ユーザー生成コンテンツはいきなり世に出てユーザーから直接評価を受ける ―― デジタル出版論 第2章 第6節

デジタル出版論

デジタル出版論 第2章

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インターネット(Internet)とは?

 主要メディアのアンカーは「インターネット」です。

 精選版日本国語大辞典(小学館)によると、「複数のコンピュータネットワークを公衆回線または専用回線を利用して相互に接続するためのネットワーク」と定義されます。日本で最初のインターネットサービスプロバイダー(ISP:Internet Service Provider)登場や、日本で最初のウェブサイト公開は、1992年のことです[68]。つまり本稿執筆時点(2022年)は、日本の商業インターネット開始から30周年となります。

 ここまで述べてきた5つの伝統的メディアは、基本的に、情報を大衆に向け一方的に発信します。それに対しインターネットは、情報の受発信が即時的(real time)に可能な、双方向(interactive)メディアという特徴があります。また、文章・図画・音声・映像などあらゆる情報は、コンピュータ上ではすべて0と1のビットで表現されます。そのため第1章で述べたように、情報メディアを異にする区別は機能しなくなっています。

インターネットのビジネスモデル

 インターネットに関連するビジネスは「情報通信産業」と呼ばれ、2019年の名目国内生産額が100兆円を超える国内最大規模の産業です[69]。日本標準産業分類[70]の「情報通信業」に分類される、通信業、放送業、情報サービス業、インターネット附随サービス業、映像・音声・文字情報制作業のほか、関連する製造業やサービス業なども含まれます。

 第1章で述べた「著作物を複製して頒布」=コンテンツ・パブリッシング以外にも、移動電気通信、受託開発、組み込みソフト、ゲームなどパッケージソフト、情報処理サービス、情報提供サービス、ポータルサイト・サーバー運営(ここに検索サイトやEC・オークションなども含まれる)、アプリケーション・サービス・プロバイダ(ASP:Application Service Provider)、利用サポートなど、ビジネスの範囲は非常に広いです。

デジタルコンテンツ白書2021
デジタルコンテンツ白書2021
 ビジネスモデルという観点ではこれらの隣接する領域も無視はできませんが、ひとまずここではコンテンツ・パブリッシングに絞った話をします。国内コンテンツ産業の市場規模を毎年調査しているデジタルコンテンツ協会の「デジタルコンテンツ白書」[71]を参照してみましょう。

 この白書では、情報の中身である「コンテンツ」は、動画、音楽・音声、ゲーム、静止画・テキストの4つと、その複合型に分類されています。また、コンテンツを提供するための場や装置と定義している「メディア」は、パッケージ、ネットワーク、劇場・専用スペース、放送の4つに分類されています。

 ここにはもちろん、伝統的メディアをデジタル化した分野以外に、はじめからデジタルで発信される「ボーンデジタル」な領域も含まれます。ソーシャルメディア――電子掲示板、ブログ、Wiki、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS:Social Networking Service)、ポッドキャスト、動画共有、映像配信など、だれもが閲覧だけでなく発信者にもなれるサービスが展開されています。

いきなり世に出し、ユーザーから直接評価を受けることが可能に

 そういったサービスを伝統的メディアと区別し、消費者生成メディア=CGM(Consumer Generated Media)と呼びます。また、CGMで利用者が生成したコンテンツのことをユーザー生成コンテンツ=UGC(User Generated Content)と言います。消費者が生産者と同じレベルの知識や技術、発信する手段を持ち得る時代になったのです。

 もちろんUGCは玉石混交で、拙い作品もあれば、超絶技巧を駆使した「プロの犯行」と呼ばれるような作品もあります。ビジネス的なことを考えずにじっくり時間をかけて磨き上げられたコンテンツは、伝統的メディアのパブリッシャーが提供するデジタルコンテンツを凌駕するクオリティになる場合もあります。

 それに対し、伝統的メディアのパブリッシャーが提供するコンテンツは、ビジネスとして成立するかどうか――つまり「儲かる」かどうかがシビアに判断されたうえで世に送り出されます。一定以上の水準に達していない、あるいは、磨き上げるコストが見合わないと判断されたら、弾かれます。

 もちろんパブリッシャーの判断が間違っている場合もあります。あの大ヒット作『進撃の巨人』の著者・諌山創さんが、集英社ジャンプ系編集部への持ち込みで断られたのち、講談社「別冊少年マガジン」からデビューしたのは有名な話です[72]。メディアや編集部との相性の問題もあれば、タイミングの問題もあります。なにがヒットするかを完全に予測することは不可能です。

 これがUGCの場合、いきなり世に出してユーザーから直接評価される形になります。ボーンデジタルで人気が出てから、パブリッシャーによって商業展開される事例も、いまでは珍しくありません。もちろんそういった場では、すでに膨大な作品が公開されていますので、後発の作品が目立たず埋もれてしまう可能性もあります。

広告によって無料(フリー)での利用を可能に

 そしてこういったデジタルコンテンツでは、パブリッシャー系もボーンデジタル系も「広告」が最大のビジネスモデルです。電通「日本の広告費」によると、2021年のインターネット広告費は2兆7052億円で、マスコミ4媒体の広告費合計2兆4538億円を初めて上回りました[73]。無料で利用できる代わりに、随所に広告が差し込まれる形態は、テレビやラジオの延長上にあると言えます。

 長期間の推移は、調査手法の継続性から、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」[74]を見るのが良いでしょう。長期データから新聞・雑誌・テレビ・ラジオの4マスと、インターネット広告を抜粋して推移グラフにしてみました。インターネット広告が急激に伸びているさまがよくわかると思います。こちらの調査では、2021年にインターネット広告がテレビを上回っています。

 伝統的メディアの広告に比べると、インターネット広告は効果測定が容易である点が大きな違いです。私が情報誌の現場にいたゼロ年代初頭、誌面広告の効果測定は、問合せ電話がかかってきた回数をメモしておいたり、来店動機をアンケート用紙に書いてもらったりという、たいそうアナログなやり方でした。

 ところが同時にインターネットへ掲載された物件情報では、表示された回数、詳細をクリックされた回数、見積り依頼の回数など、詳細な記録が自動で残ります。そして、クライアント自身が管理画面から、すぐに検証できる仕組みになっていました。当時、多くのクライアントが「インターネットのほうが効果がある」と感じていたのは、そういう数値の「見える化」に依るところも大きかったように思います。

 一般的なインターネット広告も、1990年代の黎明期は広告表示回数(インプレッション)を保証するディスプレイ広告――いわゆる「バナー広告」に始まり、Googleの登場と検索連動型広告の爆発的ヒットも、クリック率や上限インプレッション単価などの数値に基づく「広告ランク」のアルゴリズムが支持された結果だと言われています[75]

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脚注

[68] JPNIC「インターネット歴史年表」より
https://www.nic.ad.jp/timeline/
日本初のインターネットサービスプロバイダ(商用接続サービス)はAT&T Jens株式会社の「SPIN」。日本初のウェブページ公開はKEK(文部省高エネルギー物理学研究所計算科学センター、現:高エネルギー加速器研究機構)。
[69] 総務省「令和3年版 情報通信白書」より
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd241110.html
[70] 総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定)」より
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu01_03000023.html
[71] 一般財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ白書」2021年版より
http://www.dcaj.or.jp/project/dcwp/
[72] ガジェット通信「人気プロ漫画家が告白「僕がジャンプからマガジンに乗り換えたワケ」」(2009年12月22日)
https://getnews.jp/archives/41869
[73] 電通「2021年 日本の広告費」より
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html
なお、この調査のインターネット広告費は「インターネット広告媒体費」と「物販系ECプラットフォーム広告費」と「インターネット広告制作費」の合算となっている。
[74] 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」長期データより
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result/result_1.html
[75] アラタ合同会社『インターネット広告の歴史と未来』(翔泳社・2019年)より
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798161679

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著者について

About 鷹野凌 649 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学でデジタル編集論・二松學舍大学でエディティング・リテラシー演習担当の非常勤講師 / 日本出版学会員 / デジタルアーカイブ学会員 / 主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)
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