プラットフォームでマスコミ4媒体とウェブ発メディアは同じ土俵で競う ―― デジタル出版論 第2章 第7節

デジタル出版論

デジタル出版論 第2章

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パブリッシャーとプラットフォーマー

 インターネット広告の市場が急激に拡大するいっぽうで、マスコミ4媒体の広告費は漸減し続けています。ところが、マスコミ4媒体が自社で運営しているウェブメディアは、広告であまり稼げていないのが現状です。

 電通「日本の広告費」によると、「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」は2021年時点で1061億円[76]。「インターネット広告費」2兆7052億円から制作費や物販ECサイト系広告費を除いた「インターネット広告媒体費」は2兆1571億円なので、マスコミ4媒体由来のデジタル広告費は約5%に過ぎません。

 では、残りの約95%はどこが稼いでいるのでしょうか? 広告ビジネスの規模は一般的に、閲覧するユーザーの数に比例します。つまり、マスコミ4媒体系のウェブメディアより、人を多く集めている場所があるわけです。マスコミ4媒体を持たないボーンデジタルなパブリッシャーも多く存在していますが、もっと桁違いに大きなところがあります。

 それは、たとえば「Google検索」や「Yahoo!検索」などの検索サイト(検索エンジン)や、本章の雑誌レイアウトのところでも触れた「Yahoo!ニュース」「スマートニュース」「Googleニュース」などのデジタルニュース配信専門事業者(コンテンツアグリゲーター)といった、プラットフォームです。

インターネット広告媒体費の広告種別構成比
インターネット広告媒体費の広告種別構成比(電通のプレスリリースより
 検索サイトは、ユーザーが入力したキーワードに応じて検索結果ページに表示する「検索連動型広告」で稼いでいます。電通グループの「インターネット広告媒体費 詳細分析」によると、2021年の検索連動型広告は7991億円[77]。インターネット広告媒体費の広告種別構成比で37.0%と、最大です。検索サイトについては、第5章「検索技術と広告」で詳しくお話しする予定です。

コンテンツアグリゲーター

 ではコンテンツアグリゲーターはどうか? 日本ABC協会のデータによると、自社ページビュー(PV)で1位の文藝春秋「文春オンライン」は月間約3億3524万PVです[78]。ところが「Yahoo!ニュース」が公表している数字は、月間約150億PVと桁違いの閲覧数を叩きだしています[79]。「Yahoo!ニュース」は、契約パートナー約300社、約500媒体から記事を集め、1日約5000本の記事を配信する、巨大なプラットフォームなのです。

 コンテンツアグリゲーターの契約パートナーとなったパブリッシャーには、記事を提供する代わりに「配信料」などの名目で広告収益が分配されます。日本ABC協会が公表している「外部PV」がこれにあたります。当然のことながら、自社メディアで直接配信するより、コンテンツアグリゲーター経由のほうが広告収益の分配率は低くなります。

 しかし、分配率は低くても、数が膨大なのです。たとえば「文春オンライン」の外部PVは約3億3265万PVと、自社メディアと同じくらい閲覧されています。朝日新聞出版「AERA dot.」や扶桑社「日刊SPA!」のように、自社PVより外部PVのほうが3倍以上多いところもあります。メディア事業全体の収益性を少しでも上げるためには、コンテンツアグリゲーターに依存せざるを得ない構図があるのです。

 また、紙の雑誌や新聞では種々雑多な事柄がパッケージ化され流通していたのが、コンテンツアグリゲーターのプラットフォームでは記事単位でバラバラに流通します。自社メディアでなら見てもらえるかもしれない運営者の情報や関連情報は、ほとんど削ぎ落とされた状態となります。デザインはそのプラットフォームのものに統一されてしまうため、発信元メディアの存在感は薄れてしまいます。

 さらに、プラットフォーマー自身がパブリッシャーとなって、オリジナル記事を配信する場合もあります。「Yahoo!ニュース 個人」コーナーのように、パブリッシャーを経由せず著者と直接契約して記事を寄稿してもらう場合もあります。つまり、マスコミ4媒体はプラットフォーム上で、個人発信を含めたウェブ発メディアと同じ土俵での競争を強いられているのです。

 だから、パブリッシャーはユーザーをなるべく自社サイトへ誘導したい、コンテンツアグリゲーターはなるべくそれを阻みたい、そういうせめぎ合いがここでは起きています。営利企業ですから、そういうベクトルの「圧」がかかるのは当然のことと言えるでしょう。

 伝統的なメディアのビジネスモデルも「取次ルート」や「戸別配達制度」といったプラットフォームに支えられてきたわけですが、インターネットの世界でも新たなプラットフォーマーが出現し勢力を伸ばしています。この辺りの話は、第4章「情報流通と巨大IT企業」で詳しくお話しする予定です。

物販とアフィリエイト

 ウェブメディアのビジネスモデルは、広告以外に「物販」もあります。いわゆる電子商取引(EC:electronic commerce)です。コンテンツ・パブリッシングという意味でも、自社の紙書籍や雑誌を直販するとか、Amazonや楽天のようなモール型ECに出店する、という方向性があります。

 また、モール型ECの商品を紹介することで成果報酬を得る広告(アフィリエイト)もあります。電通グループの「インターネット広告媒体費 詳細分析」によると、2021年の「成果報酬型広告」は940億円とそれなりの規模があります。

デジタルコンテンツの有料配信

 最近ではようやく、デジタルコンテンツを有料で提供する市場も伸びてきました。物理メディアでは「販売」と表現しますが、デジタルコンテンツでは「配信」と言ったほうが良いでしょう。「話」や「巻」といったコンテンツ単位に対価を払う方式や、利用期間に制限があるレンタルに近い方式、毎月定額の利用し放題サービス(いわゆる「サブスクリプション」)など、さまざまな方式があります。この辺りの詳細は、第3章「出版ビジネスの現状と課題」で詳しくお話しする予定です。

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脚注

[76] 電通「2021年 日本の広告費」より
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html
[77] 電通グループ「2021年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」より
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0309-010503.html
[78] 一般社団法人日本ABC協会「【雑誌発行社会員】 Web指標一覧 (2021年10-12月期)」より
https://www.jabc.or.jp/news/abc_report/2022/03/02_2371.html
[79] 総務省プラットフォームサービスに関する研究会(令和元年7月開催)配布資料3「フェイクニュース問題に対する取組み」(ヤフー株式会社政策企画部)より
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/platform_service/02kiban18_02000068.html
ただし、このページビュー(PV)という指標は、[続きを読む]ボタンの有無、ページ分割、クリックすると拡大する画像の存在などによって大きく左右される。同じ土俵で計測しているわけではないので、あくまで目安程度に捉えておいたほうがよい。

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著者について

About 鷹野凌 681 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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