複雑なレイアウトには、文字と図版の配置そのものにも意味が込められている ―― デジタル出版論 第2章 第3節

デジタル出版論

デジタル出版論 第2章

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雑誌(Magazine)とは?

 次のメディアは「雑誌」です。こちらも定義から。精選版日本国語大辞典(小学館)によると、雑誌は「種々雑多な事柄を書いたもの」あるいは「一定の誌名のもとに号を追って定期的に刊行する、簡単に綴じた出版物」です。

 「雑誌」という言葉は、江戸幕府の洋学教育研究機関・開成所の教授をしていた柳河春三による magazine の訳語とされています[16]。柳河は、1867年(慶応3年)に発行された日本最初の雑誌とされている『西洋雑誌』の発行人でもあります。

 なお、世界最初の雑誌は1665年にフランスで創刊された『Journal des Savants(ジュルナール・デ・サバン)』――としている文献が多い[17]ようですが、年鑑・年代記は15世紀なかごろの活版印刷誕生直後から、月報は16世紀の終わりごろから、週報は17世紀初頭から存在していたそうです[18]。また、広告枠が登場したのは19世紀初頭のことです[19]

雑誌は定期刊行物で、本よりサイズが大きい

マガジンハウス「ブルータス」2020年1月1・15日号
中綴じあるいは針金綴じと呼ばれる簡易製本(マガジンハウス「ブルータス」2020年1月1・15日号)
 ユネスコの定義[20]では、非定期刊行物の本に対し、雑誌は定期刊行物という違いがあります。終号数が前もって確定していないことや、シリーズの各号に一連の番号または日付が付されること、といった条件もあります。新聞を含め「逐次刊行物」とも呼ばれます。本には「49ページ以上」という条件がありますが、雑誌にはありません。本に比べるとページ数が少なく薄いため、中綴じなど簡易な製本である場合が多いです。

 紙の雑誌は一般的に、本より大きな寸法が用いられます。そのぶん複雑なレイアウトが可能です。複雑なレイアウトには、文字と図版の配置そのものにも意味が込められている場合があります。そのため電子版では、紙のレイアウトをそのまま流用する固定レイアウト形式が用いられる場合が多いです。つまり、閲覧する端末のディスプレイサイズは、より大きな影響を及ぼします。

 このため、雑誌などへ掲載された記事をウェブメディアへ配信する際には、ディスプレイでの閲覧に適した形へレイアウトし直す手間をかけている場合も多いです。そうすることで、自社のウェブメディアだけでなく、「Yahoo!ニュース」「スマートニュース」「Googleニュース」などのデジタルニュース配信専門事業者(コンテンツアグリゲーター)に扱ってもらうことも可能となります。

紙は、定期刊行される雑誌の物流網が軸になっている

 本と同様、もちろん雑誌も「どのように頒布するか?」が重要です。日本では、本や雑誌は小売店=リアル書店・ネット書店・コンビニなどへ卸して販売してもらうやり方が圧倒的に多いです。食料品や家電など他の物品と同様、生産と流通とで役割分担が行われているわけです。出版社自身がユーザーへ直接販売[21]する場合もありますが、割合は小さいです。

 そして、本や雑誌を小売店へ卸すには、物流や販売代金回収と支払(金融)機能を担う問屋=取次を使う場合が多いです。これは「取次ルート」と呼ばれています。定期刊行物である雑誌を、全国津々浦々へ効率的かつ大量に流通する仕組みが軸となっており、非定期刊行物である本は、その仕組みに相乗りしている状態です。出版社が小売店と直接取引する場合もありますが、これまた割合は小さいです。

 日本出版販売による2020年度の推計によると、全国のリアル書店で販売されている紙の出版物は、出版市場全体の40.6%を占めています[22]。電子出版が22.6%、ネット通販が12.6%、コンビニが5.9%、出版社直販は8.6%です。また、企業や団体向けに販売する「B to B」のビジネスモデルである図書館向けは3.4%、教科書は4.4%となっています。

本と雑誌の中間にあるもの

 出版科学研究所が発表している出版統計は、大分類で「書籍」と「雑誌」に分けられてます。その中間にあたる「ムック(mook)」という存在もあります。mook は magazine と book の合成語です。ムックは、雑誌のような大判・ビジュアルですが、書籍のように1つのテーマを掘り下げる内容になっています[23]。「臨時増刊」や「別冊」をムックとして出す場合が多いです。統計上はおおむね、雑誌(月刊誌)として扱われています。

 また、マンガの単行本(コミックス)の多くも、「雑誌」として分類されています。「書籍」として分類されている場合は「書籍扱いコミックス」、「雑誌」として分類されている場合は「雑誌扱いコミックス」とされます。コミックスは当初、「書籍」として流通していました。ところが、講談社が1963年から雑誌扱いで配本を始めたことによって販路が広がり、部数が飛躍的に伸びた結果、他社も真似するようになっていったそうです[24]

雑誌のビジネスモデル

 前述のとおり、雑誌には小売店での「販売」以外に、「定期購読」と「広告」のビジネスモデルがあります。しかしそれは、インターネットの普及とともに瓦解していきます。私が経験したのは、誌面の大半が広告という情報誌の世界ですが、20世紀の終わりごろにはすでに、ユーザーからの反響は誌面とウェブが五分五分か、ウェブの方が若干多いと言われることもあるような状態になっていました[25]

 つまり、紙で伝達していた情報をインターネットで伝達する――そのことによってどう稼ぐか? というビジネスモデルの転換が必要となったのです。物理メディアのような販売モデルは容易ではなく、信頼できる決済システムの実装・普及と、著作権を保護する暗号化技術(DRM:Digital Rights Management)の発達が必要でした。そのいっぽう、広告モデルは飛躍的に伸びていきます。

 雑誌は、アメリカではほとんどが定期購読モデルだった[26]そうですが、日本では店頭での販売モデルが中心でした。その違いもあってか、デジタルの有料会員制メディア(サブスクリプションモデル)は、アメリカではすでに数百万契約という事例も多く出ていますが、日本では大手でも数十万契約と、桁が違う状態になっています[27]

 複数の電子雑誌が読み放題となるサブスクリプションのモデルを採用した「dマガジン」は、一時期300万契約を超える規模まで成長していました。ところがこれは、スマートフォンの契約時の無料お試し加入から自動継続で課金されるという、いわゆる「レ点商法」に依るところが大きかったそうです[28]。総務省から止めるよう指導があって以降、会員数は漸減しています。

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脚注

[16] 『西洋雑誌』第1号の巻末には「此雑誌出板の意ハ、西洋諸国月々出板マガセイン(新聞紙の類)の如く、広く天下の奇説を集めて、耳目を新にせんが為なれば」と、翻訳の経緯が述べられている。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3508484
[17] レファレンス協同データベース「雑誌の起源を調べている。世界最初の雑誌は何という名前で、いつ頃創刊されたのか」(2012年1月19日)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000100101
[18] ピエール・アルベール『新聞・雑誌の歴史』(斎藤めぐみ訳・白水社・2020年)p12~
[19] ピエール・アルベール『新聞・雑誌の歴史』(斎藤めぐみ訳・白水社・2020年)p60~
[20] 1964年文部省(当時)による「図書及び定期刊行物の出版についての統計の国際化な標準化に関する勧告」の仮訳より。
https://www.mext.go.jp/unesco/009/1387084.htm
[21] 直販ルートと呼ばれている。最近では「STORES(ストアーズ)」や「BASE(ベイス)」などを利用し、ネットショップを自社で運営している出版社も増えてきたようだ。また、「コミックマーケット」「コミティア」「文学フリマ」などの同人誌即売会も直販の一形態である。「東京国際ブックフェア」「神保町ブックフェスティバル」「神保町ブックフリマ」のように、出版社のスタッフが期間限定で手売りするイベントもある。
[22] 日本出版販売『出版物販売額の実態2021』の「タッチポイント別市場規模」より。この推計には「B to B」も含まれているため、「B to C」だけである出版科学研究所の推計と単純比較できない。
[23] 出版科学研究所「ムックの起源とその現状」(2006年10月25日)
https://shuppankagaku.com/column/20061025/
[24] BOOKウォッチ「コミックスは雑誌扱いにしたから爆発的に売れた! 『「コミックス」のメディア史』」(2019年11月3日)
https://books.j-cast.com/2019/11/03010137.html
[25] 詳しくはマガジン航[kɔː]へ寄稿した「情報誌が歩んだ道を一般書籍も歩むのか?」(2013年6月10日)を参照
https://magazine-k.jp/2013/06/10/will-books-follow-the-same-fate-as-information-magazines/
[26] ガベージニュース「ほとんど定期購読…米ニュース雑誌の販売の実情(SMN2015版)」(2015年5月9日)
http://www.garbagenews.net/archives/2258295.html
[27] Media Innovation 特集「進化するサブスク」#1「【序章】多様化、重層化するメディアのサブスクリプションの今」(2021年3月24日)
https://media-innovation.jp/2021/03/24/evolution-of-subscription/
[28] 文化通信デジタル「【出版時評】大幅に減少した電子雑誌市場」(2019年2月4日)
https://www.bunkanews.jp/article/column/205558/

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著者について

About 鷹野凌 664 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学でデジタル編集論・二松學舍大学でエディティング・リテラシー演習担当の非常勤講師 / 日本出版学会員 / デジタルアーカイブ学会員 / 主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)
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