「米学校図書館で“静かな”自主検閲が進行中」「図書館資料へ反論文書の貼り付けは“ラベリング”という検閲」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #517(2022年4月3日~9日)

光和書房
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 2022年4月3日~9日は「米学校図書館で“静かな”自主検閲が進行中」「図書館資料へ反論文書の貼り付けは“ラベリング”という検閲」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

日本図書館協会(JLA)図書館の自由委員会、「図書館資料への反論文書の貼り付けについての考え方」を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年4月5日)〉

 #513 でピックアップした、御嵩町立図書館の資料が町長発言を受け閲覧不可となっていた事件で、問題視された本に町長の反論文書を貼り付けて閲覧できるようにする予定という続報がありました。日本図書館協会からそれは「ラベリング」という検閲行為の一種ですと指摘が入りました。続報の時点で「それもダメじゃないかなあ……?」と思いつつ自信が無かったため触れなかったのですが、ちゃんと定義されているダメ行為だったんですね。知らなかった。勉強になりました。

社会

絶版書籍、スマホで閲覧サービス 国会図書館、来月から〈朝日新聞デジタル(2022年4月4日)〉

 何回でも言いますが「スマホで閲覧」はさすがにミスリード。この見出しを付けた整理部の方は、一回でいいから国立国会図書館デジタルコレクションをスマホで開いてみて欲しい。いま時点でも、著作権切れ(パブリックドメイン)の本なら確認できます。

 検索画面はまだモバイル対応してませんし、小さな画面で本を開いてもガンガンにピンチアウトしなければ読めません。読めないわけじゃないので「嘘」とまでは言いませんが、ものすごーく大変です。スマホで見るのは外出先で緊急を要する場合くらいで、普段はパソコンの大きな画面から利用することになるでしょう。それでいい。充分です。

丸善、学術向け電子書籍サービスのDL機能停止 「不適切利用を想起させる投稿あった」 複数大学に影響〈ITmedia NEWS(2022年4月5日)〉

 丸善雄松堂の「Maruzen eBook Library」は基本ブラウザからストリーミング配信されるサービスですが、権利者が許諾している本のPDFは、部分的にダウンロードすることが可能でした(※最大ページ数に制限がある)。そのダウンロード機能の濫用が公言されていることが発覚、緊急停止措置が行われた事件です。いちおう5月9日から再開予定とアナウンスされていますが、同じことが繰り返されないよう、従来より機能が制限されることが予想されます。とほほ。(※HON.jpはMaruzen eBook Libraryを契約しています

米国の学校図書館で静かに本が撤去されている(記事紹介)〈カレントアウェアネス・ポータル(2022年4月5日)〉

 アメリカでは最近、人種差別やLGBTQ+などに関する本を「図書館に置くべきではない」と排除するよう圧力をかける動きが活発になっているそうです。昨年11月には図書館協会(ALA)から検閲反対の声明が出るなど、カウンターの動きもあります。

 で、今回カレントアウェアネス・ポータルで紹介されているワシントンポストの記事は、「静かに」がポイントです。学校の「慎重な管理職」によって自主検閲が行われていることが明らかにされています。要は、面倒を避けるためこっそり隠している動きがある、と。

 本件、ちょうど先週 Publishers Weekly でも、検閲された本のリスト千冊以上がPENアメリカによって公開されその傾向がレポートされたことや、連邦議会下院の市民権と市民の自由に関する小委員会で学校での検閲問題に関する公聴会が行われたことなどが報じられています。

PEN America Report Documents Massive Spike in Book Bans〈Publishers Weekly(2022年4月8日)〉

Congress Investigates Book Banning in Schools〈Publishers Weekly(2022年4月8日)〉

 公聴会で、ジェイミー・ラスキン議員が表現の自由について述べている中で、とくに “If we cancel or censor everything that people find offensive, nothing will be left.(もし人々が不快に思うものをすべてキャンセルまたは検閲すると、何も残されません)”という一節は昨今の日本の問題を考える上でも重要な指摘であると感じました(括弧内太字は拙訳)。

複雑なレイアウトには、文字と図版の配置そのものにも意味が込められている〈HON.jp News Blog(2022年4月6日)〉

 予定通り、今回は雑誌の話です。紙のメディアを入り口としてデジタル出版の話へ展開すると、どうしても「プリント・レプリカ」だけに意識が寄ってしまうので、意識してウェブ配信の話も散りばめるようにしています。次回は、ISBNやISSNの説明や、電子化率、出版統計以外の話などの予定。その次に、著者や小売店から見たビジネスモデルの話をしたいと思います。

本屋大賞の逢坂冬馬さん「絶望することはやめる」ロシアへの思い語る〈朝日新聞デジタル(2022年4月6日)〉

 今年の本屋大賞は『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)でした。第2次世界大戦時に女性だけで編成されたソ連の狙撃小隊へ入った少女の物語。それゆえ著者の逢坂冬馬さんは、ロシアのウクライナ侵略が始まってから「深い絶望の淵」にあったそうです。それをどうして考え直したのかを、受賞スピーチで語っています。全文掲載、必読です。

安倍元首相の記事見せるよう要求 朝日編集委員の処分決定〈共同通信(2022年4月7日)〉

 安倍元首相が受けたインタビューに関する話題ということで、【政治】カテゴリーにするかどうか迷ったのですが、問題はむしろ「報道倫理」にあると思い、【社会】でピックアップ。たまたま本件より前に退職が決まっていて、懲戒処分の停職1カ月が退職後にまで及んでいるとか、転職先への妨害行為が行われている(本人談)など、処分の妥当性を問う声もありますが、ここではそれは別問題として切り離します。

 こういうときに「安倍元首相」とか「朝日新聞」といった具体名は判断を鈍らせるので、一般化して考えたほうがよいでしょう。要するにこれは「インタビュイーから依頼された第三者が、報道前のゲラをチェックさせろと迫った事件」です。当事者による事前確認依頼でさえ「編集権の侵害」と嫌がられる場合が多いのに、第三者からそんなことを依頼されたら強い反発があるのは当然ではないでしょうか。

 ましてやそれが他メディアの記者からの依頼なのですから、所属社が猛抗議されるのも無理はない話。そもそもなぜ取材したことを知ってるのか、なぜ他所の誤報を未然に防ぐ必要があるのか。当事者が誰であろうと関係なく、報道倫理的に問題のある行為であると私は考えます。ただ、その結果下された処分の妥当性は、別問題です。

経済

スマホ向け縦読み漫画に本格参入 集英社と小学館が専門部署〈共同通信(2022年4月9日)〉

 集英社は3月下旬に専門部署を設置済み。小学館は今夏をめどに10作品を予定。そして、タイトルには入ってませんが、KADOKAWAの動きにも触れられています。「2022年度に約160作品を投入」って、規模的にこちらのほうがニュースバリューありそうな気が……?

技術

「Google ドキュメント」の内容に「Emoji 14.0」の絵文字でリアクション可能に〈窓の杜(2022年4月8日)〉

 これは便利、かも? 私は、いただいた原稿を確認したら、Googleドキュメントの共有機能を使ってコメントを返す運用をする場合が多いのですが、文字だけのコミュニケーションって堅苦しくなりがちなのですよね。絵文字でファジーなリアクションができると、必要以上に重く捉えられずに済み、コミュニケーションの円滑化が図れる、かも。ただ、こちらが使った絵文字に対する相手の解釈が異なる場合には、問題が起きそうな気もします。うかつな絵文字は、逆に怒らせちゃうかも? 使う相手を選ぶ必要がありそうです。

記者悲鳴。Twitter埋め込みコード変更で、削除されたツイートが全部真っ白け〈ギズモード・ジャパン(2022年4月8日)〉

 Twitter投稿の外部埋め込みコードには、テキストがそのまま含まれています。たとえばこういう感じ。ちなみにこのツイートは削除済みです。

<blockquote class="twitter-tweet" data-conversation="none">
<p lang="ja" dir="ltr">テスト🤪</p>
— 鷹野凌@HON.jp📚 (@ryou_takano) <a href="https://twitter.com/ryou_takano/status/1513010581808496644?ref_src=twsrc%5Etfw">April 10, 2022</a></blockquote>
<script async="" src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>

 従来は、投稿者がツイートを削除すると、外部埋め込みは見た目がツイートっぽくない感じに変わるだけで、テキストはそのまま残ってしまう仕様でした。で、それが仕様変更で消えてしまった――という記事なのですが、自分のブログで試してみたら、本稿執筆時点では元のまま。すぐに元の仕様へ戻したのかしら? ちょっと謎です。

消えないツイート
消えてない……。

 Twitterの場合、外部の埋め込みコードにテキストがそのまま含まれているので、仮にこの記事が言うように表面上「真っ白け」な状態であっても、HTMLソースを確認すれば読めるはずです。というのを検証しようと思ったんですが、消えない……。なぜだ。

 一般論ですが、埋め込みって外部のリソースに依存することになるので、自分ではコントロールできないことが起きてしまうのが避けられないんですよね。在りし日の「Google+」でも投稿の外部埋め込みは可能だったんですが、サービス終了でぜんぶ真っ白け……酷い目に遭いました。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 花冷えでソメイヨシノはあっという間に散ってしまいましたが、まだ里桜や八重桜などは咲き乱れています。平和な日本を噛み締めつつ、何度でも言い続けましょう。戦争反対!(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 830 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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