会社Lol(ロル)公式アカウントの投稿や反響、公式告知ページなどを確認してみて、読売新聞の記事には書かれていないことに気づきました。

 この公式告知イラストは、恐らく高確率でAI生成物だと思われます(たぶんNovel AI系)。手の指がおかしい、本の持ち方が変、本が変、あたりで判別可能です。つまり、すぐにわかるおかしな点を修正せず、雑にそのまま使っています。これを指摘する声も確認できます。つまりこれは、単に「AI脚本だから」という理由だけで批判されたわけではありません。生成AIイラストに反発する方々からの批判もあった、という事実を踏まえておく必要があるでしょう。

 また、これも読売新聞の記事には書かれていませんが、日本俳優連合(日俳連)が「生成系AI技術の活用に関する提言」の中で、「声の肖像権」の設立を目指す提言を行っています。だからこそ、記事にある「声優さんの声を(AIに)学習されても何も文句言えなくなる」という批判の声が上がったのでしょう。その事実も踏まえておく必要があります。

 個人的には、AI生成物を活用してもべつに良いではないかと思います。だからこういった批判に私は賛同しませんが、理解はできます。少なくとも無視はできません。つまり、読売新聞の記事は、ちょっと事件を単純化し過ぎてますね。

経済

2024年3月次 電子書籍流通額成長率レポートと公表取り止めに関するお知らせ〈株式会社メディアドゥ(2024年4月8日)〉

 メディアドゥが1年間続けてきた電子書籍流通額成長率レポートが、今回の公表をもって取り止めとなります。まずはお疲れさまでした。残念です。「2024年2月に新規商流を獲得した影響」というのがどこのことなのか気になりますが、決算説明会の資料にも書かれてはいませんでした。想像するに、獲得した新規商流分がそのまま流通額成長率に反映されると、その商流の数字が具体的に逆算できてしまう可能性があるのがまずい、ということなのでしょうか。

 こういうデータは個社で発表するより、利害関係のない第三者が秘密保持契約を結んだ上で、複数社の数字を取りまとめて発表する形が良いのでしょうね。そういう意味では、HON.jpにも相応しくない役割、ということになりますが。

関係性開示:メディアドゥには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

よりダイレクトでフェアな出版をめざして――DR BY VALUE BOOKS PUBLISHING〈内沼晋太郎(2024年4月9日)〉

 吉本ばなな氏の新刊で、直販+直接取引。予約がAmazonに集中しがちな問題の解消や、直販による利益率の高さを印税率アップで還元とか、直接取引で書店の粗利率も高くするといった、「出版と流通の方法においても、踏み込んだチャレンジ」です。これは面白い。欲を言えば、電子版についても言及して欲しかったところです。

50代からの女性向け雑誌「ハルメク」、「年額一括払い」でも部数を拡大 会員制ウェブサービス「ハルメク365」や物販など幅広い事業を展開〈ペイメントナビ(2024年4月10日)〉

 「あー、やはりそうなるのか」と思ったのが支払方法について。「現在は払込用紙払いのシェアが圧倒的に高い」とのこと。振込用紙のバーコードをスマホの決済アプリ(PayPay、d払い、au PAY、LINE Pay)で読み込んで払う方が非常に多い、ということなのでしょう。ううむ、ウチも対応したほうが良さそうですねこれは。

炎上中のプロ雀士に必ずLINEを送る…廃刊寸前だった麻雀雑誌に年間4000万円をもたらした編集長のアイデア 「麻雀の雑誌」というオワコンの代表格の大逆襲〈PRESIDENT Online(2024年4月12日)〉

 noteでの記事販売で成功した事例の詳細です。タイトルには「炎上中のプロ雀士に必ずLINEを送る」より、「noteで販売」などと入れたほうが引きが良かったかも? 少なくとも私は、タイトルと配信元だけ見てスルーしそうになりました。内容的にはとても面白いのに!

 なお、これは以前から他の事例でも何度か指摘していますが、「雑誌を転載するわけですから、元手がかからない」「人件費もかからない」というのは、明確に「認識が違う」と言っておきます。デジタルにもちゃんと売上に応じた原価を按分すべきです。按分しないと、実態以上に「紙が薄利」あるいは「紙が赤字」に見えてしまいます。それは良くないですよ!

技術

楽天Kobo、カラーE Ink電子書籍リーダーKobo Libra Colour と Kobo Clara Colourを4月30日発売〈テクノエッジ TechnoEdge(2024年4月11日)〉

 朝一番の時点では北米やドイツtolino(子会社)でも発表されていたのに、日本の楽天には情報が出ておらずヤキモキさせられました。結局、日本でのプレスリリースは15時になる直前でした。しかし、カラー電子ペーパーで2万4800円は、この円安下でかなり頑張ったと評価して良いと思います。SKTが販売している「BOOX Poke5」(GooglePlay対応の白黒6インチ電子ペーパー)より安い。さっそく人柱となるべく、予約しました。

漫画制作での生成AI活用の現状とは? 漫画家「うめ」さん作成の100ページ超の資料が無料公開中〈ITmedia AI+(2024年4月12日)〉

 最近、生成AIを使っている(あるいは使用を疑われる)と炎上する「魔女狩り」のような状況が相次いでいるので、こちらの記事も大丈夫かな……? と少し心配しました。しかし、バズってはいますが、炎上はしていないようです。

 昨年末に開催された「AI時代の知的財産権検討会」で、ゲーム開発会社のレベルファイブが生成AIの活用事例を発表したときも思いましたが、「誰からも文句のつけようがない使い方を指向している」のが伝わってきます。さすが。

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雑記

 新学期がスタートしました。大学で教えているデジタル出版の演習科目は例年、履修生が10人ちょっとくらいなのですが、今年度はなぜか44人と大人気。科目名が変わったからかな? 演習でこの人数はヤバイ。ちょっと負荷軽減図らないとパンクしそうです(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 795 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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