「インボイス制度で経理担当者の業務増」「Send to KindleがEPUBに対応」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #520(2022年4月24日~5月7日)

波多野書店

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 2022年4月24日~5月7日は「インボイス制度で経理担当者の業務増」「Send to KindleがEPUBに対応」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

漫画やアニメなどの海賊版サイト対策 国際連携を図る組織設立〈NHK | IT・ネット(2022年4月26日)〉

 年始に、4月創設予定と報じられていた「国際海賊版対策機構(IAPO:The International Anti-Piracy Organization)」が、予定通り設立されました。CODAのリリースを確認しましたが特筆すべきことは書かれていないので、#504 でお伝えした通りの座組みで船出となったものと思われます。これで、越境海賊版対策の国際連携と国際執行強化が図られていくことになります。善哉。

知的財産戦略本部 構想委員会 コンテンツ戦略ワーキンググループ(第1回) 議事次第〈知的財産戦略本部(2022年4月27日)〉

 資料2「デジタル時代のコンテンツ」戦略の方向性と課題の整理が実に面白い。「メタバースやWeb3.0等の新技術による変革の波が更なる構造変化をもたらしていくこと」を眼前の問題として捉えつつ、ツッコミを入れられないよう細心の注意を払っている様子が伺えます。

 たとえばWeb3.0は、「パブリック・ブロックチェーン技術を基盤とした自律分散型ネットワークによってもたらされる次世代のインターネット概念」と定義しています。私は #519 で日経の記事に対し「プライベートチェーンは中央集権的な管理者が存在するシステム」だとツッコミを入れましたが、この定義なら「プライベートチェーンはWeb3.0ではない」と断じることができるわけです。わはは。

 NFTについては、「デジタルコンテンツに資産としての保有感に基づく価値を与え」とか「デジタルコンテンツに疑似的な唯一性を付与」などと、世間一般で喧伝されているような言い回しを巧みに避けています。これなら地に足を付けた議論ができるのではないかと期待できます。実に良い。

インボイス制度への対応で大変だと思うこと第1位は「仕入先との取引関係の見直し」~ラクス調査〈INTERNET Watch(2022年4月28日)〉

実務目線で見たインボイス制度の問題点〈一般社団法人 東京法人会連合会(2022年5月2日)〉

インボイス制度、フリーランス・自営業の半数が「知らない」と回答〈マイナビニュース(2022年5月2日)〉

 インボイス制度関連のニュースが連発しています。ラクス調査では「業務量が増える」と回答した経理担当者は6割程度とのことですが、いままでは適格請求書かどうかを確認する作業なんて必要なかったわけですから、事務処理コストが増えるのは確実でしょう。仕入先が適格請求書発行事業者であるかどうかで取引関係を見直すとの回答は約3割ですが、これも実際に稼働したらもっと多くなるでしょう。私の場合、個人事業主として受注する側と、NPO法人として発注する側の、両方の経理処理を1人でやってますので、ダブルで頭が痛い。事務処理が増えて生産性が落ちるのと同時に、収入も減る可能性が高いわけです。いやあ、マジでヤバイ。

社会

ユーザー生成コンテンツはいきなり世に出てユーザーから直接評価を受ける〈HON.jp News Blog(2022年4月27日)〉

 デジタル出版論の連載。やはり「インターネット」は概略だけでも、コンテンツ・パブリッシングに絞っても、さすがに1回では収まりませんでした。あとは「プラットフォーム支配」と「有料配信」の話をするつもりですが、そろそろけりを付けて「詳しくは第3章で」としたほうがいいかも。

経済

Amazonもついに……Android版のAmazonショッピングアプリ、Kindle本の購入が不可能に【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2022年4月25日)〉

米Amazon、「Androidアプリ内でKindle本が買えなくなったのはGoogleが手数料を取るから」と説明〈GetNavi web ゲットナビ(2022年5月5日)〉

 Google Play決済のルール厳格化は、Amazonも例外ではありませんでした。#515 でも触れましたが、私が把握しているだけでも「BOOK☆WALKER」「ブックライブ」「Kinoppy」などのAndroidアプリ内決済が、不便な方向への変更を余儀なくされています。このルール厳格化が、Epic Games対Appleの訴訟開始直後に行われ始めたというのが、なんとも解せないところ。Appleと同様の措置をとれば、Appleと同様に目を付けられるだけなのに。結果的に後退することになったとしても、厳格化する前より有利な立場になれる、という判断だったのでしょうか。いやあ、解せない。

dマガジンのアプリがAmazon「Fireタブレット」に対応する理由――「電子雑誌」読み放題サービスの現在とこれから〈HON.jp News Blog(2022年4月28日)〉

 おなじみ、ITジャーナリストの西田宗千佳さんに取材・執筆いただきました。冒頭にも念のため記しておきましたが、編集記事です。いわゆる「レ点商法」をやめてから会員数が漸減しているわけですが、挽回策の一つとして「普及率が高く画面の大きいタブレットに対応する」のは正しい方向性だと思います。ブラウザで閲覧できるとはいえ、アプリの方が便利ですし。ただ、そもそも雑誌との接触機会が少なくなっている若者に、雑誌記事の魅力を届けるにはどうすればいいか、という根源的な問題。悩ましいところです。

米巨大IT5社、業績に明暗 1~3月期、アマゾン赤字転落〈共同通信(2022年4月29日)〉

物流・生産、米巨大ITの足かせに Amazonは営業赤字も〈日本経済新聞(2022年4月29日)〉

 売上高は5社とも増加しているものの、損益では明暗が分かれています。中でもAmazonは7年ぶりの赤字。いちばん大きいのは保有しているEVメーカー株の評価損のようですが、本業でも原油高騰や人件費増などコストが重く、次の四半期では営業赤字に転落するかもしれないとのこと。ジェフ・ベゾス氏がCEOを退いてから1年、なんだか暗雲が垂れ込めている感があります。

グーグル、「デリケートな広告」対応強化へ–妊娠や育児、減量など「YouTube」で〈CNET Japan(2022年5月2日)〉

 Google AdSenseは「デリケートな広告」をメディア側の任意で除外できる設定を用意していますが、今回のこれは「ユーザー側が」任意で除外できる設定です。「アドブロックを使われるよりマシ」という判断でしょうか。現状、ユーザーが右上の×から「この広告の表示を停止」しても、同じ広告主がちょっとだけ違うクリエイティブを大量に登録していたりするので、ブロックしきれないのですよね。それがジャンル単位でシャットアウトできるとなると、だいぶ景色が変わりそうです。クソ広告、滅ぶべし。

偽情報や差別あおるサイトにネット広告、自動表示避けるため「排除リスト」…まとめサイトも : 社会 : ニュース〈読売新聞オンライン(2022年5月6日)〉

 国税庁が広告を委託した企業に「信用失墜やブランド毀損となる場所への広告掲載は必ず避けること」という条件を付けるなど、行政機関による対策の動きが出始めているそうです。「漫画村」などの海賊版サイトに正規電子書店の広告が出ちゃってた問題を思い出しました。不適切サイトの「排除リスト」が導入されているそうですが、ブラックリストに載ったら閉鎖→転生のイタチごっこが起きそうな気が。そういう意味で、JICDAQ品質認証事業者=ホワイトリスト方式は効果的かもしれません。ただ、認証登録料が高いんですよねぇ……。

技術

The Amazon Kindle will support EPUB in late 2022〈Good e-Reader(2022年4月30日)〉

 KindleがついにEPUBをサポート……と思いきや、タイトルに「will」が入っているところがミソ。実際には「Send to Kindle」がEPUBに対応しただけで、EPUBサイドロードに対応したわけではありません。従来でも「Kindle Previewer」を使ってEPUBをMOBIに変換すれば、閲覧することは可能でした。ただ、Kindle Previewerアプリを起動してMOBIに変換してからSend to Kindle、という少し手間のかかる手順が必要だったのです。

 EPUBでのSend to Kindleを実際に試してみたところ、AZW3に変換された状態での閲覧が可能であることが確認できました。つまり、Kindle独自ファイルへの変換を自動でやってくれるようになった、と言ったほうがわかりやすいかもしれません。ただ、Kindle Previewerでの変換は古いKindle端末用ファイルを内包した「二段構え(byろす氏)」なのでファイルサイズが倍くらいに肥大化してしまうのですが、Send to Kindleで変換されたAZW3は元のEPUBとファイルサイズがほとんど変わらないことが確認できました。

 2020年8月にコマンドラインのMOBI変換ツール「KindleGen」が廃止され、2021年8月にはKindleダイレクト・パブリッシング(KDP)でMOBIファイルの入稿を受け付けなくなっています。今回も、ヘルプには「2022年後半からは、Send to Kindleを使用してMOBI(.AZW、.MOBI)ファイルをライブラリに送信できなくなります」とあります。つまりこれは、古いKindle端末への対応を完全に打ち切るための措置なのでしょう。

 なお、Good e-Readerは「This is likely why they are waiting until Fall or Winter 2022 to add in support for sending EPUBS to the Kindle and for them to be read, instead of covertly converting them from one format to another.(EPUBをある形式から別の形式に密かに変換する代わりに、Kindleに送信して読めるようにするためのサポートを、2022年の秋か冬まで待っているのだと思われます)」と予想(だからwill)していますが、どうだろう。前述のような「二段構え」をやめただけで、EPUBネイティブ対応まではやらないような気がします。仮にAZW3の中身がほぼEPUBだとしても。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 5月9日は、旧ソビエトが第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した「戦勝記念日」だそうです。ロシアはウクライナへの侵略を「特別軍事作戦」と称していますが、この日に合わせ宣戦布告するかもという観測が流れています。やめてくれ! とにかく戦争反対!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 793 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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