「裁定制度による復刊で販売数上限超えによる配信停止」「画像生成AI規制の訴えと、団体理事の謝罪」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #569(2023年4月23日~5月6日)

朝日出版社
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 2023年4月23日~5月6日は「裁定制度による復刊で販売数上限超えによる配信停止」「画像生成AI規制の訴えと、団体理事の謝罪」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

電子書籍版・小説『ダークエルフ物語』シリーズの全作品の一時配信停止のご報告とお詫び〈KADOKAWA(2023年4月24日)〉

 著作権者不明等の場合の文化庁長官裁定制度を利用して復刊したのはいいけど、裁定で認められた「販売数の上限」を気付いたら超えてしまっていたため一時的に配信停止するという、ちょっと珍しい事例です。この補償金は、事前に供託する必要がある(国や地方公共団体は免除)点が厄介なのですよね。

 KADOKAWAのお知らせにもあるように、電子書籍の「ダウンロード数(販売数)は出版社での部数コントール及び把握が難し」いです。一般的な電子書店には販売予定数に上限が設定できるようなシステムはありません(NFTで販売数制限という手はあるけど販路が狭くなる)。いきなりバズって急激に売れても在庫切れが起きませんから、「年間利用件数(見込み)」や「ダウンロード予定数」の想定を超えてしまうことは十分あり得るでしょう。

 裁定制度が、販売実績に基づいた一定期間ごとの後払いを認めてくれたら、もう少し使い勝手の良い制度になると思うのですが。紙書籍の印税が事実上のアドバンス(前払い)であるのに対し、電子書籍は実売印税です。通常の著作権者への支払いと同じ要領で事後供託できたら、事務処理的にもかなりラクになるのでは。

画像生成AI “クリエーターの権利脅かされる” 法整備など提言 | AI(人工知能)〈NHK(2023年4月27日)〉

 記事の中ほどにある「無断で改変された」という訴えは、「t2i(text to image)」ではなく「i2i(image to image)」なので、類似性・依拠性ともに認められやすいように思います。生成AIだと改変の手軽さが段違いではありますが、仮にこれが生成AIではなく人間による改変でも、侵害行為とみなされる可能性が高そう。道具の責任ではなく、道具を使った人間の責任。改変行為そのものではなく「改変した画像を公開したこと」への責任。

 それに対し、記者会見を開いた団体による「画像生成AIの機械学習に著作物を使用する場合は事前に著作権の所有者に使用許可を得ること」という提言は、著作権法第30条の4とベクトルが真反対なので、気持ちはわかるけど難しそうだな……というのが正直な感想です。私は、以前にも書いたように「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」という但し書きから攻めるのが効果的だと考えています。

画像生成AIはクリエーターの権利を脅かすと規制訴えた団体の理事、禁止の二次創作イラストで批判され謝罪(篠原修司)〈個人 – Yahoo!ニュース(2023年4月29日)〉

 で、こんなオチがついてしまいました。これで「クリエイターとAIの未来を考える会」という団体名でこういった主張を行っていくのは難しくなってしまったことでしょう。公式サイトには誰の名前も載っていないので、他の方へ波及している様子はないのが不幸中の幸いか。誰か何かを強く批判するとき「そういうお前自身はどうなんだ」と反撃されてしまうのはよくある話。私も気をつけたい。

【速報解説】フリーランス新法が成立しました〈フリーランス協会ニュース(2023年4月28日)〉

 どういう法律なのか把握できていなかったので、とても助かる解説。取引適正化の「給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない」というのは、下請法の三条書面交付義務に似ています。しかし、下請法の親事業者には資本金1000万円以下という制限がありますが、フリーランス新法にはそういう制限が存在しない点が大きな違いでしょう。これ、いままで下請法の対象外だった中小出版社には、かなり大きな影響がありそうです。まあ、要するに「ちゃんと発注書を出せ」って話なのですけどね。

【解説】広告関係者は今こそ知っておきたい「ステマ規制」の導入〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2023年4月28日)〉

 こちらも、規制の詳細までは把握できていなかったので、とても助かる解説。施行前に投稿されたものでも、施行後もネット上に残っていたら措置命令などの対象になるのですね。知りませんでした。紙媒体や放送と違い、ウェブは「配信され続けている」という扱いなのでしょう。そして、仮に「#PR」というハッシュタグが付いていても他のハッシュタグに埋もれてるような場合、新規制ではステマとして扱われます。そういう過去の「案件」投稿って、TwitterやInstagramあたりには大量に残ってそう。心当たりがある方は、いまのうちに対処しておきましょう。

書店議連 「骨太の方針」に向け第1次提言まとめへ 「たたき台」で関係省庁の取り組み示す〈文化通信デジタル(2023年5月1日)〉

 書店議連の動きに続報がありました。6月に策定される「骨太の方針」に盛り込むことを目指すそうです。たたき台でとくに気になったのは「著作物再販制度の厳守のため、一定の制限やルールを設けることを検討する必要があるとの指摘を踏まえ、①書籍・出版関係者と公正取引委員会との対話の場を設置し」あたり。「厳守」とありますが、以前からよく使われている言葉だと「堅持」ですかね?

 公正取引委員会は、以前からずっと「著作物再販制度の硬直的な運用は消費者利益に反するものと考えています」というスタンスです。ほんとうは再販制度を止めたい。しかし業界側は止めて欲しくない。だから時限再販や部分再販など「硬直的な運用」とみなされないような努力をしています。「対話の場を設置」というのは、その公取委の姿勢をどこまで軟化させられるか? という話なのでしょう。

 個人的には、以前から何度か指摘しているように、日本書籍出版協会の「再販制度」というページが2001年からアップデートされておらず、いまの状況を考えると説得力に欠ける主張になっている点に難があると考えています。たとえば「出版物は消費者物価指数で見ると他の商品と比べて値上がりが少なく」とか。ツッコミどころは早めに潰しておきましょうよ。

社会

STOP! 海賊版「ありがとう」企画、大きな成果に〈新文化(2023年4月24日)〉

 今回のキャンペーンは、いままでのようなネガティブなメッセージによる訴えかけではなく、ポジティブなメッセージが「実に良い」とべた褒めしました。世間一般的なウケも良かったようで、動画がTwitterで876万回、YouTubeで169万回再生されるなど、「大きな成果」と評価されるような結果が出ているようです。よかった!

 ところで記事の内容とは関係ないのですが、この記事が配信された数日後に「新文化」のウェブサイトがフルリニューアルされました。ソースを見るに、WordPressベースに置き換えたようです。そして、過去記事のパーマリンク構造が変わってしまっており、リダイレクトも設定していません。タイトルで検索すると出てくるので、消したわけではなさそうです。しかし、この記事はもちろんのこと、過去にうちから貼った100件近くのリンクがすべて「ページが見つかりませんでした」に化けてしまいました。悶絶。RSSが配信されるようになったのはうれしいのですが……とほほ。

出版科学研究所 『季刊出版指標』とPDF版「出版指標マンスリーレポート」発行開始 3月の書籍・雑誌販売は前年同月比4.7%減に〈文化通信デジタル(2023年4月26日)〉

 とうとう切り替わりました。要するに、従来の「出版月報」から巻頭の特集がなくなったものが「出版指標マンスリーレポート」だと言って良いでしょう。そして今回の『季刊出版指標』には、特集が3つ掲載されています。ページ数はほぼ倍。今後も同じボリュームなら、実質的な変化は特集の出るタイミングだけ、という感じになるでしょう。とくに気になるのは、毎年2月号で特集されていた前年のコミック市場が、今後はいつ載ることになるのか。1月発売号(冬号?)に前倒しされるとうれしいのですが。

電子出版制作・流通協議会(電流協)、「電子図書館(電子書籍サービス)実施図書館(2023年04月01日)」を公表〈カレントアウェアネス・ポータル(2023年4月28日)〉

 実施自治体数がとうとう500を超えました。マイルストーン。電子図書館が利用できる基礎自治体の人口を合計すると7590万人で、日本の総人口の6割以上に達したそうです。以前から継続的にキーワード「電子図書館」をTweetDeckでウォッチしているんですが、これだけ普及してきても否定的な声はあまり見かけず、大半は好意的という印象です。完全に潮目が変わった感があります。だから、出版社各位におかれましては、ぜひ電子図書館向けの提供を積極的に行っていただければと……。

経済

「インボイス制度」買い手が知っておくべき課題(2) 効率よく仕入税額控除するための4つの準備〈TECH+(テックプラス)(2023年4月25日)〉

 中小企業の経営者やフリーランスの個人事業主にもよく使われている会計ソフト「freee」のプロダクトマネージャーによる、課税事業者を対象とした解説記事です。社員に周知しておくこととして「インボイス発行事業者以外からの購入など取引は避けること」が挙げられていて、唖然としてしまいました。よりによって「freee」の人がそれを推奨しますか。なんだか裏切られた気分です。

 ……いや、まあ、インボイス制度が開始されたら、免税事業者との取引をなるべく回避するような圧がかかることは予想していたのですが、なにか別の難癖を付けて断るような、あまり表に出てこない動きになると思っていたんですよ。こういう記事でおおっぴらに「取引は避けること」なんて解説されたら、免税事業者は辛い。他の人で代替できない人ならそういう理由で切られる可能性は低いでしょうけど……うーん、辛いなあ。

中国、画像生成AIでイラストレーターの失業増加 求人7割減の都市も〈36Kr Japan(2023年5月1日)〉

 AI生成イラストに対し、ユーザー側が抵抗感を示しているというのが興味深い。芸術作品の「デジタル死体(数字尸体)」と表現されているそうです。日本語で言えば「魂のこもっていない絵」みたいなニュアンスでしょうか。上手いのは確かなんですが、大量生産されていることもあって「ああ、またこの絵柄か」と飽きを感じるようになってきました。

技術

「Word」から直接ドキュメントを「Kindle」デバイスへ送信 ~Microsoftがテスト開始〈窓の杜(2023年4月28日)〉

 Microsoft「Word」にAmazon「Send to Kindle」が搭載。まだMicrosoft 365 Insiderプログラム参加者向けのテスト段階だと思うのですが、私は参加した記憶もInsider buildをインストールした記憶もないのですが、なぜかもう実装されていて試すことができました。なぜ。

 なお、この記事にはKindle端末向けとありますが、もちろんKindleアプリでも閲覧は可能です。電子ペーパー端末だと見た目がかなり変わるので、セルフ校正用途には向いているかもしれませんが。チェックしたあと他者と共有する機能はないんですよね。あくまでパーソナル・ドキュメント用。

 そういえば以前、ウェブサイトやブログ向けの「Send to Kindle Button」を試したことがあるのを思い出しました。改めて調べてみたら、ブラウザ拡張機能もまだ現役です。こういった、Kindleストアで販売しているコンテンツ以外に用途を広げる機能をいまだに提供し続けている点は、ちょっと感心します。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか? 私はひたすらデータ処理と解析を行っていました。国立国会図書館の書誌情報と電子書店・電子図書館のラインアップを、ISBNでマッチングして状況を把握する研究が少しだけ前進しました。しかし仮説の検証にはまだ足らず。アプローチを変える必要があるかも。道のりは険しい(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 824 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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