梅棹忠夫「情報産業論」は60年経っても古びていない ―― デジタル出版論 第2章 第5節

デジタル出版論

デジタル出版論 第2章

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新聞(Newspaper)とは?

 次のメディアは「新聞」です。こちらも定義から。

 精選版日本国語大辞典(小学館)によると、メディアとしての新聞は「新聞紙の略」で、「広い読者に時事に関する報道、解説を中心に、知識、娯楽、広告などを掲載伝達する定期刊行物」です。多くは日刊ですが、それ以外の発行サイクルのものも存在します。

 雑誌の定義と比べると、「時事に関する」あたりがポイントでしょう。より新鮮さが求められている印象があります。そのいっぽうで「綴じた」がありません。新聞紙は折ってあるだけなので、広げるだけでバラバラになります。新鮮な情報を届けるいっぽう、長期保存を考慮していないメディアです。そのため過去記事は、縮刷版が定期刊行されていたり、データベースとして提供されていたりします。

伊藤晴雨「江戸と東京 風俗野史」
伊藤晴雨「江戸と東京 風俗野史」(from Wikimedia Commons:Public Domain
 日本の新聞は、江戸時代の瓦版が前身です[46]。日本で最初の新聞は1861年(文久元年)の英字紙「ザ・ナガサキ・シッピングリスト・アンド・アドバタイザー」、最初の日本語新聞は1862年(文久2年)の「官板バタビヤ新聞」、最初の日刊紙は1871年(明治4年)の「横浜毎日新聞」とされています[47]

 新聞の先祖は、古代ローマの公刊議事録や9世紀終わりの中国宮廷官報など、手書きのものから始まっています。印刷物では15世紀の終わりごろから、報知草紙(風説草紙・罵倒草紙・中傷草紙など)と呼ばれる不定期刊行のニュース文書が存在していたそうです[48]。定期刊行では、ドイツ・アウクスブルクの月報(1597年)、フランス・ストラスブールの週報(1605年)を経て、世界初の日刊紙は1650年の「ライプツィガー・ツァイトゥイング」とされています[49]

新聞のビジネスモデル

 江戸時代の瓦版は、街頭で大きな声で読みながら売り歩かれていたので「読み売り」とも呼ばれていたそうです[50]。それが明治以降「新聞」と呼ばれるようになって、ほどなく新聞配達が登場。1871年(明治4年)に誕生した郵便制度[51]により地方配送が始まり、1875年(明治8年)ごろには新聞販売店が開業[52]。家庭や職場へ毎日決まった時間に新聞を配達する「戸別配達制度」によって、飛躍的に部数を延ばしていきます。

 本や雑誌とは異なる独自の流通網を形成することにより、新聞は小売店での「販売」より「定期購読」のほうが圧倒的に強いビジネスモデルを形成していました。また、発行部数の多さから、新聞紙面の「広告」売上は雑誌広告の3倍以上、新聞と一緒に配達される折込チラシ市場も雑誌広告の2倍以上となっています[53]

 ただ、その戸別配達制度を支える新聞勧誘員の営業活動は往々にして強引で、トラブルになることも多かったです。国民生活センターでも「断っているのに帰ってくれない!新聞勧誘」[54]「初めての一人暮らし…悪質な新聞勧誘に注意!」[55]「宅配便かと思ってドアを開けたら新聞勧誘だった」[56]といった注意喚起がなされています。

 対策として、景品表示法や特定商取引法(旧訪問販売法)による規制や、業界の自主規制ガイドライン[57]も策定されていますが、元号が令和になってもいまだに自治体から消費者トラブルの注意喚起が行われていたりするのが現状です[58]。また、公称発行部数を維持するため新聞社が販売店に押しつけたノルマは、配達されずに破棄される「押し紙」という別の問題も誘発。独占禁止法(優越的地位の濫用)違反の疑いで公正取引委員会から注意を受ける事態にまで至っています[59]

 この押し紙が問題視されるようになったのは、インターネットが普及し始めてしばらく経ってから[60]。新聞総発行部数のピークは1997年の5377万部で、以降は漸減し続けています[61]。戸別配達制度の成功体験から軌道修正がなかなか進まず、インターネットを活用した広告以外のビジネスモデル――電子版の収益化も遅れているのが現状です。

ラジオ(Radio)とは?

 4マスの残り2つ、電波を利用したメディアについては、私の関心が薄い(そしてあまり詳しくない)こともあり、さらっと済ませます。精選版日本国語大辞典(小学館)によると、ラジオは「放送局から、受信機のある聴取者に電波を利用して、ニュース・音楽・園芸などの音声を送るもの」です。

 日本で初めてのラジオ放送は1925年[62]。民放は第二次世界大戦後で、1951年の中部日本放送が初となります[63]。民放ラジオのビジネスモデルは基本的に「広告」ですが、番組と連動したグッズ販売やイベント入場料などの放送外収入によって広告に頼らない経営も模索されているそうです[64]

テレビ(Television)とは?

 4マス最後のテレビは、精選版日本国語大辞典(小学館)によると「動く画像を電気的に遠方へ送り、同時に再生する通信方式」と定義されています。日本でテレビの実験放送が開始されたのは1939年(昭和14年)で、東京オリンピックに向けて研究開発が進められていましたが、戦火の拡大により中止されました[65]。本放送は、戦後の1953年(昭和28年)に開始されています[66]

 民放テレビのビジネスモデルも、基本は「広告」です。ラジオもそうですが、番組の途中でスポンサーのコマーシャルが差し込まれます。その時間を「枠」として広告代理店に卸し、広告主を募るというモデルです。それによって、番組そのものは無料で視聴できるようになっています。他方、NHKや衛星放送・ケーブルテレビのように、契約したユーザーだけが視聴できる「受信料」のモデルも一部存在します。

本と4マスの主な収入源まとめ

 ここまで、本や4マスの定義や、主にパブリッシャー側から見たビジネスモデルについて記してきました。改めて、簡単にまとめてみましょう。

  • 本:「販売」
  • 雑誌:「広告」と「販売」
  • 新聞:「広告」と「販売」
  • ラジオ:「広告」
  • テレビ:「広告」と「受信料」

 お金をどこから稼ぐか? という観点で考えると、広告モデルは主に企業から(B to B)。そしてその企業は、広告効果によって一般消費者から稼ぐ形になります(B to C)。部単位で販売するモデルや受信料は、一般消費者から直接稼ぐ形です(B to C)

 こういった「なんらかの情報を組織的に提供する産業」のことを情報産業と呼ぼうと提唱したのが梅棹忠夫さんです。「情報産業論」[67]という1963年に発表された論文で、『情報の文明学』(1988年・中公中公叢書)に収録されています。

 つまりこれは約60年前に書かれた論考ということになりますが、いまでもまったく古びておらず、卓越した先見性に驚愕させられます。そして余談ですが、現在に至る情報化社会を予見している名著にも関わらず、本稿執筆時点でもまだ電子版が出ていないという皮肉……。

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脚注

[46] ニュースパーク(日本新聞博物館)「新聞のあゆみ」より。
https://newspark.jp/permanent/ayumi/
[47] レファレンス協同データベース「日本で最初に発行された新聞について知りたい。」より。
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000254280
[48] ピエール・アルベール『新聞・雑誌の歴史』(斎藤めぐみ訳・白水社・2020年)p14~
[49] メディアポ「新聞の歴史について」より。
https://www.homemate-research-newspaper-office.com/useful/newspaper/
[50] メディアポ「新聞の歴史について」より。
https://www.homemate-research-newspaper-office.com/useful/newspaper/
[51] 日本郵政「前島密」より。
https://www.japanpost.jp/corporate/milestone/founder/
[52] 毎日小学生新聞「疑問氷解:新聞はいつどう広まった?」より。
https://mainichi.jp/maisho/articles/20161023/kei/00s/00s/009000c
[53] 電通「日本の広告費」によると、2021年の新聞広告費は3815億円、雑誌広告費は1224億円。
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2021/media2.html
折込チラシ市場は2631億円で、新聞販売店の収益を支える大きな柱。
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2021/media4.html
[54] 国民生活センター「断っているのに帰ってくれない!新聞勧誘(見守り情報)」(2012年3月6日公表)より。
https://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen131.html
[55] 国民生活センター「初めての一人暮らし…悪質な新聞勧誘に注意!(見守り情報)」(2013年4月3日公表)より。
https://www.kokusen.go.jp/mimamori/kmj_mailmag/kmj-support62.html
[56] 国民生活センター「宅配便かと思ってドアを開けたら新聞勧誘だった(身近な消費者トラブルQ&A)」(2014年6月9日公表)より。
https://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2014_07.html
[57] 新聞公正取引協議会・日本新聞協会販売委員会「新聞販売のルール」より。
https://nftc.jp/rules.html
[58] たとえば「大阪府/新聞購読契約に関する消費者トラブルについての注意喚起」など。
https://www.pref.osaka.lg.jp/shouhi/jorei_johoteikyo/shimbun.html
[59] 講談社現代ビジネス「発行部数を「水増し」してきた朝日新聞、激震! 業界「最大のタブー」についに公取のメスが入った(幸田 泉)」(2016年4月11日)など。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/48396
[60] 私がこの「押し紙」問題を初めて知ったのは、河内孝『新聞社 破綻したビジネスモデル』(2007年・新潮社)だが、古いビジネスモデルへの警鐘という意味では歌川令三『新聞がなくなる日』(2005年・草思社 )のほうが早かったようだ(未読)。
[61] ガベージニュース「ピークは1997年…戦中からの新聞の発行部数動向(最新)」(2022年1月16日)
http://www.garbagenews.net/archives/1885417.html
[62] NHK放送史(動画・記事)「ラジオ放送開始」より。
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009060001_00000
[63] レファレンス協同データベース「民放のラジオ番組とテレビ番組の最初のものは何か。番組名を知りたい。」より。
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000141669
[64] メディアポ「ラジオ局のビジネスモデル」より。
https://www.homemate-research-radio-station.com/useful/16561_facil_002/
[65] NHK放送史(動画・記事)「テレビジョン実験放送開始」より。
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009060045_00000
[66] レファレンス協同データベース「民放のラジオ番組とテレビ番組の最初のものは何か。番組名を知りたい。」より。
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000141669
[67] CiNii Research「情報産業論.」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1570009749566345600

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著者について

About 鷹野凌 649 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学でデジタル編集論・二松學舍大学でエディティング・リテラシー演習担当の非常勤講師 / 日本出版学会員 / デジタルアーカイブ学会員 / 主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)
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