「金融庁、SNS詐欺広告規制へ」「日本図書館情報学会誌がエンバーゴ廃止」「ISBNは変えちゃダメ!」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #626(2024年6月30日~7月6日)

文教堂書店 市ヶ谷店
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 2024年6月30日~7月6日は「金融庁、SNS詐欺広告規制へ」「日本図書館情報学会誌がエンバーゴ廃止」「ISBNは変えちゃダメ!」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

EU「メタもIT規制法違反」 暫定見解を公表、アップルに続き〈共同通信(2024年7月1日)〉

 タイトルの「アップルに続き」を見て、「あれ? Microsoftは?」と思ったのですが、Microsoftは競争法(独占禁止法)違反でした。AppleとMetaは、デジタル市場法(DMA)違反です。

EU、アマゾンにおすすめ表示や広告の情報要求 利用者に透明性確保〈朝日新聞デジタル(2024年7月5日)〉

 そして、Amazonはデジタルサービス法(DSA)違反。あの手、この手で、アメリカの巨大IT企業を規制の網にかけようとしています。EUはこういうところがすごい。なお、Amazonの異議申し立てはすでに欧州司法裁判所から却下されていて、今月26日までには情報開示する必要があるそうです。

LINEヤフー「短期的な資本移動は困難」 総務省に報告書〈日本経済新聞(2024年7月1日)〉

松本剛明総務相、LINEヤフーの情報漏洩報告書「評価できる」〈日本経済新聞(2024年7月5日)〉

 韓国との国際問題になりかけているからか、総務省の幹部がいまさら「(ネイバーの)資本を減らせという行政指導でなく、それを含めて検討してほしいということ」などと言い訳しています。結果、3回目の報告書は一転「評価できる」という見解に。まあ、これで韓国側からの批判も沈静化する、かな?

金融庁、SNS詐欺広告を規制 投資勧誘、無料でも「違法」〈日本経済新聞(2024年7月4日)〉

 詐欺は当然規制対象ですが、広告そのものにも規制が入ることになりそうです。しかしこれ、法改正ではなく「監督指針やガイドラインの改正」でいけるんですね。であるなら、金融庁の動きはずいぶん遅い気がするのですが。まあ、本来なら広告事業者側の自主的な対応が望ましかったのでしょうけど。

社会

日本図書館情報学会、『日本図書館情報学会誌』のエンバーゴを廃止〈カレントアウェアネス・ポータル(2024年7月3日)〉

 従来は、印刷版の発行から1年間は購読者以外の閲覧を制限していた(=エンバーゴ)のを、廃止するとのことです。廃止に至る議論の経緯が会報に載っている(一般公開されている)のですが、要するに「科研費を受けた論文は即時オープンアクセス」という国の方針が定まりつつあるので、今後は論文の投稿先としてエンバーゴのない学術誌が選択されるようになるはずだ、という判断だったようです。機を見るに敏ですね。感心してしまいました。

経済

小規模出版社を襲うインフレの波〈MonJa(2024年6月30日)〉

 ここ数年で印刷代や倉庫代が高騰しているけど、カバーに印刷しちゃってるから定価を変えづらいという話。それは確かにそうなんですけど、「書籍は定価販売が義務付けられており」という書き方は誤解を生みそうなので、念のため指摘しておきます。

 定価販売が義務付けられているのは、出版社と再販売価格維持契約を結んでいる取次・書店のみです。出版社が直販する場合は、「定価」と書いてあったとしても、値引きも値上げも可能です。また、再販売価格維持契約で取次・書店に定価販売を義務付けるかどうかも、出版社の任意です。

 出版流通改善協議会『再販契約の手引き』にも書かれているように“国が制定し、遵守が義務付けられているという意味での「再販制度」なるものは存在しません”。出版社が定価拘束しても独占禁止法違反(再販売価格の拘束)にならない例外が認められているだけの話なのです。

 あと、重版を検討する際に考えられる選択肢の中で、やってはダメなものがあります。

【2】コストや手間はかかるが、ISBN(商品番号)を新たにして定価を刷新、新版として重版する。

 定価改定だけなのにISBNを変えてはダメです。「日本図書コード管理センター」の手引きにも「ISBNは識別子ですので変更してはいけません」と明記されています。「日本図書コード」の価格記号部分のみを修正したうえで「書籍JANコード」を再作成しましょう。

 まだ残っている在庫のカバーを変更しようと思うと手間もコストも大きいですが、重版でカバーだけ変えるならわりと現実的なのでは。あと、「定価」と印字するかどうかも、出版社の任意なのですよね。「非再販」「小売希望価格」でもいいんですよ? うちはそうしてます。

年鑑『出版ニュースまとめ&コラム2019』の裏表紙

世界の名作SF・ミステリーをコミカライズ!新コミックサイト「ハヤコミ」が7月23日よりスタート!〈MANGA Watch(2024年7月3日)〉

 ちょっと驚きました。早川書房が自社でコミックサイトを運営するそうです。とはいえバックエンドは恐らくどこかと組むのでしょうけど(はてな? コミチ+?)、いまのところ明らかにはされていません。まあ、システム側より、人員体制側のほうが重要かな。「ハヤコミ」編集部がコミティアにも出るそうです。

「Threads」公開から1年、月間ユーザー数は1億7500万人を突破〈CNET Japan(2024年7月4日)〉

 1周年おめでとうございます。私は当初から「HON.jp News Blog」公式アカウントを運用していますが、1年でフォロワーは131人。まったく同じ運用をしているX(旧Twitter)のフォロワーはこの1年で170人増えたので、ニュースの投稿はThreads向きではない(アルゴリズムに嫌われている)と結論づけてよさそうです。まあ、同じMetaが提供しているFacebookも似たような傾向ですから、想定の範囲内ではありますが。ちなみに、ほぼ同時期に始めたBlueskyは、1年でフォロワーが600人以上増えています。

丸善ジュンク堂書店 店頭在庫検索・取り置きサービス再開、「ネットストア」オープン〈BookLink(2024年7月4日)〉

 大日本印刷が「honto」の紙書籍通販と「honto with」を終わらせてしまったため、その代替サービスを丸善ジュンク堂書店が直接運営する形になりました。ひとまず店頭在庫検索と取り置きサービスが再開しています。

 しかし「honto with」のヘビーユーザーだった方が、以前とは違って「棚の位置」までわからない点について強い不満を述べているのを観測しました。大型店だからこそ必要なラストワンマイルの情報だったはずなのですが、なぜ削ってしまったんだろう?

技術

生成AIで日本アニメ「新・海賊版」横行 調査報道の裏側〈日本経済新聞(2024年6月29日)〉

 以前ピックアップした「氾濫する生成AIアニメ 9万枚調査で見えた権利侵害」(#622)の、取材と制作の裏側を紹介する記事。こういうのを「画像証拠をもとにした調査手法(Visual Investigation)」と言うんですね。

 しかし、最初の見出し「約9万枚の画像を目視チェック」にのけぞりました。類似性をチェックするツールなどを使った予備調査くらいはやっていると思っていたのですが、複数の記者がすべて目視で1枚1枚チェックしたとのこと。3カ月かけて2500枚の類似画像を抽出したそうです。それは大変だ。

 ウェブ記事に地図技術を応用して「スクロールに応じて表示する画像の解像度を変える」形にしたり、サイト名とプロンプトのテキストは記事からコピーできないようにしておいたりと、表示する部分ではいろいろ技術を駆使しているようです。

 見た目にインパクトがある記事になったのは否定しませんが……私の意見はやはり前回も書いたように「人間が描いたにせよ、AI生成にせよ、投稿サイトにあるファンアートが既存の正規市場と競合する可能性は低い」です。これを「新・海賊版」などと呼んで危機感を煽ることについては疑問符を投げかけたい。

「BOOK☆WALKER」にてマンガの試し読みが手軽にできる「探索」機能(β版)をアプリ限定でリリース〈MANGA Watch(2024年7月3日)〉

 少し試してみたのですが、けっこう面白いユーザー体験です。縦にスワイプすると表紙が(恐らく)ランダムに切り替わり、横にスワイプすると試し読みができます。TikTokのUIを強く意識している印象です。現時点ではまだパーソナライズしているわけではなさそうですが、購入履歴などから好みを類推してくれるようになると、作品チェックが捗りそうです。

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雑記

 都知事選挙の投票は10時前に済ませましたが、片道5分程度なのに汗だくでした。明日の最高気温は38度という予報。体温より高い気温はヤバイ……みなさま熱中症にはくれぐれもお気を付けください(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 817 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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