「東洋経済で集英社・講談社・小学館のIPビジネス特集」「KADOKAWAへのサイバー攻撃続報」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #627(2024年7月7日~13日)

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 2024年7月7日~13日は「東洋経済で集英社・講談社・小学館のIPビジネス特集」「KADOKAWAへのサイバー攻撃続報」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

見聞録 書店支援に欠かせないもの 経産省のプロジェクト始動〈山陰中央新報デジタル(2024年7月9日)〉

 いいこと書いてあるなあ……と思ったら、最後に見慣れたお名前(成相裕幸・ライター)が記されていて納得。さすがです。なお、山陰中央新報デジタルは、無料会員でも鍵付き記事を月5本まで読めます。

個性ゼロの書店が「日本人の読書離れ」を加速させた…「レジ3時間待ち」の大行列を生んだ有隣堂社長が考えること 「紙の本は大切です。守ってください」は甘い〈PRESIDENT Online(2024年7月10日)〉

 その成相氏が、小島俊一『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』(プレジデント社)から引用している松信健太郎氏(有隣堂社長)の言葉は、こちらの記事でも確認できます。私は、もう少し後に出てくる、以下の箇所が胸に刺さりました。

本も同じだ。私たちは本を売ることを生業としているから、本の大切さを訴えているけれど、そうでない人たちからすると畳屋の事例と同じである。

 当事者である書店の方自身がそうおっしゃることに、言葉の重みがありますね。そして、ただそう嘆くのではなく、それを踏まえた上でどうすべきか? がしっかり語られている点が非常に良いと思いました。未来思考。しっかり前を向いています。

「書店の振興プロジェクトチ-ム」を作って下さった経済産業省の齋藤健大臣に会いに行きました。〈二村知子 隆祥館書店(2024年7月8日)〉

 経産省プロジェクト関連で、合わせてピックアップ。大臣に小規模書店の窮状を直接伝えられたのは良かったと思います。ただ、以下のくだりが気になりました。

先日集英社の感謝会で会った取次のある役員の方から「二村さんのことを良く思っていない役員がいますよ。僕は、わかっていますけど」と言われました。

 こういう言い方をする人、私は好きではありません。要するに「僕は、わかっていますけど」と言いながら、他者に仮託して脅しているわけですよね。あえて陰謀論を言いますが、ほんとうはその「僕」が良く思ってないのかも。味方のフリをしてこういう釘を刺してくる陰険な人って実在しますから。

前澤友作さんになりすましたSNS偽広告訴訟 メタ側が争う姿勢示す|IT・ネット〈NHK(2024年7月9日)〉

 Meta側は、前澤氏の肖像を無断利用したのは「氏名または名称不詳者ら」と主張し、争う姿勢を見せているそうです。あの、その「氏名または名称不詳者ら」からお金をもらって広告出してるのが御社なわけですよね? アメリカの通信品位法230条だとそれで許されちゃうのかしら?

 ……冷静に考えてみましょう。日本はプロバイダ責任制限法(2024年改正で情プラ法に)で免責範囲が定められています。ポイントとなるのは、Metaが詐欺広告であることを認識していたかどうか、削除請求にすばやく対応したかどうか、再発防止策が充分かどうか、あたりでしょうか。うーん……少なくとも一定期間は野放しだったように思えるのですが、裁判ではどういう判断になるだろう?

内閣府、「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」に関するFAQを公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年7月11日)〉

 先日、図書館情報学会誌がエンバーゴを廃止するというニュースを取り上げましたが、その理由である政府方針のFAQが公開されました。ざっと目を通してみたところ、こちらの回答に目が留まりました。

公開禁⽌期間(エンバーゴ)との関係を含め、実務上、即時オープンアクセスが困難な学術論⽂及び根拠データの対応については、現在検討中です。

 まだ「検討中」なのですね。問答無用で公開が義務付けられるとは限らない、と。猶予期間を設けたりするんでしょうか?

社会

第6回 電子書籍のアクセシビリティ|読書バリアフリーの現在〈新文化オンライン(2024年7月11日)〉

 連載「読書バリアフリーの現在」も6回目、いよいよ「リフロー型は(ユーザーの任意で)文字サイズの変更が可能」なことについてです。本の電子化がまだ進んでいないことを課題としていて、それはその通りなのですが、まだ連載が続くようであればぜひ「印刷版のページ番号が参照できない」という、次に解決すべき課題にも触れてほしいと思いました。

 EPUB Accessibility(JIS X 23761)で規定された、EPUB書籍がアクセシブルであるために必要な要件にある「ページナビゲーション」がまさにそれ。印刷版のページ番号って、晴眼者にとっても必要な情報だから、売上にも繋がる話だと思うのですけどね。

KADOKAWA、悪質な情報拡散473件 刑事告訴も〈日本経済新聞(2024年7月12日)〉

 この記事では内訳に触れられていませんが、プレスリリースによると情報拡散行為が最も多いのは「5ちゃんねる」で、次が「X(旧Twitter)」とのことです。「いまネットで治安の悪いところ」が浮き彫りになった形ででしょうか。どちらも匿名性が比較的高いことが悪用されています。まあ、発信者情報開示請求が開始されているので、安易に拡散した連中は「震えて眠れ」という感じではありますが。

 ところで、ダークウェブにアップロードされている情報に著作物があるなら、もしかして違法ダウンロード(私的複製の適用除外)が適用できるのでは? なんて思ったのですが、よくよく考えると刑事罰の前提条件には「有償で公衆に提供され、又は提示されているもの」(法119条3項2号)がありました。少なくとも「違法にアップロードされたことを知りながら」要件は満たされるとは思うのですが。著作権法、難しい。

経済

集英社・講談社・小学館が「IP」で儲けるカラクリ 非上場で謎の多いビジネスの奥の院を大解剖 | 特集〈東洋経済オンライン(2024年7月7日)〉

 IP(Intellectual Property:知的財産)すなわち、マンガの出版を軸に映像・ゲーム・グッズ・版権などライツで稼ぐビジネスについて、なかなか面白い特集です。ただ、「dマガジン」で読んだらp67の次がp76でした……縦読み漫画 / 教養としての漫画 / 尾田栄一郎伝説 / めちゃコミ買収の意味など8ページが「dマガジン」版からは削られています。とほほ。

ワンピース作者「尾田栄一郎」 業界にとどろく伝説 睡眠をしすぎるとバカになりますから | 最新の週刊東洋経済〈東洋経済オンライン(2024年7月9日)〉

 ところがこちらの記事は、「dマガジン」からは削られていたのに、東洋経済オンラインでは無料開放されています。なんでやねん! いや、無料で読んでおいて文句を言うのもなんですが。

 ところで、尾田栄一郎氏ってショートスリーパーなのですね。「(睡眠時間は)1週間で10時間くらいではないか」なんて噂もあるようです。なんかちょっと健康状態が心配……。

『リゼロ』に続け!KADOKAWAの最新IP戦略 イベント、映像、グッズ、Webサービス、ゲーム | 特集〈東洋経済オンライン(2024年7月13日)〉

 特集名は「集英社・講談社・小学館」ですが、KADOKAWAなど他社についても取り上げられています。しかもKADOKAWAについては「(この3社に)先行して成功例を積み上げている」という書き方です。ならば、特集名に入れてもよかったのでは感が。ちなみに、サイバーテロの件にも末尾で少しだけ触れられています。急いで追記したのかな、という印象を受けました。

文庫本の「1000円の壁」なぜ消えた 25年で3割値上げ〈日本経済新聞(2024年7月9日)〉

 文庫本の立ち位置が“単行本の廉価版”扱いではなくなってきたとのこと。この記事を読んで改めて思いましたが……何度も言うようですが、日本書籍出版協会は「再販制度」のページをなるべく早くアップデートしたほうがいいと思うのですよ。20年以上前に書かれた「Q, 出版物の価格は高いのでしょうか?」へのアンサーが、完全にいまの実態とズレちゃってますから。

「KADOKAWAの本届かない」トーハンは注文の半分のみ〈日本経済新聞(2024年7月12日)〉

 KADOKAWAへのサイバー攻撃で、出版業界にどのような影響が出ているかが具体的に示されています。たとえば「ダンジョン飯」は、アニメ放映のタイミングで売り逃しているのは非常に痛い。電子書籍系に影響がないのは不幸中の幸いです。ただ、リアル書店の立場からすると、客を電子にますます奪われているように感じられるかもしれません。

蔵前で小さな書店をオープン。1年経って気づいた15のこと【振り返り最終回】〈freee公式編集部(2024年7月12日)〉

 「透明書店」の名に恥じぬ赤裸々っぷりです。「FAXはなんだかんだで役に立っている」には苦笑い。文化通信社が自社のデジタルチラシ配信サービス「BookLink」を販売するためか、書店からFAX削減要請を集めたりしていますが、まだすべての書店がそれを望んでいるわけでもないということなのでしょう。想像するに、大手チェーン店と中小書店とでは状況が大きく異なるのかな、と。

技術

なぜGoogleのシェアが落ちているのか?〈MarkeZine(2024年7月10日)〉

 これは「なぜ」の前に「Googleのシェアが落ちている」が真か否かから考えたほうがよさそう。この記事では「Statcounter」のデータを根拠としていて、この4月から6月のあいだに10ポイントの下落が観測できるのは確かです。ただ、「Statcounter」ってたまに数字が変な動き方をしていることがあるんですよね。

 たとえば“Desktop Operating System Market Share Worldwide”では、Windowsのシェアが2023年4月・5月に急減し、6月に急増したことになっています(逆にUnknownが急増・急減している)。短期の動きでは集計ミスなどもあり得るので、少しばかり眉に唾しておいたほうがいいと思ってます。

 あと、3つ目の理由として「Microsoft Copilotの浸透」を挙げていますが、ブラウザシェアがどうなっているかはなぜか調べていません。それこそ「Statcounter」を確認してみるべきなのでは。ちなみに日本ではこの1年で、Edgeのシェアはほぼ変わらず、Chromeのシェアはむしろ少し伸びているくらいでした。

Google 検索のアルゴリズムが、AIによる“盗用”を元記事より上位に表示している〈WIRED.jp(2024年7月10日)〉

 ひとつ前の記事の直後にこちらを読み、検索品質が劣化しているのは事実なんだろうな……とも思いました。というか、スパムが多すぎて対処が間に合っていないのでしょうね。Google検索が劣化しているというより、ウェブ上にゴミ情報が増えすぎている。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 じとじとした天気が続いています。まだ梅雨は明けてなかったんですね。先週は猛暑日も記録しましたが、今週は最高気温30度を切る日もありました。まあ、湿度が高いと不快ではあるのですが、熱中症でやられるよりマシかも(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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